2026年5月19日、経団連(日本経済団体連合会)は「若年社員の活躍推進における5つの課題と対応策」と題する報告書を公表しました。若年就業者の希少化と新卒採用充足率の過去最低水準への落ち込みが深刻化するなか、企業の90%以上が「若年社員の活躍推進に課題を感じている」という実態は、多くの経営者・人事担当者に重くのしかかっています。この記事では、社会保険・労務管理の専門家である社会保険労務士法人とうかいが、この報告書の内容を労務管理・就業規則・人事制度の視点から読み解き、中小企業が今すぐ取り組むべき実務的な対策を解説します。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
- NHK「あさイチ」
- 中日新聞
- 船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
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1. この記事の要約
- 経団連報告書(2026年5月19日)は、若年社員の活躍を阻む課題として①リアリティ・ショック②成長機会・実感の減少③キャリア形成・パスのイメージしづらさ④コミュニケーションのギャップ⑤育成・マネジメントの行き詰まりの5つを整理した。
- 若年就業者(35歳未満)は1997年の2,154万人から2025年は1,731万人まで減少し、2040年には1,594万人まで落ち込む見込みで、採用競争の激化と定着率向上が中小企業の生存課題となっている。
- 大学卒の就職後3年以内離職率は30年間を通じておおむね3割超を維持しており、規模の大きい企業ほど近年の離職率上昇幅が大きいというデータが示された。
- 報告書が示す対応策(RJP・オンボーディング・キャリア形成支援・コミュニケーション活性化・管理職支援)は、労働基準法・育児・介護休業法・労働施策総合推進法等の法令対応と表裏一体であり、就業規則・人事制度の整備と切り離せない。
- 厚生労働省の人材開発支援助成金や両立支援等助成金を活用することで、中小企業でも研修・制度整備のコストを大幅に軽減できる。
2. そもそも、「若年社員の活躍推進」が経営課題になった背景とは?
若年社員の活躍推進が経営課題になった背景とは、若年労働力の構造的な希少化と、既存の育成・マネジメント手法の機能不全が同時進行していることです。経団連の報告書は、この問題を「外的要因」と「内的要因」に分けて整理しています。

専門用語解説
若年労働力の希少化とは、少子化の進行によって35歳未満の就業者数が長期的に減少し続けている現象のことです。経団連の報告書によれば、若年就業者数は1997年の2,154万人から2025年は1,731万人まで減少し、「成長実現・労働参加進展シナリオ」のもとでも2040年には1,594万人まで落ち込む見通しです。一方で新卒採用充足率(内定者数÷募集人数)は2026年卒時点で69.7%と過去最低水準に達しており、企業の採用難は構造的なものとなっています。
リアリティ・ショックとは、入社前に形成された期待やイメージが実際の組織現実と異なっていた場合に生じる心理現象のことです(甲南大学・尾形真実哉教授の定義)。報告書では、従来の「厳しい現実に直面する型」だけでなく、「ゆるい環境に肩透かしを食う型」も増えていることが指摘されています。職場を「ゆるい」と感じる若年社員は36.4%に上り、そのうち「短期で退職したい」と回答した割合も16.1%存在しています。
RJP(Realistic Job Preview)とは、産業心理学者のジョン・ワナウス氏が提唱した採用理論で、入社前にポジティブな情報だけでなく、大変な面・ネガティブな情報も含めたありのままの情報を伝えることで、入社後のリアリティ・ショックを軽減する手法のことです。報告書では日本型RJPとして、「Jobの情報だけでなく、組織・キャリアパス・人事制度・働く仲間に関する情報等、広範な情報を多く提供する」アプローチが推奨されています。
オンボーディングとは、新入社員を組織の乗組員(On-boarding)として馴染ませ、一人前にしていく入社後の適応支援プロセスのことです。内定後から入社後数か月にわたって、職場環境への適応・業務習得・人間関係構築を総合的に支援します。
3年以内離職率とは、新規学卒者が初めて勤務した会社を就職後3年以内に離職した割合のことです。厚生労働省「新規学卒者の離職状況」によれば、大学卒の3年以内離職率は過去30年にわたっておおむね30%超で推移しています。2022年卒の直近データでは、1,000名以上の大企業では2009年卒比で+6.5ポイント上昇しており、規模の大きい企業ほど近年の上昇幅が大きい結果となっています。
ジョブクラフティングとは、労働者が自らの仕事・人間関係・仕事の意義に関する認知を能動的に変えることで、仕事の意欲・やりがいを高める行動のことです。経団連報告書は補論として取り上げており、業務の範囲や人間関係のアプローチを自分で微調整することで、成長実感を生み出せると述べています。
このセクションのポイント
- 若年就業者は2040年に1,594万人まで減少見込み。採用難は一時的ではなく構造的問題
- 大卒3年以内離職率は30年以上3割超。規模の大きい企業ほど近年の上昇幅が大きい
- 「ゆるい職場」でも離職リスクが存在。成長実感を提供できない職場は定着率が低下する
- 外的要因(労働力希少化)と内的要因(就労観の多様化)が重なり、既存手法が通用しなくなっている
3. 経団連が整理した「5つの課題」と今必要な変化:何が、どう変わるのか?
経団連報告書の核心は、「企業は今のやり方を変えなければ若年社員の活躍を支援できない」という警告です。5つの課題それぞれについて、従来型のアプローチとの比較を整理します。

課題①:リアリティ・ショックの発生—採用の「情報戦」が変わった
従来と変化した点: 採用は「選考フィルター」から「双方向の情報提供」へと変化が求められています。
| 従来のアプローチ | 求められる新アプローチ |
|---|---|
| 自社の魅力・良い面を強調する採用広報 | ポジティブ・ネガティブ両面のRJP(Realistic Job Preview)を実践 |
| 内定後フォローは形式的 | 内定から入社まで継続的な情報提供・不安解消のオンボーディング |
| 「配属は会社が決める」 | 配属方針・配属可能性を事前に明示し合意形成 |
報告書によれば、就職活動中に「企業の大変な点・ネガティブな情報が十分に開示されていた」と感じた若年社員はごく少数にとどまっており、「入社後のイメージと現実の乖離」が初期離職の主因の一つになっています。
法令対応との関連: 2024年4月施行の改正(労働基準法施行規則第5条改正・厚生労働省令第39号)では、有期雇用労働者に対する「更新上限」「無期転換申込機会・条件」の明示が義務化されました。採用時の情報提供不足は、法的リスクとしても顕在化します。
課題②:成長機会・実感の減少—育成への時間投資が減っている
従来と変化した点: 働き方改革による時間外労働削減が、OJT機会の縮小という副作用を生んでいます。
| 指標 | 変化 |
|---|---|
| OJTの機会があった割合 | 2015年:60.4% → 2024年:55.8%(▲4.6pt) |
| OJTの機会が「全くなかった」 | 2015年:19.6% → 2024年:22.8%(+3.2pt) |
| Off-JTを受けた割合(正社員) | 2015年:36.9% → 2023年:32.5%(▲4.4pt) |
報告書は「成長できている実感がない」ことがキャリア不安・離職意欲に直結すると指摘しています。
活用できる助成金: 厚生労働省の「人材開発支援助成金」は、従業員への計画的OJT・Off-JT・自発的職業能力開発を実施した事業主に訓練費用・賃金の一部を助成する制度です。中小企業の場合、Off-JTの訓練費用は経費の75%・賃金助成960円/時間が目安です(2025年度、年度ごとに改定あり)。
課題③:キャリア形成・パスのイメージしづらさ—キャリアの「地図」がない
従来と変化した点: 終身雇用モデルの崩壊とともに、「長くいれば自然に上がれる」前提が失われました。
| 問い | 結果 |
|---|---|
| 20代のキャリアパスが明確に見えている | 約3割強のみ |
| 30代以降のキャリアパスが明確に見えている | 約2割強のみ |
| 「将来のキャリア」に不安を感じる(20代) | 約8割 |
報告書が推奨する対応は、①キャリア形成面談の実施・充実、②社内キャリアパスの明確化、③キャリア形成支援システムの構築、④偶発的なキャリア機会(社内公募・異動希望申告等)の担保の4点です。
課題④:コミュニケーションのギャップ—縦のつながりが機能不全に
従来と変化した点: パワハラ防止法の施行(中小企業は2022年4月義務化)と多様な働き方の広がりが、上司-部下間の意思疎通を難しくしています。
| 問題 | データ |
|---|---|
| 仕事以外の会話が「不足」(上司・部下ともに) | 約4割 |
| 「指導がハラスメントと思われないか不安」 | 管理職の23.7% |
| テレワーク利用者の「コミュニケーション不足感」 | 対面勤務者より高い傾向 |
報告書は「タテ・ヨコ・ナナメによるコミュニケーションの活性化」を提唱しており、1on1・メンター制度・リバースメンタリング(若手が上位者に情報提供する仕組み)の導入を事例とともに紹介しています。
課題⑤:育成・マネジメントの行き詰まり—管理職が疲弊している
従来と変化した点: 管理職は「部下の育成」と「自身の業務負荷軽減」の板挟みになっています。
| 管理職の声 | 割合 |
|---|---|
| 「自分の頃と同じように育てられない」 | 課長級の34.4% |
| 「若手育成と労働環境改善の両立が難しい」 | 31.4% |
| 「育った部下が離職してしまう」 | 約2割 |
報告書は管理職自身への支援(ピアコーチング・マネジメント研修・役割の明確化)の必要性を強調しています。
このセクションのポイント
- 採用段階の変化:良い面のみの広報から、ネガティブ情報も含むRJPへの転換が求められる
- OJT機会は2015年比で約5ポイント低下。人材開発支援助成金を活用して計画的に補完する必要がある
- キャリアパスが見えている若年社員は2〜3割のみ。キャリア面談の制度化が急務
- パワハラ防止義務の浸透が管理職の指導回避を招いている。「適切な指導のセーフライン」の明確化が鍵
- 管理職支援なしに若年社員の育成改善はできない。管理職自身の健康管理も法的義務(安衛法66条の8の2)
4. 経営者が今すぐ対応すべきこと|社会保険労務士法人とうかいからのアドバイス
優先度別アクションリスト
報告書の内容を踏まえ、社会保険労務士法人とうかいが経営者・人事担当者向けに整理した優先度別の実務アクションです。
【今すぐ着手】法令対応が必要なもの
| アクション | 内容 | 法的根拠 |
|---|---|---|
| 労働条件通知書の更新 | 2024年4月改正に対応した書式(有期雇用の更新上限・無期転換の明示等) | 労働基準法第15条・施行規則第5条(厚生労働省令第39号) |
| パワハラ防止規定の整備 | 就業規則にパワハラ防止規定・相談窓口・懲戒処分規定を明記 | 労働施策総合推進法第30条の2 |
| 管理職の労働時間確認 | 管理監督者でも深夜割増賃金・健康確保措置は適用。月100時間超の時間外が疑われる場合は医師面接指導を実施 | 労働安全衛生法第66条の8の2 |
【期日までに対応】制度整備として進めるもの
- 就業規則にキャリア面談(年1回以上)・1on1の実施根拠を明記する
- 昇給・昇格の評価基準を就業規則または賃金規程に明記する(労働基準法第89条第2号)
- 人材開発支援助成金の活用に向けて「訓練計画届」を訓練開始の前月末日までに提出する
【体制整備】中長期で取り組むもの
- キャリアコンサルタントとの定期面談(セルフ・キャリアドック)を制度化する
- メンター制度・リバースメンタリングを人事規程に位置づける
- 管理職向けに「指導のセーフライン」ガイドラインを作成・研修で周知する
よくある落とし穴
採用時の情報開示が「建前のみ」になっていないか?
就業規則や採用サイトに掲載している情報と、実際の職場環境に乖離がある場合、リアリティ・ショックが生じやすくなります。職業安定法第5条の3は求人票・採用広告の虚偽表示を禁止しており、「残業はほとんどない」「完全週休2日」等の表記が実態と異なる場合は法的リスクも生じます。

パワハラ防止規定を「作りっぱなし」にしていないか?
就業規則にパワハラ防止規定を盛り込むだけでは不十分です。労働施策総合推進法の措置義務は「方針の明確化と周知・啓発」「相談窓口の設置」「事後対応(調査・処分)手順の整備」「再発防止研修」の4点セットで履行する必要があります。相談窓口が名ばかりになっていないか確認が必要です。
キャリア面談を「業績評価の面談」と混同していないか?
目標管理面談と「キャリアの将来について話す面談」を同一視する管理職が多く、若年社員が本音を話せない状況が生まれています。「キャリア面談は査定に影響しない」旨を明文化し、管理職に周知することが定着のポイントです。
人材開発支援助成金の「事前申請忘れ」による受給機会の損失
人材開発支援助成金は原則として「訓練開始日の前月末日までに訓練計画届を提出」しなければ申請できません。研修を実施した後から申請しようとしても遡及適用は認められません。助成金活用を考える場合は、研修計画の段階で社会保険労務士への相談が不可欠です。
管理監督者の「名ばかり管理職」問題と健康管理
時間外割増賃金の適用除外(労働基準法第41条第2号)となる「管理監督者」の要件は実質的なもの(経営者と一体的な立場・重要人事・賃金の優遇)であり、役職名だけでは認められません。また、管理監督者でも深夜割増賃金・健康確保(年5日の有給取得義務・面接指導等)は適用されます。

社会保険労務士に相談するとできること
- 労働条件通知書・就業規則の2024年4月改正対応(有期雇用・無期転換の明示規定の更新)
- パワハラ防止規定・相談窓口設置・対応手順書の整備と管理職研修の実施サポート
- 人材開発支援助成金(訓練計画届・支給申請)の申請代行
- キャリア面談制度・メンター制度の人事規程への組み込み
- 管理職の労働時間管理体制・健康確保措置の整備
- 若年社員の定着率向上に向けた就業規則・人事制度の総合的な点検と改定
このセクションのポイント
- 採用時の労働条件通知書は2024年4月改正内容を盛り込み、現状と乖離のないRJPを実現する
- パワハラ防止規定は「作る」だけでなく「機能させる」4点セットで整備する
- 人材開発支援助成金は「事前申請」が必須。研修計画の段階で社会保険労務士への相談を
- 管理監督者でも深夜割増・健康確保措置は義務。名ばかり管理職リスクも確認が必要
5. とうかいが実際に対応した相談事例・よくあるトラブル
⚠️ 以下の事例は、個人情報保護のため実在の企業名・個人名・賃金額を一切記載せず、同テーマで頻繁に発生する「典型的な相談パターン」を一般化した形で記述しています。
相談事例①:「入社2か月で辞めたいと言ってきた」—製造業・従業員70名
相談内容: 製造業・従業員70名規模の企業から、「今年4月に採用した新卒社員が入社2か月で”思っていた仕事と違う”と言い出した。なんとか引き止めたいが、どう対応すればよいか」というご相談をいただきました。
背景と問題点: 退職面談を実施したところ、当該社員は「残業が月20〜30時間あることを事前に聞いていなかった」「配属先の仕事内容が採用面接時の説明と異なっていた」と感じていることが判明しました。実際には面接担当者が残業の実態を伝えていましたが、書面での明示がなく、当該社員の記憶と乖離していたことが原因でした。また、採用時に交付していた「労働条件通知書」が数年前の書式のままで、2024年4月の改正に対応できていませんでした。
社労士法人とうかいの対応: まず、2024年4月改正に対応した労働条件通知書の書式に更新し、残業の実態・配属可能性・評価基準を明記するよう整備しました。また、翌年度の採用プロセスにRJPを取り入れるため、採用担当者向けの「情報提供チェックリスト」を作成。内定後の「オンボーディング面談」を3回(内定直後・入社直前・入社1か月後)実施する運用フローを就業規則に位置づけました。
結果・教訓: 当該社員は「会社が真剣に改善しようとしている」と感じ、最終的に継続就業を選択しました。翌年度採用からは入社後1年の定着率が改善。書面での丁寧な情報開示が、「言った言わない」のトラブルを防ぐ最大の予防策であることを再確認しました。

相談事例②:「若手が次々と辞めていく。何が問題かわからない」—小売業・パートタイム中心・45名
相談内容: 小売業・従業員45名(パートタイム中心)の企業から、「過去3年で正社員の若手(20〜30代)が5名退職した。面接でも理由をはっきり言わない。採用コストがかかりすぎて困っている」というご相談をいただきました。
背景と問題点: 退職した社員の傾向を分析すると、全員が入社3年以内・いずれも「キャリアの見通しがつかなかった」というコメントを残していました。同社には昇格基準の明文規定がなく、「いつになれば店長になれるか」「給与はどのように上がるのか」が不透明でした。また、管理職は全員50代以上で、若手との1on1ミーティングを実施していた管理職はゼロでした。
社労士法人とうかいの対応: 就業規則・賃金規程の総点検を実施し、昇給・昇格基準を数値目標を含む形で明文化しました。「正社員キャリアパス表」を作成し、入社3年・5年・10年時点での標準的な役割・賃金水準を可視化。年2回のキャリア面談を人事規程に組み込み、管理職向けに面談スキル研修(社外講師と連携)を実施しました。また、人材開発支援助成金(Off-JT)を活用することで研修費用の75%を助成金で賄いました。
結果・教訓: 制度整備後、若手正社員の定着率が改善傾向に転じました。「キャリアが見えない」という離職理由を防ぐには、制度の整備と「見える化」がセットで必要です。助成金の事前申請を忘れず実施することが費用対効果を高めます。
相談事例③:「管理職がハラスメントを恐れて部下を全然指導しない」—IT関連・従業員120名
相談内容: IT関連・従業員120名規模の企業から、「2年前にパワハラ防止規程を整備したが、それ以来、管理職が若手を指導しなくなった。”指導したらパワハラと言われる”と管理職が言う。若手のスキルが伸びず困っている」というご相談をいただきました。
背景と問題点: 就業規則のパワハラ防止規定が「何がパワハラか」の禁止事項のみを列挙しており、「どのような指導が適切か」の基準が明記されていませんでした。その結果、管理職が過度に萎縮し、OJTの機会が大幅に減少していました。合わせて、管理職自身の業務量も増えており、部下育成に時間を使えない構造的な問題もありました。
社労士法人とうかいの対応: 就業規則のパワハラ防止規定に「適切な業務指導・フィードバックはパワハラに該当しない」旨を厚生労働省指針(令和2年厚生労働省告示第5号)の内容を踏まえて追記しました。管理職向けに「指導のセーフライン」ガイドラインを作成し、「褒める・指摘する・一緒に改善策を考える」というフィードバックの3ステップ研修を実施。管理職の業務負荷の見直し(業務分担の整理)も並行して進めました。
結果・教訓: 管理職の指導回避行動が改善し、OJT実施率が向上。「パワハラ防止 ≠ 指導禁止」の共通認識を職場に浸透させることが、若手育成の再活性化につながりました。パワハラ防止規定の整備は「禁止事項の列挙」だけでは不十分で、「望ましい指導行動の定義」を合わせて整備することが重要です。

よくあるトラブルとその対処法
よくあるトラブル①:採用時の「労働条件通知書」が古いまま
症状: 入社後に「採用時の説明と違う」というトラブルが発生する。特に有期雇用・契約更新・配属に関する「言った言わない」が起きやすい。
原因: 2024年4月施行の労働基準法施行規則改正(有期雇用の更新上限・無期転換機会等の明示義務化)に対応できていない。数年前の書式をそのまま使い続けている事業所が多い。
対処法: 厚生労働省が公開している最新の「労働条件通知書」モデル様式(mhlw.go.jp)をダウンロードし、自社の雇用形態に合わせて更新する。有期雇用者は特に更新上限・無期転換の記載が必須。更新が難しい場合は社会保険労務士法人とうかいへ。
よくあるトラブル②:人材開発支援助成金の「事後申請」による受給不可
症状: 研修を実施した後に助成金申請を検討したが、「事前申請が必要だったため申請できない」と言われた。
原因: 人材開発支援助成金は「訓練開始日の前月末日までに訓練計画届を提出」する事前申請が原則。訓練後の遡及申請は認められていない。
対処法: 研修計画の策定と同時に助成金申請の要否を確認する。社会保険労務士への相談は研修の2〜3か月前が理想。社会保険労務士法人とうかいでは助成金の事前診断・訓練計画届の作成代行を承っています。

よくあるトラブル③:就業規則の「キャリア面談規定」が形骸化
症状: 就業規則・人事規程にキャリア面談の実施が明記されているが、実際には実施されていない部署がある。若手から「話を聞いてもらえない」という不満が出ている。
原因: 「実施する義務があるかどうか」「実施しなかった場合の対応」が規程に定められておらず、各管理職の裁量に任されている。
対処法: 人事規程に「年2回以上のキャリア面談を実施する」旨を明記し、「面談実施記録を人事部門が確認する」運用フローを設ける。実施しなかった管理職への人事的評価への反映も検討する。社会保険労務士法人とうかいでは規程の整備・運用フローの設計を支援しています。
よくあるトラブル④:管理職が「管理監督者」に該当しないケースの残業代未払い
症状: 「課長」「マネージャー」等の役職を付け、時間外割増賃金を支払っていなかった。若手が入社後に「残業代が出ない理由」を知り、トラブルになった。
原因: 管理監督者(労働基準法第41条第2号)の要件(経営者と一体的な立場・重要人事への関与・賃金の優遇)を満たさないまま時間外割増賃金を不支給にしている「名ばかり管理職」の問題。
対処法: 管理監督者の要件を法令・裁判例に照らして再確認する。要件を満たさない場合は適切に時間外割増賃金を支払うよう是正する。未払いが発覚した場合は、遡及2年分(不誠実な対応の場合は3年分)の支払いが必要になる。早急に社会保険労務士法人とうかいへご相談ください。

よくあるトラブル⑤:パワハラ防止規定の整備のみで「相談窓口が機能していない」
症状: 就業規則にパワハラ防止規定を定めたが、若手から「相談しても動いてもらえない」という訴えが出た。
原因: 相談窓口担当者(多くは総務担当者)が対応手順を把握しておらず、「事実確認」や「行為者への指導」などの対応フローが整備されていない。
対処法: 労働施策総合推進法の措置義務は「方針の明確化と周知」「相談窓口の設置」「事後対応手順の整備」「再発防止措置」の4点をセットで実施する必要がある。相談窓口担当者の研修実施と対応マニュアルの整備が必須。社会保険労務士法人とうかいでは対応フロー作成・担当者研修を支援しています。

このセクションのポイント
- 採用時の書面整備(労働条件通知書の最新化)がリアリティ・ショック防止の法的基盤となる
- 人材開発支援助成金は事後申請不可。計画段階での社労士相談が費用対効果の鍵
- キャリア面談規定は「実施した記録の確認フロー」がなければ形骸化する
- 名ばかり管理職は残業代未払いの法的リスクを伴う。管理監督者要件の再確認が必要
- パワハラ防止は規定作成だけでなく「相談窓口の機能化」「対応フロー整備」がセット
6. 個別相談のご案内|社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士法人とうかいは、愛知県を中心に、従業員30名〜300名規模の中小企業の就業規則整備・人事制度設計・助成金申請・労務管理全般を支援する専門事務所です。今回の経団連報告書が示した「若年社員の活躍推進における5つの課題」は、いずれも就業規則・採用プロセス・人事制度・パワハラ対応という労務管理の実務課題と直結しています。
「報告書を読んで課題は理解できたが、自社の何から着手すればよいかわからない」という経営者・人事担当者のご相談を承っています。
こんな場合はご相談ください
- 就業規則が数年間更新されておらず、2024年4月の労働条件明示義務改正に対応できていない
- パワハラ防止規定が就業規則に盛り込まれていない、または相談窓口が機能していない
- 若年社員の離職率が高く、採用・育成・定着のどこに問題があるか整理したい
- 人材開発支援助成金・両立支援等助成金の活用を検討したいが申請方法がわからない
- キャリア形成支援・昇格基準の明文化を就業規則・人事規程として制度化したい
- 管理職が「指導=ハラスメント」と過剰に萎縮しており、若手育成が機能不全になっている
相談方法:ウェブサイトのお問い合わせフォームから「若年社員活躍推進の相談を希望」とご記入の上お申し込みください。初回相談(オンライン・お電話)は無料(要予約)。
対応エリア:愛知県全域・岐阜県・三重県、全国オンライン対応。
7. よくある質問(FAQ)
Q. 経団連の報告書は大企業向けの内容では?中小企業に当てはまる?
A. 課題の本質は規模を問わず共通しています。むしろ、同期・先輩社員が少なく、社内でのキャリアモデルが見えにくい中小企業こそ、5つの課題の影響を直撃しやすいといえます。特に「キャリアパスの不透明さ」は中小企業で顕著です。大阪商工会議所の事例(企業横断の若手キャリアデザイン塾)のように、業種・業界横断の外部機会を活用する方法も有効です。社会保険労務士法人とうかいでは、中小企業の実情に即した就業規則・制度整備をサポートしています。
Q. 採用時にRJPを実践して、それでも早期離職した場合、損害賠償を請求できる?
A. 原則として、採用後の離職に対して労働者に損害賠償を請求することは困難です。労働基準法第16条は「労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。「研修費用を払ったから○年間は辞めるな」という合意も、合理的な期間を超える場合は公序良俗違反(民法第90条)として無効とされる可能性があります。採用コストの「回収」より「定着させる職場づくり」の発想が重要です。
Q. 1on1ミーティングをキャリア面談として就業規則に盛り込む場合の注意点は?
A. 就業規則に1on1やキャリア面談を盛り込む場合、「義務的実施」か「努力義務的実施」かを明確にする必要があります。実施しない場合の取り扱い(人事評価への反映等)も規定しておくと形骸化を防げます。また、面談内容の秘密保持(プライバシーへの配慮)を担保する規定も設けることで、若年社員が安心して本音を話せる環境を整備できます。具体的な規定文例は社会保険労務士法人とうかいにご相談ください。
Q. 人材開発支援助成金を申請するための条件と注意点は?
A. 人材開発支援助成金を申請するためには、①訓練開始日の前月末日までに「訓練計画届」を提出すること、②雇用保険適用事業所であること、③支給申請日時点で雇用保険料等の未納がないことが主な要件です(厚生労働省「人材開発支援助成金の手引き」参照)。最も多い失敗が「事後申請」で受給できないケースです。訓練計画の段階(2〜3か月前)に社会保険労務士へご相談ください。社会保険労務士法人とうかいでは助成金の事前診断から申請代行まで対応しています。
Q. パワハラ防止措置義務を怠ると、どのようなペナルティがある?
A. 労働施策総合推進法第30条の2により、事業主には職場のパワハラ防止のための措置を講じる義務があります。措置を講じない事業主に対し、厚生労働大臣は助言・指導・勧告を行い、勧告に従わない場合は企業名が公表されます(同法第33条)。直接的な罰則規定はありませんが、パワハラ訴訟・労働審判では使用者責任(民法第715条)が問われ、損害賠償リスクが甚大です。採用ブランドへのダメージも軽視できません。
Q. 若年社員の3年以内離職率が高い。まず何から着手すべき?
A. まず離職の主因を把握することが先決です。退職者からのヒアリング記録、在職者へのエンゲージメントサーベイ、採用時の労働条件と実態の乖離確認という3つのデータ収集から始めてください。経団連報告書が示した5つの課題(リアリティ・ショック・成長機会・キャリア可視性・コミュニケーション・マネジメント)のどこに問題があるかを特定した上で、優先順位をつけて対策を打つことが効果的です。社会保険労務士法人とうかいでは現状分析から就業規則・制度整備の優先度設定まで伴走支援いたします。
Q. 管理職がハラスメントを恐れて指導を回避している。就業規則でどう対処する?
A. 就業規則に「適切な業務指導・フィードバックは業務上の義務であり、パワハラとは区別される」旨を明記することが有効です。厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワハラに該当しない」と明記されています。この内容を管理職研修で周知し、「指導のセーフライン」として職場内に浸透させることで、管理職が委縮せずに育成へ関与できる環境を整えられます。
Q. 社内にキャリアモデルが少ない中小企業は、どうすればキャリアパスを示せる?
A. 3つのアプローチが有効です。①先輩社員の「キャリアストーリー」(仕事の変遷・転機・学び)を社内ミーティングや社内報で共有する、②商工会議所・業界団体が主催する若手社員交流・キャリアデザインイベントへの参加を会社として支援する、③国家資格を持つキャリアコンサルタントとの定期面談(セルフ・キャリアドック)を導入する。特に③は人材開発支援助成金の対象になり得ます。社会保険労務士法人とうかいへご相談ください。
Q. ジョブクラフティングを職場に取り入れるには、就業規則の変更が必要?
A. ジョブクラフティング自体に法定の制度変更義務はありませんが、社内で推進するには一定のルール整備が効果的です。業務範囲の「自主的な調整」を上長が承認する仕組みや、自発的な挑戦を評価する人事評価規程への反映を検討すると、制度的に担保されます。人事評価基準の変更は就業規則(賃金規程・人事考課規程)の改定が必要な場合があります。社会保険労務士法人とうかいでは、ジョブクラフティング導入に伴う人事規程整備のご相談も承っています。
まとめ
経団連の「若年社員の活躍推進における5つの課題と対応策」(2026年5月19日)は、若年労働力の構造的希少化を背景に、採用・育成・定着の全プロセスにわたる経営課題を浮き彫りにしました。
社労士の視点から見ると、報告書が示す5つの課題と対応策はすべて「就業規則の整備」「採用時の労働条件明示義務への対応(2024年4月改正)」「パワハラ防止措置義務の適切な履行」「人材開発支援助成金の活用」という実務的な法令対応と直結しています。報告書の内容を「人事施策の理念」として読むのではなく、「労務管理の実務課題」として落とし込むことが、中小企業経営者・人事担当者に求められる次のアクションです。
まずは自社の就業規則の点検・更新から着手することをお勧めします。特に①2024年4月の労働条件明示義務改正への対応、②パワハラ防止規定の機能確認、③人材開発支援助成金の活用体制の整備が最優先の課題です。社会保険労務士法人とうかいでは、経団連報告書の内容を踏まえた就業規則見直し・人事制度整備・助成金活用のご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。

出典:日本経済団体連合会「若年社員の活躍推進における5つの課題と対応策」(2026年5月19日)https://www.keidanren.or.jp/policy/2026/029.html
この記事は2026年5月27日時点の情報をもとに作成しています。法令・制度は改正される場合があるため、最新情報は厚生労働省等の公式サイトをご確認ください。 監修・文責:社会保険労務士法人とうかい


