結論(この記事で分かること) 給与計算の委託先が廃業・撤退するときは、廃業日から逆算して「データの受け取り→並行稼働→本番切り替え」の順に進めれば、給与の支払いを止めずに移行できます。当年1月からの支給累計(年末調整に必要)と住民税の特別徴収額は必ず受け取り、年末調整の担当を新旧で事前に決めておきましょう。
委託先の廃業が決まると、「何のデータをもらえばよいか」「年の途中で移って年末調整は大丈夫か」と迷う担当者は少なくありません。この記事では、社会保険・労務管理の専門家である社会保険労務士法人とうかいが、給与計算の移行手順、受け取るべきデータ、年の途中で移る場合の注意点を解説します。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
- NHK「あさイチ」
- 中日新聞
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結論:廃業日から逆算し、「受け取り→並行稼働→切り替え」で進める
給与計算の移行は、委託先の業務終了日から逆算して計画することが最も重要です。終了直前の受け取りでは、確認や設定が間に合わないおそれがあります。
また、委託先が変わっても、賃金台帳を調製し賃金支払の都度記入する義務は使用者(会社)にあります(労働基準法108条)。廃業後も会社の手元にデータが残るよう準備しましょう。

このセクションのポイント
- 委託先の業務終了日から逆算してスケジュールを組む
- 賃金台帳の義務は会社にあり、廃業後もデータを手元に残す
移行の手順と受け取るべきデータ
どんな手順で進めればよい?
次の3段階で進めます。
| 段階 | やること |
|---|---|
| 1. データの受け取り | 下表のデータを受け取り、件数・金額の抜けを確認する |
| 2. 並行稼働 | 同じ月の給与を新旧両方で計算し、結果を突き合わせる |
| 3. 本番切り替え | 差額の原因を解消してから、新しい委託先の計算で支給する |
並行稼働とは、切り替え前に新旧の委託先が同じ月の給与を計算し、結果を照合する期間です。
何のデータを受け取ればよい?
最低限、次の7つを受け取ります。
| データ | 主な内容・使い道 |
|---|---|
| 従業員マスタ | 氏名、入社日、雇用形態、扶養の状況、振込口座 |
| 給与・手当の設定 | 基本給、手当の支給条件、割増賃金の計算方法、締め日 |
| 住民税の特別徴収額 | 従業員ごとの月割額と、当年度の通知書 |
| 社会保険の標準報酬月額 | 従業員ごとの等級と、直近の昇給・手当変更の履歴 |
| 雇用保険の情報 | 被保険者の区分、被保険者番号 |
| 当年の支給累計 | 1月からの支給額、源泉徴収税額、社会保険料控除額(年末調整に必要) |
| 賃金台帳 | 保存期間内の過去分 |
賃金台帳には、労働日数、労働時間数、賃金の種類ごとの額、控除額などを記入します(労働基準法施行規則54条)。保存期間は5年(経過措置により当分の間は3年)です(同法109条・143条)。
バックアップデータは、新しい給与ソフトで読み込めるかを早めに確認しましょう。マイナンバーを含むデータは受け渡し方法を決めておくと安全です。
年の途中で移るときの注意点は?
年末調整とは、1年間に源泉徴収した所得税と、その年に納めるべき所得税の額を一致させる手続きです。1月1日から12月31日までの給与の合計額で計算するため、移行前の支給累計が欠かせません。年内に廃業する場合は、年末調整、源泉徴収票の作成、給与支払報告書の提出(毎年1月末まで)の担当を先に決めましょう。

住民税の特別徴収とは、会社が従業員に代わって毎月の給与から住民税を差し引き、市区町村に納める制度です。徴収は6月から翌年5月までで、5月31日までに届く特別徴収税額決定通知書の金額に切り替わります。5〜6月に移行する場合は、新年度の金額の反映漏れに注意してください。
標準報酬月額は、定時決定により9月から翌年8月まで適用されます。秋に移行する場合は9月以降の等級の反映を確認しましょう。
このセクションのポイント
- 7つのデータを受け取り、並行稼働で照合する
- 年末調整(1〜12月の累計)、住民税(6月)、標準報酬月額(9月)の切り替えに注意する
社会保険労務士法人とうかいからのアドバイス
今日から次の3点に取り組みましょう。
- 最終データの受け渡し日を確定する:最終の給与支給日と、年末調整の担当を書面で確認する
- データを会社でも保管する:賃金台帳など保存義務のある書類を会社の手元に残す
- 窓口の一本化を検討する:給与計算と労務管理を別々に委託すると、入退社や昇給の情報の連携確認に手間がかかります。社労士事務所が給与計算も担当すれば、手続きと給与への反映を一つの窓口で確認できます

このセクションのポイント
- 受け渡し日と年末調整の担当を書面で確認し、データを会社にも残す
- 給与計算と労務管理の窓口一本化も検討する
よくある質問(FAQ)
Q1. 年の途中で委託先を変えても、年末調整はできますか?
はい、できます。年末調整は会社が1年分の給与で行うものなので、移行前の支給額・源泉徴収税額・社会保険料の累計を新しい委託先に引き継げば計算できます。累計データは必ず受け取りましょう。

Q2. 委託先を変えると、住民税の手続きは必要ですか?
いいえ、委託先の変更だけで特別徴収の義務者が変わることはありません。義務は給与を支払う会社にあるためです。通知書の送付先を委託先にしている場合などの手続きの要否は、各市区町村に確認してください。

Q3. 並行稼働はどれくらいの期間行えばよいですか?
一律の決まりはありません。少なくとも1回分の給与を新旧で計算し、差額がなくなるまで照合することをおすすめします。
Q4. 社労士事務所に給与計算と労務管理をまとめて頼めますか?
はい、給与計算を引き受けている社労士事務所であれば、まとめて依頼できます。年末調整など税務に関わる業務の対応範囲は事務所によって異なるため、契約前に確認しましょう。
まとめ
給与計算の委託先が廃業・撤退するときは、業務終了日から逆算して「受け取り→並行稼働→切り替え」の順に進めます。当年の支給累計と住民税の特別徴収額は必ず受け取り、年末調整の担当を事前に決めましょう。社会保険労務士法人とうかいでは、給与計算の引き継ぎや窓口の一本化についてご相談を承っていますので、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

参考資料
- e-Gov法令検索「労働基準法」第108条(賃金台帳)・第109条(記録の保存)・第143条(経過措置):https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」第54条(賃金台帳の記入事項):https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023
- 厚生労働省「賃金台帳等の労働契約関係の書類の保存期間は何年ですか?」(スタートアップ労働条件):https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/qa/zigyonushi/syuugyoukisoku/q6.html
- 国税庁 タックスアンサー No.2662「年末調整のしかた」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2662.htm
- 東京都主税局「個人住民税と特別徴収について」(特別徴収Q&A):https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/life/kojin_ju/tokubetsu/about
- 日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」:https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.html



