2025年の重要なニュースとして、障害者雇用率が2.7%に引き上げることが決定されました。 これは2026年4月から施行される予定です。
特に100名以上の従業員がいる企業にとって、この改正は大きな経営インパクトをもたらします。法定雇用率を達成できない場合、「障害者雇用納付金」という罰則金が発生するためです。
今回は、障害者雇用率の引き上げ内容、企業が取るべき対応、社会保険手続きや給与計算上の注意点について、社会保険労務士法人とうかいが詳しく解説します。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
- NHK「あさイチ」
- 中日新聞
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障害者雇用率とは:制度の基本知識
現在の障害者雇用率(2025年時点)
現在、企業に定められている障害者雇用率は以下の通りです。
【2025年の法定雇用率】
| 企業規模 | 雇用率 | 対象従業員数 |
|---|---|---|
| 民間企業全般 | 2.5% | 45.5名以上 |
| 公務部門 | 2.9% | 33.4名以上 |
| 教育委員会 | 2.9% | 33.4名以上 |
【2026年4月より】
- 民間企業:2.5% → 2.7%に引き上げ
法定雇用率とは何か
企業には、従業員数に応じた一定割合の障害者を雇用する法的義務があります。【計算方法】
法定雇用対象者数 = 全従業員数 × 法定雇用率
例:従業員200名の企業
2026年4月以降の雇用義務:200名 × 2.7% = 5.4名 → 5名以上
(端数は切り下げ)

現在の雇用率と新基準の比較:企業への影響を試算
新基準への切り替えによる追加負担
企業によって異なりますが、新基準への変更により、追加で1名~数名の障害者雇用が必要になります。
【企業規模別の影響試算】
小規模企業(従業員50名)現在(2.5%):50名 × 2.5% = 1.25名 → 1名以上の雇用義務
2026年以降(2.7%):50名 × 2.7% = 1.35名 → 1名以上の雇用義務
追加負担:0名(変わらず)

中堅企業(従業員100名)
現在(2.5%):100名 × 2.5% = 2.5名 → 2名以上の雇用義務
2026年以降(2.7%):100名 × 2.7% = 2.7名 → 2名以上の雇用義務
追加負担:0名(変わらず)
大規模企業(従業員200名)
現在(2.5%):200名 × 2.5% = 5名 → 5名以上の雇用義務
2026年以降(2.7%):200名 × 2.7% = 5.4名 → 5名以上の雇用義務
追加負担:0名(変わらず)
※しかし、計算上「5.4名」に近い場合、100名増えると状況が変わる可能性
超大規模企業(従業員1,000名)
現在(2.5%):1,000名 × 2.5% = 25名 → 25名以上の雇用義務
2026年以降(2.7%):1,000名 × 2.7% = 27名 → 27名以上の雇用義務
追加負担:2名の障害者を新たに雇用する必要
結論: 従業員数が多いほど、法定雇用率の引き上げの影響が大きくなります。

雇用率未達成時の罰則:「障害者雇用納付金」とは
納付金の計算方法
法定雇用率を達成できない場合、企業は「障害者雇用納付金」を納める義務があります。
【納付金の計算式】
納付金額 = (法定雇用率 × 従業員数) - 実雇用数 × 月額納付金単価
【月額納付金単価】
- 2024年度:50,000円/月
- 2025年度以降の予想:更に引き上げられる可能性あり
【計算例】従業員200名で、障害者を2名しか雇用していない場合
法定雇用率:2.7%
必要雇用数:200名 × 2.7% = 5.4名 → 5名
未達成者数:5名 – 2名 = 3名
月額納付金:3名 × 50,000円 = 150,000円
年間納付金:150,000円 × 12か月 = 1,800,000円
→ 毎年180万円の経費が必要

納付金が増加する背景と今後の見通し
障害者雇用納付金は、障害者雇用を促進するための制度です。政府は「納付金の引き上げ」を段階的に進める方針のため、今後、納付金単価もさらに上昇する可能性があります。
背景
- 障害者雇用の推進
- 企業のインセンティブ向上(納付するくらいなら雇用しよう)
- 障害者の職業訓練や就業支援の充実
障害者雇用の実現方法:3つのパターン
パターン1:新規採用による障害者雇用
対象者
- 従来、障害者の採用をしていなかった企業
- 新たに採用枠を設けて障害者を募集
メリット
- 法定雇用率達成への最短ルート
- 「新規採用」という実績は企業評価向上
デメリット
- 採用・育成のコスト
- 受け入れ体制の整備が必要
- 求職者の確保が難しい地域がある
実装例
現在:障害者雇用数が不足している企業
↓
採用活動を開始:月1~2名の障害者を新規採用
↓
合理的配慮の整備:勤務時間の短縮、勤務地の限定、業務内容の工夫
↓
法定雇用率達成:1年~2年で目標達成

パターン2:既存従業員の障害者区分変更
対象者
- すでに雇用している従業員で、身体障害者手帳などを持つが、これまで「一般社員」として働いている者
実施方法
- 従業員の障害状況を把握(プライベートな情報のため、丁寧な確認が必要)
- 「障害者として雇用区分を変更したい」という意向確認
- ハローワークに「障害者雇用」として報告
メリット
- 新たな採用コストがかからない
- すでに適応している従業員なので、育成コストが低い
- 企業側の受け入れ体制整備が必要最小限
デメリット
- プライバシーの問題(障害の開示)
- 従業員の同意取得が必要
- 既存従業員からの理解が必要な場合がある

注意点
- 強制的に「障害者雇用」に変更することはできない
- 従業員の希望・プライバシーを最優先すること
パターン3:特例子会社の設立
対象者
- 大企業で、障害者を多数雇用する体制を整備したい企業
特例子会社とは
- 親会社の障害者を多数雇用する子会社
- 親会社と子会社の雇用者数を合算して、法定雇用率を計算可能
実装例
親会社:従業員1,000名、障害者20名 → 雇用率2.0%(不足)
子会社(特例子会社):従業員50名、障害者40名 → 雇用率80%
合算:従業員1,050名、障害者60名 → 雇用率5.7% ✓ 達成

メリット
- 障害者に特化した就業環境を整備
- 雇用率達成の確実性が高い
- 企業のCSR活動として評価向上
デメリット
- 子会社設立のコスト(初期投資が大きい)
- 経営管理が複雑になる
- 大企業向けの対応方法
合理的配慮の実装:給与体系・勤務体制の見直し
合理的配慮とは何か
障害者雇用では、企業が「障害者が働きやすい環境を整備する」義務があります。これを「合理的配慮」と呼びます。
【合理的配慮の例】
- 勤務時間の短縮
- 体調管理が必要な場合、1日6時間勤務など
- 社会保険・雇用保険の加入対象かどうかで給与計算が変わる
- 勤務地の限定
- 通勤が困難な場合、特定の支店のみ配置
- 転勤なし、という契約になる可能性
- 業務内容の工夫
- 得意な業務を中心に配置
- 単純業務、定型業務の設計
- 休暇制度の柔軟化
- 医療通院の休暇が増える可能性
- 有給休暇の取り扱いを明確化
- 職場環境の調整
- 騒音が少ない場所への配置
- 段差のない環境設計
- トイレ・休憩スペースの充実
給与体系の設計
障害者を雇用する場合、給与体系は以下のポイントで設計します。
【給与決定の原則】
- 最低賃金以上(当然)
- 同じ職務内容であれば、健常者と同額を支払う(同一労働同一賃金)
- 短時間勤務の場合は、勤務時間を反映させた給与設定
【給与計算の実例】
【例】身体障害者、短時間勤務(1日6時間)の場合
標準勤務時間:1日8時間
短時間勤務:1日6時間 → 時間給で計算
月給計算:
基本給(標準職):200,000円
↓
時間給で換算:200,000円 ÷ 160時間 = 1,250円/時間
短時間勤務での給与:1,250円 × 120時間 = 150,000円
加えて、合理的配慮として:
– 通勤手当の加算(タクシー利用必要な場合)
– 障害福祉手当の補填(企業側の福利厚生)

社会保険手続きと給与計算上の注意点
社会保険加入:短時間勤務の場合
障害者が短時間勤務の場合、社会保険加入の要件が変わる可能性があります。
【社会保険加入の判定】
標準的な勤務時間:1日8時間 × 20日 = 160時間/月
短時間勤務者:1日6時間 × 20日 = 120時間/月
判定基準:
- 160時間以上 → 社会保険加入義務あり(健保・厚年・雇用保険)
- 120時間~160時間未満 → 加入判定が個別に必要
- 120時間未満 → 加入義務なし(ただし雇用保険判定は別)
障害者雇用とハローワーク報告
障害者を雇用した場合、ハローワークへの報告が必須です。
【報告手続き】
- 初回報告:新たに障害者を雇用した月
- 「障害者雇用状況報告」をハローワークに提出
- 毎年6月1日時点での報告が義務
- 報告内容
- 企業名、従業員数
- 障害者の数、障害者の区分(身体・知的・精神)
- 障害者の雇用形態(正社員・契約社員など)
- ペナルティ
- 報告を怠ると罰則がある(30万円以下の罰金)
準備スケジュール:2026年4月施行に向けて
【今年度中にやるべきこと(2025年)】
【上半期】
- 現在の障害者雇用状況を把握
- 法定雇用率達成までの「ギャップ」を計算
- 採用ルート(新規採用、区分変更、特例子会社)を検討
- 人事・経営層で方針決定

【下半期】
- 採用活動開始(新規採用の場合)
- 既存従業員への障害者区分の確認開始
- 受け入れ体制の検討(就業規則、勤務時間、業務内容)
- ハローワークへの相談・情報収集
【2026年1月~3月】最後の調整期間
- 新規採用者の確定
- 給与体系の最終決定
- 給与計算システムの設定確認
- 社会保険手続きの準備

【2026年4月】施行開始
- 新基準での法定雇用率計算開始
- 給与支給開始
- ハローワークへの報告
よくある質問Q&A
Q1:現在、法定雇用率を達成していないのですが、2026年4月までに間に合いますか?
A:間に合う可能性は十分あります。約1年の準備期間があるため、採用活動や既存従業員の区分変更などで対応可能です。ただし「採用が難しい地域」の場合、早めの行動開始が重要です。
Q2:納付金を払い続けるのと、障害者を雇用するのとでは、どちらが得ですか?
A:一般的には「障害者を雇用する方が得」です。納付金は毎年継続的に必要ですが、障害者雇用なら(採用コストはあるものの)継続的な負担で済みます。また、社会的責任・企業イメージの向上も無視できません。
Q3:短時間勤務の障害者を雇用した場合、給与はいくらにすればいいですか?
A:「最低賃金以上」であれば法的には問題ありませんが、実務的には「同一職務なら同等の時給」を設定することが望ましいです。時間給で計算し、勤務時間を掛け合わせて月給を算出します。
Q4:すでに障害者を雇用している企業は、何もしなくていいですか?
A:新基準への自動対応になります。現在、法定雇用率を達成している場合は、特に追加の対応は不要です。ただし、新基準(2.7%)での「達成状況」は確認しておくべきです。
Q5:障害者の給与水準は、「障害者だから低くする」ことは可能ですか?
A:いいえ。法的には「障害を理由に給与を低くすること」は違法です。同じ職務内容であれば、障害の有無に関わらず、同等の給与を支払う必要があります(同一労働同一賃金)。
大企業への影響:段階的な対応が必要
1,000名以上の超大企業では、複数の戦略が必要
従業員が多い企業では、以下の複数の戦略の組み合わせが現実的です。
【複合戦略の例:従業員3,000名の企業】
現在の法定雇用率(2.5%):3,000名 × 2.5% = 75名以上の雇用義務
2026年以降(2.7%):3,000名 × 2.7% = 81名以上の雇用義務
追加で必要な障害者雇用:6名
対応戦略:
– パターン1:新規採用 → 3名
– パターン2:既存従業員の区分変更 → 2名
– パターン3:特例子会社の設立 → 1名
年間採用目標:毎年2~3名の障害者採用を継続

企業の実例:障害者雇用の成功事例
事例1:IT企業による障害者採用(在宅勤務活用)
企業規模:従業員150名
対応内容
- リモートワークを活用して、聴覚障害者を3名採用
- 手話通訳者の配置
- チャットツール活用で業務連絡をスムーズに

結果
- 法定雇用率達成
- 採用後の離職率が低い(やりがいを感じている)
- 企業イメージの向上
事例2:小売業による短時間勤務の活用
企業規模:従業員200名
対応内容
- 身体障害者2名を短時間勤務(1日5時間)で採用
- シフト勤務を活用
- 店舗内の接客・商品整理業務に配置
結果
- 法定雇用率達成
- 既存従業員のシフト負担が軽減
- 店舗の雰囲気が向上
🎯 障害者雇用率引き上げについて、企業経営層・人事のお困りごと
障害者雇用率の引き上げに対応する際には、以下のようなお困りごとが生じます。
- 「現在、何人の障害者を雇用すべきなのか」
- 「どのような採用ルートが有効か」
- 「合理的配慮をどこまで整備すればいいのか」
- 「給与体系・勤務制度をどう設計するか」
- 「社会保険手続きは大丈夫か」

これらの判断には、障害者雇用制度、給与計算、社会保険の総合的な知識が必要です。
社会保険労務士法人とうかいでは、障害者雇用率達成に向けた採用戦略、給与体系の設計、社会保険手続き、ハローワーク対応などをトータルにサポートしています。
「法定雇用率達成に向けた計画を立てたい」「採用ルートを相談したい」「給与・勤務制度の設計を確認したい」といった場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


