テレワーク導入を成功させるためには、就業規則の見直しが不可欠です。 リモートワークという働き方は、従来のオフィス勤務と労働条件が大きく異なるため、労使間のトラブルを未然に防ぐ明確な規定を設ける必要があります。
この記事では、就業規則の作成・変更における法的なポイントから、盛り込むべき具体的な項目、厚生労働省が提供する雛形まで、実務に沿って詳しく解説します。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
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テレワーク導入に就業規則の変更は必須?基本的な考え方
レワークの導入に伴う就業規則の変更は、法的に必須となるケースが多いです。 テレワークは従業員の働く場所や労働時間管理、費用負担などの労働条件が従来のオフィス勤務と変わるため、その内容を就業規則に明記する必要があります。
既存の規則のままでは対応できない項目がある場合、新たな制度の実態に合わせて規則を整備し、労使双方の認識を合わせておくことが円滑な運用の基本となります。

規則の対応方法について解説します。
常時10人以上の従業員がいる事業場では作成・変更義務がある
労働基準法第89条により、常時10人以上の従業員を使用する事業場は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る義務があります。 テレワーク導入によって労働時間や賃金などの労働条件に変更が生じる場合、就業規則の変更も義務となります。
例えば、在宅勤務手当の新設や、フレックスタイム制の導入などがこれに該当します。 変更した際は、所定の手続きを経て労働基準監督署へ届け出なければなりません。
就業規則の変更とテレワーク規程の新設、どちらを選ぶ?
テレワークに関するルールを定める方法には、既存の就業規則本体を変更して条文を追加する方法と、独立した「テレワーク勤務規程」を新たに作成する方法の2つがあります。 規定する内容が少ない場合は就業規則への追加で対応できますが、多くの項目を設ける場合は、別規程として新設する方が望ましいでしょう。
別規程にすることで、就業規則本体が複雑化するのを防ぎ、将来的なルールの見直しにも柔軟に対応しやすくなります。
テレワークの就業規則に必ず記載すべき10の重要項目
テレワークの就業規則や関連規程を作成する際には、トラブルを防止し、円滑な制度運用を実現するために必ず盛り込むべき項目があります。特に、労働時間管理や費用負担、情報セキュリティといったテレワーク特有の論点については、明確なルールが必要です。
ここでは、厚生労働省のガイドラインも参考に、就業規則に記載すべき重要項目について、それぞれの規定のポイントを解説します。
1. テレワーク勤務の定義と目的を明確にする
まず、就業規則において「テレワーク」が何を指すのかを具体的に定義します。 「従業員の自宅」「サテライトオフィス」「その他会社が許可した場所」など、勤務が認められる場所を明記することが重要です。
あわせて、テレワーク制度を導入する目的を記載します。 例えば「多様な働き方の実現による人材確保」や「生産性の向上」といった目的を共有することで、従業員の制度への理解を深め、自律的な働き方を促す効果が期待できます。
2. テレワークを適用する対象者の範囲を決める
テレワーク勤務を全従業員に適用するのか、あるいは特定の部署や職種、役職、勤続年数などの条件を満たす従業員に限定するのか、対象者の範囲を明確に定めます。 対象者を限定する場合は、その選定基準が客観的かつ合理的であることが求められます。
例えば、個人情報や機密情報を扱う頻度が高い部署や、対面での対応が必須となる職種を対象外とすることなどが考えられます。 不公平感が生じないよう、誰もが納得できる基準を設定することが重要です。
3. 服務規律:情報漏洩を防ぐルールを定める
テレワークでは、オフィス外で会社の機密情報や個人情報を取り扱うため、情報セキュリティ対策が極めて重要になります。 服務規律として、機密情報の取り扱いルール、会社が許可していない端末やソフトウェアの使用禁止、公共Wi-Fi利用時の注意点、離席時のパソコンのロック義務、第三者がいる環境での作業に関する注意喚起などを具体的に定めます。
万が一、情報漏洩が発生した場合の報告手順も明記しておくとよいでしょう。
4. 労働時間:始業・終業時刻の報告方法を規定する
使用者は、テレワークを行う従業員の労働時間を客観的な方法で把握する義務があります。 そのため、始業時刻と終業時刻の報告方法を具体的に定めなければなりません。 報告の方法としては、勤怠管理システムの打刻、業務用のチャットツールでの報告、電子メールでの連絡などが挙げられます。 いずれの方法を選択するにせよ、後から確認できる客観的な記録として残ることが重要です。
報告を怠った場合の取り扱いについても明記しておくと、適切な勤怠管理につながります。
5. 休憩・中抜け:業務から離れる際のルールを設ける
労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分の休憩を与えなければなりません。 テレワーク中は、育児や介護などで業務時間中に一時的に業務から離れる「中抜け」が発生しやすくなります。 この中抜けの扱いについて、事前にルールを定めておくことが不可欠です。
例えば、中抜けをする際は事前に上長へ報告することや、中抜けした時間は労働時間から控除し、その分終業時刻を繰り下げるなどのルールを明確に規定します。
6. 時間外労働(残業)に関するルールを設ける
テレワークは労働時間と私生活の境界が曖昧になりやすく、いわゆる「隠れ残業」が発生しやすい環境といえます。 これを防ぎ、使用者が労働時間を適切に管理するため、時間外労働(残業)に関するルールを厳格に定める必要があります。
具体的には、時間外労働は原則として禁止とし、業務上の必要性から残業を行う場合は、必ず事前に所属長へ申請し、承認を得ることを義務付ける「事前申請承認制」を規定に盛り込むことが有効です。
7. 費用負担:通信費や光熱費の扱いを決める
テレワークの実施に伴い、従業員の自宅で発生するインターネットの通信費や水道光熱費などの費用負担をどうするかは、労使間でトラブルになりやすいポイントです。 そのため、これらの費用を会社と従業員のどちらが、どの範囲まで負担するのかを明確に規定する必要があります。
会社が負担しない方針であればその旨を明記し、負担する場合は、具体的な金額の算定方法や精算手続きについても定めておくと、後の混乱を防げます。
8. 在宅勤務手当:一律支給する場合の金額や条件
テレワークに伴う費用負担の精算を簡素化する方法として、毎月一定額を「在宅勤務手当」や「テレワーク手当」として支給する企業が増えています。 この手当を導入する場合、就業規則や賃金規程にその旨を明記する必要があります。
具体的には、支給対象者、支給条件(例:月に10日以上在宅勤務した場合など)、支給額、支給日などを定めます。 なお、この手当は所得税の課税対象となる点も留意が必要です。
9. 業務報告:日報や週報など進捗共有の方法
上司が部下の働きぶりを直接確認できないテレワーク環境では、業務の進捗状況を適切に把握し、公平な人事評価を行うための仕組みが重要になります。 その対策として、業務報告の方法を具体的に定めておくことが有効です。
例えば、日報や週報の提出を義務付け、その日の業務内容や成果、翌日の予定などを記載させます。 また、定期的なオンラインでのミーティングの実施をルール化するなど、コミュニケーションを補うための規定も盛り込むとよいでしょう。
10. 安全衛生:心身の健康を確保するための措置
労働安全衛生法上、事業者は従業員の安全と健康を確保する義務を負っており、それはテレワークにおいても同様です。 長時間労働の抑制策、コミュニケーション不足による孤立感やメンタルヘルス不調を防ぐための相談窓口の設置、自宅の作業環境(机、椅子、照明など)の整備に関する指針の提示といった措置を規定します。
従業員自身が作業環境をチェックするためのリストを活用するなど、具体的な取り組みを明記することが望ましいです。
厚生労働省のモデルを参考にテレワーク就業規則を作成しよう
テレワークの就業規則をゼロから作成するのは大変な作業ですが、厚生労働省が公開している「テレワークモデル就業規則」を雛形(テンプレート)として活用するのが非常に有効です。 このモデルは、法的に求められる事項を網羅しており、企業が規程を整備する際の参考となります。
厚労省のモデル就業規則をベースに、自社の業務内容や働き方の実情に合わせて必要な箇所を修正・追加することで、効率的かつ法的に不備のない規定を作成することが可能です。
就業規則の作成・変更後に行うべき手続きの全ステップ
テレワークに関する就業規則や規程を作成・変更した場合、社内でルールを定めただけでは法的な効力は生じません。 労働基準法に定められた正式な手続きを踏む必要があります。 具体的には、「従業員代表からの意見聴取」「労働基準監督署への届出」「全従業員への周知」という3つのステップが必須です。
これらの手続きを怠ると、法的な罰則の対象となる可能性もあるため、一つひとつ確実に行わなければなりません。

ステップ1:従業員代表からの意見聴取
就業規則を作成・変更する際には、まず従業員側の意見を聴く手続きが必要です。 事業場に労働者の過半数で組織される労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者に、作成・変更した就業規則の案を提示し、意見を聴かなければなりません。
そして、その意見を記した「意見書」を作成し、代表者の署名または記名押印をもらいます。 この意見書は、次のステップである届出の際に必要となります。
ステップ2:労働基準監督署への届出
従業員代表から意見書を受け取ったら、次に事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長へ届け出ます。 届出には、「就業規則(変更)届」と、ステップ1で作成した「意見書」、そして変更後の「就業規則」本体の3点が必要です。
この届出は、窓口への持参や郵送のほか、e-Gov(電子政府の総合窓口)を利用した電子申請も可能です。 届出が受理されることで、法的な手続きが完了します。
ステップ3:全従業員への周知を徹底する
就業規則は、労働基準監督署へ届け出た後、すべての従業員にその内容を周知する義務があります。 周知の方法として、労働基準法では「事業場の見やすい場所への掲示または備え付け」「書面での交付」「磁気ディスク等に記録し、いつでも見られるようにする」のいずれかの方法を定めています。 具体的には、社内の掲示板に貼り出したり、印刷して配布したり、社内LANやクラウド上で共有したりする方法が考えられます。
従業員がいつでも内容を確認できる状態にすることが重要です。
テレワーク運用でよくある課題と就業規則での対策
テレワーク(リモートワーク)を導入したものの、運用面でさまざまな課題に直面する企業は少なくありません。 例えば、「中抜けによる生産性の低下」や「コミュニケーション不足による孤立感」、「人事評価の公平性」といった問題が挙げられます。
これらの課題は、放置すると従業員のモチベーション低下や組織全体の生産性悪化につながりかねません。 就業規則や関連規程に事前に対策を盛り込んでおくことで、こうした運用上のトラブルを未然に防ぐことが可能です。
課題①「中抜け」による生産性低下を防ぐルール作り
テレワークでは、子供の送り迎えや役所の手続きといった私用で業務を一時的に中断する「中抜け」が起こりやすくなります。 これを無制限に認めると、労働時間の管理が煩雑になったり、集中力が途切れて生産性が低下したりする懸念があります。 対策として、就業規則に中抜けに関するルールを明記することが有効です。
例えば、「中抜けを行う際は、事前にチャット等で上長に報告すること」「中抜け時間は労働時間から除外し、その分終業時刻を繰り下げること」などを規定します。
課題②「コミュニケーション不足」を補うための規定
テレワークでは、対面の機会が減ることで、業務上の報告・連絡・相談が滞ったり、雑談から生まれるアイデアやチームの一体感が失われたりといったコミュニケーション不足が課題となりがちです。 この対策として、就業規則や関連規程でコミュニケーションを活性化させるための仕組みをルール化することが考えられます。
具体的には、「週に1回のチームミーティングをWeb会議で実施する」「毎日始業時に朝会を行う」といった定期的な接点を義務付ける規定を設けることが有効です。
課題③ 公平な人事評価制度をどう規定に反映させるか
テレワークでは、従業員の勤務態度や業務プロセスが見えにくくなるため、従来の「頑張り」を評価するような人事評価制度では公平性を保つのが難しくなります。 そのため、成果やアウトプットを重視した評価制度への移行が求められます。
就業規則や賃金規程において、評価の対象となる成果物の定義、目標設定の方法、評価のプロセスや基準を具体的に明記することが重要です。 評価基準を明確にすることで、従業員の納得感を高め、モチベーション維持につなげることができます。

経営視点のアドバイス
テレワークの課題は就業規則で対策できます。中抜けは事前報告と時間控除をルール化し、朝会等でコミュニケーションを補い、評価は成果重視の基準を明記することで、トラブル防止と生産性向上に繋がります。
テレワークの就業規則に関するよくある質問
テレワークの就業規則を整備するにあたり、担当者からは多くの疑問が寄せられます。 労災の適用範囲や勤務場所の扱い、従業員がテレワークを拒否した場合の対応など、判断に迷うケースは少なくありません。
ここでは、テレワークの就業規則に関連して、実務上よくある質問とその回答例をまとめました。 自社のルール作りの参考にしてください。
テレワーク中の労災はどこまで適用されますか?
業務が原因で発生した災害であれば、自宅でのテレワーク中も労災保険が適用されます。
例えば、業務中にパソコン作業が原因で腱鞘炎になった場合や、業務上の指示で書類を取りに行く途中に転倒した場合などが該当します。 一方、昼休憩中の私的な外出や、家事の最中に起きた怪我は業務との関連性が認められず、適用対象外となります。
カフェやコワーキングスペースでの勤務を許可しても良いですか?
カフェなど自宅以外の場所での勤務を許可することは可能です。
ただし、第三者がいる環境では、パソコン画面の覗き見による情報漏洩や、機密情報を含む会話が外部に聞こえてしまうリスクがあります。 許可する場合は、服務規律において、公共Wi-Fiの利用ルールや、覗き見防止フィルターの使用、Web会議の際は個室を利用することなどを義務付ける必要があります。
従業員からテレワークを拒否された場合はどうすればいいですか?
就業規則にテレワークを命じることができる旨の根拠規定があり、業務上の必要性があれば、原則として会社は従業員にテレワークを命じることができます。
ただし、従業員側に「自宅に通信環境がない」「家族の介護で集中できる環境ではない」といった合理的な理由がある場合は、一方的に命令するのではなく、状況をヒアリングし、代替案を検討するなど配慮が必要です。
まとめ
テレワークという働き方を円滑に導入し、継続的に運用していくためには、自社の実態に即した就業規則やテレワーク規程の整備が不可欠です。
労働時間や費用負担、服務規律などの基本的なルールを明確に定めることで、労使間の無用なトラブルを未然に防ぎます。
厚生労働省が提供するモデル就業規則などを参考にしつつ、この記事で解説したポイントを踏まえ、自社独自のルール作りを進めてください。



