年末調整を電子化する動きが年々活発化しています。 これは、紙媒体でのやり取りが主流だった年末調整の申告手続きを、デジタルデータを用いて完結させる仕組みのことです。
この変更は、経理担当者だけでなく従業員にとっても、業務負担の軽減や利便性の向上といった大きな利点をもたらします。
この記事では、年末調整デジタル化の基礎知識から、導入のメリット・デメリット、具体的な進め方、そして自社に適したツールの選び方までを網羅的に解説します。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
- NHK「あさイチ」
- 中日新聞
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年末調整のデジタル化とは?従来の紙運用との違いを解説
年末調整のデジタル化とは、従来は紙で行っていた保険料控除申告書などの書類作成、配布、回収、確認といった一連の作業を、クラウドシステムなどを利用してオンラインで完結させることです。 2020年の税制改正をきっかけに、年末調整の電子化が本格的に可能となりました。
従業員はスマートフォンやPCで申告書を作成・提出でき、担当者はデータの確認や計算をシステム上で行えるため、双方の業務負担が大幅に軽減される点が大きな違いです。

2020年の税制改正により申告手続きが電子化に対応
2020年に行われた税制改正は、年末調整手続きのデジタル化を大きく前進させました。 この改正により、生命保険料控除や地震保険料控除などの控除証明書を、保険会社などから電子データ(XML形式)で受け取り、そのまま申告書に添付して提出することが可能になりました。
従来は、送られてきたハガキなどの証明書を見ながら手書きで申告書に転記し、原本を添付して提出する必要がありましたが、この手間が不要となったのです。
さらに、マイナポータルと連携すれば、複数の控除証明書データを一括で取得できるため、従業員の利便性が格段に向上し、担当者の確認作業も効率化されました。
年末調整のデジタル化は義務?対象となる企業とは
年末調整手続きのデジタル化は、企業の任意であり、法的な義務ではありません。 そのため、企業の規模に関わらず、すべての企業がデジタル化を導入するか、従来の紙運用を続けるかを選択できます。 ただし、これと混同されやすいのが「法定調書の電子申告義務化」です。
資本金1億円以上の法人や、前々年に提出すべき法定調書の枚数が100枚以上だった企業は、源泉徴収票などの法定調書をe-Taxなどで電子提出することが義務付けられています。
年末調整の申告手続きそのものは義務化の対象外ですが、業務効率化の観点から多くの企業でデジタル化の導入が進んでいます。
年末調整をデジタル化する4つのメリット【担当者・従業員別】
年末調整のデジタル化は、手続きに関わるすべての人に恩恵をもたらします。 特に、煩雑な事務作業を担当する経理・人事担当者と、申告を行う従業員の双方にとって、業務効率や利便性の向上につながる大きなメリットがあります。
ここでは、それぞれの立場から見た具体的な4つのメリットについて詳しく解説し、デジタル化によって年末調整業務がどのように改善されるのかを明らかにします。
【担当者側】計算ミスや確認作業の手間を大幅に削減できる
デジタル化によって、年末調整における担当者の作業負担は劇的に軽減されます。 システムが従業員の入力情報をもとに控除額などを自動計算するため、手計算による計算ミスが起こりません。
また、申告書への記入漏れや添付書類の不備などもシステムが自動でチェックしてくれるため、担当者が一人ひとりの書類を目視で確認し、不備があれば差し戻して修正を依頼するといった煩雑な作業が大幅に削減されます。
これにより、担当者は確認作業に費やしていた時間を短縮でき、年末の繁忙期の業務負荷を大きく下げることが可能です。
【担当者側】書類の配布・回収・保管にかかるコストが不要になる
ペーパーレス化は、コスト削減と管理業務の効率化に直結します。 従来は、全従業員分の申告書用紙を印刷し、封筒に入れて配布、提出された書類を回収し、ファイリングして保管する必要がありました。
デジタル化すれば、これらのプロセスがすべて不要になります。 用紙代、印刷代、郵送費といった直接的なコストが削減されるだけでなく、書類を保管するためのキャビネットや倉庫などの物理的なスペースも必要なくなります。
さらに、書類の紛失リスクがなくなり、過去の書類を探す際もデータ検索で迅速に見つけ出せるため、管理業務全体の効率が向上します。
【従業員側】手書きや捺印が不要になりスマートフォンで申告が完結する
従業員にとって最大のメリットは、申告手続きが手軽になることです。 多くの年末調整システムはスマートフォンに対応しており、時間や場所を問わずに申告作業ができます。 手書きで細かい文字を記入したり、捺印したりする必要もありません。
控除証明書データをインポートすれば、保険料の金額などが自動で入力されるため、転記ミスを防ぎながら簡単かつ正確に申告書を作成できます。 通勤中や休憩時間などの隙間時間を使って手続きを完結できるため、従業員の利便性は大幅に向上し、提出の遅延も減らす効果が期待できます。
【従業員側】控除証明書の紛失リスクがなくなり再発行の手間が省ける
毎年秋頃に郵送されてくる保険料控除証明書などを、年末調整の時期まで保管しておくことに煩わしさを感じる従業員は少なくありません。 デジタル化により、控除証明書を電子データで受け取れるようになります。 例えば、マイナポータルを経由して複数の保険会社から一括でデータを取得したり、各保険会社のウェブサイトから直接ダウンロードしたりすることが可能です。
これにより、紙の証明書を紛失して再発行を依頼する手間がなくなります。 データはクラウド上や自身のPCに安全に保管できるため、管理も容易になります。
年末調整をデジタル化する3つのデメリットと注意点
年末調整のデジタル化は多くのメリットがある一方で、導入にあたって考慮すべきデメリットや注意点も存在します。
特に、新たなシステムの導入に伴うコストの発生、全従業員への周知徹底とサポート体制の構築、そして個人情報を扱う上でのセキュリティ対策は、事前に十分な検討が必要な項目です。 これらの課題をあらかじめ把握し、対策を講じることで、スムーズなデジタル化への移行が可能となります。
システム導入や運用に初期費用や月額料金がかかる
年末調整をデジタル化するためのシステム導入には、コストが発生します。 民間のクラウドサービスなどを利用する場合、初期導入費用や、従業員数に応じた月額または年額の利用料金が必要です。 無料のツールも存在しますが、機能が限定的であったりサポートが受けられなかったりする場合があります。
そのため、システムの機能、サポート体制、セキュリティレベルと、それにかかる費用を比較検討し、自社の予算や規模に見合った費用対効果の高いツールを選ぶことが重要です。
導入によって削減できる人件費や印刷費などのコストを試算し、長期的な視点で投資対効果を判断する必要があります。
全従業員への操作説明やITに不慣れな人へのサポートが必要
新しいシステムを導入する際は、全従業員がスムーズに利用できるよう、事前の周知とサポート体制の構築が不可欠です。
デジタルツールの操作に慣れていない従業員もいるため、操作マニュアルの作成や説明会の開催といった準備が必要になります。 特に、年末調整は全従業員が対象となるため、問い合わせが特定の担当者に集中しないよう、専用の問い合わせ窓口を設置したり、各部署にサポート担当者を置いたりするなどの対策が求められます。
従業員が戸惑うことなく利用できる環境を整えることが、デジタル化を成功させるための重要な鍵となります。
マイナンバーなどの個人情報漏洩を防ぐセキュリティ対策が必須
年末調整業務では、氏名や住所といった基本情報に加えて、マイナンバーや扶養家族の情報、収入額など、極めて機密性の高い個人情報を大量に取り扱います。 そのため、デジタル化を進めるにあたっては、情報漏洩を防ぐための万全なセキュリティ対策が最も重要です。
導入するシステムが、通信の暗号化、不正アクセス防止、データセンターの安全管理といった点で高いセキュリティ基準を満たしているかを確認しなければなりません。
また、システム選定だけでなく、社内でのアクセス権限の管理や情報取り扱いに関するルールの徹底など、運用面でのセキュリティ意識を高めることも不可欠です。

経営視点のアドバイス
システム導入には費用がかかり、操作説明や不慣れな層への支援体制が不可欠です。高いセキュリティ基準の確認と、人件費削減等の投資対効果を検討する必要があります。
年末調整をデジタル化するやり方【4ステップで解説】
年末調整のデジタル化を実際に進めるには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。 ここでは、導入を成功させるための具体的な方法を4つのステップに分けて解説します。
自社の状況に適したシステムを選定し、社内体制を整え、従業員への周知を徹底するという計画的なアプローチが重要です。 このプロセスを一つずつ着実に実行することで、円滑なデジタル化への移行を実現できます。

STEP1:導入するシステムやツールを選定する
最初のステップは、自社のニーズに合ったシステムやツールを選定することです。 選択肢は大きく分けて、国税庁が無料で提供する「年調ソフト」と、民間のソフトウェアベンダーが提供する有料のシステムがあります。
選定にあたっては、まず予算を考慮し、無料か有料かを判断します。 次に、現在利用している給与計算ソフトとの連携が可能かどうかを確認することが重要です。
データ連携ができれば、年末調整後の給与計算への反映がスムーズになります。 その他、従業員にとっての使いやすさや、導入後のサポート体制が充実しているかも比較検討のポイントとなります。
STEP2:社内ルールを整備し従業員へ事前に周知する
システムを選定したら、次に社内での運用ルールを整備し、従業員への周知を行います。
まずは、デジタル化への移行スケジュールを明確にし、いつまでに何をすべきかを全従業員に伝えます。 操作方法がわからない従業員のために、分かりやすいマニュアルを作成・配布したり、説明会を開催したりすることが有効です。
また、システム利用に関する問い合わせ窓口を設置し、誰に質問すればよいかを明確にしておくことも重要です。 従業員の不安を解消し、協力を得るための丁寧なコミュニケーションを心がけることで、スムーズな導入が可能になります。
STEP3:従業員が控除証明書データを取得し申告書を作成・提出する
準備が整ったら、従業員は実際にシステムを利用して申告作業を行います。
まず、生命保険会社や金融機関のウェブサイト、またはマイナポータル連携を利用して、各種控除証明書の電子データを取得します。 次に、年末調整システムの案内に従い、取得したデータをアップロードし、扶養家族の情報などその他の必要事項を入力します。 多くのシステムでは、控除証明書のデータを読み込むと金額などが自動で反映されるため、手作業での転記は不要です。
すべての入力が完了したら、内容を確認してシステム上で提出ボタンを押し、会社への申告を完了させます。
STEP4:担当者が提出データを確認し年税額を計算する
従業員から申告データが提出されると、担当者は管理画面でその内容を確認します。 システムが入力漏れや矛盾点を自動でチェックしてくれるため、担当者は重点的な確認作業に集中できます。
もし不備が見つかった場合は、システム上で従業員に差し戻し、修正を依頼します。 全従業員のデータが確定したら、システムが自動で年税額を計算します。 最終的に算出されたデータは、給与計算ソフトと連携させることで、12月または翌年1月の給与に還付額や追徴額を正確に反映させることができます。
これにより、手作業による転記ミスもなくなり、一連の業務が完了します。
年末調整デジタル化ツールの選び方【3つの比較ポイント】
年末調整のデジタル化を成功させるためには、自社の規模や業務フローに最適なツールを選ぶことが極めて重要です。 市場には多様なツールが存在するため、どの製品を導入すべきか迷うことも少なくありません。 ここでは、ツール選定で失敗しないために押さえておくべき3つの比較ポイントを解説します。
コスト、既存システムとの連携性、そして全従業員の使いやすさという観点から、自社にとってベストな選択をするための基準を明確にします。

ポイント1:国税庁の「年調ソフト」か民間の有料システムか
ツール選定における最初の分岐点は、国税庁が無料で提供する「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」を利用するか、民間の有料システムを導入するかです。 年調ソフトはコストがかからない最大のメリットがありますが、あくまで申告書データを作成する機能に特化しており、従業員からのデータ回収や進捗管理、給与計算ソフトとの連携機能はありません。
一方、民間の有料システムはコストがかかるものの、データ回収から計算、管理までを一元化でき、手厚いサポートも受けられます。
従業員数が多く、業務全体を効率化したい場合は、民間のシステムが適しています。
ポイント2:利用中の給与計算ソフトとスムーズに連携できるか
年末調整業務は、給与計算と密接に関連しています。 そのため、導入を検討している年末調整システムが、現在社内で利用している給与計算ソフトとデータ連携できるかは非常に重要な選定ポイントです。
もし連携できなければ、年末調整システムで確定した計算結果を、手作業で給与計算ソフトに再度入力する必要が生じ、二度手間になるばかりか入力ミスの原因にもなります。
スムーズなデータ連携が可能なシステムを選べば、年末調整から給与支払いまでの一連のプロセスがシームレスにつながり、業務効率を最大化できます。
ポイント3:従業員が直感的で分かりやすい操作性か
年末調整システムは、経理担当者だけでなく、ITリテラシーが様々な全従業員が利用するツールです。 そのため、誰にとっても分かりやすく、直感的に操作できるユーザーインターフェースであることが不可欠です。 操作が複雑で分かりにくいシステムを導入してしまうと、従業員からの問い合わせが担当部署に殺到し、かえって業務負担が増大する恐れがあります。
多くのシステムでは無料トライアル期間が設けられているため、本格導入の前に複数の従業員に試用してもらい、操作性を実際に確認することをおすすめします。
従業員の視点に立った選び方が、円滑な運用につながります。
年末調整のデジタル化に関するよくある質問
年末調整のデジタル化を検討する中で、多くの担当者が共通の疑問を抱きます。 例えば、マイナンバーカードの有無による影響や、紙の書類保管の要否、導入にかかる具体的な期間など、実務に即した質問が寄せられます。
ここでは、そうしたデジタル化に関するよくある質問を取り上げ、それぞれに簡潔に回答します。
これらのQ&Aを通じて、導入前の不安や疑問を解消し、より具体的な検討を進めるための参考にしてください。
マイナンバーカードがない従業員でもデジタル化は可能ですか?
はい、可能です。
マイナポータル連携を利用した控除証明書の一括取得にはマイナンバーカードが必要ですが、これがなくてもデジタル化は進められます。 各保険会社などのウェブサイトから個別に控除証明書データをダウンロードし、年末調整システムにアップロードする方法で対応できます。
ほとんどのシステムは、マイナポータル連携が必須ではないため、従業員がマイナンバーカードを保有していなくても問題ありません。
PCを持っていない従業員でも、スマホの申請をできますか?
可能です。 チャット形式で質問に答えるだけで完了するものも多いです。
カメラで証明書を撮るだけで文字を読み取る(OCR)機能もあり、PCが苦手な方でも紙の書類を書くより簡単になります。
一部の従業員だけ紙というデジタルと紙の併用はできますか?
可能ですが、おすすめはしません。
多くのシステムで併用は可能ですが、担当者の確認が紙とデジタルという2系統になり、ミスや手間が増える可能性があります。 基本的にはデジタル一択で運用したほうがトータルコストは下がるでしょう。
デジタル化した場合、紙の原本保管は一切不要になりますか?
原則として、電子データで受領した控除証明書はデータのまま保存すればよく、紙での出力や保管は不要です。
税法上、電子データでの保存が認められています。 ただし、住宅ローン控除の申告書(初年度分)など、一部の書類は税務署への原本提出が必要なため、紙での保管が求められます。
また、会社の方針として別途保管ルールを定めている場合もあるため、社内規定を確認することが重要です。
システムの導入までにかかる期間はどのくらいですか?
導入期間は企業の規模や準備状況によって異なりますが、一般的には1ヶ月から3ヶ月程度が目安となります。
主な内訳は、システム選定と比較検討、社内での運用ルールの策定、従業員への周知や説明会の実施などです。
年末調整の業務が本格化する10月よりも前に導入を完了させるためには、夏頃から準備を開始するなど、余裕を持ったスケジュールを組むことが推奨されます。
まとめ
年末調整のデジタル化は、申告書作成からデータ回収、税額計算に至るまでの一連のプロセスを効率化し、担当者と従業員双方の負担を大幅に軽減する有効な手段です。 導入にはシステムの選定や社内への周知といった準備が必要ですが、それによって得られる計算ミスの防止、コスト削減、ペーパーレス化といったメリットは大きいと言えます。
国税庁の無料ソフトから高機能な有料システムまで選択肢は多様であり、自社の給与計算ソフトとの連携性や従業員の使いやすさを考慮して選ぶことが重要です。
この記事で紹介したメリット・デメリットや導入手順を参考に、年末調整の電子化に向けた具体的な検討を進めてください。



