雇用契約書と労働条件通知書は、どちらも入社手続きで取り交わされる書類ですが、その目的や法的効力には明確な違いがあります。 労働条件通知書は法律で交付が義務付けられている一方、雇用契約書の作成は任意です。 しかし、実務上は両方の役割を兼ねた「労働条件通知書兼雇用契約書」として締結するのが一般的です。 この記事では、それぞれの書類の役割、法的義務の有無、記載事項、そして2024年の法改正のポイントまで詳しく解説します。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
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労働条件通知書と雇用契約書の根本的な違いとは?
労働条件通知書と雇用契約書は、時に同じものとして扱われることがありますが、法的根拠や書類の性質が異なります。
最も大きな違いは、労働条件通知書が労働基準法に基づき企業から労働者へ一方的に通知する書類であるのに対し、雇用契約書は労使双方が労働条件に合意したことを証明する契約書である点です。 法的な作成義務の有無も、この性質の違いに起因します。

法的に交付義務があるのは「労働条件通知書」
企業が従業員を雇用する際、労働条件通知書の交付は労働基準法第15条によって定められた義務です。 この法律は、企業に対して賃金や労働時間といった重要な労働条件を労働者に書面で明示することを求めています。 もし企業がこの義務を怠り、労働条件通知書を交付しなかった場合、労働基準法違反となり、30万円以下の罰金が科される可能性があります。 このように、労働条件通知書は労働者を保護し、入社後のトラブルを防ぐために不可欠な書類としての役割を担っています。
双方の合意を示すのが「雇用契約書」
雇用契約書は、企業と労働者が労働条件について合意したことを証明するための書類です。 労働契約自体は口頭でも成立するため、雇用契約書の作成は法律上の義務ではありません。 しかし、口約束だけでは後になって「言った言わない」といったトラブルに発展するリスクがあります。
そこで、雇用契約書として書面に残し、双方が署名・押印することで、労働条件に関する認識の齟齬を防ぎ、合意内容を明確にする重要な役割を果たします。 これにより、労使間の信頼関係を構築し、安心して働ける環境を整えることができます。
労働条件通知書とは?交付が法律で定められた書類
労働条件通知書とは、企業が労働者に対して、賃金や労働時間、休日などの労働条件を明示するために交付する書類です。 「雇用条件通知書」や「雇用通知書」と呼ばれることもありますが、労働条件の明示自体は労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条に基づき、書面の交付が義務付けられています。
労働者が自身の働く条件を正確に理解し、不利な条件で働かされることのないよう保護することを目的としています。 企業はこの書類を通して、これから働く従業員に誠実に労働条件を伝える責任があります。
交付は企業の義務!違反すると罰則の対象に
労働条件通知書の交付は、労働基準法第15条および同法施行規則第5条によって定められた企業の法的な義務です。 正社員や契約社員、パート・アルバイトといった雇用形態に関わらず、すべての労働者に対して労働契約の締結時に書面で明示しなければなりません。 もし企業がこの義務を履行せず、労働条件通知書を交付しなかったり、記載内容に不備があったりした場合には、法違反とみなされます。
その結果、労働基準監督署による指導の対象となるほか、30万円以下の罰金という罰則が科される可能性があります。
従業員からの署名や押印は法律上不要
労働条件通知書は、企業から労働者へ労働条件を「通知」することを目的とした書類です。 そのため、法律上は企業が一方的に交付するだけで効力が生じ、労働者側の署名や押印は必須とされていません。 ただし、実務上は、労働者が通知された内容を確認し、受け取ったことの証明として署名や押印を求める企業が多くあります。
これは、後々のトラブルを避けるために、企業が労働者に労働条件を確かに伝えたという記録を残すための措置です。 この署名をもって労働条件への同意とみなす場合は、雇用契約書を兼ねる形での運用が一般的です。
雇用契約書とは?労使双方の合意を示す書類
雇用契約書は、企業と労働者の間で交わされる、労働条件に関する合意内容を証明する書類です。 労働条件通知書と異なり、法律による作成義務はありません。 しかし、労働契約の内容を書面で明確にすることにより、賃金、労働時間、業務内容などに関する双方の認識のずれを防ぎます。
これにより、将来的な労務トラブルを未然に防止する効果が期待できるため、多くの企業で作成されています。 双方の署名・押印をもって、合意の証となります。

作成は任意だが労務トラブル防止に有効
雇用契約書の作成は、労働条件通知書とは異なり、法律で義務付けられていません。 民法上、契約は口頭でも成立するため、書面の交付がなくても雇用契約自体は有効です。 しかし、口約束のみでは、後から労働時間や休日、賃金などの条件について「聞いた内容と違う」といった認識の齟齬が生じ、労務トラブルに発展するリスクが高まります。
雇用契約書を作成し、労使双方が内容を確認・合意した上で署名・押印を交わすことで、契約内容が明確な証拠として残ります。 これにより、無用な紛争を未然に防ぎ、安定した労使関係を築くことが可能になります。
労使双方の署名・押印で契約が成立する
雇用契約書は、提示された労働条件に対して労働者が合意したことを示すために、企業と労働者の双方が署名または記名押印をすることで正式に契約が成立します。 この双方の署名・押印が、契約内容に対する相互の合意の証となります。 労働条件通知書が企業からの一方的な通知であるのに対し、雇用契約書は双方向の合意を前提とする「契約書」としての性質を持ちます。
この手続きにより、契約内容が当事者間の明確な約束事となり、万が一トラブルが発生した際には、合意内容を証明する重要な証拠としての役割を果たします。
一目でわかる!労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書と雇用契約書は、両方とも入社時に重要な役割を担う書類ですが、その性質には明確な違いがあります。 これらの違いを理解するために、いくつかの観点から比較することが有効です。 主な比較項目としては、「法的義務の有無」「書類の目的・性質」「署名・押印の要否」が挙げられます。
労働条件通知書は交付義務があり、企業からの一方的な通知ですが、雇用契約書は作成が任意で、労使双方の合意を示すものです。 この違いを把握することで、各書類の適切な取り扱いが可能となります。
実務では「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として兼用するのが一般的
労働条件通知書と雇用契約書はそれぞれ異なる役割を持ちますが、実務上は「労働条件通知書兼雇用契約書」として、一つの書類にまとめて運用することが一般的です。 この兼用様式には、労働基準法で定められた明示事項をすべて記載し、加えて労使双方が署名・押印する欄を設けます。 これにより、企業は労働条件の通知義務を果たしつつ、同時に労働者からの合意も得ることができ、手続きの効率化とトラブル防止を両立させることが可能になります。
書類を1つにまとめることで管理が楽になる
労働条件通知書と雇用契約書を「労働条件通知書兼雇用契約書」として一つにまとめることで、企業と従業員の双方にとって書類管理の負担が軽減されます。 企業側は、2種類の書類を作成・交付する手間が省け、交付漏れのリスクを低減できます。 また、保管する書類が一つになるため、管理がシンプルになります。
従業員側も、複数の書類を確認・保管する必要がなくなり、自身の労働条件を一元的に把握しやすくなるというメリットがあります。 このように、書類を兼用することは、人事労務管理の業務効率化に直接的につながります。
「言った言わない」の労務トラブルを未然に防ぐ
労働条件通知書兼雇用契約書として書類を兼用し、従業員から署名・押印を得ることは、労務トラブルの防止に極めて有効です。 労働条件通知書は本来、署名が不要ですが、兼用書類に署名欄を設けることで、従業員が記載された労働条件のすべてを理解し、納得した上で合意したことの明確な証拠となります。
これにより、後になって「残業代について聞いていない」「休日が違う」といった、口約束に起因する「言った言わない」の水掛け論を避けることができます。 労使間の認識の齟齬をなくし、健全な関係を築く上で重要な手続きです。
労働条件通知書に記載すべき必須項目とは?
労働条件通知書に記載すべき事項は、労働基準法で定められており、「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」の2種類に大別されます。 これらは労働契約を結ぶ上で極めて重要な情報であり、正確な記載が求められます。
厚生労働省のウェブサイトでは、これらの記載事項を網羅したモデル様式(テンプレート)が提供されており、企業はこれを活用することで、法的に必要な項目を漏れなく記載することが可能です。 法改正にも対応しているため、常に最新のテンプレートを参照することが推奨されます。

必ず記載が必要な「絶対的明示事項」
絶対的明示事項は、雇用形態にかかわらず、すべての労働者に対して書面で明示することが法律で義務付けられている項目です。 具体的には、①労働契約の期間、②就業の場所と従事すべき業務の内容、③始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交代制勤務のローテーション④賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期、⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む)が該当します。 これらの項目は労働者の基本的な権利に関わるため、一つでも記載が漏れていると法律違反となるので注意が必要です。
社内ルールがある場合に記載する「相対的明示事項」
相対的明示事項は、企業に該当する制度やルールがある場合にのみ、明示が義務付けられる項目です。 具体的には、退職手当、臨時の賃金(賞与など)、従業員の費用負担(食費、作業用品など)、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰および制裁、休職に関する事項などが含まれます。 これらの事項は、絶対的明示事項とは異なり、必ずしも書面での明示は求められておらず、口頭での説明も法律上は認められています。
しかし、後のトラブルを避けるため、他の労働条件と合わせて書面に記載しておくことが望ましい対応です。
【2024年4月改正】追加された明示事項も要チェック
2024年4月1日に施行された労働基準法施行規則の改正により、労働条件通知書で明示すべき事項が追加されました。 すべての労働者に対して「就業場所・業務の変更の範囲」の明示が必要です。 また、有期契約労働者に対しては、契約更新時に「更新上限の有無と内容」を明示し、さらに「無期転換申込機会」と「無期転換後の労働条件」についても説明が義務化されました。
特に、無期転換後の労働条件については、他の正社員との均衡を考慮した事項の説明も求められるため、企業はこれらの改正点に対応したフォーマットの準備が不可欠です。
労働条件通知書や雇用契約書は電子化できる?
労働条件通知書や雇用契約書は、電子化して交付することが法律で認められています。 2019年の法改正により、労働者が希望した場合には、PDFファイルなどの電子データで交付することが可能となりました。 電子化には、労働者本人がその内容を印刷して書面として作成できる形式であること、そして事前に労働者本人から電子交付への同意を得ることが条件となります。
これにより、企業はペーパーレス化を進め、より迅速かつ効率的に雇用手続きを行うことができます。
ペーパーレス化によるコスト削減と業務効率化
労働条件通知書や雇用契約書を電子化することは、企業に多くのメリットをもたらします。 まず、紙やインク、郵送にかかる費用を削減できるため、直接的なコストカットにつながります。 また、書類の印刷、封入、郵送、回収、ファイリングといった一連の作業が不要になるため、人事労務担当者の業務負担が大幅に軽減されます。
さらに、電子データで保管することで、物理的な保管スペースが不要になり、必要な書類の検索も容易になります。 このように、ペーパーレス化はコスト削減と業務効率化を同時に実現する有効な手段です。

経営視点のアドバイス
労働条件通知書の電子交付は、本人の同意と印刷可能な形式を条件に認められています。導入により郵送や印刷コストを削減できるほか、業務効率化や保管の利便性も向上します。
労働条件通知書と雇用契約書に関するよくある質問
労働条件通知書と雇用契約書については、実務において多くの担当者が疑問を抱く点があります。 例えば、交付対象者の範囲や交付のタイミング、もし交付されなかった場合の対処法などです。 ここでは、特に多く寄せられる質問を取り上げ、それぞれの疑問に対して簡潔に回答します。 正しい知識を持つことで、適切な労務管理を行うことが可能になります。
アルバイトやパートタイマーにも労働条件通知書は必要ですか?
はい、必要です。 労働基準法は、正社員、契約社員、アルバイト、パートタイマーといった雇用形態を問わず、すべての労働者に適用されます。
そのため、無期雇用契約か有期雇用かにかかわらず、企業はアルバイトやパートタイマーに対しても、労働条件通知書を交付する義務があります。 無期雇用への転換ルールなど、有期雇用者特有の記載事項もあるため注意が必要です。
労働条件通知書はいつまでに交付すればよいですか?
労働条件通知書は、労働契約を締結するタイミングで交付することが法律上の原則です。
遅くとも、従業員が勤務を開始する入社日当日までには交付しなければなりません。 ただし、入社直前の交付では従業員が内容を十分に確認できない可能性があるため、トラブル防止の観点から、内定後できるだけ速やかに交付することが望ましいとされています。
会社から労働条件通知書をもらえない場合はどうすればいいですか?
まず、所属部署の上司や人事・労務の担当部署に交付を請求してください。 労働条件通知書がない状態は違法であるため、通常はこの請求に応じてもらえます。
それでも交付されない、または対応してもらえない場合は、管轄の労働基準監督署に相談することが可能です。 労働基準監督署から会社に対して、是正勧告や指導が行われることがあります。
紙ではなく、PDFやメールで送っても法律的に問題ありませんか?
本人が希望すれば問題ありません。 以前は紙の交付が必須でしたが、法改正により、労働者が希望した場合にはメールやSNS(LINE等)での交付も認められるようになりました。
ただし、本人が印刷できる形式である必要があります。
雇用形態(正社員からパート等)が変わる際、改めて交付し直す必要はありますか?
必要です。
賃金や勤務時間などの主要な労働条件が変更される場合は、事実上の新しい契約となるため、最新の条件を記した書面を再度交付しなければなりません。
まとめ
労働条件通知書と雇用契約書は、目的と法的根拠が異なる書類です。 労働条件通知書は労働基準法で交付が義務付けられた、企業から労働者への一方的な通知です。
一方、雇用契約書は作成義務がなく、労使双方が労働条件に合意したことを証明する契約書です。 実務上は、両者の役割を兼ね備えた「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成し、従業員の署名を得ることで、法の遵守と労務トラブルの防止を両立させる方法が一般的です。
2024年の法改正で明示事項が追加された点も踏まえ、自社の書式が最新の法令に対応しているか確認することが求められます。



