2024年4月1日から労働基準法施行規則が改正され、労働契約の締結・更新時に企業が労働者へ明示すべき労働条件の項目が追加されました。 この労働条件明示のルールの変更点は、全ての労働者を対象とするものと、有期契約労働者を対象とするものがあります。
本記事では、この労働条件の明示ルールが改正された背景から、具体的な変更点、労働条件通知書の書き方までを解説します。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
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2024年4月1日から労働条件明示のルールが変更
2024年4月1日以降に締結または更新される労働契約から、新しい労働条件明示のルールが適用されます。 この変更に伴い、企業は労働条件通知書の様式を見直し、新たに追加された項目を漏れなく記載する準備が必要です。
特に有期契約労働者を雇用している場合は、無期転換に関する項目の明示が求められるため、対象となる従業員の契約状況を正確に把握しておくことが重要になります。
【2024年4月改正】労働条件明示で追加された3つの項目
2024年4月の法改正により、労働条件の明示事項として主に3つの項目が追加されました。具体的には、「就業場所・業務の変更の範囲」「更新上限の有無と内容」「無期転換に関する事項(無期転換申込機会、無期転換後の労働条件)」です。
これらの追加項目は、労働者が自身のキャリアパスや雇用の見通しを立てやすくし、労使間の認識の齟齬を防ぐことを目的としています。

全ての労働者が対象:就業場所・業務の変更範囲の明示
今回の改正により、すべての労働契約において、雇入れ直後の就業場所や業務内容だけでなく、将来的な配置転換などによって変更される可能性のある「就業場所・業務の変更の範囲」を明示することが義務化されました。
これは正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイトなど、すべての労働者が対象です。 この明示により、労働者は入社後のキャリアの見通しを立てやすくなり、予期せぬ異動や業務変更に関するトラブルを未然に防ぐ効果が期待されます。
有期契約労働者が対象①:契約更新上限の有無と内容
有期契約労働者に対しては、労働契約の締結と契約更新の際に、更新上限の有無とその内容を明示することが必要になりました。
「更新上限がある場合」は、通算契約期間の上限または契約更新回数の上限を具体的に記載します。 また、初めて契約を締結した後に更新上限を新たに設けたり、当初の上限を短縮したりする場合には、その理由をあらかじめ有期契約労働者に説明する義務も課せられています。
有期契約労働者が対象②:無期転換申込の機会
同一の企業で通算契約期間が5年を超える有期契約労働者には、無期労働契約への転換を申し込む権利が発生します。 今回の改正で、この無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨を明示することが義務付けられました。
これにより、対象となる労働者が自身の権利を認識し、適切なタイミングで無期転換の申込みができるよう促す狙いがあります。
有期契約労働者が対象③:無期転換後の労働条件
無期転換申込機会の明示とあわせて、無期転換後の労働条件を明示することも義務化されました。 賃金、業務の内容、勤務地、労働時間など、無期転換後の具体的な労働条件を、書面で明確に提示する必要があります。 この際、正社員などの他の労働者との均衡を考慮した事項(業務内容、責任の程度、配置の変更範囲など)について、どのように決定したかを説明する努力義務も課せられています。
これは、無期転換ルールを円滑に活用し、待遇改善につなげるための重要な変更点です。
【記載例付き】改正に対応した労働条件通知書の書き方
法改正に対応するためには、労働条件通知書のフォーマットを見直し、追加された項目を正確に記載する必要があります。 労働条件の明示は、労働者が自身の働く環境を正しく理解し、安心して就業するために不可欠です。
厚生労働省が提供するモデル労働条件通知書などを参考に、自社の状況に合わせて適切な記載を行いましょう。 ここでは、新たに追加された項目の具体的な記載例を紹介します。

「就業場所・業務の変更の範囲」の記載例
全ての労働者に対して明示が必要な「就業場所・業務の変更の範囲」については、雇入れ直後のものと変更の範囲を区別して記載します。
就業の場所:(雇入れ直後)本社(東京都千代田区)(変更の範囲)会社の定める国内・海外の拠点
従事すべき業務の内容:(雇入れ直後)経理業務(変更の範囲)会社の定める業務 将来の変更範囲を限定しない場合は「会社の定める場所・業務」と記載しますが、トラブル防止の観点からは、想定される範囲をできるだけ具体的に示すことが望ましいです。
「更新上限」に関する記載例
有期労働契約における更新上限の有無と内容は、労働者の雇用継続への期待に大きく影響するため、明確に記載する必要があります。
契約期間:2025年4月1日~2026年3月31日 契約の更新:更新する場合があり得る 更新上限の有無:有り(通算契約期間は5年を上限とする/契約の更新は4回まで) あるいは 更新上限の有無:無し このように、上限の有無を明記し、有りの場合はその具体的な内容(期間または回数)を記載します。
「無期転換ルール」に関する記載例
無期転換申込権が発生する有期契約労働者には、その機会と転換後の労働条件を明示します。 本契約の期間中に、通算契約期間が5年を超えることとなるため、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)への転換を申し込むことができます。 無期労働契約転換後の労働条件は、別紙無期転換後の労働条件についてのとおりとする。
転換後の労働条件は、賃金や勤務地などを具体的に記載する必要があり、正社員との待遇に違いがある場合は、その内容と理由を説明することが求められます。
改正ルールを遵守するために企業が徹底すべき3つの実務管理
2024年4月に施行された法改正以降、企業は日々の雇用管理において以下の3つのステップを確実に正しく運用し続ける必要があります。 特に、労働条件通知書の改定や社内ルールの整備は必須です。
具体的には、既存の様式の見直し、対象となる有期契約労働者の管理、そして無期転換後の処遇決定という3つのステップが重要になります。 これらの準備を怠ると、法令違反や労使トラブルにつながる可能性があるため、確実な対応が求められます。
労働条件通知書のひな形を改訂する
まず、現在社内で使用している労働条件通知書(雇用契約書)のひな形を見直し、今回の法改正で追加された明示事項を盛り込む必要があります。 具体的には、「就業場所・業務の変更の範囲」を全労働者向けに追記し、有期契約労働者向けには「更新上限の有無と内容」「無期転換申込機会」「無期転換後の労働条件」の欄を設けます。
厚生労働省が公表しているモデル労働条件通知書を参考に、自社の運用に合わせたフォーマットに改訂しましょう。
有期契約労働者の契約状況を正確に把握する
無期転換に関する項目を適切に明示するためには、雇用している全ての有期契約労働者について、個々の契約状況を正確に管理することが不可欠です。 具体的には、それぞれの労働者の通算契約期間や契約更新回数を台帳などで一元管理し、誰がいつ無期転換申込権を取得するのかを事前に把握しておく必要があります。
この管理体制を整備することで、明示漏れや誤った内容の通知を防ぎ、円滑な手続きを実現します。
無期転換後の労働条件を検討・整備する
有期契約労働者から無期転換の申込みがあった際に、スムーズに対応できるよう、あらかじめ無期転換後の労働条件を具体的に検討し、就業規則などで制度として整備しておくことが重要です。
賃金体系、職務内容、責任の範囲、評価制度などを決定する際には、いわゆる「同一労働同一賃金」の原則に基づき、正社員など他の雇用形態の労働者との間で不合理な待遇差が生じないよう、均衡を考慮した内容にする必要があります。

経営視点のアドバイス
企業は労働条件通知書の改訂、有期契約労働者の契約状況の正確な把握、同一労働同一賃金に配慮した無期転換後の労働条件の整備という3ステップの適切な運用が必須です。
なぜ労働条件明示のルールは改正されたのか?
その背景を解説 今回の労働条件明示ルールの改正は、主に有期契約労働者が、より安心して長期的なキャリア形成を見通せるようにすることを目的としています。 背景には、有期労働契約の濫用的な利用を防ぎ、雇用の安定を図る「無期転換ルール」の活用促進があります。
就業場所や業務の変更範囲、更新上限、無期転換後の条件などを事前に明示することで、労働者は将来の見通しを立てやすくなり、労使間の認識の齟齬から生じるトラブルを未然に防ぐことが期待されます。
改正ルールに対応しない場合のリスクと罰則
労働条件の明示は、労働基準法第15条で定められた使用者の義務です。 今回の改正で追加された項目を含め、定められた事項を明示しなかったり、事実と異なる条件を明示したりした場合、労働基準法に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、罰則だけでなく、労働条件が不明確であることに起因する従業員とのトラブルや、訴訟に発展するリスクも高まります。 企業のコンプライアンスと健全な労使関係の維持のため、法に則った対応が不可欠です。
労働条件明示のルール改正に関するよくある質問
ここでは、2024年4月からの労働条件明示ルールの改正に関して、人事労務担当者から寄せられることの多い質問とその回答を紹介します。
2024年4月より前から雇用している従業員にも再明示は必要ですか?
原則として、2024年3月31日以前に契約締結した従業員に対して、さかのぼって再明示する必要はありません。
ただし、その従業員と2024年4月1日以降に労働契約を更新する場合は、そのタイミングで改正後のルールに沿った労働条件通知書を交付する必要があります。
パートタイマーやアルバイトも改正の対象になりますか?
はい、対象となります。 今回の改正のうち「就業場所・業務の変更範囲」の明示は、パートタイマーやアルバイトを含む全ての労働者が対象です。
また、パートタイマーやアルバイトが有期労働契約で雇用されている場合は、更新上限や無期転換に関する各項目も明示の対象に含まれます。
厚生労働省のモデル労働条件通知書はどこで入手できますか?
厚生労働省のウェブサイト内にある「主要様式ダウンロードコーナー」から、労働条件通知書のひな形を入手できます。労働条件通知書は、雇用契約書を兼ねることも可能です。
一般労働者用、有期契約労働者用、パートタイム労働者用など、複数の様式がWordやPDF形式で提供されています。自社の雇用形態に合わせて適切なひな形をダウンロードし、活用してください。
全従業員に対象となる「就業場所・業務の変更の範囲」ですが、転勤や異動が絶対にない「完全地域限定職」や「パート」の場合も記載は必須ですか?
はい、必須です。異動がない場合でも、その旨を明示する必要があります。
「絶対に就業場所も業務も変わらない」という雇用契約であっても、変更の範囲の欄を空白(None)にしてはいけません。その場合は、労働条件通知書に『(変更の範囲)変更なし』または『(変更の範囲)入社直後の就業場所・業務と同じ』と明記することで、法的な義務を果たすと同時に後々のトラブルを防ぐことができます。
在宅勤務(テレワーク)を前提とした社員を採用する場合、「就業場所」の変更の範囲はどう書けばよいですか?
雇入れ直後だけでなく、将来的にオフィス出社や別拠点の勤務に切り替える可能性があるかを想定して記載します。
例えば、基本は在宅だが将来的に出社もあり得るなら、『(雇入れ直後)労働者の自宅 (変更の範囲)会社の定める事業所(在宅勤務を含む)』のように記載します。もし今後も完全フルリモートで固定するなら、『(変更の範囲)変更なし』とします。2026年現在はテレワークを縮小して出社へ回帰させる企業も増えているため、ここの書き方は非常に重要です。
労働条件通知書を紙ではなく、PDFなどの「電子メール」や「LINE」で交付して労働条件を明示することは認められますか?
労働者が希望した(同意した)場合に限り、電子媒体での明示が認められています。 2026年現在の採用実務では電子契約が主流ですが、条件があります。
メールやチャットツール(LINE、Slackなど)で送る場合は、労働者本人が「出力して紙で印刷できる状態」である必要があり、かつ「メッセージのやり取りで電子交付を希望する」という合意をとっていることが大前提です。本人の同意なく会社が勝手にLINEだけで済ませることは認められません。
まとめ
2024年4月から施行された労働条件明示ルールの改正は、企業の人事労務管理に新たな対応を求めるものです。 特に、就業場所・業務の変更範囲、更新上限、無期転換申込機会、無期転換後の労働条件等の明示が義務化されました。
企業は、労働条件通知書の様式を速やかに改訂し、有期契約労働者の契約状況を正確に管理する体制を整える必要があります。
法令を遵守し、健全な労使関係を構築するため、これらの変更点に確実に対応することが求められます。



