就業規則の作成方法は、企業の労務管理における根幹をなす重要な手続きです。 従業員が10人以上になった場合、労働基準法に基づき作成と届出が義務付けられています。
この記事では、就業規則の作成から届出、周知までの具体的な手順を5つのステップに分け、必要な記載項目や作成時のポイントを分かりやすく解説します。 法的に不備のない手続を進め、健全な職場環境を整えるための参考にしてください。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
- NHK「あさイチ」
- 中日新聞
- 船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri/
取材・寄稿のご相談はこちらから

そもそも就業規則とは?作成義務の対象となる企業
就業規則は、労働時間、賃金、服務規律といった労働条件や職場のルールを体系的に定めた規則集です。 労働者と会社との間の約束事を明文化したものであり、労使間の無用なトラブルを防ぎ、企業の秩序を維持する役割を担います。
就業規則を作成することで、労働条件が明確になり、従業員は安心して業務に取り組むことができ、会社側も一貫性のある労務管理が可能になります。

常時10人以上の従業員がいる事業場は作成が必須
労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。 この「労働者」には、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、契約社員なども含まれます。
そのため、多様な雇用形態の従業員を含めて合計が10人以上になった時点で、この要件に該当します。 従業員数が10人未満の事業場に作成義務はありませんが、労務トラブル防止の観点から作成しておくことが推奨されます。
作成義務を怠った場合の罰則と労務上のリスク
作成義務があるにもかかわらず、就業規則を未作成であったり、労働基準監督署へ届け出ていなかったりした場合は、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、罰則だけでなく、解雇や懲戒処分などに関して従業員とトラブルになった際、会社のルールが明文化されていないことで、企業側が不利な判断を受けるリスクも高まります。
就業規則の作成から届出・周知までの全5ステップ
就業規則の作成は、単に条文を作るだけでなく、労働基準法に定められた手続きを踏む必要があります。 具体的には、原案の作成から始まり、労働者代表からの意見聴取、労働基準監督署への届出、そして従業員への周知という一連の流れで進めます。
これらの手続きを一つでも怠ると、就業規則が無効と判断される可能性もあるため、各ステップを確実に実行することが重要です。

周知の方法について解説します。
ステップ1:盛り込むべき内容を整理し原案を作成する
最初に、就業規則に盛り込むべき内容を整理し、条文の原案を作成します。 まずは、自社の労働時間、休日、賃金体系、服務規律といった現状のルールを洗い出します。 その上で、法律で記載が義務付けられている「絶対的必要記載事項」と、社内に制度がある場合に記載が必要な「相対的必要記載事項」を漏れなく含めることが重要です。
個別の労働契約書の内容とも整合性を図りながら、自社の実態に合った原案を作り上げます。
ステップ2:労働者の代表から意見を聴取する
就業規則の原案が完成したら、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、またはそれがない場合は労働者の過半数を代表する者から意見を聴取しなければなりません。 これは、労働者側の意見を反映させるための重要なプロセスです。 代表者から聴取した意見は「意見書」として書面にまとめ、署名または記名押印をもらいます。
同意を得る必要はなく、あくまで意見を聴くことが法律上の義務です。
ステップ3:意見書を添付して労働基準監督署へ届け出る
労働者代表からの意見書を準備したら、「就業規則(変更)届」と合わせて、所轄の労働基準監督署へ提出します。 提出する書類は、就業規則届、意見書、そして作成した就業規則の3点です。 届出の期限について法的な期間の定めはありませんが、作成後は遅滞なく提出することが求められます。
手続きは窓口への持参のほか、郵送や電子申請(e-Gov)でも可能です。 提出日から効力が発生するわけではない点に注意しましょう。
ステップ4:完成した就業規則を全従業員へ周知する
労働基準監督署へ届け出た就業規則は、その内容を全従業員へ周知する義務があります。 周知されて初めて就業規則は法的な効力を持ちます。 周知の方法としては、事業場の見やすい場所への掲示や備え付け、書面での交付、あるいは従業員がいつでもアクセスできる社内ネットワークや共有フォルダへのデータ保存などが認められています。
従業員がその内容をいつでも確認できる状態にしておくことが重要です。
ステップ5:法改正に合わせて定期的に内容を見直す
就業規則は一度作成したら終わりではありません。 労働基準法などの関連法令は頻繁に改正されるため、法改正のタイミングで内容を見直し、適切に変更する必要があります。 また、会社の経営状況や働き方の変化に合わせて、実態にそぐわなくなった箇所を修正することも重要です。
就業規則を変更した場合も、新規作成時と同様に、労働者代表からの意見聴取、労働基準監督署への届出、従業員への周知という一連の手続きが求められます。
就業規則に必ず記載すべき項目とは?
就業規則に記載する項目は、法律によって定められています。 これらは「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」「任意的記載事項」の3つに分類されます。 特に絶対的必要記載事項は、一つでも欠けていると就業規則として認められないため注意が必要です。
厚生労働省が公開しているモデル就業規則などを参考に、自社に必要な項目を網羅的に盛り込むことが求められます。
【絶対的必要記載事項】記載が義務付けられている項目
絶対的必要記載事項は、就業規則に必ず記載しなければならない項目です。 これらが欠けていると、労働基準監督署で受理されない可能性があります。
1.始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
2.賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
3.退職に関する事項(解雇の事由を含む)
【相対的必要記載事項】定めがある場合に記載が必要な項目
相対的必要記載事項は、会社に該当する制度を設ける場合に記載が必要な項目です。制度がない場合は記載の必要はありません。
具体的には、退職手当、臨時の賃金、最低賃金額、食費や作業用品などの労働者負担、安全衛生、職業訓練、災害補償及び業務外の傷病扶助、表彰及び制裁に関する事項、休職に関する事項などが定められています。
【任意的記載事項】企業理念など自由に定められる項目
任意的記載事項は、法律上の記載義務はありませんが、会社が任意で定めることができる項目です。 主に、企業の秩序維持や円滑な事業運営のために設定されます。
具体例としては、会社の経営理念や基本方針、服務規律のより詳細な内容(服装、ハラスメント防止規定など)、副業・兼業に関するルール、採用手続きなどが挙げられます。 ただし、法令や労働協約に反する内容は定めることができません。

経営視点のアドバイス
就業規則には、必ず記載する始業時刻や賃金等の「絶対的事項」、制度がある場合に記す退職金等の「相対的事項」、経営理念など自由に定められる「任意的事項」があります。
就業規則は自社で作れる?専門家への依頼も検討しよう
。就業規則の作成は、自社で行う方法と、社会保険労務士(社労士)などの専門家に依頼する方法があります。 自社で作成すれば費用を抑えられますが、法的な知識や時間が必要です。 一方、専門家に依頼すると費用はかかりますが、法改正に対応した、自社の実態に即した質の高い就業規則を確実に作成できます。
どちらの方法が適しているか、メリット・デメリットを比較し、必要に応じて専門家への相談も検討しましょう。

費用を抑えられる!厚生労働省のひな形を活用して自作する方法
費用を抑えて自分で就業規則を作成する場合、厚生労働省が無料で提供している「モデル就業規則」のテンプレートを活用するのが一般的です。 これをベースに、自社の実態に合わせて内容を修正・追加していくことで、基本的な骨子を作ることが可能です。 また、近年ではWeb上で利用できる就業規則作成支援ツールや、労務管理システムに付属する作成支援機能もあり、これらを利用することで効率的に作業を進められます。
専門家(社労士など)に作成を依頼するメリット
専門家である社会保険労務士に作成代行を依頼する最大のメリットは、法的な要件を漏れなく満たし、かつ企業の状況に合わせた最適な就業規則を作成できる点です。 最新の法改正への対応はもちろん、将来起こりうる労務トラブルを未然に防ぐための条項を盛り込むことが可能です。
また、作成にかかる時間や手間を大幅に削減できるため、経営者や担当者は本来の業務に集中できます。
専門家に依頼した場合の費用相場
社会保険労務士に就業規則の作成を依頼した場合の料金は、依頼内容や企業の規模によって変動します。新規作成の費用相場は、3万円から100万円以上と幅広く、既存規則の改定や見直しは基本料金の50%程度で対応するケースもあります。
顧問契約を結んでいる場合は、契約料金の範囲内で対応してくれることもあります。複数の事務所から見積もりを取り、サービス内容と料金を比較検討することが重要です。
就業規則の作成に関するよくある質問
就業規則の作成を進める上では、さまざまな疑問が生じることがあります。 例えば、従業員数のカウント方法や、事業場が複数ある場合の届出方法など、具体的な運用に関する注意点です。 ここでは、担当者が抱きやすいよくある質問とその回答をまとめました。
パートやアルバイトも「常時10人」の従業員数に含まれますか?
はい、含まれます。 「常時使用する労働者」には、正社員だけでなく、パートタイマー、アルバイト、契約社員、嘱託社員など、雇用形態にかかわらず事業場で働くすべての労働者が該当します。
そのため、これらの従業員の合計人数が10人以上になる場合は、就業規則の作成と届出の義務が生じます。
複数の支店や営業所がある場合、本社で一括して作成できますか?
本社で一括して作成し、届け出ることは可能です。 ただし、原則として就業規則は事業場ごとに作成・届出が必要です。
各事業場の労働条件が本社と同一である場合に限り、本社の所在地を管轄する労働基準監督署に対して、すべての事業場分を一括してオンライン(電子申請)で提出する「本社一括届出」というスマートな実務手続きが認められています。これにより、全国に支店がある企業でも、各労基署へ個別に書類を送る手間を大幅に削減できます。
従業員代表からの意見書で反対された場合、就業規則は無効になりますか?
いいえ、無効にはなりません。 法律で義務付けられているのは、労働者代表の「意見を聴く」ことであり、「同意を得る」ことではありません。
そのため、意見書の内容が反対意見であったとしても、その意見書を添付して届け出れば、手続きとしては有効に成立します。 ただし、労使関係の観点から、反対の理由については真摯に検討することが望ましいです。
まとめ
就業規則は、企業の秩序を維持し、従業員が安心して働ける環境を整えるための基本的なルールブックです。 常時10人以上の従業員がいる事業場では作成が法的に義務付けられており、作成から届出、周知まで定められた手順を踏む必要があります。
厚生労働省のひな形を活用して自作する方法もありますが、法的な不備や労務リスクを避けるためには、社会保険労務士などの専門家への相談も有効な選択肢です。
本記事で解説したステップや記載項目を参考に、自社の実態に合った適切な就業規則を整備してください。



