社会保険の加入手続きは、事業者が果たすべき重要な義務の一つです。 従業員を新たに雇用した場合や、事業所として初めて社会保険の適用を受ける際には、定められた期限内に正確な手続きを行わなくてはなりません。
この手続きは、事業所の状況や従業員の雇用形態によって手順や必要書類が異なります。
本記事では、社会保険の加入について、事業所の新規適用と従業員の追加という2つのパターンに分け、それぞれの手続きの流れや必要書類を具体的に解説します。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
- NHK「あさイチ」
- 中日新聞
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そもそも社会保険とは?事業者が加入する5つの保険制度を解説
社会保険とは、病気やケガ、失業、労働災害、高齢化といった生活上のリスクに備えるための公的な保険制度の総称です。
一般的に、事業者が加入する社会保険は「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」「雇用保険」「労災保険」の5つを指します。
このうち、健康保険、介護保険、厚生年金保険を狭義の社会保険、雇用保険と労災保険を労働保険と呼びます。
これらの制度により、従業員は安心して働くことができ、事業者は安定した労働力を確保することが可能になります。

社会保険への加入が法律で義務付けられている事業所の条件
法律により社会保険に加入する義務がある事業所を「強制適用事業所」と呼びます。 株式会社や合同会社などの法人は、事業主や従業員の意思にかかわらず、従業員が1人でもいれば社会保険への加入が義務付けられています。
また、従業員が常時5人以上いる個人事業所も、農林水産業やサービス業などの一部の業種を除き、強制適用事業所となります。 これらの条件に該当しない場合でも、従業員の半数以上の同意を得て申請すれば、任意で適用事業所になることが可能です。
正社員だけじゃない!社会保険に加入する従業員の条件とは
社会保険の加入対象は、正社員に限りません。 代表取締役や役員などの法人の代表者も、労働の対価として報酬を受けている場合は被保険者となります。
また、パートタイマーやアルバイトといった短時間労働者であっても、1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、同じ事業所で働く正社員の4分の3以上ある場合は加入義務が生じます。
この基準を満たさない場合でも、特定の条件を満たすことで加入対象となるため、雇用形態にかかわらず加入要件を確認することが重要です。
パート・アルバイト償却の社会保険の加入基準
パートやアルバイトの方の社会保険加入は、まず「4分の3基準」で判断されます。
これは、1週間の所定労働時間と1ヶ月の所定労働日数が、それぞれ同じ事業所の正社員の4分の3以上である場合に加入対象となる基準です。 この基準を満たさない短時間労働者でも、従業員数101人以上の企業(2024年10月からは51人以上)に勤務し、「週の所定労働時間が20時間以上」「月額賃金が8.8万円以上」「雇用期間が2ヶ月を超える見込み」「学生ではない」という4つの要件をすべて満たす場合は、社会保険の加入対象となります。
これにより、より多くのパートタイマーが社会保険の適用を受けられるようになっています。
【パターン別】社会保険の加入手続きの流れと必要書類
社会保険の加入手続きは、大きく分けて「事業所として初めて社会保険に加入する場合」と「既存の適用事業所が新たに従業員を雇い入れた場合」の2つのパターンが存在します。
会社を設立した際や個人事業所で従業員が加入要件を満たした場合は、前者の新規適用手続きが必要です。 一方、すでに適用事業所となっている会社が従業員を追加で雇用する際は、後者の手続きを行います。
それぞれのケースで手続きの流れや準備すべき書類が異なるため、自社の状況に応じた対応が求められます。
【新規適用】事業所として初めて社会保険に加入する場合の手続き
法人を設立した場合や、常時5人以上の従業員を使用する個人事業所となった場合など、新たに強制適用事業所に該当した際は、社会保険の新規適用手続きが必要です。
この手続きは、事業所の所在地を管轄する年金事務所または事務センターに対して行います。 主に「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を提出することが中心となりますが、同時に加入する従業員全員分の「被保険者資格取得届」も提出しなくてはなりません。
これらの手続きは、適用事業所となった事実が発生した日から5日以内に行う必要があり、迅速な対応が求められます。

事業所の新規加入手続きに必要な書類一覧
事業所が社会保険に新規加入する際、まず「健康保険・厚生年金保険新規適用届」の提出が必須です。 この届出には、法人であれば法人番号指定通知書のコピーや登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の添付が求められます。
個人事業所の場合は、事業主の世帯全員分の住民票が必要です。 同時に、加入する従業員全員分の「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」も提出します。
さらに、従業員に扶養家族がいる場合は「健康保険被扶養者(異動)届」も必要になります。 事業所の所在地が登記上の場所と異なる場合は、公共料金の領収書や賃貸借契約書のコピーなどの添付も求められることがあります。
年金事務所への新規適用届の提出ステップ
新規適用届を提出する際は、まず日本年金機構の公式サイトから最新の様式と記入例をダウンロードします。 公式サイトには手続きに関する詳細なマニュアルも掲載されているため、事前に確認しておくとスムーズです。
様式に事業所の名称、所在地、法人番号、事業主情報などを正確に記入し、登記簿謄本などの必要書類を揃えます。 書類が準備できたら、事業所の所在地を管轄する年金事務所の窓口に持参するか、事務センターへ郵送します。
近年ではe-Govを利用した電子申請も可能で、場所や時間を選ばずに手続きを完結させることができます。 提出前に記載内容や添付書類に漏れがないか、入念に確認することが重要です。
【従業員追加】新たに従業員を雇い入れた場合の手続き
すでに社会保険の適用事業所である会社が、新たに従業員を雇用した際には、その従業員を社会保険に加入させるための手続きを行います。 この手続きの核心は、年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出することです。
提出期限は、雇用した日(資格取得日)から5日以内と定められています。 従業員に配偶者や子どもなど、健康保険の扶養に入る家族がいる場合は、「健康保険被扶養者(異動)届」もあわせて提出することが必要です。
この手続きを怠ると、従業員やその家族の健康保険証が発行されず、医療機関での受診に支障をきたす可能性があるため、速やかな対応が求められます。
会社側で準備・作成が必要な書類
従業員を新たに追加する際、会社が主に作成する書類は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」です。
この書類には、採用した従業員の氏名、生年月日、マイナンバー(または基礎年金番号)、資格取得年月日(入社日)、報酬月額といった情報を記載します。 報酬月額は、基本給や通勤手当などを含めた月々の総支給額を基に算定します。 もし従業員に扶養する家族がいる場合は、「健康保険被扶養者(異動)届」も作成しなくてはなりません。
これらの届出用紙は、日本年金機構のウェブサイトからダウンロードするか、年金事務所の窓口で入手できます。
正確な書類作成のため、従業員から提出された情報と照らし合わせながら進めます。
従業員本人から提出してもらう書類
社会保険の加入手続きを進めるにあたり、会社は従業員本人からいくつかの書類を提出してもらう必要があります。 最も重要なのは、基礎年金番号を確認できる書類、具体的には「年金手帳」または「基礎年金番号通知書」です。
もし紛失している場合は、マイナンバーが確認できる書類(マイナンバーカードやそのコピー)でも手続きが可能です。 扶養家族を健康保険に加入させる場合は、その家族のマイナンバーも必要となります。
状況によっては、扶養の事実を確認するために続柄を証明する住民票や、収入要件を確認するための非課税証明書などの提出を求めることもあります。 入社前にこれらの必要書類を伝えておくと、手続きが円滑に進みます。
従業員の資格取得手続きの具体的なステップ
従業員の社会保険資格取得手続きは、まず本人から基礎年金番号やマイナンバーを確認できる書類を提出してもらうことから始まります。 次に、その情報を用いて会社が「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を作成します。
扶養家族がいる場合は「健康保険被扶養者(異動届」も同時に作成します。 書類が完成したら、入社日などの事実発生日から5日以内に、管轄の年金事務所または事務センターへ提出します。
提出方法は、窓口持参、郵送、電子申請のいずれかを選択可能です。 手続きが受理されると、約1〜2週間で新しい健康保険証が会社宛に届くので、速やかに従業員本人へ渡します。

経営視点のアドバイス
新規加入時は「新規適用届」、採用時は「資格取得届」を5日以内に提出しましょう。マイナンバーや基礎年金番号等の必要書類を早めに本人へ案内しておくことで、不備を防ぎ、スムーズな保険証発行に繋げる重要なポイントとなります。
どこで手続きする?社会保険の加入申請ができる3つの方法
社会保険の加入手続きは、主に3つの方法で行うことができます。
1つ目は、事業所の所在地を管轄する年金事務所の窓口へ直接書類を持参する方法です。
2つ目は、管轄の事務センターへ必要書類を郵送する方法です。
そして3つ目が、政府のオンラインサービスである「e-Gov(イーガブ)」を利用した電子申請です。
それぞれの方法には利点と注意点があるため、事業所の規模や担当者の状況、手続きの緊急度などに応じて最適な手段を選択することが大切です。

管轄の年金事務所窓口で直接申請する
事業所の所在地を管轄する年金事務所の窓口へ直接出向き、申請書類を提出する方法です。 この方法の最大の利点は、その場で担当者に書類の内容を確認してもらえることです。
記載内容に誤りや不明点があれば直接質問でき、軽微な修正であればその場で対応可能なため、手続きに不慣れな場合に特に安心感があります。
ただし、年金事務所の開庁時間は平日の日中に限られており、窓口の混雑状況によっては待ち時間が発生することも考慮しなくてはなりません。
訪問する際は、会社の代表者印や届出印、担当者の身分証明書を持参すると、万が一の訂正にスムーズに対応できます。
事務センターへ必要書類を郵送して申請する
年金事務所の窓口へ行く時間がない場合に便利なのが、郵送による申請方法です。
作成した届出書類一式を、事業所の所在地を管轄する事務センター宛に送付します。 送付先は年金事務所の窓口とは異なる場合が多いため、日本年金機構のウェブサイトで管轄の事務センターを事前に確認することが不可欠です。 郵送申請は場所や時間を選ばない利便性がある一方で、書類に不備があった場合は返送され、手続き完了までに時間がかかるというデメリットがあります。
マイナンバーなどの重要な個人情報を含むため、送付する際は配達状況が追跡できる特定記録郵便や簡易書留を利用することが推奨されます。
オンラインで完結する電子申請(e-Gov)
e-Gov(イーガブ)は、政府が運営する行政手続きのオンライン窓口で、社会保険の各種手続きもここから電子申請が可能です。 24時間365日、オフィスや自宅のパソコンから申請できるため、窓口へ出向く手間や郵送コストを削減できる点が大きなメリットです。
ペーパーレス化にもつながり、業務効率の向上に貢献します。 利用にあたっては、事前に「GビズID」のアカウント取得などが必要で、初めての場合は初期設定に多少の時間を要します。
しかし、一度環境を整えれば、その後の申請作業は非常に効率的に行えるため、特に入退社の手続きが頻繁に発生する事業所におすすめの方法です。
社会保険の加入手続きの提出期限はいつまで?
社会保険の加入手続きには、法律で定められた提出期限があります。 事業所が新たに社会保険の適用事業所となった場合の「新規適用届」や、新たに従業員を雇用した際の「被保険者資格取得届」は、いずれも事実が発生した日(会社の設立日や従業員の入社日など)から5日以内に提出しなければなりません。
この期間は土日祝日も含まれるため、非常にタイトなスケジュールとなります。
適切なタイミングで手続きを行わないと、従業員の保険証発行が遅れるなどの不利益が生じるため、雇用が決まったら速やかに準備を進めることが重要です。
社会保険への未加入が発覚した場合の罰則について
社会保険の加入義務があるにもかかわらず、手続きを怠り未加入の状態が続くと、厳しい罰則が科される可能性があります。
年金事務所による加入状況の調査などで未加入が発覚した場合、指導に従わなければ最大で過去2年間にさかのぼって保険料を追徴されることがあります。 この場合、会社負担分と従業員負担分の両方を一括で納付する必要があり、多額の負担となります。
さらに、健康保険法や厚生年金保険法には、正当な理由なく加入手続きを行わない事業者に対し、懲役刑や罰金刑を科す規定も存在します。 意図的な未加入は、従業員が無保険状態になるなど多大なリスクを伴います。

社会保険加入手続きに関するよくある質問
社会保険の加入手続きを進める上では、さまざまな疑問が生じることがあります。 例えば、従業員の試用期間中の扱いや、パートタイマーを加入させる具体的な基準、また国民健康保険からの切り替えに従業員本人の手続きが必要かどうかなど、実務で判断に迷うケースは少なくありません。
ここでは、事業所の担当者から特によく寄せられる質問をピックアップし、Q&A形式で分かりやすく回答します。 これらの回答を参考にすることで、手続きに関する疑問を解消し、よりスムーズな対応が可能になります。
従業員の試用期間中も社会保険への加入は必要ですか?
はい、必要です。
試用期間は雇用契約の一部であり、その期間中であっても社会保険の加入要件を満たす従業員は、入社初日から加入させる義務があります。 「試用期間が終わってから本採用後に加入させる」といった扱いは法律で認められていません。
2ヶ月以内の短期契約で更新予定がない場合、社会保険への加入は必要ですか?
当初から2ヶ月以内の期間を定めて雇用される場合は社会保険の加入は不要です。
契約更新の条項がある場合や、実際に2ヶ月を超えて雇用された場合は、その時点から加入義務が発生します。
従業員が国民健康保険から切り替える際、個人での手続きは必要ですか?
はい、従業員個人での手続きが必要です。
会社での社会保険加入手続きが完了し、新しい健康保険証が交付された後、本人が市区町村の役所窓口で国民健康保険の脱退手続きを行わなくてはなりません。 その際、会社の健康保険証と国民健康保険証の両方が必要です。
パートタイマーを社会保険に加入させる具体的な基準を教えてください。
主な基準は、1週間の所定労働時間と1ヶ月の所定労働日数が、それぞれ同じ事業所の正社員の4分の3以上であることです。
この基準に満たなくても、週20時間以上の勤務や月額賃金8.8万円以上など、所定の要件を全て満たす場合は加入対象となります。
社会保険の加入手続きを忘れたり、意図して出さなかった場合の「罰則」はありますか?
はい、明確な罰則があります。
正当な理由なく届出を拒否したり、虚偽の報告をした事業主に対しては、「6か月以下の懲役」または「50万円以下の罰金」が科される可能性があります。
まとめ
社会保険への加入は、法律で定められた事業者の義務であり、従業員の生活を支える重要なセーフティネットです。
手続きには、事業所として初めて加入する「新規適用」と、新たに従業員を雇用した際の「資格取得」の2つの主要なパターンがあります。
どちらの手続きも、事実が発生した日から5日以内という短い期限内に、正しい書類を年金事務所へ提出しなくてはなりません。
提出方法は窓口、郵送、電子申請から選択できますが、いずれの場合も事前の準備と正確な書類作成が不可欠です。
本記事で解説した手続きの流れや必要書類を参考に、漏れのないよう着実に手続きを進めてください。



