社会保険の手続きや給与計算、従業員とのトラブルなど、企業の「人」に関する業務は複雑で多岐にわたります。 これらの課題解決を専門家に頼むことで、経営者は本業に専念できます。
社労士に依頼できる具体的な業務内容や費用、メリットについて理解することは、事業を円滑に進める上で重要です。
この記事では、社労士に依頼できる業務範囲から、費用相場、依頼するメリット、そして失敗しない選び方のポイントまでを網羅的に解説します。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
- NHK「あさイチ」
- 中日新聞
- 船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri/
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そもそも社労士(社会保険労務士)とはどんな専門家?
社労士(社会保険労務士)とは、労働関連の法律や社会保険制度に基づき、企業経営に不可欠な「人材」に関する課題を解決する国家資格の専門家です。
主な役割は、複雑な社会保険・労働保険の手続き代行、人事労務管理に関するコンサルティング、年金に関する相談対応など多岐にわたります。
企業が健全な成長を続けるために、適切な労務管理やコンプライアンス遵守を支援するパートナーであり、経営者が抱える「人」に関する様々な相談ができる専門家といえます。

社労士に依頼できる5つの主な業務内容
社労士に依頼できる業務は、社会保険労務士法に基づき1号業務、2号業務、3号業務の3つに大きく分類されます。
これらは、法律で社労士にのみ許可された「独占業務」である手続き代行から、企業の状況に応じたコンサルティングまで非常に幅広いです。
具体的な依頼内容としては、社会保険・労働保険の手続き、就業規則の作成や労務相談、給与計算、助成金申請、そして労使間トラブルの解決支援などが挙げられます。
自社の課題に合わせて適切な業務を依頼することで、経営の効率化と安定化を図ることが可能です。

【業務①】社会保険・労働保険に関する手続きの代行
従業員の入退社時に発生する社会保険(健康保険・厚生年金)や労働保険(雇用保険・労災保険)の資格取得・喪失手続きは、社労士の代表的な独占業務です。 これらの手続きは頻繁に発生し、書類作成も複雑なため、専門家による手続き代行が効果的です。
また、業務中や通勤中のケガに対する労災保険の給付申請、従業員の出産や育児に伴う産休・育休関連の手続き、年に一度の労働保険料の年度更新など、専門知識を要する書類作成から提出代行までを正確かつ迅速に行います。
【業務②】就業規則の作成や労務トラブルに関する相談
常時10人以上の従業員を使用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。 就業規則は企業のルールブックであり、労使間のトラブルを未然に防ぐ上で極めて重要です。 社労士に相談することで、最新の法改正に対応した、各企業の実情に合った就業規則の作成や見直しが可能になります。
また、解雇やハラスメント、残業代未払いといった労務トラブルが発生した際、専門家の視点から法的なリスクを分析し、円満な解決に向けた具体的なアドバイスを提供します。
【業務③】日々の給与計算や勤怠管理の代行
毎月の給与計算は、基本給だけでなく残業代、各種手当、社会保険料や税金の控除など、労働関連法規に基づいた正確な計算が求められる複雑な業務です。 計算ミスは従業員からの信頼を損なう原因となりかねません。
社労士に給与計算を委託することで、法改正にも対応した正確な計算が保証され、担当者の負担を大幅に軽減できます。
また、適正な労働時間を把握するための勤怠管理システムの導入支援や運用に関するアドバイスも行い、企業のコンプライアンス体制強化をサポートします。
【業務④】企業の経営を助ける助成金の申請サポート
国が管轄する助成金は、企業の雇用維持や人材育成、労働環境の改善などを支援するもので、返済不要の資金として経営上の大きな助けとなります。 しかし、助成金には多くの種類があり、自社がどの制度を利用できるのかを把握し、複雑な要件を満たして申請書類を準備するのは容易ではありません。
社労士は、企業の状況をヒアリングした上で最適な助成金を提案し、事業計画の作成から煩雑な申請手続きまでを一貫して代行します。
これにより、企業は受給の可能性を高めることができます。
【業務⑤】労使間トラブルを解決するあっせん代理や年金相談
従業員との間で解雇や賃金未払いなどの紛争が生じ、当事者間での解決が困難な場合、社労士は裁判外紛争解決手続(ADR)の一つである「あっせん」の代理人として、中立的な第三者機関で和解交渉を行えます。
これは、特定の研修を修了した「特定社会保険労務士」のみが行える業務で、裁判に比べて迅速かつ低コストで紛争解決を目指せるのが特徴です。 また、企業向けだけでなく個人からの年金相談も業務範囲であり、特に複雑な手続きを要する障害年金の請求代行などで専門性を発揮します。
社労士に業務を依頼する4つのメリット
社労士に業務を依頼することは、単に事務作業をアウトソーシングするだけでなく、企業経営そのものに多くのメリットをもたらします。
専門家を活用することで、経営資源をコア業務に集中させられるほか、法改正への迅速な対応によるコンプライアンス強化、労務トラブルの未然防止、そして助成金の活用による財務基盤の強化などが期待できます。
これらのメリットは、特に人事労務に関する専門部署を持たない中小企業にとって、事業の安定と成長を支える重要な要素となります。
メリット①:複雑な事務手続きから解放され本業に専念できる
社会保険や労働保険の手続き、給与計算といった人事労務関連の事務作業は、専門知識が必要な上に時間もかかり、経営者や担当者にとって大きな負担となります。
これらの定型業務を社労士に委託することで、煩雑な作業から解放されます。
その結果、創出された時間や人材といった経営資源を、売上向上に直結する営業活動や商品開発、サービス改善などのコア業務に集中させることが可能になり、企業全体の生産性向上と事業成長を加速させることができます。
メリット②:法改正に迅速に対応しコンプライアンス違反を防ぐ
働き方改革関連法をはじめ、労働関係の法律は頻繁に改正されます。 企業が自社だけでこれらの法改正の情報をすべて正確に把握し、遅滞なく対応していくことは非常に困難です。 法改正への対応が遅れると、意図せず法令違反を犯してしまい、行政指導や罰則の対象となるリスクがあります。 社労士は法改正の専門家として常に最新の情報を入手しており、顧問契約を結ぶことで適時適切なアドバイスが受けられます。
これにより、企業はコンプライアンス違反のリスクを回避し、健全な経営を維持できます。
メリット③:専門家の視点で労務トラブルを未然に防止できる
従業員との労務トラブルは、一度発生すると解決までに多大な時間と費用を要するだけでなく、他の従業員の士気低下や企業の社会的信用の失墜にもつながりかねません。 社労士は、就業規則の整備や労働契約書のチェック、労働環境の改善提案などを通じて、トラブルの火種を早期に発見し、予防策を講じることができます。
問題が起きてから対応するのではなく、専門家の視点で問題が起きにくい職場環境を構築する「予防法務」を実践することで、企業は安定した経営基盤を築けます。
メリット④:活用できる助成金を提案してもらえる
国が提供する雇用関連の助成金は、企業の財務を支える有効な手段ですが、多くの経営者は自社で利用できる助成金の存在を知らない、あるいは申請手続きの複雑さから活用を諦めているケースが少なくありません。
社労士は助成金に関する専門知識が豊富であり、企業の雇用状況や取り組みをヒアリングした上で、活用可能な助成金を的確に提案してくれます。さらに、複雑な申請手続きの代行も依頼できるため、受給の可能性を最大限に高め、人材採用や設備投資の原資を確保することが可能です。

経営視点のアドバイス
社労士への委託で事務負担を軽減し本業に専念できるほか、法改正対応や労務トラブルの防止で経営基盤が安定します。助成金活用による財務強化も期待でき、事業成長を支えます。
社労士への依頼を検討すべき具体的なタイミング
社労士への依頼を検討すべきタイミングはいくつかあります。
まず、初めて従業員を雇用する際は、労働保険や社会保険の加入手続きが必須となるため、最適なタイミングです。
また、従業員が10人以上になり就業規則の作成・届出義務が生じたときも、専門的な知識が必要なため依頼を考えるべきでしょう。
その他、従業員との間でトラブルが発生した、あるいは発生しそうな場合、助成金を活用して経営改善を図りたいと考えたとき、頻繁な法改正への対応に不安を感じるときなども、専門家である社労士への相談が有効な解決策となります。
社労士への依頼にかかる費用相場
社労士へ依頼する際の費用は、契約形態によって大きく異なります。 主な契約形態には、継続的に相談や手続きを依頼する「顧問契約」と、特定の業務を単発で依頼する「スポット契約」の2種類があります。
顧問契約は月額制で、スポット契約は業務ごとに料金が設定されているのが一般的です。
どちらの契約形態を選ぶかによって、必要な金額は大きく変わります。
依頼する業務内容や企業の従業員数に応じて費用が変動するため、事前に見積もりを取り、サービス内容と料金を比較検討することが重要です。

顧問契約の場合の費用
顧問契約は、日常的な人事労務に関する相談、法改正情報の提供、軽微な手続き代行などを継続的に受けるための契約です。 費用は企業の従業員数に応じて変動する月額制が一般的で、相場は従業員9名以下で月額2〜3万円、10〜19名で月額3〜4万円程度が目安となります。
ただし、この料金には社会保険・労働保険の手続きや給与計算が含まれていない場合も多く、これらの業務を依頼すると追加料金が発生します。
契約前に、顧問料に含まれるサービス範囲を明確に確認することが重要です。
スポット(単発)契約の場合の費用
スポット契約は、就業規則の作成や助成金申請など、特定の業務を一度きりで依頼する形態です。顧問契約を結んでいない企業でも、必要なときに都度依頼できるのが特徴です。 費用は依頼内容によって異なります。
例えば、就業規則の作成・変更では10万円から30万円程度、助成金申請は受給額の10%から20%程度の成功報酬が相場です。また、社会保険の新規適用手続きについては、2.28万円から10万円程度の費用で依頼可能な事務所もあります。
初めて社労士に業務を頼む場合や、特定の課題解決を目的とする場合に適した契約形態であり、このようなスポット依頼から社労士との相性を見ることもできます。
失敗しない社労士の選び方3つのポイント
社労士に依頼する際は、自社にとって最適なパートナーを見つけることが成功の鍵です。 料金の安さだけで選んでしまうと、期待したサービスが受けられずミスマッチが起こる可能性があります。
重要なのは、自社の課題解決に本当に貢献してくれる社労士かどうかを見極めることです。
そのためには、社労士の専門分野、コミュニケーションの取りやすさ、そして料金体系の明確さという3つのポイントを事前にしっかりと確認し、総合的に判断することが求められます。
ポイント①:自社の課題と社労士の得意分野が合っているか確認する
社労士と一言でいっても、それぞれに得意な分野があります。 例えば、助成金の申請代行に豊富な実績を持つ社労士、IT業界や医療業界など特定の業種の労務管理に精通した社労士、あるいは人事評価制度の構築を専門とする社労士など様々です。
まずは自社が抱える課題、例えば「助成金を活用したい」「人事制度を見直したい」などを明確にしましょう。
その上で、社労士事務所のウェブサイトで実績を確認したり、初回の相談時に得意分野を質問したりして、自社の課題解決に強みを持つ専門家を選ぶことが重要です。
ポイント②:コミュニケーションが円滑に進むか見極める
社労士とは顧問契約を結ぶなど長期的な関係になることが多いため、担当者との相性やコミュニケーションのしやすさは非常に重要です。
専門的な内容を分かりやすく説明してくれるか、質問に対して迅速かつ丁寧に対応してくれるかといった点は、信頼関係を築く上で欠かせません。
契約前の面談などを利用して、実際に担当者と話し、相談しやすい人柄か、自社の状況を親身に理解しようとしてくれるかを見極めましょう。
経営に関するデリケートな相談もするため、信頼できるパートナーとなり得るかどうかが重要な判断基準となります。
ポイント③:料金体系が明確で分かりやすいか確認する
契約後に料金に関するトラブルを避けるためにも、料金体系の明確さは必ず確認すべきポイントです。 特に顧問契約の場合は、月額の顧問料にどこまでの業務が含まれているのかを詳細に確認することが不可欠です。
「手続き代行」とあっても、どの手続きが対象なのか、書類作成1件ごとに追加費用は発生しないかなど、具体的なサービス範囲を書面で提示してもらいましょう。
複数の事務所から見積もりを取り、サービス内容と料金を比較検討することで、納得感のある契約を結ぶことができます。

経営視点のアドバイス
社労士選びは価格だけでなく、自社の課題に適した得意分野を持つか、意思疎通が円滑で信頼できるか、業務範囲と料金体系が明確かの3点が重要です。事前の面談で見極め、納得感のある契約を結ぶことが成功の鍵となります。
社労士への依頼に関するよくある質問
社労士への依頼を検討する際、多くの方が疑問に思う点があります。 ここでは、税理士との違いや、個人事業主でも依頼が可能か、契約形態の選び方といった、特によく寄せられる質問について簡潔に回答します。
税理士と社労士はどこが違うのですか?
税理士は税務申告や会計帳簿の作成といった「税務・会計」の専門家であるのに対し、社労士は社会保険手続きや就業規則作成、労務相談といった「人事・労務」の専門家です。
お金に関する専門家が税理士、人に関する専門家が社労士と区別すると分かりやすいでしょう。
従業員がいない個人事業主でも依頼できますか?
はい、依頼できます。
従業員がいない個人事業主でも、自身の労災保険特別加入手続きや、将来従業員を雇用する際の準備、一人で悩みがちな年金(特に障害年金)の相談などで社労士を活用するメリットがあります。事業のステージに応じたサポートを受けることが可能です。
顧問契約とスポット契約はどちらを選ぶべきですか?
継続的に労務相談をしたい、あるいは頻繁に手続きが発生する場合は「顧問契約」が適しています。
一方、就業規則の作成や助成金申請など、特定の課題解決だけを目的とする場合は「スポット契約」がよいでしょう。
まずはスポットで依頼し、相性を見て顧問契約を検討する方法もあります。
社労士に依頼する最大のメリットは何ですか?
最大のメリットは「リスクの未然防止力」と「法改正の活用提案」のバランスが良いことです。
社労士に依頼することで、トラブルの火種を事前に防ぐことができ、また経営のプラスになる情報を得ることもできるでしょう。
サービスに満足できなかった場合、社労士を変更することは可能ですか?
可能です。 契約解除の条件(1ヶ月前通知など)に従えば、変更自体は難しくありません。
ただしデータの引き継ぎを行う必要があるので、年度の切り替わりなどタイミングを調整することが重要です。
まとめ
社労士は、社会保険・労働保険の手続き代行という独占業務をはじめ、就業規則の作成、給与計算、助成金申請、労務トラブルへの対応など、企業の「人」に関する幅広い業務をサポートする専門家です。
社労士に依頼することで、経営者は煩雑な事務作業から解放され、本業に専念できるだけでなく、法改正への的確な対応によるコンプライアンス強化や、労務リスクの低減といった多くのメリットを享受できます。
自社の課題を明確にし、得意分野や相性、料金体系などを考慮して、信頼できるパートナーとしての社労士を選ぶことが、企業の持続的な成長につながります。



