少子高齢化の進展により、公的年金の運営状況が悪化や将来的に受給できる年金への不安が懸念されています。
そこで注目されているのが、「企業型確定拠出年金」です。企業の退職金運用リスクの低減や従業員の資産形成のため、年々加入が増えています。いわば、会社と社員の未来を守るための制度として、導入が進んでいます。
とはいえ、「仕組みが難しそう」「どんなメリットがあるの?」など、疑問をお持ちの経営者や人事担当者の方もいるでしょう。
今回は、企業型確定拠出年金の基本的な仕組みやメリットに着目し、わかりやすく解説していきます。
※2020年時点での解説を行っています。シミュレーションなどの税率は変更となっていることがあります。目安として参考にしてください。また、シミュレーション効果をお約束するものではありません。
確定拠出年金の解説の前に、まずは日本の保険や年金制度について、基本的な制度のしくみを振り返っておきましょう。
社会保険も労動保険も、日本の社会保障制度のひとつです。従業員を保障するものですが、それぞれ目的や内容は異なります。健康保険、介護保険、厚生年金を社会保険といい、労災保険、雇用保険を労働保険といっています。
健康保険とは、業務外のケガや病気、出産、死亡について保険給付を行う医療保険の1つ。健康保険料の料率は、都道府県や健康保険組合によって異なります。保険料は、会社と従業員が折半で負担します。
介護保険とは、要介護や要支援の状態に応じて保険給付が行われます。健康保険に加入している40歳以上65歳未満の方は、会社と折半で保険料を負担します。
厚生年金保険とは、会社などに勤めている人が加入する公的年金です。老後の生活に備えるための年金制度です。また病気やケガで障害が残った場合の障害年金、本人が死亡した場合に遺族に対して支払われる遺族年金があります。保険料は、会社と従業員が折半で負担します。自営業や無職の人などは国民年金に加入します。
労災保険とは、正式には労働者災害補償保険といいます。仕事中や通勤中に起きた事故や災害が原因の病気・ケガ・障害・死亡などに対して保障を行います。労災保険料の料率は、業種によって異なります。保険料は、全額、会社が負担します。
雇用保険とは、労働者の雇用の継続が困難になったときや、失業した際に補償する保険制度です。失業した際に受け取ることができる求職者給付(失業保険)のほか、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講した場合の教育訓練給付、育児や介護で休業する場合に支給される育児・介護休業給付といったものもあります。企業向けの給付として、助成金や奨励金の支給なども行なっています。雇用保険料の料率は、事業の種類に応じて、会社と従業員が一定の割合で負担します。
日本の年金制度のしくみは、3階建てと言われる構造となっており、20歳以上60歳未満の日本に住むすべての人に加入義務があります。
1階部分は全国民が加入する「国民年金」となります。加入期間の長さによってまず、受給できる年金額が決まります。
2階部分は会社員や公務員などが加入する「厚生年金保険」や自営業者・フリーランスが加入する「国民年金基金」があります。厚生年金保険や強制加入の一方で、国民年金基金は任意加入となっています。この1・2階部分が「公的年金」と呼ばれています。
3階部分は、企業や団体が独自に運営している「企業年金」や「厚生年金基金」などがあります。
そして、これらの年金制度に加え、会社または個人が拠出した掛金を、従業員または個人が運用し、その結果による年金給付を受け取る「確定拠出年金」制度が登場しました。
確定拠出年金制度とは、会社または個人が拠出した掛金を、従業員または個人が運用し、その結果による年金給付を受け取る制度です。確定拠出年金の理解を進めるうえで、同じく年金制度の3階建部分にあたる確定給付型企業年金との違いを押さえておきましょう。
確定給付型企業年金とは、会社が支払った掛け金を、外部機関(信託会社や生命保険会社など)が運用・管理し、給付を行うものです。将来の給付額をあらかじめ決めておき、 その給付額を賄うのに必要な掛金を会社が拠出します。「給付」する金額が決まっていますので、運用がうまくいかなかった場合、企業が補填する必要があります。
確定拠出年金とは2001年にとしてスタートし、年金制度のなかでは新しい制度です。年金制度の3階部分にあたります。企業や加入者が毎月一定額の掛金を拠出して、自身で運用していきます。運用して得られた給付金が、将来的には自分の年金として受け取ります。そのため、運用の成果によって、将来受取る年金額が変わります。具体的にどのような給付があるのでしょうか?
60歳以上になると、年金または一時金として支給されます。ただし、60歳時点で確定拠出年金制度への通算加入期間が10年に満たない場合は、受給開始年齢が段階的に引き上げられます。
60歳未満であっても、高度障害の状態になったときに、年金または一時金として支給されます。
死亡時に遺族に一時金として支給されます。
確定拠出年金は、「個人型」と「企業型」の2種類あります。どちらも毎月掛け金を積立、自分自身で運用することで将来受取れる年金額が決まるという共通点があります。両者の違いをみていきましょう。
iDeCo(イデコ)と呼ばれ、聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。個人の加入者が、自らの責任で自分で掛金の金額を決め、運用を行います。掛金が全額所得控除の対象となるので、確定申告・年末調整により所得税や住民税の軽減が受けられます。
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、企業が掛金を毎月積み立てし、従業員が自ら運用を行う制度です。会社が掛金を拠出することが、個人型確定拠出年金と最も異なる点です。従業員は掛金をもとに、金融商品の選択や資産運用を行っていくことになります。そして60歳以降に、運用してきた年金資産を一時金や年金として、受け取ります。
企業型確定拠出年金は、従業員がその会社に入社すると自動的に加入する場合と、加入するかどうかを選択できる(選択制確定拠出年金)場合があります。
選択制確定拠出年金とは?
これまで企業型確定拠出年金は、全社員が一律加入で、会社が定める掛金を拠出するのが一般的でした。しかしながら、最近では、従業員自身が掛金の金額をいくらにするのか選択できる「選択制確定拠出年金」が増えています。
企業型確定拠出年金を導入するメリットを詳しくみていきましょう。
企業が拠出した掛金は、全額損金算入できます。また従業員などからしても拠出した掛け金は給与扱いとなりません。給与扱いとなると所得税や住民税がかかり、社会保険料の対象になりますが、確定拠出年金で拠出した掛け金は、給与扱いとはならないため、所得税、住民税、社会保険料の計算から外れることになります。
たとえば、将来の給付を予定した確定給付型年金を導入している企業の場合、掛金の運用の結果、退職給付に不足が生じた場合には、会社はその補てんが必要です。一方、確定拠出年金は、会社は毎月の掛金拠出をすることで、退職給付の支払い義務を果たしたことになるので、積立不足が発生せず長期のリスクを免れます。また、掛金の運用の責任は、従業員本人にあるため、運用リスクを負うこともありません。さらに、確定拠出という掛金額が確定されていることから、掛金の負担が予測しやすいのが特徴です。
福利厚生を充実させることは、優秀な人材の確保を行ううえで、大きなアドバンテージになります。確定拠出年金は、離転職時に今までの年金資産を課税なく、転職先に持ち運ぶことができるポータビリティのしくみがあります。雇用の流動化に対応しやすく、短期の就労者や中途採用者を多く抱える企業にとって人材確保の強みになります。
会社が拠出する掛金が全額非課税となるため、掛金が給与扱いとならず、所得税や住民税が軽減されます。
運用益も非課税になります。通常、一般的な金融商品の運用益には約20%の税金が課せられることを考えると、大きなメリットといえるでしょう。
給付金(年金・一時金)を受け取る際に所得控除の対象となります。年金として受け取る場合は雑所得控除の扱い、一時金として受け取る場合は退職所得控除の扱いとして公的年金等控除を受けることができます。
受け取り方にも拠りますが、受け取り時にも大きな税制メリットがあると言えます。
自分自身で自分の年金を運用できるのは、確定拠出年金のみ。自分で自分の資産形成できるので、リスク分散をしたり、より投資効果の高い商品を運用したりなど、行えることが魅力です
離職や転職した場合、加入者(従業員)は、積み立てた年金原資を持ち運ぶことができます。転職先に企業型確定拠出年金がない場合であっても、個人型確定拠出年金への移換も可能です。
企業型確定拠出年金制度を導入すると、社会保険料や所得税などの算出の基礎となる金額が変わってくることになります。具体的に確認してみましょう。
【30歳、給与30万円の場合の社会保険】掛金20,000円の場合
導入なし | 導入あり | 負担軽減額 | |
---|---|---|---|
標準報酬月額 | 300,000円 | 280,000円 | |
厚生年金保険料 | 27,450円 | 25,620円 | 1,830円 |
健康保険料 | 14,850円 | 13,860円 | 990円 |
雇用保険料 | 900円 | 840円 | 60円 |
合計 | 43,200円 | 40,320円 | 2,880円 |
給与が30万円を例にみると、企業型確定拠出年金を導入し、月2万円の掛金を拠出した場合、月額では2,880円、年額34,560円の負担額が変わってきます。
さらに、税務上も給与収入金額が変わってきますので、月額掛金2万円×12ヶ月=年間24万円分の、所得税、住民税の負担額も変わってくることになります。
一方で、厚生年金保険料の納付額が少なくて済むということは、その分、将来受け取ることができる公的年金の受給額が下がることになります。しかしながら、企業型確定拠出年金を受け取るにあたっては、公的年金控除もしくは退職所得控除を利用することができるため大きな税制メリットを受けることができることや、運用中の利回りを考慮することで、企業型確定拠出年金のほうが有利になる設計が可能でしょう。これらの計算を、企業の経営者や人事担当者が行い判断するのは、なかなか難しいものす。専門家のアドバイスを受けながら、加入効果のシミュレーションをしてみるのはいかがでしょうか。
選択制確定拠出年金は、役員1人の法人や、社長・役員のみの小規模な企業であっても、導入が可能です。役員や従業員が確定拠出年金の利用を希望するかどうかや、拠出する掛金の金額設定を、1人ひとりが自由に選択できるというしくみです。ただ、1人で加入するのであれば、個人型確定拠出年金(iDeco)でもよいのではないかと思われるかもしれません。とはいえ、個人型確定拠出年金(iDeco)の掛金上限が23,000円/月なのに対して、企業型確定拠出年金の掛金上限は55,000円/月ですので、税制優遇のメリットもより大きなものになります。
また役員は全額経費として確定拠出年金を拠出できることも非常に大きなメリットです。
役員の拠出分は全額福利厚生費として経費計上できます。また、受け取り時にも公的年金控除や退職所得控除を使用することができますので、所得税や住民税と比べて非常に低い税率の適用をうけることができます。
また従業員からすると企業型の確定拠出年金は企業の導入がなければ利用できません。
複雑な加入の手続きを会社が代行して行ってくれることも大きなメリットです。社会保険料も対象外となることから、多くの従業員が企業型を導入している企業を選び、入社していますので、企業型が選ばれているというのが事実でしょう。
選択制企業型確定拠出年金は法人であれば、役員のみ1人でも導入することができます。「掛金は全額損金」で「大きな税制優遇」を受けることができるため、1人の法人でも大きなメリットを受けることができます。
確定拠出年金は「知らなかった」ことや「違うふうに理解をしていた」ことで導入していない場合が多いです。正しく理解すれば、国が認めた制度ですので大きなメリットがあります。
まずは確定拠出年金の専門家に話を聞いてみてはいかがでしょうか?
少子高齢化が進み、経済状況も見通しにくいなか、年金への将来不安は非常に大きいものです。これからは公的年金だけに頼るといった考えを持つ人は、少ないのではないでしょうか。
企業型確定拠出年金には、会社も従業員も税制優遇措置などのメリットが多く、公的年金制度に上乗せして資産を形成することが可能です。確定拠出年金は、公的年金にプラスし、老後の資産形成の基盤となる制度になるでしょう。
メリットの大きい企業型確定拠出年金ですが、中小企業ではまだ導入していないという企業があります。当社でおすすめした企業のほとんどが導入に踏み切っているというのにも関わらずです。すでに当社は従業員数がゼロ名(役員1名のみ)の企業をはじめ、150社以上の企業の導入をサポートしてきました。
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