中東情勢の影響で原材料の入手が困難になったり、価格高騰によって事業活動の縮小を余儀なくされている企業が増えています。このような状況で従業員を解雇せず雇用を守るための制度が雇用調整助成金です。
この記事では、社会保険労務士法人とうかいが、中東情勢を要因とした雇用調整助成金の対象要件・助成内容・手続きの流れ・よくある落とし穴まで、経営者・総務人事担当者向けにわかりやすく解説します。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
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- NHK「あさイチ」
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1. この記事の要約
- 中東情勢による原材料高騰・入手困難を理由とした事業縮小でも、雇用調整助成金の受給が可能です。
- 中小企業は休業手当の3分の2、大企業は2分の1が助成されます(日額上限8,870円)。
- 対象となるには「生産量等が前年同期比で3か月平均10%以上減少」など4つの要件を満たす必要があります。
- 支給日数は対象労働者1人あたり最大100日分です。
- 申請はハローワーク・助成金センターに相談しながら進めるのが確実です。
2. そもそも、雇用調整助成金とは?
雇用調整助成金(こようちょうせいじょせいきん)とは、景気の変動や経済上の理由によって事業活動が縮小した際に、従業員を解雇せず休業・教育訓練・出向等によって雇用を維持した事業主に対し、国が休業手当等の一部を助成する制度です(雇用保険法第62条に基づく)。

制度の目的は「解雇を出さないこと」
この助成金の本質は、事業が苦しいときに安易な解雇を防ぐことです。一時的な業績悪化で熟練した従業員を手放してしまうと、景気が回復したときに人材を再確保するコストが膨大になります。雇用調整助成金はその「つなぎ」の役割を果たします。
今回の対象:中東情勢による影響
厚生労働省は、中東情勢(ホルムズ海峡周辺の緊張・サプライチェーンの混乱等)による原材料の入手困難や価格高騰に起因した事業活動の縮小を、雇用調整助成金の対象要因として認めています。具体的には、輸入原材料・部品の調達が困難になったことで生産・販売が落ち込んだケースが該当します。

このセクションのポイント
- 雇用調整助成金とは、雇用を維持するために休業等を実施した事業主に助成される制度です(雇用保険法第62条)。
- 中東情勢による原材料高騰・入手困難も対象要因として認められています。
- 解雇を防ぎ、景気回復後の人材確保コストを抑える効果があります。
3. 今回の変更点・対象要件:何がどう変わるのか?
中東情勢特有の要件設定ではなく、通常の雇用調整助成金が適用
今回の対応は、新たな特例制度ではなく通常の雇用調整助成金の制度が適用されます。中東情勢を原因とした事業縮小であっても、下記の4要件を満たせば申請できます。
要件①:雇用保険適用事業主
雇用保険に加入している事業所であることが前提です。ほぼすべての事業所が該当しますが、雇用保険の加入状況を確認しておきましょう。
要件②:生産指標が前年同期比で10%以上減少
最近3か月の生産量・売上高・販売量・完成工事高等の生産指標が、前年同期と比べて平均10%以上減少していることが必要です。
重要なポイント:3か月全てで減少している必要はありません。直近1か月に急激な落ち込みがあった場合、それまでの2か月が減少していなくても、3か月平均で10%以上減少していれば要件を満たします。
比較する「最近3か月」は、支給対象期間の初日が属する月の前月まで、または前々月までの3か月間です。どちらか有利な方を選択できます。

| 比較パターン | 対象期間の例(休業初日が令和8年7月16日の場合) |
|---|---|
| 前月までの3か月 | 令和8年4月〜6月 |
| 前々月までの3か月 | 令和8年3月〜5月 |
要件③:雇用保険被保険者数が大幅に増加していない
最近3か月間の雇用保険被保険者等の月平均値が、前年同期と比べて10%超かつ4人以上増加していないことが必要です(中小企業の場合)。最近3か月に新規採用をしていても、この基準を超えなければ要件を満たします。
要件④:労使協定に基づく休業等の実施
休業・教育訓練・出向等は、労働組合または労働者代表との労使協定に基づいて実施する必要があります。就業規則だけでは不十分です。休業を実施する前に、必ず労使協定を締結してください。
このセクションのポイント
- 生産指標は3か月全て減少していなくても、3か月平均で前年同期比10%以上減少していれば可です。
- 生産指標は売上高・販売量・完成工事高等も利用できます。
- 休業実施前に労使協定の締結が必須です。事前準備が重要です。
4. 助成内容の詳細
助成率と日額上限額
| 中小企業 | 大企業 | |
|---|---|---|
| 助成率(休業・教育訓練) | 2/3 | 1/2 |
| 日額上限額 | 8,870円(令和7年8月1日現在) | 8,870円 |
| 対象労働者の要件 | 雇い入れ後6か月以上の雇用保険被保険者 | 同左 |
| 支給日数 | 最大100日分 | 最大100日分 |
日額上限額の8,870円は雇用保険基本手当日額の上限額と連動しています。
支給日数が30日を超えた場合の注意点
支給日数が30日を超えた場合、次の判定基礎期間から教育訓練の実施率によって助成率が変わる場合があります。休業だけでなく教育訓練も組み合わせることで助成率を維持・向上させることができます。

助成額のイメージ計算
例:従業員10名を対象に、1人あたり日額6,000円の休業手当を20日間支給した場合(中小企業)
- 休業手当総額:6,000円 × 20日 × 10名 = 120万円
- 助成率2/3:120万円 × 2/3 ≒ 80万円の助成
このセクションのポイント
- 中小企業の助成率は2/3、日額上限は8,870円です。
- 支給日数は対象労働者1人あたり最大100日分です。
- 30日超えた場合は教育訓練の組み合わせが助成率維持のカギになります。
5. 経営者が今すぐ対応すべきこと|社会保険労務士法人とうかいからのアドバイス
優先度別アクションリスト
【最優先】休業実施前に行うこと
- 生産指標データの整備 直近3か月と前年同期の売上高・生産量等のデータを準備します。10%以上の減少を数字で示せる資料が必要です。
- 労使協定の締結 休業を実施する前に、労働者代表(または労働組合)と休業に関する協定書を締結します。書面で締結し、保管が必須です。
- 休業計画の作成 誰を・いつ・何日間休業させるかを事前に計画し、記録します。
【次に実施】ハローワーク・助成金センターへの事前相談
申請書類は複数あり、記載ミスがあると差し戻しになります。まずは管轄のハローワークまたは助成金センターに電話し、「中東情勢による雇用調整助成金の申請を検討している」と伝えて相談してください。
【申請後】休業実績の正確な記録
休業を実施したら、日付・対象者・休業手当の支払い記録を正確に保管してください。後から修正はできません。
よくある落とし穴
- 休業を実施してから労使協定を締結しようとした:労使協定は休業実施前が必須。事後締結は認められません。
- 売上データが月単位でなく四半期単位だった:月単位のデータが必要です。経理部門と事前に確認してください。
- 対象労働者に雇い入れ後6か月未満の方が含まれていた:入社6か月未満の方は対象外です。名簿の整理が必要です。
- 日額上限を超える休業手当を設定していた:助成は上限8,870円までです。超えた分は会社負担になります。
社会保険労務士に相談するとできること
- 要件の充足確認(生産指標の計算・雇用量要件の判定)
- 労使協定書の作成サポート
- 申請書類一式の作成・提出代行
- 支給日数30日超の際の教育訓練計画の設計
このセクションのポイント
- 労使協定は休業前に必ず締結してください。事後では認められません。
- 月単位の売上・生産量データを経理部門と事前に整備しておくことが重要です。
- 申請書類の複雑さを考えると、社労士への相談が確実かつ効率的です。
6. とうかいが実際に対応した相談事例・よくあるトラブル
相談事例①:製造業・従業員30名|原材料高騰で生産ラインを週3日に短縮
状況:中東産の樹脂原料の価格が急騰し、コスト転嫁が追いつかず、売上は前年同期比で約15%減少。生産ラインを週5日から週3日に縮小せざるを得なくなった。
とうかいの対応:月次売上データで生産量要件(10%以上減少)の充足を確認。労働者代表と休業協定を締結した上で、休業計画書・支給申請書を作成・提出代行。約60名日分の休業手当のうち、2/3に当たる約40万円が助成されました。
ポイント:製造業の場合、売上高よりも「生産量」や「完成品出荷量」の方が減少幅が大きく、有利な指標になることがあります。どの指標を使うかは、社労士と一緒に判断することをお勧めします。

相談事例②:運送業・従業員15名|燃料費高騰による運賃転嫁困難
状況:原油価格の上昇に伴う燃料費の高騰で採算が悪化。一部の運送契約を停止し、ドライバーの一部に休業が発生した。売上は前年同期比で12%減少。
とうかいの対応:「完成工事高」に準じた「輸送実績(トンキロ)」を生産指標として活用することを提案。ハローワークとの事前調整を経て申請が受理されました。
ポイント:生産指標は売上高だけでなく、業種の実態に合った指標が使えます。担当のハローワーク・助成金センターとの事前相談が重要です。
相談事例③:小売業・従業員8名|輸入食品の仕入れ困難による休業
状況:中東産の食品原料を使ったオリジナル商品が仕入れ困難になり、一部店舗を週2日休業することになった。売上減少率は約20%。
とうかいの対応:雇い入れ後6か月未満のアルバイト2名は対象外となるため、6か月以上の従業員6名を対象として申請。労使協定の締結からサポートし、休業手当の助成を受けることができました。

よくあるトラブルとその対処法
トラブル1:申請書類の記載ミスで差し戻し 対処法:ハローワーク・助成金センターへの事前相談と書類チェックを徹底する。社労士に依頼すると書類の精度が上がります。
トラブル2:休業手当の計算方法が労働基準法の計算と異なっていた 対処法:休業手当は平均賃金の60%以上の支払いが法律上の義務(労働基準法第26条)。助成申請では実際に支払った休業手当を基に計算します。
トラブル3:支給対象期間の設定を誤った 対処法:支給対象期間は1か月以内の判定基礎期間で区切ります。期間の設定を誤ると申請がやり直しになるため、最初から正確に設定してください。
トラブル4:教育訓練の記録が不十分 対処法:教育訓練を実施した場合は、訓練内容・実施時間・参加者名を記録した実施記録が必要です。後からまとめて作成すると虚偽申請のリスクがあります。
トラブル5:雇用量要件の計算を誤った(直近に採用があった場合) 対処法:最近3か月の月平均被保険者数が前年比で「10%超かつ4人以上」増えていなければOK。採用直後の方の扱いは事前にハローワークに確認してください。
このセクションのポイント
- 生産指標は業種に合ったものを選ぶことで有利に申請できる場合があります。
- 雇い入れ6か月未満の方は対象外です。対象者を事前に整理してください。
- 休業手当の計算は労働基準法第26条の規定(平均賃金の60%以上)と連動します。
7. 個別相談のご案内|社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士法人とうかいでは、雇用調整助成金の要件確認・書類作成・申請代行まで一貫して対応しています。「うちの会社は要件を満たすのか?」「どの指標を使えばよいか?」「書類の作り方がわからない」といったご相談から承っています。

まずは無料相談をご活用ください。
- 電話での相談受付:平日9:00〜17:00
- Webからのお問い合わせ:tokai-sr.jp よりお問い合わせください。
8. よくある質問(FAQ)
Q1. 中東情勢が原因であることを証明する書類が必要ですか?
証明書類は原則不要です。生産指標の10%以上減少が確認できれば、減少の原因が中東情勢によるものと整合していれば申請できます。ただし、担当ハローワークから確認を求められることがあるため、仕入先からの値上げ通知や供給不能の通知書を保管しておくと安心です。
Q2. パートタイマーも助成の対象になりますか?
はい、雇い入れ後6か月以上の雇用保険被保険者であれば対象になります。週所定労働時間が20時間以上で雇用保険に加入しているパートタイム労働者も含まれます。
Q3. 売上高のデータは月次でなければなりませんか?
月次データが原則ですが、週次データを月次に集計することも可能です。業種や売上管理の方法によって異なる場合があるため、事前にハローワークに確認してください。
Q4. 休業中に従業員が自宅でテレワークをした場合、休業として扱えますか?
テレワークを実施している日は「休業」ではなく「就労日」となります。休業手当の助成対象にはなりません。完全に業務を停止した日のみが対象です。
Q5. 申請から支給までどのくらいかかりますか?
申請から支給まで、おおむね2〜3か月程度かかります。申請書類に不備があると差し戻しとなり、さらに時間がかかる場合があります。書類は丁寧に準備することが重要です。
Q6. 教育訓練と休業を組み合わせることはできますか?
はい、できます。教育訓練も助成の対象です。休業だけでなく教育訓練を組み合わせることで、人材育成と助成金の両立が可能です。支給日数が30日を超えた場合は、教育訓練の実施比率が助成率に影響しますので、計画的に取り入れることをお勧めします。
Q7. 複数の事業所を持つ企業は、事業所ごとに申請できますか?
はい、各事業所を管轄するハローワークに対して、事業所ごとに申請することが可能です。生産量要件の判定も事業所単位で行います。
Q8. 助成金の受給は確定申告・法人税に影響しますか?
雇用調整助成金は課税対象の収入として扱われます(益金算入)。受給した助成金は法人税の課税対象となりますので、顧問税理士と連携して処理してください。
まとめ
中東情勢による原材料高騰・入手困難で事業縮小を余儀なくされた際も、雇用調整助成金を活用することで従業員の雇用を守ることができます。要件確認・労使協定締結・申請書類作成は複雑なため、社会保険労務士法人とうかいへの早めのご相談をお勧めします。

対応のポイント3点
- 生産指標の10%以上減少を月次データで確認する
- 休業実施前に労使協定を締結する
- ハローワーク・社労士に事前相談して書類ミスを防ぐ
監修:社会保険労務士法人とうかい
公開日:2026年6月
参考:厚生労働省「中東情勢による原材料の入手困難や価格高騰等に伴い事業活動を縮小し、休業等を余儀なくされた場合 従業員の雇用維持のため雇用調整助成金が活用できます」(LL080527企01)


