「企業型DC」という言葉を耳にする機会が増えていますが、実際にどのような制度なのか、退職金や厚生年金とどう違うのかを正確に理解している経営者・人事労務担当者はまだ多くありません。社会保険労務士法人とうかいには、就業規則の整備や社会保険手続きのご相談とあわせて、「企業型DCを導入すべきか」というご相談が年々増えています。本記事では、企業型DCの基本的な仕組みと、制度導入を検討する際に押さえておきたいポイントを、社会保険・労務の専門家の立場から整理します。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
- NHK「あさイチ」
- 中日新聞
- 船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri/
取材・寄稿のご相談はこちらから

企業型DCの基本的な仕組み
企業型DC(企業型確定拠出年金、企業型Defined Contribution Plan)とは、確定拠出年金法にもとづき、会社が掛金を拠出し、従業員(加入者)自身がその資金を金融商品で運用する私的年金制度です。掛金は毎月会社が拠出し、専用の口座に積み立てられます。運用商品(投資信託、定期預金、保険商品など)は会社があらかじめ用意した商品ラインアップの中から、従業員一人ひとりが自分の判断で選択します。
ポイントは「拠出額」があらかじめ確定しているのに対し、「将来受け取る給付額」は運用成績によって変動するという点です。これは、給付額があらかじめ決まっている確定給付企業年金(DB)や、国が運営する厚生年金・国民年金とは根本的に異なる考え方です。運用がうまくいけば給付額は増えますが、運用がふるわなければ元本を下回る可能性もあり、運用リスクは加入者本人が負う「自己責任」の制度である点は、従業員に必ず理解してもらう必要があります。


企業型DCの主な特徴
企業型DCには、次のような特徴があります。
第一に、掛金は原則として会社が全額負担します。会社の退職金制度・福利厚生制度の一環として位置づけられ、給与や賞与とは別に、将来の資産形成を会社が後押しする仕組みです。
第二に、掛金には税制優遇があります。会社が拠出する掛金は損金算入でき、法人税の計算上のメリットがあります。また、拠出した掛金は従業員の給与とはみなされないため、所得税・住民税、社会保険料の算定対象にもなりません(この点は制度設計や運用状況によって取り扱いが異なる場合があるため、実際の適用にあたっては顧問の社労士・税理士にご確認ください)。

第三に、従業員が上乗せで拠出できる「マッチング拠出」や、会社の制度に加えて個人型のiDeCoに加入する選択肢もあります(iDeCoとの併用については別記事で詳しく解説します)。
第四に、原則60歳以降でなければ資産を引き出せません。転職や退職をしても、資産は次の勤務先の企業型DCやiDeCo、あるいは国民年金基金連合会の管理する口座に移換(ポータビリティ)でき、老後資産としてそのまま積み立てを継続できます。
企業型DCの対象者と加入要件
企業型DCは、企業型DCを実施している会社に勤める従業員が加入対象です。実施企業の労使合意にもとづき、原則として厚生年金保険の被保険者である従業員全員を対象とすることが基本ですが、一定の資格(勤続年数、職種、雇用形態など)で加入対象を限定する規約を定めることも可能です。ただし、特定の者を不当に差別的に取り扱う規約は認められません。加入できる年齢の上限は制度改正により拡大されており、原則70歳未満まで加入し掛金を拠出できます(会社の規約の定め方によって異なるため、詳細は厚生労働省の案内でご確認ください)。

個人型(iDeCo)との違い
よく混同されるのが、個人が任意で加入する「iDeCo(個人型確定拠出年金)」です。企業型DCは会社が主体となって導入し掛金を拠出する制度である一方、iDeCoは加入者本人が金融機関を選び、自分の意思で掛金を拠出する制度です。企業型DCがある会社の従業員でも、規約の定めや掛金の状況によってはiDeCoに併用加入できるケースがあります。この違いは非常に重要なので、次回の記事で詳しく解説します。
なぜ今、企業型DCが注目されているのか
退職金制度を確定給付型(DB)から確定拠出型(DC)へ移行する企業や、退職金制度そのものがなかった中小企業が新たに企業型DCを導入するケースが増えています。背景には、少子高齢化にともなう公的年金の給付水準への不安、老後資金を「自助努力」で形成する必要性の高まり、そして人材確保・定着のための福利厚生強化という、複数の要因があります。
とりわけ中小企業にとっては、大企業のような手厚い退職金制度を用意することが難しい中で、企業型DCは掛金を柔軟に設計しやすく、比較的導入しやすい制度として選ばれる傾向にあります。求人票に「企業型DCあり」と明記することで、採用競争力の向上につながるという声も、顧問先企業から多く聞かれます。


退職金制度全体における企業型DCの位置づけ
企業型DCは、会社の退職給付制度を構成する選択肢の一つにすぎません。実際には、次のようなパターンで導入されています。
- 企業型DC単独型:退職一時金や確定給付企業年金(DB)を設けず、企業型DCのみを退職給付制度とするパターン。中小企業での導入例が多い形です。
- 退職一時金との併用型:従来からの退職一時金制度の一部、または将来分の積立を企業型DCに切り替えるパターン。
- DBとの併用型:確定給付企業年金(DB)を維持しつつ、上乗せの資産形成手段として企業型DCを追加するパターン。大企業に多く見られます。
自社にとってどのパターンが適切かは、現在の退職金規程の内容、資金繰り、従業員構成(年齢層や勤続年数)によって大きく変わります。既存の退職一時金制度から企業型DCへ移行する場合は、従業員の不利益変更に該当しないよう、就業規則・退職金規程の改定手続きや労使協議を丁寧に行う必要があります。
よくある質問
会社の業績が悪化したら、掛金は減らせますか?
規約の変更により掛金額の水準を見直すことは可能ですが、労使合意や規約変更の手続きが必要であり、一方的な減額はできません。
既存の加入者に対する不利益変更にあたる場合は、より慎重な手続きが求められます。
パートやアルバイトも加入できますか?
規約の定め方次第です。
厚生年金保険の被保険者であることを前提に、勤務形態や勤続年数などの資格要件を規約で設定できますが、合理的な理由のない差別的な取り扱いは認められません。
制度を導入する義務はありますか?
企業型DCの導入自体は任意です。
ただし、他社との採用競争や従業員の資産形成ニーズの高まりを踏まえ、退職金制度の見直しの選択肢として検討する企業が増えています。
導入を検討する際の注意点
企業型DCは一度導入すると、労使合意にもとづく規約変更や、制度の廃止(他制度への移行)には一定の手続きが必要になります。安易に「流行っているから」という理由だけで導入するのではなく、自社の退職金制度全体の設計、就業規則との整合性、既存の社会保険・給与制度への影響を踏まえた上で検討することが重要です。

また、制度を導入した後は、従業員に対する継続的な投資教育(努力義務)や、運営管理機関の定期的な評価も求められます。導入したら終わりではなく、「導入後にどう運用し、従業員にどう理解してもらうか」まで見据えた設計が欠かせません。
まとめ
企業型DCは、掛金拠出時・運用時・給付時それぞれに税制上のメリットがある一方、運用リスクを従業員自身が負う制度です。労務管理・社会保険の観点から見ても、就業規則や退職金規程との整合性を取りながら制度設計を行う必要があり、専門的な知識が求められます。
社会保険労務士法人とうかいでは、企業型DCの導入を検討される企業様に対して、就業規則・退職金規程の整備、社会保険や税務との関係整理など、労務の専門家としての立場からサポートを行っています。加えて、制度の具体的な設計や運営管理機関の選定、実際の導入手続きといった実務面については、企業型DCの導入支援を専門に行うグループ会社の株式会社日本企業型確定拠出年金センターと連携し、ワンストップでご支援することも可能です。企業型DCの導入を検討されている場合は、まずは社会保険労務士法人とうかいまでお気軽にご相談ください。
※本記事の内容は執筆時点の制度にもとづく一般的な情報です。拠出限度額や加入年齢などの制度詳細は法改正により変更される場合がありますので、最新の内容は厚生労働省の公式サイト(https://www.mhlw.go.jp/)でもあわせてご確認ください。




