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事業承継時に考えておきたい労務管理。
事業承継に詳しい社労士が解説します。

中小企業において、経営者の高齢化や後継者不在の状況は、深刻な経営課題といわれています。

さらに、新型コロナウイルス感染症の影響により、休廃業等の件数も増えています。こうした状況を背景に、事業承継を具体的に検討する経営者が増えています。

事業承継を円滑で安心して実施するために、忘れてはならないのが労務上のリスクやトラブルを回避する労務管理の視点です。

今回は、事業承継を計画することになったとき、影響の及ぶ労務管理のポイントについて、社労士が解説していきます。

この記事の監修

社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子

これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。

現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。

主な出演メディア
NHK「あさイチ」

中日新聞
船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」


社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri

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事業承継とは

事業承継を成功させるためには、
早めの労務対策が重要です

事業承継とは、その名のとおり、会社の経営や事業を後継者へ承継していく、ということになります。単に、次の社長を誰にするかということだけではなく、自社株を含めて誰に引き継ぐかといった経営権の引き継ぎまでをも含めたものです。もう少し範囲を広げれば、後継者に承継するための教育をどうするか、といった問題も、事業承継として重要な経営課題に挙げる経営者も多いでしょう。

事業承継による承継資産とは

人の承継経営権(社長の承継など)

資産の承継株式、設備・不動産、資金・借入金等

その他資産の承継従業員(技術、スキル)、営業ノウハウ、営業先、顧客情報、知的財産権(特許)、許認可等

幅広い意味を持つ事業承継ですが、その方法はいくつかの承継方法に分類されます。

① 親族内での承継

② 親族外での承継

③ 外部への承継(M&Aなど)

④ IPO

⑤ 廃業

① 親族内での承継

小規模企業などで多い親族内での承継です。親から子などへといった承継方法です。昔は事業承継の方法として、親族内承継の占める割合は多かったのですが、最近では、経済や社会変化によって、親族内承継は減少している傾向があります。

② 親族外での承継

従業員への事業承継などが、これにあたります。自社内の従業員や役員が、社長を継ぐといったケースです。親族内承継の次に多いのが、このケースですが、自社株の譲渡について、譲渡金額の問題や保証・担保などの問題など、さまざまにクリアしなくてはならない問題があります。最近では、自社株はオーナーが保有したまま譲るといったケースも増加していますが、事業承継の大きな課題である自社株の取り扱いについては、クリアしていない状態になります。

③ 外部の承継(M&Aなど)

いわゆるM&Aなどの外部への承継です。一昔前までは、親族内承継や従業員承継に比べ、従業員の納得感という意味では抵抗を持つことも多かった外部承継ですが、最近では後継者不在のケースも多く、M&Aを選択することが増加しています。

④ IPO(株式公開)

IPOを行い、広く株主を募ることで会社規模を大きくしたり、社長交代を行ったりするケースです。
現実的にはあまりないケースだと思われます。

⑤ 廃業

広く事業承継として捉えた場合には、廃業という選択肢もあります。とはいえ、現在の事業をどうするか、従業員の行く先をどうするか、などクリアしなくてはならない問題が多いものです。

事業承継で想定される労務リスクとは

労務リスクの理解を深め、
円滑な事業承継を目指しましょう

事業承継にはさまざまな方法やケースがあります。当然ながら、誰にどのように引き継ぐか、株式の問題、譲渡価格、税制、資金をどうするか、といった大きな問題が山積みです。

重要度や優先度の高い事柄ばかりですが、早めに着手しておきたいのが、事業承継を行う場合に想定される労務のリスクの確認です。

後継者が経営を迅速に引き継ぎ、新たなスタートが切れるよう、将来の労務リスクや想定されるトラブルを今のうちから整理しておくことをおすすめします。

想定されるリスクやトラブル①
「未払い残業」

事業承継を検討する場合には、しっかりとクリアにしておきたい問題です。とくに、事業承継をM&Aとして行う場合には、交渉の重大な障害にもなりかねません。買い主側にとってみれば、簿外債務になる大きな問題です。譲渡額に影響も及ぼしますし、場合によっては進んでいた話も決裂することにもなりかねません。

想定されるリスクやトラブル②
「就業規則の未整備や不備」

事業承継を行う場合に、まず確認しておきたいのが就業規則。きちんと整備されているか、また就業規則はあっても関係法令に準拠しているのか、必ずチェックしておきたいところです。

古い制度のまま現状の法制度に合致していないケースなどは、事業承継のタイミングにさまざまなトラブルが発生する可能性もあります。とくにM&AやIPOといった事業承継を行う場合には、通常デューデリジェンス(DD)といったその企業の価値の査定や法律に関わる資産について調査する作業を行います。主に財務や税務、法務、ビジネス、人事・労務といった側面から、企業に関するさまざまな検証が行われます。

人事労務デューデリジェンス(労務DD)については後述しますが、就業規則の整備や人事制度と運用が適切かどうか、確認しておく必要があります。

想定されるリスクやトラブル③ 
「二代目社長と古参社員とのあつれき」

先代社長が突然亡くなったりなど、予期せず事業承継を行った場合でも、入念に株式、財務、税務、労務、法務など面から事業承継を進めてきた場合でも、陥りがちな問題がこのケースです。

先代から会社を引き継いだときの古参社員との関係での悩みです。とくに中小企業で多い親族内承継で起きやすいトラブルです。自分の息子や娘の資質や経営者経験、力量などに関わらず、会社を引き継いだ場合など、古参社員との関係にトラブルが生じるのはよくあること。人望のある先代から会社を引き継いだものの、現場のこともよくわからない、経営の経験もないままに、思いはあるものの空回り、年上の古参社員からは反感を買ってしまう、あげくに事業活動も回らなくなってしまうといったケースです。

事業承継を成功させるためには、後継者をどのように育成するか、また事業承継をおこなったあとの経営ビジョン、経営計画を描くかが重要になってきます。

想定されるリスクやトラブル④
「債務や個人保証の問題」

後継者に会社を託すとき、早めに検討着手しておきたいのが、事業承継時の債務や保証の問題です。金融機関からの融資を受ける場合、経営者は個人保証を求められるのが一般的です事業承継時点ですでに融資などを受けている場合には、会社の連帯保証人になっていることが考えられます。

事業承継を行う時には、金融機関から後継者の個人保証を求められることもあるでしょう。そうした債務や保証について整理しないまま、事業承継をすすめると、後々大きなトラブルになるリスクを抱えています。

とくに、従業員が後継者になった場合など、後継者に十分な個人資産などがないなど現実的に個人保証を引き継ぐのが難しく、現経営者が保証から外せないといったケースも発生するかもしれません。金融機関との交渉も必要になる事項ですので、後々のトラブルを防止するために、早めの検討を開始しましょう。

『事業承継時の経営者保証に関する参考サイト』中小企業庁

https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/hosyoukaijo/index.htm

事業承継に向けて準備しておきたい
労務管理の対策と進め方

後継者がスムーズに企業経営を行うためには、事業承継前の現状分析が重要です

事業承継に向けて準備を行っていくとき、検討する事項も多く、前述のようなトラブルやリスクの種にどう対応すべきか、何から着手すればよいかわからないといったことも多いでしょう。事業承継は、長期的・戦略的に計画・実行していかなければ、途中で息切れ、躓いてしまうといったことになりかねません。とくにM&Aなどを検討している場合には、早い段階から専門家へ相談することも、成功への近道です。

事業承継に向けて準備しておきたい労務管理の対策や進め方を確認しておきます。

会社の現状分析として、労務監査(労務DD)を行う

事業承継にあたっては、会社がどういう状態にあるのか明らかにすることが大切です。そのために、おすすめするのが労務監査(労務DD=労務デューデリジェンス)です。

M&Aなどを行う際には、労務DDに限らず、財務DDや法務DDといった会社の現状を明らかにする監査が実施されます。買収側が売却側の会社や事業等に対する実態を事前に把握し、価格や取引について適切な判断をするための調査を目的としているものです。事業承継の手段として、M&AやIPOを視野に入れている会社にとっては、当然行わなければならないものですが、たとえM&AやIPOによる事業承継でなくとも、こうした現状分析は行っておきたいものです。

とくに、労務にフォーカスした労務監査(労務DD)は、早めの着手をおすすめします。人事労務に関係する問題は、社員に直接影響する事柄がほとんどですので、いざ何か問題が発生すれば対応にも非常に時間がかかるものです。早めに着手するに越したことはありません。

『労務監査(労務DD)』

就業規則をはじめとした各種規定や労使協定などが、法令遵守がされているものかどうかという点はもちろんのこと、社会保険などの未払いがないか、労使紛争などがないか、実際の実務運用の問題はないか、管理体制はどうか、今後の内在するリスクはないかなど、さまざまな観点からチェックを行います。内在する労務リスクを潜在債務として洗い出し、会計帳簿に記載されない簿外債務を明らかにします。

労務監査の結果をもとに、問題点や優先順位の整理や対応施策の検討を行っていきます。

労務監査(労務DD)をする専門家の選び方

スムーズな事業承継と進めていくにあたっては、トラブルやリスクの回避のために、労務監査(労務DD)をぜひ行っていただきたいものです。労務監査を行うとなると、高度な専門知識や経験、ノウハウが不可欠です。自社の従業員のみで対応するには、非常に難しいのが実際ではないでしょうか。外部の専門家に委託するケースがほとんどですが、信頼できる労務監査先を選ぶことが重要です。労務監査を行い問題点が明らかになったものの、どのように対策すべきか、解決へ導く有用なアドバイスをしてもらえないのであれば意味がありません。専門知識や経験豊富な専門家に依頼することをおすすめします。

事業承継の方向性を決定する

現状分析を行った結果、どのような事業承継を行うのか方向性を決定しなければなりません。親族を後継者として承継するのか、従業員など親族外の後継者に承継するのか、また、後継者がいないといった場合には、売却も視野に入れることになるでしょう。

いずれの承継方法を選択するにしても、事業承継をする前に承継後の経営リスクをいかに減らせるかが重要です。とくに事業承継後の経営体制、事業の拡大や方向性に即した組織づくり、従業員とのエンゲージメントなど、事業承継後いかにリスタートが切れるかが、事業承継の成功につながりますので、方向性の決定は慎重にかつ早めに行います。

経営者の中には、そうした事業承継の問題を相談できる人がいない、という話もよく聞きます。とくに会社の売却を想定するとなれば、話をする時期・タイミングは慎重にならざるを得ませんので、ついつい二の足を踏んでしまうこともあるかもしれません。とはいえ、再三お話してきたように、事業承継の検討は、早めの準備が鍵となってきますので、外部の専門家などを活用しながら、進めていくことが重要です。

事業承継の全体計画の策定を行う

事業承継の方向性が定まったら、まずは全体計画の策定に着手していきます。計画を策定しないまま取り組むと、事業継続に支障が発生することもあります。財務・法務・人事労務など、誰が何を行うのか、何を決めておかなければならないのか、資金はどうするか、いつ行うのか、全体のスケジュールを計画していきます。

親族への承継はもちろん、従業員など親族外の承継をする場合であっても、後継者がいる場合には、後継者教育も並行して行っていく必要があるでしょう。今後会社を引き継ぐ後継者が、必ずしも経営者の経験があるとは限りません。まったくの畑違いの場合もあるかもしれません。後継者へのスムーズな承継を行うには、経営者にとって必要不可欠な経営に関する事項、また会社のビジョン、独自の強み・弱み、など具体的に伝え、今後の経営ビジョンや事業活動方針を決定づけていくうえでの、土台づくりをサポートしていきます。

人事労務に関する計画は、後回しにしない!

事業承継の計画を策定する際に、とくに注意しておきたいのは人事労務に関する計画です。

人事労務は、当然ながら、そこで働く従業員に大きく関わるものです。事業承継後も従業員に最大限力を発揮してもらうためには、トラブルの種やリスクとなるような事柄について、解消しておかなければなりません。

場合によって、資金を用意する必要が生じるかもしれません。その場合の資金調達なども検討テーブルに載せなくてはなりません。後回しにしたばかりに、計画全体の変更も余儀なくされる可能性もあります。

事業承継は、就業規則等の見直しや変更が生じるケースが多いでしょう。とくに就業規則は、経営者の従業員へのメッセージです。従業員にどのように働いてもらいたいか、どのような会社にしたいかが込められています。ただ、コンプライアンスに遵守している規則であればいいということではありません。

事業承継を行う際には、従業員にどのように働いてほしいのか、目指す働き方への思いが反映されたつくりなのか、見直しを行っていく必要があるでしょう。さらに、日々の労務管理のオペレーションもこの機会に見直しておくことをおすすめします。とくに給与や勤怠管理、社会保険などの間違いやエラーは、従業員の不信にもつながり、事業承継後の経営を阻害する要因になりえます。

事業承継の計画の実行

事業承継計画が策定後は、実際に計画の実行に移ることになりますが、世の中の状況や、経営環境、事業活動に変化が生じるなど、必ずしも計画どおりに進むとも限りません。想定外のことが発生し、計画に見直しを迫られる場面もあるでしょう。変化に柔軟に対応しつつ、つ、課題や問題を解消しながら計画を進めていきましょう。

社労士事務所の事業承継

早い段階で事業継承へのアクションを
起こしていくことが大切となります。

会社の経営や事業を後継者へ引き継いでいくための事業承継。社会保険労務士事務所であっても、例外ではありません。社会保険労務士事務所の所長の中には、「高齢のため引退を考えているものの後継者がいない」「顧問先に迷惑をかけずに事業承継したい」「従業員を抱えているので、不安を感じている」などのお悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか?

不安や悩みを抱えているものの、なかなか相談しにくいことも手伝って、日々の業務に追われるまま先送りにしているケースもあるでしょう。とはいえ、事業承継へのアクションは、早い段階で検討を始めれば、その分、選択肢が広がります。後継者を探すのであれば、よりよい人材を見極めることもできますし、後継者の育成に時間をかけることができるかもしれません。一方、廃業や売却を決断するにしても、従業員を雇用していれば、そう易々と方向性が決まるわけでもありません。ある程度の検討期間が必要になってきます。どのような決断をされるにしても、多くの選択肢の中から、ベストを選び取りたいものです。

近年は、働き方や仕事観が多様化し、ビジネス環境も大きく動くなか、社会保険労務士に求められる業務も変化してきています。どの業界においても、旧態依然としたビジネスモデルでの限界、転換が求められ、それは社労士事務所においても同様です。顧客である企業が求めるサービス、付加価値を提供しなければ、ビジネス継続していくことは困難です。

社会保険労務士が人事のプロフェッショナルとして、どのようなビジネスを展開していくか、課題解決の手段の一つとしても、事業承継を視野に入れるケースも増えています。

 

社労士業界のトレンド

経営者の高齢化、人材不足など、中小企業の後継者不足が問題となっています。社労士業界も同じことが言えます。さらに、雇用形態の多様化やビジネス環境は大きく変化をしています。

社労士業務の軸とも言える、社会保険や労働保険の手続き業務、就業規則の作成や労働問題への相談において、企業から社労士に求められる役割も変わってきました。

とくに、1号業務、2号業務といった手続きや届出業務においては、DX化や各種申請の電子化なども進んでおり、IT化に対応した社労士に委託するのが大前提となってきました。さらに、IT化が進むにつれ、

企業での内製にシフトするケースもあります。とはいえ、内製が非効率であると考える企業においては、従来のように社労士などに委託するケースは、まだまだ需要があります。しかしながら、そのサービス内容への目線は、低コスト・高品質・スピード感ある法改正対応など、シビアなものとなっています。ITベンダーなどの参入も低コスト化に拍車をかけています。

このようなビジネス環境の中、顧問先企業に入社・退社の従業員が発生する都度、会社に出向き書類を作成する、年金事務所に届出る、月に1回ほど会社に顔を出して人事部からの相談事に答える、といった仕事のスタイルは難しくなってきています。企業としても、手続きを行なってくれる人材が欲しいわけではありません。大きく変わるビジネス環境のベースとなる、「人事」の課題に寄り添い、一緒に悩みを共有・解決してくれるプロフェッショナルを求めています。1号・2号業務はベースにありつつも、コンサルティング能力に長けた社労士が求められるようになってきました。社労士業界においても、新たなビジネススタイルの構築が必須となってきているでしょう。

 

事業承継を考えるタイミング

事業承継を考えるタイミングはいつが最適なのか、日々の業務が忙しく、また考えたくない部分もあるかもしれません。ただ、事業承継は、後回しにすればするほど、リスクは大きくなり、タイミングを逃すことになりかねないのです。とくに、社労士事務所の所長が高齢で、“ゆくゆくは引退を考えているけれど、まだ元気に働けるから”と、先延ばしにケース。元気であっても、体調を崩すこともありますし、事故に合い、仕事復帰が難しいといったことが起きないとも限りません。その時に、焦ってどうにかしようとしても、顧客はもちろん、従業員への影響は計り知れません。元気な今、検討を始めるタイミングです。早い段階で検討を始められれば、「後継者を探して育成したうえで、引き継ごう」「シナジー効果のある同業他社に売却しよう」といったハッピーリタイア策など、さまざまなプランを選択することが可能になるのです。

社労士事務所が事業承継するとき、注意したい3つのこと

①顧問先

社労士事務所の事業承継を検討した結果、M&A(売却)プランを選択するケースも多いでしょう。最近では、中小の社労士事務所の新たな経営戦略としてもM&Aを行うことも増えています。売り手の社労士事務所としては、

・売却によって譲渡対価を得ることができる

・後継者がいなくても、廃業しなくて済む

・従業員の雇用を維持できる

メリットがあります。

買い手側も社労士事務所であれば、

・顧客を引き継ぐことができる

・人材を獲得できる

・規模拡大で新たなサービス展開が可能

といったさまざまなメリットがあります。

ひと昔前のM&Aのイメージと違い、今はよりよい経営戦略としての面に着目されるようになってきています。M&Aと聞いても抵抗感を感じる人は少ないでしょう。

とはいえ、M&Aは慎重に話を進めていかなくてはなりません。とくに、顧客への対応は重要です。話の進め方、説明の仕方次第では、契約を解除されてしまうリスクもあります。M&Aにより、社労士事務所の方針が大きく変わるなどあれば、その機会に契約を見直すといったことも起こり得るからです。買い手の思惑とすれば、今までの顧客は大きな魅力であり、買収したにもかかわらず契約解除となれば、投資した資金を回収できないといった事態になりかねません。とくに、大量に顧客が離れてしまえば、大きな影響を及ぼします。

 
②従業員の引き受け

M&Aにあたって、顧問先の維持と同様、大切なのが、従業員の引き受けになります。買い手とすれば、新規に人材を採用する負担やコストを、M&Aというかたちで、実務経験豊富な従業員を獲得できるのです。もしも、M&Aをきっかけに期待する従業員が離職してしまえば、思惑が狂ってしまいます。M&A後の業務の引き継ぎにも左右します。

従業員の離職から、取引先が契約解除となれば、売却金額にも影響します。M&Aの際には、従業員や顧客が流出するリスクに注意し、説明のタイミングや方法も配慮しましょう。くれぐれも何も決まってないうちから話が漏れたりしないよう気を配らなくてはなりません。売却が決定した段階など、今後の事業の見通しなど丁寧に、従業員が不安を感じて離職してしまわないよう心がけます。

何より、M&Aの結果、従業員自身の処遇がどうなるのか、どのように今後活躍してほしいのか、フォローアップをしながら、開示していくことが重要です。

 
③情報漏洩対策

M&Aを実行するときは、情報漏洩対策は重要です。安易な気持ちで周りに相談することもNGです。M&Aを行う場合は、通常アドバイザリーなどに委託することになりますので、アドバイザリーに相談しながら進めていきます。M&Aの情報は、気をつけていないと案外情報が漏れてしまうこともありえます。正しい情報が伝わらないばかりか、顧客の契約解除や従業員などの離職につながりかねません。社労士事務所の信用にも影響します。また、M&Aを行う場合には、デューデリジェンスも行われます。顧客の個人情報なども取り扱うことが多い社労士事務所においては、情報管理の徹底は必須です。情報セキュリティへの対応は必要不可欠であり、M&A検討中に、顧客情報の漏えいするような事故を起こさないための、しっかりと予防対策を行なっておきましょう。

まとめ

社労士事務所での経験だけでなく事業会社でIPOを目指す実務を担当した経験から支援させていただきます。

社会変化や働き方の多様化により、人事労務の果たす役割はますます重要となっています。事業承継においても、適切な人事労務管理が行われていることが、多くの労務リスクの発生予防に重要であり、事業承継成功のポイントです。

しかしながら、人事労務管理は幅が広く、専門性が必要なことも多いため、経営者や担当者だけで対応していくことが難しいケースがあるでしょう。

そのような場合には、社会保険労務士や労務コンサルティングなどの専門家に相談してみませんか。経営者のアドバイザーもしくは実務担当者のサポーターとして、労務監査(労務DD)や、実際の労務管理の実務運用まで、幅広く対応できるサポート先がおすすめです。

当社においても、事業承継後の後継者へのスムーズなバトンタッチのために、経営者が目指す人事労務のあり方を理解したうえで、適切な労務管理の見直しをサポートしていきます。事業承継についてお悩みの経営者さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。 

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