企業の給与計算システムは、長年「オンプレミス型」(企業内のサーバーで管理)が主流でした。しかし、2024年から2026年にかけて、クラウド型給与計算システムへの移行が加速しています。
一方で、マイナンバー・個人情報を扱うシステムのセキュリティ要件が厳しくなっており、企業のシステム選定基準も高度化しています。
今回は、給与計算システムのクラウド化の背景、メリット・デメリット、そしてセキュリティ対応について、社会保険労務士法人とうかいが詳しく解説します。
この記事の監修
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先450社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
- NHK「あさイチ」
- 中日新聞
- 船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
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給与計算システムのクラウド化とは
オンプレミス型 vs クラウド型:何が違うのか
企業の給与計算システムは、2つのタイプに分けられます。
【オンプレミス型(従来型)】
企業内サーバー
↓
給与計算ソフト(弥生給与、勘定奉行など)
↓
各営業所のパソコン
特徴
- データは全て企業のサーバーで管理
- インターネット接続がなくても動作
- 初期投資が高い(ソフト購入費、サーバー構築費)

【クラウド型(新型)】
インターネット
↓
クラウドサービス提供者のサーバー
↓
ブラウザでアクセス
特徴
- データはクラウド事業者のサーバーで管理
- インターネット接続が必須
- 初期投資が低く、月額利用料で対応
- 自動的に最新版にアップデート

クラウド型給与計算システムの導入企業が増えている理由
2023年から2025年にかけて、クラウド型への移行が急速に進んでいます。
【主な理由】
- テレワーク対応
- オフィスにいなくても給与計算が可能
- COVID-19後の新しい働き方対応
- システム保守費の削減
- サーバーの管理、保守が不要
- ソフトの更新が自動
- 初期投資の低さ
- サーバー購入が不要
- 月額数万円の利用料で開始可能
- セキュリティの高度化
- クラウド事業者による最新のセキュリティ対応
- マイナンバー対応が容易
- 多拠点対応
- 複数の支店・子会社でも一括管理可能
クラウド型給与計算システムの選定基準
セキュリティ面での最重要ポイント
給与計算システムは「マイナンバー・個人情報」を大量に扱うため、セキュリティが最優先です。
【確認すべきセキュリティ要件】
1. 暗号化
- 通信時の暗号化:SSL/TLS(通常 https://で始まるサイト)
- データ保存時の暗号化:AES-256など強力な暗号化方式
- マイナンバー特別保護:マイナンバーは独立した暗号化が必須

2. アクセス制御
- 認証方式:パスワード+生体認証、2段階認証など
- アクセス権限の制限:「誰が何のデータを見られるか」を厳密に設定
- ログ記録:いつ誰がアクセスしたかの記録
3. バックアップとディザスタリカバリ(DR)
- バックアップ頻度:毎日のバックアップが望ましい
- バックアップ保存地:地理的に離れた場所での保存
- 復旧時間目標(RTO):システム障害時の復旧時間の確認
4. 監査・コンプライアンス
- ISO 27001認証:国際的な情報セキュリティ認証
- SOC 2認証:サービス提供者のセキュリティ対応状況
- 定期的なセキュリティ監査:第三者による監査の実施

給与計算クラウドサービスの主要事業者と対応状況
【主要な給与計算クラウドサービス】
| サービス名 | 提供企業 | セキュリティ水準 | マイナンバー対応 | 初期費用 |
|---|---|---|---|---|
| 給与奉行 クラウド | 株式会社オービック | ⭐⭐⭐⭐⭐ 最高 | ✓ 完全対応 | 要相談 |
| Money Forward クラウド給与 | 株式会社マネーフォワード | ⭐⭐⭐⭐ 高い | ✓ 対応 | 0円 |
| smartHR | 株式会社smartHR | ⭐⭐⭐⭐ 高い | ✓ 対応 | 0円 |
| JinjerPayroll | 株式会社ネオキャリア | ⭐⭐⭐⭐ 高い | ✓ 対応 | 要相談 |
| freee人事労務 | freee 株式会社 | ⭐⭐⭐⭐ 高い | ✓ 対応 | 0円 |
選定ポイント: 単に「機能が豊富」「価格が安い」だけでなく、セキュリティ認証(ISO 27001など)を受けているかが最重要です。
クラウド化のメリット・デメリット:実装判断
メリット:導入企業が得られる利点
メリット1:テレワーク対応
オンプレミス:
– 企業内ネットワークからのアクセスが原則
– VPN接続で対応可能だが、セキュリティリスクがある
クラウド型:
– どこからでも安全にアクセス可能
– テレワーク、在宅勤務に対応

メリット2:初期投資の大幅削減
オンプレミス:
- サーバー購入:100万円~300万円
- ソフト購入:50万円~200万円
- 構築費:100万円~200万円
- 初期総投資:250万円~700万円
クラウド型:
- 初期費用:0円~10万円
- 月額利用料:5,000円~30,000円/月
- 1年の総費用:60,000円~360,000円
年間では大幅な削減が可能
メリット3:システム保守の不要化
オンプレミス:
– サーバー管理者の配置が必要
– OS、ソフトの定期的な更新
– ウイルス対策ソフトの管理
– バックアップの確認
クラウド型:
– これらすべてが不要
– ベンダー側で自動更新
– セキュリティパッチも自動適用

メリット4:複数拠点の一括管理
オンプレミス:
- 各拠点にサーバーが必要
- または本社サーバーへのVPN接続
- トラブル対応に手間
クラウド型:
- 全拠点が同じシステムにアクセス
- リアルタイムで全社の給与情報を把握
デメリット:導入前に理解しておくべき課題
デメリット1:インターネット接続の依存
障害シナリオ:
– インターネット回線が遮断された
– クラウドサービスが一時的にダウンした
→ 給与計算ができない
対策:
– 通信回線の冗長化(複数の回線契約)
– バックアップシステムの構築
– オフラインでも対応できるプランの準備

デメリット2:セキュリティリスク
懸念点:
– 外部サーバーにマイナンバーが保存される
– 通信経路での盗聴
– クラウド提供企業の不正アクセス
対策:
– ISO 27001など、国際認証を受けたサービスを選定
– 暗号化、2段階認証の確認
– サービス利用契約に「セキュリティ対応」を明記

デメリット3:月額費用の継続負担
比較:
オンプレミス:初期投資高いが、その後は保守費のみ
クラウド型:初期投資低いが、月額費用が継続
企業規模によって判断:
- 従業員数が少ない企業:クラウド型が有利
- 従業員数が多い企業:オンプレミスの方が安い可能性
デメリット4:ベンダロックイン
課題:
– クラウドサービスへの依存が高まる
– サービス終了時、他社への乗り換えが大変
– データの引き出しが困難な場合もある
対策:
– 契約時に「データエクスポート」の可能性を確認
– 複数ベンダーの導入を避ける
– 定期的に他社サービスを検討

マイナンバー・個人情報保護の強化ルール
改正個人情報保護法への対応
2022年の個人情報保護法改正により、企業の個人情報管理責任がより厳しくなりました。
【主な改正内容】
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 罰則 | 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
| 個人情報流出時の通知義務 | 努力義務 | 義務化 |
| 個人情報保護方針の開示 | 努力義務 | 義務化 |
| データ保護評価(PIA) | 不要 | 大規模企業は必須 |
マイナンバー取り扱いの厳格化
マイナンバーは「特定個人情報」として、一般の個人情報より厳しいルールが適用されます。
【マイナンバー保護の5つの要件】
- 安全管理措置
- 施設・設備のセキュリティ
- ウイルス対策、暗号化
- 組織的安全管理
- 情報セキュリティポリシーの策定
- 役職員の教育・訓練
- 人的安全管理
- 秘密保持契約の締結
- アクセス権限の制限
- 技術的安全管理
- 暗号化、認証システム
- ログ記録と監視
- 漏洩時の対応
- 本人への報告
- 特定個人情報保護委員会への報告
給与計算システムでのマイナンバー保護
クラウド型給与計算システムは、以下の対応が必須です。
【必須機能】
- マイナンバーの独立した暗号化
- マイナンバーの自動削除機能(税務申告後)
- アクセスログの完全記録
- マイナンバーへのアクセス権限制限
- 定期的なセキュリティテスト

オンプレミスからクラウドへの乗り換え手順
移行計画の立て方
給与計算システムの乗り換えは、計画的な対応が重要です。
【乗り換えのステップ】
ステップ1:現状把握(1ヶ月~)
- 現在のオンプレミスシステムの仕様確認
- 現在の給与計算の設定内容をすべてドキュメント化
- 従業員の給与形態(正社員、パート、契約社員など)の整理
- マイナンバーの現在の管理状況確認
ステップ2:クラウドサービスの選定(2ヶ月~)
- セキュリティ要件の確認(ISO 27001認証など)
- 複数社の見積もり取得
- 試用版でのテスト計算
- 既存データの移行可能性確認

ステップ3:移行計画の作成(1ヶ月~)
- 移行時期の決定(4月、6月など)
- 並行運用期間の設定(2ヶ月~3ヶ月)
- 従業員への説明スケジュール
- バックアップの準備
ステップ4:データ移行(1ヶ月~)
- 旧システムから新システムへのデータ変換
- マイナンバーの安全な移行
- テスト計算の実施
- 結果の確認
ステップ5:本格運用(段階的)
- 新システムでの給与計算開始
- 旧システムのバックアップ保持(1年程度)
- トラブル対応体制の構築
- 従業員サポートの実施

移行時によくあるトラブルと対策
トラブル1:データ変換エラー
問題:
- 旧システムのデータ形式と新システムが異なる
- 一部の給与計算設定が引き継がれない
対策:
- テスト環境での複数回の試計算
- 旧新両システムの結果比較
- 差異があれば、新システム側での手動修正
トラブル2:従業員からのサポート要求急増
問題:
- 従業員が新システムの操作に困惑
- 給与明細の見方が変わり、質問が増える
対策:
- 事前の従業員研修実施
- 給与明細の「見方ガイド」を配布
- サポート窓口を設置(社労士、給与担当者)
トラブル3:システムダウンによる給与計算遅延
問題:
– 新システムで予期しないバグが発生
– 給与計算スケジュールに間に合わない
対策:
– クラウドベンダーのSLA(サービス水準合意)を確認
– 万が一に備えて、旧システムの一時的な復活計画
– 余裕を持ったスケジュール(給与支給予定日の2週間前に計算完了)

よくある質問Q&A
Q1:クラウド型給与計算システムは本当にセキュアですか?
A:ISO 27001などの国際認証を受けたサービスであれば、多くの場合、企業内のオンプレミスより安全です。ただし、ベンダー選定時にセキュリティ認証を確認することが重要です。
Q2:マイナンバーはクラウドに保存しても大丈夫ですか?
A:国税庁も「マイナンバーの安全管理措置が取られていれば、クラウド保存も可」と述べています。ただし、暗号化など適切な対応が必須です。
Q3:クラウド型への乗り換えに、どの程度の費用がかかりますか?
A:初期費用は数万円~数十万円程度(データ移行サポート込み)。月額費用は従業員数によって異なりますが、月5,000円~30,000円程度です。
Q4:インターネット回線が遮断されたら、給与計算はできないですか?
A:多くのクラウドサービスは「一時的なオフライン対応」機能があります。ただし、ネットワーク復旧後にデータ同期が必要です。
Q5:オンプレミスから乗り換える場合、現在のシステムはどうするべきですか?
A:1年程度は「バックアップ」として保持することを推奨します。また、取引先への報告が必要な場合もあります。
企業の実例:クラウド化の成功事例
事例1:100名規模の製造業
背景
- オンプレミスシステムが老朽化
- 複数拠点での給与管理が煩雑
対応
- クラウド型給与計算システム導入
- マイナンバー対応を強化
- テレワーク対応を実装
結果
- システム保守費を年間200万円削減
- 複数拠点の給与情報をリアルタイムで一元管理
- 給与計算業務の効率化(月10時間削減)
事例2:1,000名以上の大企業
背景
- 既存システムのセキュリティアップデートコスト増加
- 子会社・関連企業の給与計算の統一化が課題
対応
- エンタープライズクラウドシステム導入
- 複数企業を統合した給与管理
- 高度なセキュリティ対応(SOC 2認証)
結果
- システム管理者の人員削減
- 給与計算の統一化により、ミス削減
- 監査対応が容易に
2026年以降の動向:企業が備えるべきこと
予想される給与計算システムの進化
【今後の技術トレンド】
- AI・RPA の導入
- 給与計算の自動化(例:勤務表の自動取り込み)
- 異常値検出(未払い賃金などの自動警告)
- ブロックチェーン技術の検討
- マイナンバーの安全管理
- 給与支払い履歴の改ざん防止
- デジタル給与の普及
- 銀行口座以外での給与支払い(PayPay、LINE Payなど)
- システム対応の必要性
- データ連携の強化
- 給与計算 ↔ 会計システムの自動連携
- 勤怠管理 ↔ 給与計算の自動連携
企業の準備:今からできること
- 現在のシステムのセキュリティ対応状況を確認
- クラウド化の時期を検討(3年以内の乗り換え計画)
- ベンダーの信頼性調査(セキュリティ認証確認)
- 従業員への事前説明準備

🎯 給与計算システムのクラウド化・セキュリティについて、企業IT・給与担当者のお困りごと
給与計算システムのクラウド化に対応する際には、以下のようなお困りごとが生じます。
- 「クラウド型にしたいが、セキュリティが心配」
- 「マイナンバー保護が厳しくなり、対応方法が分からない」
- 「オンプレミスからの乗り換え手順を相談したい」
- 「複数のシステムを統合したい」
- 「給与計算システムに関する法的リスク対策を知りたい」

これらの判断には、給与計算システムとセキュリティ、そして労務法の総合的な知識が必要です。
社会保険労務士法人とうかいでは、クラウド化の計画立案、セキュリティ監査、ベンダー選定の相談、移行支援などをトータルにサポートしています。
「クラウド化のメリット・デメリットを相談したい」「セキュリティ対応を確認したい」「オンプレミスからの乗り換えをサポートしてほしい」といった場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


