ここ数年で複数回に渡って、育児介護休業法の法改正が行われてきました。注目すべきは「産後パパ育休(出生時育児休業)」が新設されるといった男性の育児休業取得を促す変化です。徐々に男性の育児休業に関する認知や取得が進んできたものの、その道のりは遠いのが現実です。日本の男性が家事・育児をする時間は、他の先進国と比べて最低水準であると言われています。政府は2025年までに男性の育児休業取得率を30%として目標を掲げています。高いとも思えない目標ですが、まだまだハードルは高く及んでいません。
企業においては、男性の育児休業取得をサポートしている企業がある一方で、「人手不足なので難しい」「取得させる環境が整っていない」「取得事例がない」など、育児休業取得を積極的に後押しできないといった企業もあります。
今回は、男性の育児休業取得に着目し、取得のために企業ができること、そして企業へのメリットについて、社労士が解説していきます。
社会保険労務士法人とうかい
執行役員 社会保険労務士 小栗多喜子
同社、人事戦略グループマネージャーを務め、採用・教育を担当する。商工会議所、銀行、Adeco,マネーフォワードなどセミナーや研修講師も精力的に行っている。労働法のアドバイスだけではなく、どのように法律と向き合い企業を成長させるのかという経営視点でのアドバイスを得意としている。
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女性に限らず、男性も子育てに参加する社会のために育児・介護休業法が改正されました。2022年には「産後パパ育休(出生時育児休業)」が新設されるなど、男性が育児休業を取得するためのベースづくりが進んでいます。この育児・介護休業法の法改正によって、企業においても、男性が育児休業を取得できるよういくつかの義務化が求められています。ただ、注意したいのは、男性が必ず育児休業を取得しなければならない、という従業員への義務を課す法改正ではないということです。男性本人に義務を課す法改正ではなく、男性が育児休業を取得できるよう企業側に課される義務が強化されたことになります。詳しい法改正ポイントと義務化の内容を確認してみましょう。
従業員が躊躇することなく育児休業の取得を申し出ることができるように、企業は環境の整備を行うことが義務とされました。以下のいずれかの措置を講じることとされ、複数の措置が望ましいとされています。
従業員本人や配偶者の妊娠・出産の申し出があった場合には、企業は育児休業制度などに関する説明や、休業の取得の意向確認を個別に行う義務が、企業に課されました。
(説明周知する内容と方法)
面談(オンライン面談でもOK)、書面、FAX、メールのいずれか方法で意向確認を行います。育休制度は従業員にとってはわかりにくい点や不安な点も多いので、できれば疑問点などに答えながら、面談を行なったうえで、説明資料を提示するなどしたほうが丁寧です。とくに育休期間中の給付金や社会保険料の取り扱いなどもしっかりと説明することをおすすめします。
有期雇用の従業員については、改正前には「引き続き雇用された期間が1年以上であること」「子どもが1歳6か月までの間に契約満了しない」という要件がありました。改正により「子供が1歳6か月までの間に契約満了しない」という要件のみとなりました。引き続き雇用された期間が1年未満の有期雇用従業員については、労使協定の締結があれば、除外しても構いません。
法改正により、「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度が新設されました。これは男性を対象にした育児休業制度であり、子どもの出生後8週間以内に4週間まで、2回に分割して取得できるというものです。労使協定を締結すれば、休業中に就業することも可能といった制度です。女性の産後休業に合わせて、男性が育児休業が取れるよう配慮されています。
従業員1000人超の企業については、育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務付けられました。男性の育児休業等の取得率または育児休業等と育児目的休暇の取得率を公表することとされたました。自社のホームページや、厚生労働省のサイト上で公表する必要があります。
厚生労働省サイト「両立支援のひろば」
https://ryouritsu.mhlw.go.jp/
男性が育児休業を取得する場合には、従来の育児休業に加え、法改正で追加された産後パパ育休(出生時育児休業)の2種類があります。産後パパ育休制度については、男性の育児休暇取得促進のために新設された制度ですので、しっかり理解しておきたいポイントや手続きについて、確認しておきましょう。
申し出により、子どもが1歳(一定の場合は、最長で2歳)に達するまで育児休業が取得できる制度です。さらに、父母が共に育児休業を取得する場合で一定の要件を満たせば、子どもが1歳2か月に達するまでの1年間に、「パパ・ママ育休プラス」といった特例もあります。
男性の育児休取得促進のための制度です。子どもの出生後8週間以内に4週間(28日)まで、2回に分割して、育児休業を取得できます。
男性が育休を取得する場合、“結局、何日休めるのか?”という質問をされることもあります。今回の法改正で新たに産後パパ育休(出生時育児休業)が設けられたため、一例を見てみましょう。
【父・母が2人とも育休を取得する場合の例】
父母ともに育児休業取得する場合は、1歳2か月まで取得が可能となります。産後パパ育休・育休ともに分割取得も可能なので、夫婦で相談しながら育児休業の取得について計画していくことが可能です。
徐々に取得が進んでいる男性の育児休業ではありますが、一般的になったと言われるまでには進んでいないのが現状です。国として子育て支援としてさまざまな取り組みを推進し、育休制度の改正を行なってきました。男性の育休が促進されれば、共働き家庭の負担軽減、女性のキャリア中断の影響を防ぐなど、さまざまなメリットがあるからです。また、現代社会において男性が育休を取ることはダイバーシティにおいて当然の流れとも言えます。
ただ、国の旗振りだけでは進まない部分もあります。実際には、企業自体が育児休業取得に取り組んでいかない限りは、現状はなかなか改善されないでしょう。
企業として育休取得推進が進まない理由として、「職場の仕事が回らなくなる」「取得しづらい雰囲気がある」「周りの協力が得られない」「収入が心配」「復帰した後に席があるか不安」といった意見が上がっています。確かに、長期で休業する育児休業は、男性に限らず、業務への影響、その間の人手問題など課題があるのは事実です。しかしながら、企業が男性育休を推進することで、働く従業員の働き方、仕事へのモチベーションへの将来的効果は大きいメリットをもたらすと考えられます。人材採用においても、育休取得推進に力を入れている企業は、そうでない企業に比べ人材獲得に有利でしょう。男性の育休の取得が増えることで、育児休暇制度がさらに発展し、多くの人々が育児と仕事を調和させやすくなる社会となっていくのです。男性の育休は、従業員にも企業にとってもポジティブな影響をもたらす重要な取り組みです。
「それ、パタハラです!」と言われないために、企業として理解しておかなければならないことがあります。セクハラ、モラハラといったワードは今や一般的で、ハラスメント教育に力を入れている企業もあるでしょう。しかしながら、「パタハラ」はまだまだ理解されていないことが多いかもしれません。
「パタハラ」とは、パタニティハラスメントの略です。Paternity(父性) harassment(嫌がらせ、悩ます)が由来です。男性が育児休業を取得することに関連して、会社や職場から受けるハラスメントのことを言います。
育児介護休業法によれば、 男性従業員が育児のために、
を理由に、嫌がらせなどを受け、就業環境を害されることを言うとされています。
悲しいことにパタハラが発生する要因には、まだまだ無意識な性別における役割意識(子育ては女性が行うもの)が、背景にあるのでしょう。歩みの遅い男性の育児休業取得の背景には、このような根深い考え方も起因しています。
(パタハラの事例)
もちろん、これらのパタハラは禁止です。会社として不利益取り扱いは禁止されており、上司・同僚などからパタハラと思われる発言などがされないような職場環境の改善、従業員への理解を深めるなどの責務があります。
就業規則などにパタハラ防止のための方針を記載したり、従業員への周知徹底を行なっていく必要があるでしょう。