従業員を抱える経営者・人事総務担当者にとって、時間外労働の上限規制と36協定の正しい理解は、今や経営リスク管理の最重要課題のひとつです。違反すれば刑事罰(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科される可能性があり、社名が公表されるリスクも伴います。社会保険・労務管理の専門家である社会保険労務士法人とうかいが、厚生労働省の最新情報をもとに、2026年時点での制度の全体像・実務上の留意点をわかりやすく解説します。この記事では、時間外労働の上限規制の基本から36協定との関係、経営者が今すぐ取り組むべき対応策まで網羅的に解説します。
1. この記事の要約
- 時間外労働の上限規制は2019年4月(中小企業は2020年4月)に施行され、残業時間に法的な上限(原則:月45時間・年360時間)が設けられた。
- 臨時的な特別事情がある場合でも、年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内という絶対的上限を超えることはできない。
- 上限規制を超えるためには「特別条項付き36協定」の締結・届出が必要であり、届出だけでは足りず、実態が上限内に収まるよう労働時間管理が不可欠である。
- 建設業・自動車運転業務・医師など一部業種は2024年4月から独自の上限規制が適用されており、業種ごとの特例を正確に把握することが重要である。
- 違反した場合は罰則(懲役・罰金)の対象となるほか、労働基準監督署による是正勧告・企業名公表のリスクがある。
2. そもそも、時間外労働の上限規制とは?
時間外労働の上限規制とは、労働基準法(昭和22年法律第49号)に基づき、使用者が労働者に命じることができる時間外労働(いわゆる残業)の時間数に法定の上限を設けた規制のことです。2019年4月施行の「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)によって同法第36条が大幅に改正され、それまで行政指導のみだった残業時間の上限が、初めて法律に明記されました。
なぜこの規制が設けられたのか
日本では、長時間労働による過労死・過労自殺が社会問題化し、「働き過ぎ」による健康被害が深刻な課題となっていました。厚生労働省の調査では、週60時間以上働く労働者の割合が欧米諸国と比較して高水準で推移し、少子化・人口減少社会における「持続可能な働き方」の実現が急務とされていました。こうした背景から、2018年に成立した働き方改革関連法により、残業時間に法的拘束力のある上限が設けられることになりました。
どの企業・どの労働者が対象になるのか?
原則として、日本国内のすべての企業・すべての労働者(正社員・パート・アルバイト・派遣労働者を含む)が対象です。ただし、以下の者は適用除外または特例が設けられています。
- 管理監督者(労働基準法第41条第2号):時間外労働の上限規制の適用外
- 高度プロフェッショナル制度の対象者:同規制の適用外
- 建設業・自動車運転業務・医師(2024年4月から独自の特例規制を適用)

専門用語解説
法定労働時間 法定労働時間とは、労働基準法第32条に定められた「使用者が労働者を働かせることができる時間の上限」のことで、1日8時間・1週間40時間(特例措置対象事業場は1週間44時間)です。これを超えて労働させるためには、労使間で36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることが必要です。
36協定(時間外労働協定) 36協定とは、労働基準法第36条に基づき、使用者と労働者代表(労働者の過半数で組織する労働組合、またはその組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)が締結する「時間外労働・休日労働に関する労使協定」のことです。この協定を締結して労働基準監督署に届け出ることで、法定労働時間を超えた残業が合法的に認められます。
特別条項付き36協定 特別条項付き36協定とは、通常の36協定(原則:月45時間・年360時間)で定めた限度時間を超えて残業させることができる「特別の事情」を定めた36協定のことです。特別条項を設けても、年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内という法定の絶対的上限を超えることはできません。
限度時間 限度時間とは、36協定で定めることができる時間外労働の上限のことで、1か月45時間・1年360時間が原則です(労働基準法第36条第3項)。
絶対的上限時間 絶対的上限時間とは、特別条項付き36協定を締結した場合でも、いかなる理由があっても超えることができない上限のことです。具体的には、①年720時間以内(休日労働を除く)、②単月で時間外労働と休日労働の合計が100時間未満、③2〜6か月の平均で時間外労働と休日労働の合計が80時間以内、の3つが要件です。
割増賃金 割増賃金とは、法定労働時間を超えた時間外労働・休日労働・深夜労働に対して、通常の賃金に加えて支払いが義務付けられる割増分の賃金のことです。2023年4月から、中小企業においても月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が50%以上に引き上げられました(労働基準法第37条)。
このセクションのポイント
- 時間外労働の上限規制は2019年(中小企業は2020年)から法的拘束力をもって施行された
- 原則として全企業・全労働者が対象(一部除外・特例あり)
- 36協定の締結・届出は残業を合法化するための必須手続きである
- 特別条項付き36協定を締結しても「絶対的上限」は超えられない
- 管理監督者・高度プロフェッショナル制度対象者は適用除外
3. 今回の変更点:何が、どう変わるのか?
2026年時点での最重要ポイントは、2024年4月から建設業・自動車運転業務・医業に従事する医師への上限規制が適用開始されたこと、および2023年4月から中小企業においても月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が50%以上に引き上げられたことです。これらの変更により、これまで猶予されていた業種でも法的義務が生じており、実務への影響が大きくなっています。

2018年改正による主な変更内容(一般企業向け)
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 残業時間の上限 | 法律上の上限なし(行政指導のみ) | 原則:月45時間・年360時間 |
| 特別条項時の上限 | 上限なし(実質無制限) | 年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内 |
| 違反時の制裁 | 罰則なし | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
| 施行時期(大企業) | ― | 2019年4月1日 |
| 施行時期(中小企業) | ― | 2020年4月1日 |
2024年4月から適用開始:猶予業種への規制
| 業種・職種 | 適用される上限規制 |
|---|---|
| 建設業(一般) | 一般規則と同じ(原則月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間以内等) |
| 建設業(災害復旧・復興) | 単月100時間未満・複数月平均80時間の規制は適用除外 |
| 自動車運転業務 | 特別条項付き36協定締結時の年間上限は960時間(休日労働を除く)。単月100時間未満・複数月平均80時間の規制は適用除外 |
| 医業に従事する医師(A水準) | 年960時間以内(休日労働含む) |
| 医業に従事する医師(B・C水準) | 年1,860時間以内(休日労働含む) |
2023年4月から適用:中小企業の割増賃金率引き上げ
| 項目 | 改正前(中小企業) | 改正後(中小企業) |
|---|---|---|
| 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率 | 25%以上 | 50%以上 |
| 施行時期 | ― | 2023年4月1日 |
(出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」、働き方改革特設サイト https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/overtime.html)
36協定の新様式への移行
2019年4月の改正施行にあわせ、36協定の届出様式も新様式に変更されています。旧様式(特別条項のないもの、特別条項付きのもの)は使用できなくなっており、現在は「様式第9号」「様式第9号の2」(特別条項付き)を使用する必要があります。電子申請システム「e-Gov」でも対応しています。
罰則・是正指導のリスク
上限規制に違反した場合、労働基準法第119条により6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、労働基準監督署による是正勧告・是正指導の対象となり、悪質な場合は企業名が公表されるリスクがあります。さらに、過労死・過労自殺が発生した場合は民事上の損害賠償責任も問われます。
このセクションのポイント
- 2024年4月から建設業・自動車運転業務・医師にも上限規制が適用開始された
- 2023年4月から中小企業でも月60時間超の割増賃金率が50%以上に引き上げられた
- 36協定は新様式への変更が必要(旧様式は不可)
- 違反には刑事罰・企業名公表・民事賠償のリスクがある
- 特別条項付き36協定を締結しても絶対的上限(年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間)は厳守が必要
4. 経営者が今すぐ対応すべきこと|社会保険労務士法人とうかいからのアドバイス
経営者が最初に確認すべきことは、「自社の36協定が現行法に適合しているか」「実際の残業時間が協定の範囲内に収まっているか」の2点です。書面上は協定を結んでいても、実態が上限を超えていれば法違反となります。社会保険労務士法人とうかいでは、現場での労働時間管理の実態把握から36協定の見直しまで、総合的なサポートを行っています。

優先度別アクションリスト
【今すぐ取り組む:緊急度・高】
- 現行36協定の内容確認:協定の内容が現行法(新様式・特別条項の上限規制)に適合しているか確認する。有効期間(最長1年)が切れていないかも確認する。
- 実際の時間外労働時間の把握:過去1年分の残業実績データを集計し、月45時間・年360時間の原則上限、特別条項使用月数(年6か月以内)、単月・複数月平均の絶対的上限を超えていないか検証する。
- タイムカード・勤怠システムの見直し:自己申告制など実態把握が困難な管理方法は直ちに見直す。客観的な時間管理(タイムカード・ICカード・PCログ等)を導入する。
【期日までに取り組む:重要度・高】
- 36協定の更新・新規締結:有効期間の満了前に更新手続きを行う。特別条項を設ける場合は、「臨時的な特別事情」の具体的内容を明記し、形式的な記載にならないよう注意する。
- 労働者代表の適正選出:投票や挙手などの民主的な方法による選出が必要。管理職を労働者代表にすることはできない(労働基準法施行規則第6条の2)。
- 就業規則との整合性確認:就業規則に定めた所定外労働の条項と36協定の内容に矛盾がないか確認する。
【体制整備:中長期的取り組み】
- 業務量の見直しと人員配置の最適化:構造的な残業超過がある場合、業務プロセスの改善・人員補強・業務の外注化などを検討する。
- 管理職への研修実施:上限規制の内容・違反リスクを管理職全員が正確に理解できるよう定期研修を実施する。
- 内部通報・相談窓口の整備:労働者が残業時間の過多を相談できる仕組みを整える。
よくある落とし穴
管理職(管理監督者)の時間管理を怠ってはいないか?
「管理職だから残業代は不要」という理解はよくある誤りです。労働基準法上の「管理監督者」に該当するためには、単に役職があるだけでは不十分であり、①経営方針の決定等に参画しているか、②自己の労働時間について実質的な裁量があるか、③賃金等の処遇が地位にふさわしいものかなど、実態に即した判断が必要です。要件を満たさない場合、残業代未払いの問題が生じます。
36協定の「特別の事情」が形式的になっていないか?
特別条項の「臨時的な特別事情」とは、一時的・突発的な業務量増加などに限られます。「繁忙期」「納期前」といった毎年恒常的に発生する事情は「臨時的」とはいえず、慢性的な超過残業を特別条項で正当化することはできません。
36協定の届出と実態管理を混同していないか?
36協定を届け出ることは「残業できる上限を定めた」に過ぎず、実際の労働時間がその上限を超えた時点で法違反となります。届出さえすればよいという誤解が多く見られます。
パートタイマー・アルバイトへの適用漏れ
時間外労働の上限規制はパートタイマー・アルバイトにも適用されます。フルタイムの正社員だけを管理していて、非正規労働者の残業時間の把握が不十分なケースは非常に多く見られます。
勤務間インターバルの未整備
深夜残業の翌日に早朝出勤させるような場合、過重労働につながります。義務ではありませんが(努力義務:労働時間等設定改善法第2条)、勤務間インターバル制度の導入は長時間労働防止に有効です。
社会保険労務士に相談するとできること
社会保険労務士法人とうかいに相談いただくことで、以下の対応が可能です。
- 36協定の作成・届出代行:新規作成・更新・特別条項付き協定の作成を含め、労働基準監督署への届出まで一括対応します。
- 労働時間管理の仕組み構築:勤怠管理システムの選定支援、就業規則・労働時間管理規程の整備を行います。
- 残業実態の診断と是正計画策定:現状の残業データを分析し、超過リスクの高い部署・職種を特定のうえ、是正計画を提案します。
- 管理職向け研修:上限規制・36協定の実務を管理職が理解できる研修プログラムを提供します。
- 労働基準監督署調査への対応サポート:是正勧告を受けた際の対応方針策定・書類作成を支援します。

このセクションのポイント
- 36協定の内容確認と実際の残業時間把握を今すぐ行うことが最優先
- 労働者代表の選出方法が適正でないと36協定が無効になるリスクがある
- 管理職・非正規労働者も上限規制の対象(管理監督者は別途要件確認が必要)
- 特別条項の「臨時的な特別事情」は毎年恒常的な業務には使えない
- 社会保険労務士への相談で、届出代行から体制整備まで一括サポートが可能
5. とうかいが実際に対応した相談事例・よくあるトラブル
相談事例
事例①:特別条項付き36協定を届け出ていたが、年間上限を超えていた
相談内容:製造業・従業員約150名の企業から「労働基準監督署の定期監督が入り、複数の従業員で年720時間の上限を超えていると指摘された。是正勧告書を受け取ったが、どう対応すればよいか」というご相談をいただきました。
背景と問題点:同社では特別条項付き36協定を締結・届出しており、「協定さえあれば問題ない」と認識されていました。しかし、年720時間という絶対的上限は特別条項によっても超えることができない強行規定であり、一部の製造ラインで繁忙期に月100時間を超える時間外労働が複数月続いていたことが根本原因でした。勤怠管理も自己申告制が中心で、実態把握が不十分だったことも問題を複雑にしていました。
社労士法人とうかいの対応:是正勧告書の内容を分析し、対象期間・対象者・違反内容を整理しました。その後、労働基準監督署への是正報告書の作成を支援するとともに、タイムカードによる客観的な時間管理体制への移行、部門別残業時間のアラート機能付き勤怠管理システムの導入支援、翌年度36協定の特別条項の内容見直し(特別延長時間の削減・適用月数の厳格化)を実施しました。
結果・教訓:是正報告書提出後、監督官から「改善取り組みを評価する」旨の回答を受け、追加調査なく終了しました。今回の事例では「36協定の締結・届出」と「実際の労働時間が上限内に収まること」はまったく別の義務であることを改めて確認しました。36協定はあくまで「最大でどこまで残業させられるか」の上限を定めるものであり、その枠内に実態を収めるための日常的な管理が不可欠です。

事例②:建設業への上限規制適用を把握していなかった
相談内容:建設業・従業員約80名の企業から「2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されると聞いたが、何をどう準備すればよいかわからない。36協定の届出内容も変えないといけないのか」というご相談をいただきました。
背景と問題点:同社では2024年3月まで適用猶予業種として「時間外労働の上限規制は自社には関係ない」と認識されており、特別条項付き36協定で年間の時間外労働時間を「1,000時間」と定めていました。2024年4月以降は建設業にも(災害復旧・復興事業を除き)一般と同様の規制が適用されることになり、既存の協定内容が即座に法違反の状態になるリスクがありました。
社労士法人とうかいの対応:まず、同社の過去3年分の残業実績データを確認し、施行後の規制値(年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内)を超える社員の有無を確認しました。実態として一部の現場監督で年800〜900時間に達するケースがあり、単純に協定を変更するだけでなく、業務量・工期設定・外注活用の見直しが必要と判断しました。36協定の内容を法令に適合した形に改訂し、届出を行うとともに、現場監督の勤務時間の記録・集計フローの整備を支援しました。
結果・教訓:施行日前に36協定を法令適合の内容に更新し、日常の労働時間管理体制を整備することができました。猶予業種であっても、施行日までに準備を完了しておくことが重要です。業種や職種によって適用される規制値が異なるため、自社の業種を正確に確認したうえで、専門家に相談することをお勧めします。

事例③:非正規労働者(パートタイマー)の残業管理が未整備だった
相談内容:小売業・従業員(パートタイマー含む)約200名の企業から「社員の36協定は整備されているが、パートタイマーの残業管理が正社員とは別の仕組みになっており、上限超えが発生していないか不安」というご相談をいただきました。
背景と問題点:同社では正社員向けには特別条項付き36協定を適切に届け出ていましたが、パートタイマーについては「所定労働時間が短いから問題ない」という誤認識があり、残業実績の集計・管理が行われていませんでした。しかし、繁忙期には複数のパートタイマーが週5日フルタイム以上に近い勤務をしており、法定労働時間を超える残業が発生していました。
社労士法人とうかいの対応:パートタイマーを含む全労働者の法定労働時間・所定労働時間・実際の労働時間を整理し、36協定の対象者範囲を確認しました。その結果、正社員向けの協定にパートタイマーも含める形に協定を修正するとともに、パートタイマー用の残業集計ルールを勤怠管理システムに設定し、月次で自動アラートが上がる仕組みを構築しました。
結果・教訓:パートタイマー含む全従業員の残業時間が可視化され、超過リスクのある店舗を事前に把握できるようになりました。非正規労働者も上限規制の対象となることを全管理職が認識できるよう、社内研修も合わせて実施しました。
よくあるトラブルとその対処法
よくあるトラブル①:36協定の有効期間が切れていた
症状:労働基準監督署の調査で「御社の36協定は○○年○月で有効期間が満了しており、現在は無協定状態です」と指摘される。その期間の時間外労働がすべて違法となるリスクがある。
原因:36協定の有効期間は最長1年であり、毎年更新が必要です。総務担当者が異動・退職した際に引き継ぎが不十分だったり、期日管理が属人化したりしているケースが多く見られます。
対処法:期限の1〜2か月前にアラートが上がる管理台帳を整備します。有効期間の開始日・満了日を社内カレンダーや勤怠管理システムに登録しておくことが有効です。発覚後は直ちに新たな協定を締結・届出し、その後の対応策を社会保険労務士に相談してください。
よくあるトラブル②:労働者代表の選出が無効だった
症状:36協定を締結したが、「労働者代表は使用者が選んだのか」と調査で問われ、協定が無効と判断されるリスクがある。
原因:労働者代表は「労働者の過半数を代表する者」として、投票・挙手などの民主的な方法で選出する必要があります(労働基準法施行規則第6条の2)。使用者が一方的に指名したり、管理監督者が代表になっていたりするケースが散見されます。
対処法:社内で選出手続きの記録(選出通知・選出結果・選任者の確認書等)を文書化しておきます。再選出が必要な場合は、改めて全従業員へ周知のうえ民主的な手続きで選出し直してください。手続きに不安がある場合は社労士に相談することをお勧めします。
よくあるトラブル③:割増賃金の計算基礎から除外できない手当を誤って除外していた
症状:社会保険労務士または税務調査で「時間外割増賃金の計算基礎賃金に含めるべき手当が除外されている」と指摘され、多額の未払い残業代の遡及支払いが必要になった。
原因:割増賃金の計算基礎となる賃金から除外できるのは、法令で限定列挙された7種類(家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金)のみです(労働基準法施行規則第21条)。実態に反して「家族手当」や「住宅手当」と名付けられた一律支給の手当は除外できません。
対処法:手当の名称ではなく支給実態に応じた判断が必要です。既存の手当が除外可能かどうかを社会保険労務士に診断してもらい、必要に応じて手当の見直し・就業規則の変更を行います。
よくあるトラブル④:テレワーク・在宅勤務中の時間外労働が把握できていなかった
症状:テレワーク導入後、従業員の実労働時間を正確に把握できていないと指摘される。深夜・早朝のメール送信記録が過剰労働の証拠として使われるケースもある。
原因:在宅勤務では始業・終業の自己申告に頼りやすく、実態よりも少ない労働時間が申告されたり、逆に長時間労働が見えにくくなったりします。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)では、在宅勤務中もタイムカードと同等の客観的な記録が求められています。
対処法:テレワーク中もPCのログイン・ログアウト記録や、業務システムのアクセスログを活用した客観的な時間管理を実施します。テレワーク規程の整備と合わせて社会保険労務士に相談してください。
よくあるトラブル⑤:月60時間超の割増賃金率引き上げへの対応が漏れていた
症状:2023年4月から中小企業も月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が50%以上になったにもかかわらず、旧の25%で支給し続けていたことが発覚し、未払い残業代の遡及支払いが必要になった。
原因:改正情報の見落とし、または給与計算ソフトのパラメータ更新を失念していたケースが多く見られます。月60時間超という閾値を毎月管理していない企業も多くあります。
対処法:給与計算ソフトの設定を確認し、月60時間超の残業に対して50%以上の割増率が適用されているかを検証します。遡及未払いが発生している場合は、2年分(悪意ある場合は3年分)遡って支払い義務が生じる可能性があります。早急に社会保険労務士または社内の労務担当者に確認してください。
このセクションのポイント
- 36協定の有効期間(最長1年)の管理台帳整備は実務の基本
- 労働者代表の選出手続きが民主的に行われていないと36協定が無効になる
- 割増賃金の計算基礎から除外できる手当は法令で限定列挙されている
- テレワーク中もPCログ等による客観的な時間管理が必要
- 2023年4月から中小企業でも月60時間超の割増賃金率は50%以上(未対応の場合は遡及支払いリスクあり)
6. 個別相談のご案内|社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士法人とうかいは、愛知県を中心に東海地方の中小企業・中堅企業の労務管理を長年にわたり支援してきた社会保険労務士事務所です。時間外労働の上限規制・36協定対応をはじめ、就業規則の整備・社会保険手続き・給与計算・助成金申請・労使トラブル解決まで、企業の人事・労務に関するあらゆる課題にワンストップで対応しています。
こんなお悩みをお持ちの経営者・人事担当者の方へ
- 自社の36協定が現行法に適合しているか確認したい
- 残業時間の管理体制を整備したい
- 労働基準監督署から是正勧告を受けた
- テレワーク・働き方改革に伴う就業規則の整備を依頼したい
- 月60時間超の割増賃金対応が適切にできているか確認したい
- 建設業・運送業など猶予業種の対応方法を相談したい
対応エリア:愛知県・岐阜県・三重県・静岡県を中心に全国対応(オンライン相談可)
相談方法:電話・メール・Zoom等によるオンライン相談・訪問相談
初回相談:お気軽にお問い合わせください。
社会保険労務士法人とうかいへのお問い合わせ
貴社の状況に合わせた最適な対応策をご提案します。36協定の作成代行・労働時間管理体制の構築・就業規則の整備など、まずはお気軽にご相談ください。
7. よくある質問(FAQ)
Q. 36協定を締結していれば、残業時間に上限はないのですか?
A. いいえ、36協定を締結していても法定の上限を超えることはできません。特別条項付き36協定を締結した場合でも、「年720時間以内(休日労働を除く)」「単月で時間外労働と休日労働の合計が100時間未満」「2〜6か月平均で時間外労働と休日労働の合計が80時間以内」という絶対的上限を超えることはできず、違反した場合は刑事罰の対象となります(労働基準法第36条第6項・第119条)。
Q. 36協定はいつまでに届け出ればよいですか?
A. 時間外労働・休日労働をさせる前に届け出ることが必要です。36協定の有効期間は最長1年であり、毎年更新が必要です。有効期間が満了した後に届け出ても、満了日から届出日までの期間の残業は違法状態となります。余裕をもって期限の1〜2か月前には更新手続きを完了させることをお勧めします。
Q. 36協定の労働者代表は誰がなれますか?
A. 労働者の過半数で組織する労働組合がない場合、投票・挙手などの民主的な方法で選ばれた「労働者の過半数を代表する者」がなれます。ただし、管理監督者(労働基準法第41条第2号に該当する者)は労働者代表になれません。使用者が指名・任命した場合も無効となるため、適正な選出手続きが重要です(労働基準法施行規則第6条の2)。
Q. パートタイマー・アルバイトにも時間外労働の上限規制は適用されますか?
A. はい、パートタイマー・アルバイトにも適用されます。正社員と同様に、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて残業させるには36協定の締結・届出が必要であり、上限時間の管理も必要です。雇用形態に関わらず、すべての労働者が対象となります。
Q. 管理職(管理監督者)も時間外労働の上限規制の対象になりますか?
A. 労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合は、時間外労働・休日労働の規制が適用されません。ただし、深夜割増賃金や年次有給休暇は管理監督者にも適用されます。なお、「管理監督者」に該当するかどうかは名称・役職ではなく実態で判断されるため、要件を満たさない場合は残業代支払義務が生じます。
Q. 特別条項の「臨時的な特別の事情」とはどのような場合ですか?
A. 一時的・突発的な業務量増加が発生した場合に限られます。具体的には、大規模なシステム障害への対応、突発的な大型受注、自然災害時の緊急対応などが該当します。毎年定期的に発生する繁忙期・納期前の残業増加は「臨時的」とは認められず、特別条項を適用することはできません。
Q. 月60時間超の割増賃金率(50%)はいつから全企業に適用されていますか?
A. 大企業は2010年4月から、中小企業は2023年4月から適用されています。それ以前は中小企業の割増賃金率は25%でした。2023年4月以降、企業規模にかかわらず月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率は50%以上が義務付けられています(労働基準法第37条第1項ただし書き)。
Q. テレワーク中の労働時間はどのように管理すればよいですか?
A. 厚生労働省のガイドライン(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」平成29年1月20日策定)に基づき、客観的な方法による時間管理が必要です。PCのログイン・ログアウト記録、業務システムのアクセスログなどを活用し、自己申告のみに頼らない管理体制を整備することが求められます。
Q. 建設業は2024年4月以降、どのような上限規制が適用されますか?
A. 建設業(一般)は2024年4月から、一般と同様の上限規制(原則月45時間・年360時間、特別条項付き36協定を締結した場合でも年720時間以内・単月100時間未満・複数月平均80時間以内)が適用されています。ただし、災害時における復旧・復興事業については、単月100時間未満・複数月平均80時間以内の規制が適用除外となっています(厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html)。
Q. 36協定の届出をし忘れた場合、どうすればよいですか?
A. 直ちに新たな36協定を締結し、労働基準監督署に届け出てください。ただし、無協定期間中に行われた時間外労働・休日労働はすべて違法状態となっており、発覚した場合は是正勧告の対象となります。状況によっては遡及して割増賃金の支払い義務が生じることもありますので、早急に社会保険労務士に相談することをお勧めします。
まとめ
時間外労働の上限規制は、2019年の施行から7年が経過した現在(2026年5月)においても、多くの企業で管理体制の不備が見られます。特に、以下の4点は今すぐ確認が必要です。
- 36協定の有効期間と内容が現行法に適合しているか(新様式・特別条項の上限値)
- 実際の残業時間が絶対的上限(年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内)を超えていないか
- 2024年4月から猶予業種(建設業・自動車運転・医師)への規制適用への対応が完了しているか
- 月60時間超の割増賃金率(50%以上)が正しく計算・支給されているか
違反すれば刑事罰・企業名公表・民事賠償という三重のリスクがあるだけでなく、優秀な人材の確保・定着という経営課題にも直結します。「うちの会社は問題ない」と思っていても、実態確認を行うと何らかの不備が見つかるケースは少なくありません。
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この記事は2026年5月27日時点の情報をもとに作成しています。法令・制度は改正される場合があるため、最新情報は厚生労働省等の公式サイト(https://www.mhlw.go.jp/)をご確認ください。
監修・文責:社会保険労務士法人とうかい