給与担当者が突然の退職。みなさまの会社では、給与担当者が退職してしまったら、どのような影響が及ぶか把握していますか? 中小企業は給与担当者が1名のみだったり、そうでなくても具体的にどんな業務を行っているのかわからない、というケースも多いものです。 給与計算は、その業務の内容を知らない人からすれば、毎月のルーチンワークであり、「給与ソフトに数字を入力すればいいだけでは?」というイメージではないでしょうか。
しかしながら、給与計算は、計算自体は簡単なものでも、労働基準法や所得税法、社会保険の知識までさまざまな関連法規の正しい理解がないと、正確な職務を行うことができません。 今回は、もしも給与担当者が突然退職してしまったら、給与の計算・支払いに影響が及ぶことが予想される会社にむけて、給与計算を行ううえで押さえておくべきポイントについて解説していきます。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
- NHK「あさイチ」
- 中日新聞
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給与担当者の仕事とは? もしも給与担当者が突然辞めてしまうかも。
社員が退職するとき、退職までに余裕があり後任者に引き継ぐことができれば理想的です。 しかしながら、退職が決まれば、有給消化やら後任者が決まらないなど、業務の引き継ぎが捗らないことも多いのではないでしょうか?
ましてや、急に退職が決定する場合も少なくありません。とくに業務に精通したベテラン社員の退職となれば、影響が大きいものです。給与担当者も同様です。 会社の業績活動に関連する業務ではないものの、社員の給与に直結する重要な業務です。突然の退職ともなれば、大きな影響を及ぼしかねません。
まずは、給与計算の仕事とは、どんな業務があるのか確認しておきます。給与計算の業務を簡単に説明するならば、社員の給与総支給額から税金や社会保険料などを計算・控除し、手取り額を計算、支払いを行うというものです。単純な仕事ではあるものの、社員一人ひとり税金や社会保険料は異なりますし、その根拠となる法律の知識が必要です。加えて、会社の就業規則に定められたルールに従い、社員の勤怠を確認したうえで、計算しなければならないのです。
ミスも遅延も許されない仕事ですから、担当者にとっては、神経を使う大変な仕事です。

仕事とは何でしょうか?
給与担当者の適切な人数は?
給与計算業務をアウトソーシングする会社が増えている一方で、自社内で給与計算を行っている企業も依然として多く存在します。 特に中小企業では、社員規模に応じて1〜2名で担当しているケースが多いかもしれません。給与計算は会社の規模や業務内容によって必要な人員は異なりますが、担当者が突発的に休んだり退職したりすることを考慮すると、担当者が1人のみという状況はリスクを伴います。
しかし、給与計算は重要ではあるものの、直接利益を生み出す業務ではないため、担当者の人員を増やすことに躊躇してしまうのが実情として考えられます。中小企業の多くが100名未満であることもあり、1名の担当者が給与計算業務をこなしているケースも少なくないでしょう。
給与担当者が退職を申し出てきたらどうする?
前述のように給与計算は、ごく少人数の担当者で行っていることの多い業務です。中小企業はなおさらです。 そんな場合、給与担当者が突然辞めたいと言ってきたら、しかも引き継ぎの時間もないとなったら、大変です。給与計算を行うには、次々と改正が行われる労働関連法規や所得税法、社会保険や住民税の知識など把握している必要がありますし、実務につなげなくてはなりません。
急に退職となれば、急に知識豊富な後任を見つけるのも至難の業です。とはいえ、自社で給与計算を行っている場合は、そうしたリスクにも備えておかなければなりません。
ブラックボックスになりがちな給与計算業務。 担当者の退職は効率化のチャンス?
ミスや遅延が許されない給与計算業務。社員の個人情報を取り扱うこともあって、限られた担当者が行っています。そのため、給与業務を具体的にどのようなことを行なっているかわからない、給与担当者のやり方に任せきりでコントロールが困難な状況だったり、ブラックボックス化になっている会社も多いようです。もしも突然給与担当者が退職してしまったら…もし給与担当者が月初めや月末など、ただでさえ忙しい時期に退職してしまったら…業務量が膨れ上がり、対応が追いつかない事態は目に見えています。
そんなことにならないよう、今のうちから対策を講じておくことをおすすめします。ブラックボックス化している給与業務を、この機会に見直し、効率的な業務プロセスを整えましょう。事前対策を講じるためのポイントを押さえておきます。

ボックスにならないためにどのような
対応をすればよろしいのですか?
事前に給与計算業務のノウハウをマニュアル化しておこう
みなさんの会社では給与計算業務についての業務プロセス書やマニュアルなどの用意はあるでしょうか? ないようであれば、ぜひ作成しておくことをおすすめします。給与計算は計算する項目が多く、少しのミスが大きな失敗につながります。
また労働法や税法、社会保険などの知識だけでなく、自社の就業規則についても深い理解が必要です。属人化してしまうと、ブラックボックス、お手上げ状態になりかねません。ひとつひとつの作業を整理し、標準化したりマニュアル化してきましょう。
①給与計算の計算方法 期日を設定する社員に給与を支払うときは、雇用契約により定めて給与額から、各種保険料や税金などを控除し、差し引き支給額を確定する作業を行います。
給与については、毎月1回以上、一定の決まった期日に支払う必要がありますので、給与支払前の締め日を設定します。締め日から支払日までに、給与計算を行い支給額を確定、金融機関への給与データ送信することになります。必ず、給与支払日から遡って、「締め日」「計算期間日数」「金融機関へデータ送信する日」を、決めておきましょう。支払項目を決定自社で支払う「基本給」「各種手当」「通勤手当」など、どのようなものがあるかすべて整理します。各種手当のうち、労働基準法上支払う必要のある「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」については、労働基準法の割増率を下回らないよう、また就業規則で設定している割増率を設定します。会社独自に設定している項目については、就業規則どおりに支払います。控除項目を決定源泉所得税、社会保険料などのほか、会社独自に控除するものがあれば整理しておきます。所得税や社会保険料は、法律で決まったルールのもと計算します。
②勤怠の集計方法 勤怠の集計期間を確認しておきます。
勤怠の集計は、残業代にも関わる重要なプロセスです。会社が定めた所定労働時間や所定休日などをきちんと押さえておく必要があります。遅刻・早退・欠勤、有休なども就業規則に則って集計しなければなりません。さらに、会社によっては、事業場外みなし労働制、裁量労働制、フレックスなどさまざまな勤務形態を取り扱っている場合もあります。
該当する勤務形態ごとの集計方法も整理しておきます。労働基準法に大きく関わる部分が多いので、法令違反とならないようしっかりとマニュアルに明記しておきます。
③社会保険等の手続き 給与担当者があわせて行なっていることの多いのが、社会保険の手続きです。
「健康保険」「介護保険」と「厚生年金保険」などの社会保険料は、標準報酬月額に保険料率を掛けて計算します。会社負担分と社員負担分とがあり、社員負担分については総支給額から控除することになります。協会けんぽや健康保険組合によっても保険料率が異なりますので、自社の加入している保険制度をマニュアルにはきちんと明記しておきます。毎年、定時決定と呼ばれる4月・5月・6月の3カ月間の給与の平均額を「標準報酬月額表」に当てはめて決定がされます。「算定基礎届」という届け出を提出することになりますので、どのタイミングで届け出し、決定されるのかも記載しておくとよいでしょう。
また、定時決定以外でも昇給などによっても標準報酬月額が変動する場合もあります。
どのようなときに変動するのかも、押さえておくとよいでしょう。手続きが多いものとしては、資格取得届・資格喪失届・算定基礎届・賞与支払届・月額変更届です。
④毎月の流れ 給与計算を行ううえでの毎月の作業の流れもマニュアルに記載しておくと便利です。
記載の例(毎月勤怠締め15日、支給日25日の場合)15日:勤怠締め日。勤怠締め日までに人事異動や扶養家族の増減、振込先の変更がないかなど、確認しておきます。16〜17日:勤怠情報を集計します。出退勤や遅刻・早退・欠勤、有休などをチェックし、残業時間などを確認し、確定します。18〜19日:支給額・控除額を計算し、差し引き支給額を確定します。給与明細などの準備も行います。20日:金融機関に給与振り込みデータの送信25日:給与支給日。振り込みエラーなどがないか確認します。月末:前月分の社会保険料の納付を行います。翌月10日:社員から預かった源泉所得税や住民税を支払います。
⑤給与計算のQ&Aを用意しておくと便利
給与計算業務のマニュアル化を行うにあたって、便利なのがQ&Aを用意しておくこと。社員からよくある質問や、発生しやすいポイントなどをQ&Aにまとめておくことで、業務がスムーズに進みます。
給与計算のアウトソーシングも選択肢に
中小企業においても給与業務のアウトソーシングも増えています。これまでご説明してきたように給与計算業務は、ミスや遅延が許されないことに加え、専門知識が必要であるため、自社で人材育成していくのは結構労力がいるものです。中小企業の場合はとくに大変なのではないでしょうか。給与担当者が退職するため、いざ後任をみつけようと思っても、なかなか適任が見つからないということもあるはずです。そのような場合には、給与計算業務のアウトソーシングも選択肢として検討してはいかがでしょうか。
給与計算という個人情報にも関わる重要なデータを外部企業に渡すことに抵抗感の示す企業もありますが、情報漏えいについては、適切な管理を行なっているアウトソーシング先を選択することで、大きなハードルにはならないでしょう。逆に言えば、自社内で属人・ブラックボックス化した業務を、専門のアウトソーシング会社に委託したほうが、運用や管理が明確になり、リスク軽減につながる可能性もあります。
さらに給与計算はアウトソーシング会社に委託し、その業務に携わっていた人員を、他の戦略的な業務にアサインするといったことも可能になります。
いきなりアウトソーシングはできない。 専門家と相談しながら、アウトソーシングを。
メリットの多い給与計算のアウトソーシングですが、いきなりアウトソーシングに丸投げしてしまうのは、非常に危険です。かえって、ミスが増えたり、コスト増にもつながりかねません。重ねて言いますが、給与計算は関連する法律の範囲が広いことに加え、就業規則に準拠する形で進めていかなくてはなりません。また、企業独自の事情に応じて、カスタマイズしなければならないことも多く、業務プロセスが複雑になっている場合もあります。まずは、上記の給与計算のマニュアルでもご説明したポイントに沿って、専門家と相談しながら、整理していくことをおすすめします。
複雑なプロセスのままアウトソーシングするのではなく、アウトソーシングする際には複雑化したプロセスをシンプルにわかりやすく整えるよう、移行するのが望ましいでしょう。

経営視点のアドバイス
給与計算の退職リスクや負担軽減に外注は有効ですが、丸投げは危険です。自社の複雑な就業規則や業務プロセスを専門家と整理し、シンプルに整えてから移行すべきです。
給与計算トラブル事例
給与計算はミスや遅れが許されないというものの、けっこうミスが多い業務でもあります。給与担当者であると、1度や2度給与トラブルになったことはあるのでではないでしょうか?自社で発生させないよう、どんなトラブルが発生しやすいのかみておきます。
情報漏洩 うっかりミスとして多いのが、給与明細の印刷したまま放置しているケース。
他の社員も利用するプリンタから出力したにも関わらず、忘れて印刷しっぱなしにしてしまったというものです。他の人の目に触れないよう、取り扱いには十分な注意が必要です。また、給与明細を誤って別の人に配布することにも注意が必要です。
給与計算ミス
社会保険料を間違えたり、残業代の計算を誤ったり、給与計算自体のミスは発生しやすいものです。勤怠の情報を、給与計算ソフトに入力する際に、誤って入力し、残業代が正しく計算されなかったというようなことも起こりえます。とはいえ、勤怠システムから自動化で給与計算ソフトにデータ投入する仕組みと整えるなど、人的な入力ミスは、運用によってカバーできることも多いはずです。
少しのミスが大きな影響を与えないよう、ミスが起きそうな作業については、見直しが必要でしょう。給与計算のミスで間違った給与を支払ってしまうことで、トラブルに発展すれば、未払い賃金で訴えられる可能性もゼロではありません。
社会保険料の改定
社会保険料が改定されているにも関わらず、給与ソフトに反映せず、そのまま給与を支払ってしまったというケース。社会保険料の改定をきちんと反映させなければ、毎月の給与額にも影響します。また、社会保険料を改定しなければならないにも関わらず、そのまま届け出を忘れていたという逆のケースもあります。こちらは将来の年金額などにも影響しますので、より影響度は大きいものです。
昇給・降給などの際は、届け出や改定のミスがないよう、十分注意しなくてはなりません。 給与計算でよくあるミスやトラブルは、入力ミスからくる計算間違いや、労働基準法をはじめとした法令をきちんと理解していないことから発生することが多いようです。入力ミスに限ったことで言えば、なるべく手作業で入力する手順を減らすなど、運用方法を見直すことで改善できることも多いかと思います。
給与担当者の突然の退職に関するよくある質問
給与担当者の突然の退職に関する対応についてのよくある質問をまとめました。
給与担当者が「来月末で辞めます」と言い出しました。まず何をすべきですか?
現在の業務フローを「可視化」させるのが最優先です。
単に「やり方を聞く」のではなく、1ヶ月のスケジュール(いつ、どのデータを、どこから抽出して、どう計算するか)を時系列で書き出させ、「独自の計算エクセル」の数式の意味をすべて解明させる必要があります。
「給与ソフトを入れているから、誰でもできる」というのは本当ですか?
いいえ、危険な勘違いです。
ソフトは計算を自動化してくれますが、「入社・退社時の社会保険料の徴収(当月か翌月か)」「非課税通勤費の限度額設定」「欠勤控除の計算根拠」などの初期設定や判断基準は人間が管理しています。
退職後に「計算ミス」が発覚した場合、辞めた本人に責任を問えますか?
法的に損害賠償を請求するのは極めて困難です。
故意の横領などは別ですが、通常の業務上のミスについては、会社側の管理監督責任が問われます。そのため、在職中に「ダブルチェック」の体制を組み、ミスが起きない仕組みを作っておくことが重要です。
属人化を防ぐために、最低何名体制にするべきですか?
最低2名(メインとサブ)の体制が必須です。
たとえ小規模な会社でも、担当者が急病や事故で不在になるリスクがあります。普段からサブ担当者が一部の工程(勤怠の確認など)に関わり、いざという時にソフトを動かせる状態にしておくべきです。
属人化を解消するために、一番効果的な方法は?
クラウド給与ソフトへの移行と、業務フローの標準化です。
古いインストール型のソフトやExcel管理をやめ、誰でもどこからでも(権限があれば)確認できるクラウド型に移行しましょう。ソフトの標準機能に自社のルールを合わせることで、臨機応変に対応することができます。
まとめ
給与計算は属人的な業務になりがちです。会社としては、給与担当者が急病になったり、突然退職してしまって業務がストップしてしまうという事態は、非常に大きいリスクです。当然ながら、担当者が辞めたので、給与の支払いが遅れる、というわけにはいきません。
そうしたリスクを未然に防ぐために、事前の対策として何ができるか、アウトソーシングも含め、検討してはいかがでしょうか。
「自社内で給与計算を行いたいが、担当者の退職リスクには備えたい」「思い切ってアウトソーシングして、担当者をコア業務に集中させたい」アウトソーシングを依頼することで、経営者や担当者が本業に専念することができます。
見えていないコストを一度棚卸して、業務効率化を目指してみませんか?



