【テンプレート付き】海外駐在員規程の作り方は?
海外労務管理のポイントや給与・手当などの記載事項も解説
従業員を海外へ派遣する場面がある場合、海外駐在員規程の作成は欠かせません。規程において、海外駐在中の労働条件や現地での注意点を定めておけば、従業員は安心して現地に駐在できます。
従業員が海外勤務中の労務管理は、さまざまな要素が絡み合うため、複雑になりがちです。現地の労働法や文化などを理解したうえで、適切な給与や手当の規定を整備しましょう。
今回は、海外駐在員規程を作る際のポイントや含めるべき内容などを解説します。労務管理の質を向上させ、国際業務の円滑な推進につなげるためにも、駐在員の生活や業務環境を支える基盤を強化しましょう。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
・NHK「あさイチ」
・中日新聞
・船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri
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海外駐在員規程の基礎知識を解説します。
海外に子会社を設立したときや、自社が50%以上出資して現地会社との合弁会社を設立した場合、駐在員を派遣しなければなりません。
海外駐在員規程とは、企業が従業員を海外に派遣する際に、勤務条件や待遇、福利厚生などを定めた社内ルールです。海外へ長期間にわたって赴任する際にはさまざまな不安が伴いますが、明確にルールを定めておくことで、駐在員が安心して業務に専念できます。
また、規程の作成は、人事労務部門の事務的負担を軽減する効果もあります。規程に基づいて賃金や赴任旅費、支度金などの用意を進めればよいため、従業員から問い合わせを受けたときもスムーズに対応できるでしょう。
海外労務管理とは何かを確認しましょう。
海外駐在員規程は、企業が従業員を海外に派遣する際の具体的なルールやガイドラインを定めた社内規程です。海外労務管理の一部を構成するもので、駐在員や現地スタッフに対して、公正な給与や手当を提供することが求められます。
海外労務管理とは、企業が海外での労務全般を適切に管理・運営するための広範・包括的な取り組みです。具体的には、国ごとに異なる法律や慣習を正確に把握し、法的に適合した給与体系や手当を設けることを指します。
海外駐在員規程を作成する際には、海外における労務管理の方法を理解しなければなりません。
例えば、海外への赴任期間や海外の給与規定に基づいて給与が支払われるかどうかによって、税金や社会保険の取り扱いは異なります。労働関係法令や社会保険制度の違いを理解し、適法に労務管理を行いましょう。
さらに、文化の違いによる摩擦や言語の壁といった課題に対して、対策を講じることも大切です。日本とは異なる文化で生活する負担に配慮し、安全衛生を確保することも、大切な労務管理の一環です。
コンサルタント中村の経営視点のアドバイス
海外労務管理は、国際的な業務環境において重要な役割を果たしています。グローバルに展開する企業や海外拠点での事業展開を考えている場合、現地の法律や規制を遵守しつつ、適切な労務管理を行うことが不可欠です。
海外労務管理における課題とその解決方法を確認しましょう。
海外労務管理に伴う課題として、文化の違いや労働条件の多様性が挙げられます。例えば、現地特有の慣習や言語の壁が、現地における従業員間の円滑なコミュニケーションを阻害することが考えられるでしょう。
また、各国で労務管理に関する規定や法律が異なります。企業は現行の法的要件を把握し、駐在先の法律・慣習・社会通念上のルールなどへ対応する必要があります。
海外駐在員規程を作成する際には、海外労務管理に詳しい社会保険労務士やコンサルタントを活用し、適切なアドバイスを受けるのがおすすめです。
従業員の精神的な負担を軽減するだけでなく、事業やプロジェクトの進行を円滑にするためにも、専門的な知見を持つ専門家からアドバイスを受けましょう。
海外駐在員規程の作成ポイントを解説します。
海外へ駐在する従業員は「現地でちゃんと生活できるか」「本国からサポートは受けられるのか」「日本へ帰る機会は得られるのか」など、さまざまな不安を抱えるものです。
海外駐在員規程を作成することは、従業員の身体的・精神的な負担を軽減し、業務に集中してもらうためにも欠かせません。以下で、海外駐在員規程を作成するときのポイントを解説します。
海外駐在員規程では、海外赴任中の労働条件や諸手当、赴任・帰任旅費などを定めます。福利厚生も含めて「駐在員がどのような環境で働くのか」を具体的に示し、従業員に安心感を与える効果があります。
また、適切な規程を整備することにより、従業員全体に対する公平性を保つことにも寄与します。企業内部での情報共有や意識の統一が図りやすくなり、認識の齟齬によるトラブルを未然に防げるでしょう。
なお、海外駐在員規程には主に以下の内容を含む基本構成となります。
駐在員が自身の待遇や受けられる支援を理解できるよう、具体的かつ明確な表現で規程を作成することも大切です。
規程を作成する際には、現地の法律や慣習を十分に理解し、それに則った内容を反映させることが重要です。現地の労働条件や文化の特性を把握するためには、詳細なリサーチを行う必要があります。
また、規程を作成する際には、公平性の確保が欠かせません。全ての駐在員に対して一貫性のある待遇を提供し、不公平感を生じさせないように配慮しましょう。
多角的な視点から内容を検証し、細部まで丁寧に配慮を行うことで、効果的かつ実効性のある規程を策定できます。
国際情勢は、いつ変化するかわかりません。派遣先国の法規制や情勢の変化に応じて規程を定期的に見直し、最新情報の反映し、改訂しましょう。
海外駐在員に対する給与や手当の設計は、その従業員が赴任先で快適に生活するための重要な要素です。異国での生活では、住居費・医療費・教育費などの相場が日本とは異なるため、不安を感じることがあるかもしれません。
環境や文化の違いに十分に考慮し、適切な給与や手当制度を設計することが大切です。従業員が経済的な不安を感じることなく高いモチベーションを保ち、十分なパフォーマンスを発揮できるようにしましょう。
基本給を設計する際は、赴任先の生活費を考慮する必要があります。基本給は、現地の物価や生活水準に合わせて設定することが望ましいでしょう。
例えば、赴任前後で基本給が変わらない場合、日本より物価が高い国へ赴任すると生活レベルが落ちてしまいます。日本における生活水準を赴任先でも保証するためにも、現地での暮らしに見合った額を算出しましょう。
また、海外へ赴任する際に「海外赴任手当」「生活費調整手当」「赴任一時金」「語学学習手当」などの手当を支給することもあるでしょう。また、赴任地のハードシップ(過酷な状況)に対する補償として、ハードシップ手当を支給するケースもあります。
手当を支給する場合、金額を明確に決定するのはもちろん、役職に関係なく支給する制度設計にすることをおすすめします。従業員の金銭的な不安を軽減し、業務に集中できる環境を整備しましょう。
また、国によって最低賃金が異なります。現地の法律に違反しないためにも、現地の法制度に基づいた制度設計を行い、従業員の福利厚生を充実させましょう。
赴任先によって物価水準が異なるため、規程を作成する際には物価の変動をチェックしましょう。物価によって、給与だけでなく手当についても適切な金額を設定すれば、駐在員が安心して働ける環境を整備できます。
なお、海外基本給の決定方式には「別建て方式」「購買力補償方式」「併用方式」があります。
| 特徴 | メリット | デメリット |
別建て方式 | 現地の給与水準に基づいて、国内給与体系とは別の体系で基本給を設定する | ・現地の労働市場に適合した競争力のある給与設定が可能 ・現地採用の社員との給与格差が小さくなり、職場の不和を防げる ・国や地域ごとの経済状況や物価に柔軟に対応できる | ・日本と現地の給与体系の違いにより、帰国時の処遇調整が複雑になる ・国や地域ごとに異なる給与体系の管理が煩雑になる ・同じポジションでも赴任国によって給与に大きな差が生じる可能性 |
購買力補償方式 | 本国の基本給をベースに赴任国との物価差を調整し、本国と同等の生活水準を維持できるようにする | ・赴任者の本国での生活水準を維持することで、安心感を与えられる ・本国の給与体系との一貫性が保たれ、帰国時の処遇調整がスムーズになる ・世界共通の基準で給与を管理しやすい | ・現地採用社員との給与格差が大きくなり、職場の不和を生む恐れがある ・物価指数の設定や更新が複雑で、正確な補償額の算出が難しい ・為替変動の影響を受けやすく、頻繁な調整が必要になることがある |
併用方式 | 別建て方式と購買力補償方式の要素を組み合わせた方式で、基本給の一部は日本基準、一部は現地基準で決定する | ・両方式のメリットを取り入れた柔軟な給与設計が可能 ・日本における処遇の一貫性を保ちつつ、現地市場の状況も反映できる ・赴任者の個別事情に応じたカスタマイズが可能 | ・制度設計と運用が複雑で、人事管理の負担が大きい ・給与の透明性が低くなり、従業員への説明が難しくなる場合がある ・バランスの取り方によっては、両方式のデメリットも引き継いでしまう可能性がある |
厚生年金保険や健康保険に関する取り決めを確認しましょう。
社会保険(厚生年金保険や健康保険)を、法律に基づいて取り扱うことも欠かせません。社会保険料負担や医療費負担、将来の年金給付額に影響するため、駐在員自身やその家族に大きく影響します。
海外赴任時における社会保険の仕組みを理解し、適切に運用しましょう。
海外赴任中、国内事業所から給与を支払う場合は厚生年金保険の加入を継続します。出向元の日本企業から給与が支払われている限り、雇用関係が維持されていると見なされるため、日本の法律に基づいて保険料を納付しましょう。
また、赴任期間が5年以内で、かつ日本と社会保障協定を締結している国に赴任させる場合は、赴任先における年金保険料の納付が免除されます(手続きが必要)。
転籍出向や現地採用など、日本国内における雇用関係が終了する場合は、日本の厚生年金保険資格は喪失します。赴任先の国によっては、現地の年金制度への加入が義務付けられることがあるため、現地の法律に従いましょう。
健康保険に関しても、厚生年金保険と同様です。赴任中に国内事業所から給与を支払う場合は、健康保険に加入し続けます。
ただし、現地の医療機関を受診した場合は日本の健康保険制度は利用できません。この場合は一旦全額自己負担した後、健康保険の保険者に「海外医療費(療養費)支給申請書」を提出し、受診費用の一部を支給します。
外貨で支払われた医療費を円に換算するときは、受診日または支給決定日の為替レートを基に計算するのが一般的です。
海外労務管理を成功させるためには、適切な情報収集が欠かせません。各国の法律や文化特有などに関して、信頼できる情報源を確保しましょう。
給与や手当などの経済的な面だけでなく、労働時間や有給休暇などの労働条件に関する内容も、詳細に定めましょう。規程の整備は、従業員が安心して働くための土台となります。
また、赴任する駐在員本人だけでなく、家族に関しても配慮が求められます。教育や医療のアクセス、生活環境の整備をはじめ、家族が快適に過ごせる環境を提供しましょう。
さらに、駐在期間が終了したあとのフォローアップも重要です。駐在中の経験を適切に評価し、企業内でのキャリア形成や役職への反映を考慮することで、従業員のモチベーション向上や長期的な成長につながります。
必要に応じて、有給休暇の取得促進や福利厚生の見直しなど、帰国後の生活環境を整える取り組みを行いましょう。ハード面とソフト面で適切なマネジメントを行うことで、企業と従業員の双方にとって、よりよい成果を実現できます。
鶴見の経営視点のアドバイス
従業員に安心感を与えるために、日本での生活水準を維持できる報酬を支給すること、天災・人災が発生したときの緊急避難先を定めることも効果的です。あわせて、安心して利用できる医療機関の情報提供も行いましょう。
海外駐在員規程の作成は、従業員が海外へ赴任したとき、安心して業務に集中できる環境を整備するために欠かせません。労務管理の基本を理解し、給与や手当、社会保険の取り扱いを規程に盛り込みましょう。
具体的な規程作成にあたっては、現地の法律や文化を十分に理解することも欠かせません。日本とは異なる環境で働く負担を加味したうえで、労使の双方が納得できる制度を作れば、企業全体の生産性を高められます。
就業規則や各規程の作成や改訂を検討している事業主の方は、社会保険労務士法人とうかいでご相談ください。弊社では、企業様の実情に合わせて、オーダーメイドで規程を作成しております。
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