キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者の正社員化や待遇改善に取り組む事業主を支援する制度です。
この記事では、キャリアアップ助成金の制度概要や目的、支給対象となる事業主と労働者の条件、コース別の支給金額、申請手順から注意点までをわかりやすく解説します。 補助金とは異なり、要件を満たせば原則受給できるため、対象となる取り組みを検討している場合は活用をおすすめします。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
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キャリアアップ助成金とは?非正規雇用労働者の待遇改善を支援する制度
キャリアアップ助成金は、パートタイマーやアルバイト、派遣社員といった非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取り組みを行った事業主に対して助成金を支給する制度です。 この制度の目的は、労働者の意欲や能力を向上させ、事業の生産性向上と優秀な人材の確保・定着を支援することにあります。
厚生労働省が管轄しており、その内容は多岐にわたりますが、中心となるのは非正規雇用から正規雇用への転換を促す「正社員化コース」です。 この制度の定義を正しく理解し活用することで、企業は人材育成のコスト負担を軽減できるメリットがあります。

キャリアアップ助成金の支給対象となる事業主と労働者の条件
キャリアアップ助成金を受給するためには、事業主と対象となる労働者のそれぞれに定められた要件を満たす必要があります。
事業主の受給要件としては、雇用保険の適用事業所であることや、キャリアアップ管理者を配置し、適切なキャリアアップ計画を策定・認定を受けていることなどが挙げられます。 一方、対象者となる労働者の条件は、事業主に雇用される有期雇用労働者や無期雇用労働者(いわゆる非正規社員)であることが基本です。
詳細な要件はコースごとに異なるため、申請を検討する際は、自社と対象労働者が双方の条件を満たしているかを確認することが不可欠です。

助成対象となる事業主の4つの必須条件
助成対象となる事業主は、以下の4つの必須条件をすべて満たす必要があります。 第一に、雇用保険適用事業所の事業主であることです。 第二に、事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置していること。 第三に、労働組合等の意見を聴いて「キャリアアップ計画」を作成し、管轄の労働局長から認定を受けていること。 第四に、作成した計画に基づき、実際に非正規雇用労働者のキャリアアップに向けた取り組みを実施した事業主であることです。 特に中小企業の場合は、大企業よりも助成額が手厚く設定されています。
助成対象となる労働者の具体的な条件
助成対象となる労働者は、主に有期雇用労働者や無期雇用の非正規労働者が該当します。 具体的には、アルバイトや契約社員、パートタイマーなどが含まれます。 正社員化コースの場合、転換日において正規雇用労働者として雇用されることを約して雇われた有期契約労働者などは対象外です。
また、過去に同じ事業所で正規雇用として6ヶ月以上雇用されていた経験がある場合や、事業主の親族である場合も対象となりません。 派遣社員の場合、派遣先の事業主が直接雇用として採用するケースも対象に含まれます。

【コース別】キャリアアップ助成金の支給額一覧
キャリアアップ助成金には複数のコースが設けられており、それぞれ支給額や要件が異なります。この制度は社会情勢に合わせて見直しが行われており、例えば令和4年度には支給額の増額などの変更点がありました。過去には一部コースが廃止されたり、新しいコースが新設されたりすることもあります。
令和6年度のキャリアアップ助成金は、「正社員化コース」や「賃金規定等改定コース」など、6つのコースが設定されています。また、令和5年10月1日には「社会保険適用時処遇改善コース」が新設されました。申
請を検討する際は、厚生労働省のホームページなどで最新情報を確認し、自社の取り組みに合ったコースを選択することが重要です。
【正社員化コース】有期雇用から正規雇用への転換で1人あたり最大80万円
キャリアアップ助成金の正社員化コースは、有期雇用労働者を正規雇用労働者に転換させた場合に助成金が支給される制度です。
中小企業の場合、原則として1人あたり40万円が支給されますが、特定の「重点支援対象者」を正社員化した場合は、1人あたり80万円(大企業は60万円)が支給されます。この80万円の支給は、正規雇用転換後6ヶ月の賃金を支払った後に1期分として40万円、さらに6ヶ月経過後に2期分として40万円が支給される仕組みです。
2023年11月29日以降の正社員化から、キャリアアップ助成金(正社員化コース)は拡充されており、支給対象期間が従来の6ヶ月から12ヶ月に延長され、助成額が見直されています。この制度拡充は、企業が正社員登用を進める上で大きな支援となります。

【賃金規定等改定コース】基本給の3%以上増額で助成対象に
賃金規定等改定コースは、有期雇用労働者等の基本給に関する賃金規定を改定し、3%以上増額させた場合に助成されます。このコースの目的は、非正規雇用労働者の処遇を改善し、公正な評価に基づく賃金体系を整備することにあります。すべての対象労働者に同じ増額率を適用する必要があり、一部の労働者のみを対象とした場合は認められません。
助成額は、対象となる労働者の人数や昇給率に応じて変動し、中小企業の場合、昇給率が3%以上5%未満であれば1人あたり5万円、5%以上であれば1人あたり6.5万円が支給されます。1事業所あたりの上限は100人です。また、職務評価の活用や昇給制度の新規規定によって加算措置が設けられています。
【賞与・退職金制度導入コース】制度の新設で一律40万円を支給
賞与・退職金制度導入コースは、これまで制度がなかった事業所が、新たに有期雇用労働者等を対象とする賞与または退職金制度を就業規則等に明記し、実際に支給または積立てを行った場合に助成されるものです。
中小企業の場合、賞与または退職金制度のいずれか一方の導入で最大40万円、両方の導入で合計最大56万8,000円が助成されます。 このコースは、非正規雇用労働者の福利厚生を充実させ、エンゲージメント向上を図る上で有効な手段です。
【社会保険適用時処遇改善コース】社会保険加入時の手当支給を支援
社会保険適用時処遇改善コースは、労働者の労働時間を延長して社会保険に新たに加入させるとともに、収入が減少しないように手当の支給などによって労働者の処遇を改善した場合に助成されます。 社会保険の適用拡大に伴い、いわゆる「年収の壁」を意識せずに働ける環境を整備することが目的です。
労働者の手取り収入の減少を防ぐための「社会保険適用促進手当」の支給や、賃金増額、労働時間延長など、複数の取り組みメニューが用意されています。

キャリアアップ助成金の申請から受給までの5ステップ
キャリアアップ助成金の申請から受給までは、大まかに5つのステップで進みます。 まずキャリアアップ計画書を作成して管轄の労働局へ提出し、認定を受けることから始まります。 その後、計画に沿って就業規則の改定や正社員転換などの取り組みを実施します。
取り組みが完了し、対象労働者へ6ヶ月分の賃金を支払った後に支給申請を行い、労働局の審査を経て助成金が振り込まれるという流れです。 各ステップには期限があるため、計画的な雇用管理が求められます。

ステップ1:キャリアアップ計画書の作成と提出
助成金を活用する上で最初の、そして最も重要なステップがキャリアアップ計画書の作成と提出です。 この計画書には、助成金を活用してどのような取り組みを、いつからいつまでの期間で実施するのかといった全体像を記載します。
作成した計画書は、取り組みを開始する前日までに管轄の労働局またはハローワークへ提出し、認定を受ける必要があります。 提出が取り組み開始後になると、それ以降の取り組みがすべて助成金の対象外となるため、提出タイミングには細心の注意が必要です。
ステップ2:就業規則の改定と労働者への周知
キャリアアップ計画の認定を受けたら、計画に沿って就業規則や賃金規程などを改定します。 例えば、正社員化コースを利用する場合、「契約社員を正社員に登用する制度」を就業規則に明記する必要があります。
改定した就業規則は、労働基準監督署への届出が必要です。 また、新しいルールは社内で掲示したり、説明会を開いたりするなどして、対象となる労働者へ確実に周知することも求められます。
ステップ3:正社員転換などの取り組みを実施
就業規則の改定と周知が完了したら、キャリアアップ計画書に記載した内容に基づき、正社員への転換や賃金の増額といった具体的な取り組みを実施します。
この際、対象労働者のスキルアップを目的とした訓練(OJT・Off-JT)を併せて実施すると、助成額が追加される訓練加算の対象となる場合があります。 人材育成やリスキリングの観点からも、訓練の実施は企業と労働者の双方にとって有益です。
ステップ4:取り組み後6ヶ月分の賃金を支払い支給申請へ
正社員転換などの取り組みを実施した後、対象労働者に対して6ヶ月分の賃金を支払います。 この6ヶ月分の賃金を支払い終えた日の翌日から起算して2ヶ月以内に、管轄の労働局へ支給申請書を提出する必要があります。
この2ヶ月という申請期間は厳守しなければならず、1日でも過ぎてしまうと助成金は受給できなくなります。 申請時には、出勤簿や賃金台帳など多くの添付書類が必要となるため、早めの準備が肝心です。

ステップ5:労働局の審査を経て助成金を受給
支給申請書を提出すると、管轄の労働局による審査が行われます。 審査では、提出された書類の内容が要件を満たしているか、取り組みが計画通りに正しく実施されたかなどが確認されます。
審査期間は申請内容や時期によって異なりますが、一般的には数ヶ月程度かかるとされています。 審査の結果、支給が決定されると事業主の指定口座へ助成金が振り込まれます。 もし書類に不備があった場合は、追加の書類提出や説明を求められることもあります。
申請前に必ず確認!キャリアアップ助成金で失敗しないための3つの注意点
キャリアアップ助成金は、要件を満たせば受給できる可能性が高い制度ですが、手続き上のミスで不支給となるケースも少なくありません。
申請で失敗しないためには、特に注意すべきポイントがいくつか存在します。 ここでは、特に間違いやすい3つの注意点について解説します。 これらの点を事前に把握し、計画的に準備を進めることが、確実な受給につながります。

注意点1:全ての取り組みは計画書の提出後に行う必要がある
キャリアアップ助成金で最も重要な注意点は、すべての取り組みを「キャリアアップ計画書を労働局に提出し、認定を受けた後」に開始する必要があるということです。 例えば、計画書を提出する前に従業員を正社員に転換してしまった場合、その従業員は助成金の対象外となります。 助成金を活用する意思が決まったら、まず計画書を作成・提出し、その後に就業規則の改定や正社員転換といった具体的なアクションに移るという順番を必ず守る必要があります。
注意点2:正社員転換後の賃金を3%以上増額させなければならない
正社員化コースを利用する場合、転換後の6ヶ月間の賃金総額が、転換前の6ヶ月間の賃金総額と比較して3%以上増額している必要があります。 この増額率の計算では、賞与や通勤手当など、変動する可能性のある手当は除外して比較します。 基本給や定額で支給される諸手当が対象です。
この3%増額の要件を満たしていないと、たとえ正社員に転換したとしても助成金は支給されないため、賃金設定は慎重に行う必要があります。
注意点3:申請から助成金の入金までには半年以上かかる場合がある
キャリアアップ助成金は、取り組みを実施してすぐに受け取れるものではありません。 正社員転換後、6ヶ月分の賃金を支払ってから支給申請を行い、さらにそこから数ヶ月の審査期間を経て入金されます。 そのため、取り組み開始から実際の入金までには、少なくとも半年以上、場合によっては1年近くかかることもあります。
このタイムラグを考慮せず、助成金をあてにした資金計画を立てると、キャッシュフローが悪化する可能性があるため注意が必要です。 他の助成金との併用を検討する場合も、それぞれの入金タイミングを把握しておくことが大切です。

経営視点のアドバイス
キャリアアップ助成金はミスでの不支給を防ぐため、計画書提出後の取り組み、正社員転換後3%以上の賃金増額、入金まで半年以上かかるタイムラグの3点に注意が必要です。
キャリアアップ助成金に関するよくある質問
キャリアアップ助成金の申請を検討する企業の経営者や人事担当者からは、具体的なケースに関する質問が多く寄せられます。 ここでは、特に頻繁に尋ねられる質問とその回答例をいくつか紹介します。
役員の家族を正社員にした場合も対象になりますか?
原則として対象外です。
事業主または取締役の3親等以内の親族は、キャリアアップ助成金の対象労働者には含まれません。 これは、助成金の制度趣旨が、客観的で公平な人事制度の下でのキャリアアップを支援することにあるためです。
派遣社員を自社で正社員として雇用した場合も対象ですか?
対象となります。 派遣先の企業が、自社で受け入れている派遣社員を派遣期間終了後などに直接雇用し、正社員として採用する場合も正社員化コースの助成対象です。
いわゆる「紹介予定派遣」だけでなく、通常の労働者派遣からの直接雇用も含まれます。
申請後に不支給となるのはどのようなケースですか?
不支給の主な原因は、計画書の事前提出漏れや賃金の3%増額要件未達など、手続き上のミスです。
また、対象労働者の転換後6ヶ月以内に会社都合の解雇者を出した場合や、労働基準法などの法令に違反がある場合も不支給となります。
まとめ
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を通じて、企業の持続的な成長を支援する有効な制度です。 補助金とは異なり、定められた要件を遵守すれば原則として支給されるため、人材の確保・定着を目指す多くの企業にとって活用価値が高いと言えます。
ただし、受給にはキャリアアップ計画の事前提出や賃金増額要件の達成、厳格な申請期限の遵守など、計画的かつ正確な手続きが不可欠です。
本記事で解説したポイントを押さえ、制度を有効に活用してください。



