労働基準監督署(労基署)による調査は、主に労働時間や賃金未払いなどの労働基準法違反を対象としますが、その過程で不法就労の問題が発覚するケースは少なくありません。
外国人労働者を雇用する企業にとって、労基署の調査は、意図せず抱えていた不法就労のリスクが表面化するきっかけとなり得ます。
本記事では、労基調査で不法就労がどのように発覚するのか、指摘された場合の罰則、そして企業が取るべき予防策と対処法について解説します。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
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結論:労基調査で不法就労が発覚する可能性は非常に高い
結論から言うと、労働基準監督署の調査で不法就労が発覚する可能性は非常に高いです。
労基署の調査目的は労働基準法違反の確認ですが、調査過程で必ず確認される書類から、不法就労の疑いが判明するためです。
調査官は労働法の専門家であり、書類上の些細な矛盾点も見逃しません。 そのため、「バレないだろう」という安易な考えは極めて危険であり、その理由を正しく理解しておく必要があります。

理由1:労働者名簿や賃金台帳の確認が必須であるため
労働基準監督署の調査では、労働基準法で作成・保管が義務付けられている「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の法定三帳簿の提出を必ず求められます。
特に労働者名簿には、労働者の氏名、生年月日、国籍、在留資格、在留期間などを記載する必要があるため、この時点で在留期間が切れている不法滞在の状態であれば、即座に発覚します。 調査官はこれらの基本情報を厳格にチェックするため、書類の不備や記載漏れ、虚偽の記載はすぐに判明すると考えなければなりません。
外国人労働者を雇用している場合、これらの帳簿は在留資格の適法性を証明する第一の関門となります。
理由2:在留資格と実労働時間の矛盾が書類から判明するため
留学生のアルバイトのように、在留資格によって就労時間に制限が設けられているケースでは、不法就労が発覚しやすくなります。
例えば、資格外活動許可を得た留学生は、原則として週28時間までしか働くことができません。 労基署の調査官は、出勤簿やタイムカードで記録された実労働時間と、それに基づいて計算される賃金台帳の金額を照合します。 このとき、労働時間が週28時間を超えていれば、その矛盾は一目瞭然です。
また、雇用契約書や労働者名簿に記載された在留資格と、実際の業務内容が一致しない場合も、調査の過程で質問され、資格外活動が明らかになる可能性があります。
労基調査で不法就労が疑われた後の流れ
労基署の調査で不法就労の疑いが生じた場合、企業はどのような事態に直面するのでしょうか。
労基署は不法就労を直接取り締まる権限を持ちませんが、それで問題が終結するわけではありません。 労基署は他の行政機関と連携しており、疑わしい事案は管轄の機関へ通報されることになります。
この流れを理解しておくことは、リスク管理において非常に重要です。 ここでは、不法就労が疑われた後の具体的なプロセスを解説します。
労基署は直接の取締権限を持たない
まず理解すべき点は、労働基準監督署の権限は、あくまで労働基準法や労働安全衛生法といった労働関連法令に関する監督・指導に限られるということです。
不法就労や不法滞在は、出入国管理及び難民認定法(入管法)によって規定されており、その取り締まりは出入国在留管理庁(入管)や警察の管轄となります。 したがって、労働基準監督官が不法就労そのものを理由にその場で逮捕したり、企業を摘発したりすることはありません。
しかし、労働基準監督署の調査をきっかけに不法就労が発覚し、出入国在留管理庁や警察による捜査につながる可能性はあります。労働基準監督官は、労働基準法や労働安全衛生法に違反した者を逮捕する権限を持っています。
労基署の役割は、賃金未払いなどの労働問題があれば是正勧告を行ったり、労使間のトラブル解決を目的とした、あっせん制度の案内をしたりすることです。
入管法違反の疑いがあれば出入国在留管理庁(入管)へ通報される
労働基準監督署は不法就労の直接的な取締権限を持ちませんが、調査の過程で不法就労の疑いを認知した場合、国または地方公共団体の職員には入管法第62条に基づき、職務遂行上不法就労者を知った場合の通報義務があります。
また、厚生労働省からの通達により、地方労働局には不法就労者に関する出入国在留管理庁への情報提供が義務付けられています。したがって、労働基準監督署自体に直接的な通報義務があるわけではありませんが、労働基準監督署が不法就労の情報を得た場合、上位機関である地方労働局を通じて適切な情報共有が行われます。
近年、外国人労働者の増加に伴い、厚生労働省、警察庁、出入国在留管理庁の三省庁による不法就労者対策や、各ブロックでの協議会開催など、関係機関との連携は強化されています。企業としては、不法就労防止の観点から、雇用時の在留資格の確認を徹底することが、このような事態を避けるための第一歩となります。
知らないでは済まされない「不法就労助長罪」の重い罰則
外国人労働者の雇用において、企業側が最も警戒すべき法律が「不法就労助長罪」です。
この罪は、不法就労であることを「知らなかった」では済まされず、確認を怠った「過失」でも適用される可能性がある非常に厳しいものです。
労基調査をきっかけに不法就労が発覚し、この罪に問われると、企業は甚大なダメージを受けることになります。
万が一の事態に陥らないためにも、罰則の内容や適用範囲を正しく理解し、必要であれば専門家へ相談することも検討すべきです。

5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金が科される
不法就労助長罪は、出入国管理及び難民認定法第73条の2に定められており、2026年6月以降は「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」という刑事罰が科されます。
この罰則は、不法就労者を雇用した事業主本人だけでなく、採用を決定した人事担当者や、現場で不法就労と知りながら指示を出していた責任者など、個人も対象となる可能性があります。
さらに、法人の代表者や従業員が違反行為を行った場合、法人そのものにも罰金が科される両罰規定も設けられています。企業の社会的信用の失墜にもつながる、極めてリスクの高い罰則です。
悪意がなくても「過失」として処罰対象になるケース
不法就労助長罪の最も注意すべき点は、不法就労であると知らなかった場合でも、そのことに過失があれば処罰の対象となることです。 「過失」とは、在留カードの確認を怠った、提示された在留カードの有効期限が切れているのに気づかなかった、といったケースが該当します。 つまり、外国人労働者を雇用する際には、在留カードの原本を確認し、在留資格や就労の可否、在留期間などを確認する義務があるということです。
この確認義務を怠った結果、不法就労に加担してしまった場合、「知らなかった」という言い分は通用せず、罪に問われる可能性があることを肝に銘じる必要があります。
企業が気づかぬうちに加担している
不法就労の3つの典型例 不法就労は、悪意を持って行われるケースばかりではありません。 むしろ、法律への理解不足や管理体制の不備から、企業が意図せず不法就労に加担してしまっているケースが後を絶ちません。
自社は法令を遵守しているつもりでも、気づかぬうちに違法状態に陥っている可能性があります。 ここでは、企業が陥りやすい不法就労の典型的な3つの例を取り上げ、どのような状況が問題となるのかを具体的に解説します。
ケース1:在留カードの有効期限切れに気づかず雇用し続ける
外国人労働者を雇用する際に、最も発生しやすいのが在留カードの有効期限切れに関するトラブルです。
採用時には在留カードを確認し、有効期限内であることを把握していても、その後の更新管理を怠ってしまうケースが散見されます。 在留期間は個々の労働者によって異なるため、担当者が更新時期を把握しきれず、気づいたときには期限が過ぎていたという事態に陥りがちです。 在留期間が1日でも過ぎてしまえばオーバーステイ(不法残留)となり、その状態で働かせることは不法就労助長罪にあたります。 定期的な確認と、更新手続きを促す仕組み作りが不可欠です。
ケース2:留学生を週28時間以上アルバイトさせる(オーバーワーク)
留学生をアルバイトとして雇用する場合、資格外活動許可に基づき、就労時間は原則として週28時間以内に制限されています(学則で定める長期休業期間中は1日8時間、週40時間まで)。
この時間を超えて労働させることは「オーバーワーク」と呼ばれ、不法就労の一種です。 特に複数の店舗や部署でシフトを組んでいる場合、全体の労働時間を正確に把握しておらず、意図せず上限を超過してしまうリスクがあります。
労働者本人が掛け持ちで他のアルバイトをしている場合も、自社での労働時間を適切に管理する責任が求められるため、シフト管理には細心の注意が必要です。
ケース3:許可された在留資格の範囲外の業務に従事させる
外国人が日本で就労する場合、原則として許可された在留資格の範囲内の活動しか認められていません。
例えば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つエンジニアに、人手不足を理由に工場の単純作業や清掃業務を命じることは、資格外活動にあたり不法就労となります。
同様に、通訳として採用した人材に、接客や販売業務を主に行わせることも問題となる可能性があります。 入社後の配置転換や業務内容の変更に際しても、その業務が本人の在留資格で許可された範囲内であるかを常に確認する意識が重要です。
労基調査で指摘を受けないための具体的な予防策
労基調査で不法就労を指摘される事態を避けるためには、日頃からの適切な労務管理と予防策が不可欠です。
問題が発生してから対処するのではなく、問題が起きない体制を構築することが、企業をリスクから守る最善の方法となります。 ここでは、企業がすぐに実践できる具体的な予防策を3つ紹介します。 これらの対策を徹底することで、コンプライアンスを遵守し、安心して外国人労働者を雇用できる環境を整えることができます。
雇い入れ時に在留カードの原本を必ず確認する
外国人労働者を採用する際、最も基本的かつ重要なのが、在留カードの原本を目視で確認することです。
コピーやスマートフォンで撮影した画像での確認は、偽造や改ざんを見抜けない可能性があるため絶対に避けるべきです。
在留カードのICチップ情報を読み取れる法務省の「在留カード等読取アプリケーション」を活用し、真偽を確認することも有効な手段となります。 確認時には、氏名、在留資格の種類、就労制限の有無、在留期間満了日といった項目を漏れなくチェックし、その写しを本人から提出してもらい、労働者名簿とともに保管しておくことが求められます。
在留資格ごとの就労制限を正確に把握する
在留資格には多種多様な種類があり、それぞれ就労が認められる業務範囲や時間に制限が設けられています。
例えば、「永住者」や「日本人の配偶者等」といった身分系の在留資格には就労制限がありませんが、「留学」や「特定技能」、「技術・人文知識・国際業務」などの就労系の在留資格には厳格な制限が存在します。 自社で雇用している、あるいは雇用を検討している外国人の在留資格がどのような活動を許可しているのかを正確に理解しておく必要があります。
不明な点や判断に迷う場合は、自己判断せず、出入国在留管理庁やハローワークなどの公的機関に問い合わせることが重要です。
外国人労働者全員の在留期間を管理する体制を構築する
在留期間のうっかり失効を防ぐためには、個人の記憶に頼るのではなく、組織として管理する体制を整備することが不可欠です。 具体的には、外国人労働者全員の氏名、在留資格、在留期間満了日などを一覧にした管理台帳(Excelやスプレッドシートでも可)を作成し、担当者が定期的に確認するフローを確立します。
また、労務管理システムの中には在留期間を管理できる機能を備えたものもあります。 満了日が近づいてきた従業員には、数ヶ月前から更新手続きを促す通知を行うなど、会社としてサポートする体制を整えることで、期限切れのリスクを大幅に低減させることができます。

経営視点のアドバイス
在留カードの原本確認による偽造防止、在留資格ごとの就労制限を把握、在留期間の管理体制の構築が不可欠です。労務管理システムを活用し、組織的な予防策で不法就労のリスクを回避しましょう。
万が一、労基調査で不法就労を指摘された場合の対処法
どれだけ予防策を講じていても、ヒューマンエラーや管理体制の不備から、労基調査で不法就労を指摘されてしまう可能性はゼロではありません。
もしそのような事態に直面してしまった場合、初期対応がその後の結果を大きく左右します。
パニックにならず、冷静かつ誠実に対応することが何よりも重要です。 ここでは、万が一指摘を受けた際に企業が取るべき行動について、2つの重要なポイントを解説します。

誠実な態度で調査に応じ、事実関係を正直に説明する
労働基準監督官から不法就労の可能性を指摘された場合、最も避けるべきは、事実を隠蔽したり、虚偽の説明をしたりすることです。 そのような不誠実な態度は監督官の心証を著しく悪化させ、より厳しい対応を招く原因となります。
まずは指摘された内容を真摯に受け止め、調査には全面的に協力する姿勢を示してください。 求められた資料は速やかに提出し、事実関係については正直に説明することが重要です。 もし管理上のミスが原因であった場合は、その事実を認め、再発防止策を具体的に示すことで、情状を酌んでもらえる可能性もあります。
速やかに弁護士などの専門家へ相談する
労基調査で不法就労を指摘された場合、自社だけの判断で対応を進めるのは非常に危険です。 特に、不法就労助長罪として刑事事件に発展する可能性があるため、できるだけ早い段階で、労働問題や入管法に精通した弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することを強く推奨します。
専門家は、法的な観点から現状を正確に分析し、今後の労基署や入管への対応方針、提出すべき書類の準備など、具体的かつ適切なアドバイスを提供してくれます。 専門家のサポートを得ることで、企業が受けるダメージを最小限に抑えることにつながります。
労基調査と不法就労に関するよくある質問
労基調査と不法就労の問題は、多くの企業担当者が不安や疑問を抱える分野です。 ここでは、これまでの解説を踏まえ、特に多く寄せられる具体的な質問についてQ&A形式で回答します。
労働者からの通報の信憑性や、不法就労状態にある労働者本人の権利、調査で重視される書類など、より実践的な知識を得ることで、いざという時に備えることができます。
従業員が会社の不法就労を労基署に通報したら調査は入りますか?
はい、調査が行われる可能性は高いです。
労働基準監督署は、労働者からの具体的な情報に基づいた申告(通報)を重要な調査の端緒としています。 特に、会社が組織的に不法就労をさせている、賃金未払いも発生しているなど、悪質性が高いと判断される内容であれば、事実確認のために調査に着手する可能性は一層高まります。
不法就労状態の外国人本人が、未払い賃金を労基署に相談できますか?
はい、相談自体は可能です。
労働基準法は、労働者であれば不法就労者にも適用されるため、未払い賃金などを請求する権利はあります。 ただし、労基署に相談することで自身の不法滞在や資格外活動が明らかになり、その情報が出入国在留管理庁に通報され、強制退去などの対象となるリスクがあることは覚悟しなければなりません。
外国人アルバイトの「不法就労」を防ぐために、最低限確認すべきことはなんですか?
「在留カード」の現物確認と有効性のチェックが必須です。
カード表面の「就労制限の有無」だけでなく、裏面の「資格外活動許可」欄に「原則週28時間以内」といったスタンプがあるかを確認してください。また、出入国在留管理庁の公式サイトで、カード番号が失効していないか照合することも実務上重要です。
労基調査で不法就労に関連して特に重点的に見られる書類は何ですか?
労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の法定三帳簿と、雇用契約書及び在留カードの写しが特に重要です。
これらの書類を照合し、在留カードに記載された在留資格、在留期間、就労制限の有無と、実際の労働実態に矛盾がないかが重点的にチェックされます。
労基調査で「是正勧告」を受けたら、必ず従わなければなりませんか?
行政指導であるため直ちに罰則はありませんが、事実上、拒否することはできません。
是正勧告に従わず放置したり、虚偽の是正報告をしたりすると、悪質なケースとして「書類送検」され、社名が公表されるリスクがあります。指摘事項に対して適宜対応し、行政との信頼関係を維持していきましょう。
まとめ
労基署の調査において、不法就労が発覚する可能性は極めて高いと言えます。 調査で必須となる労働者名簿や賃金台帳などの書類から、在留期間の超過や就労時間の制限違反といった矛盾が容易に判明するためです。
不法就労が発覚した場合、企業は「不法就労助長罪」に問われるリスクがあります。 この罪は、意図的でなくとも在留カードの確認を怠ったなどの「過失」でも成立し、重い罰則が科される可能性があります。
このような事態を避けるためには、採用時の在留カード原本確認の徹底、在留資格ごとの就労制限の正確な把握、そして全外国人労働者の在留期間を管理する体制の構築といった予防策が不可欠です。



