社員の給与を計算する給与担当者は、人事労務部門、経理部門など、会社によって部署はさまざまでしょう。支払いを遅滞なく、正確に計算しなくてはならない地味だけど欠かせない仕事。税務をはじめ、社会保険、労働関連法規などの法的な知識や仕組みを理解していなければなりません。
今回は給与計算を行ううえで、必要な知識の一つ「所得税」に焦点をあて、ミスのない所得税計算について確認していきます。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
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所得税の理解は、給与計算の基本です。
給与計算を行ううえで、まず理解しておかなければならないのが「所得税」についてです。通常、給与計算システムを利用すると、給与額に応じて所得税は自動的に計算されるとは思いますが、仕組みを正しく理解していないと、大きなミスにつながりますので、しっかりと確認しておきましょう。
所得税は、さまざまな種類がありますが、ここでは給与に関する所得に着目し、説明していきます。
所得税とは、1年間に個人が得た所得に対して課される税金のことです。この仕組みを正しく理解することが、正確な給与計算につながるポイントとなります。
所得税額=課税所得(①給与総収入-②給与所得控除-③所得控除)×税率-控除額
まず注意しておきたいのが「所得」の考え方です。単純に手元に入る収入額が所得ではありません。所得税を計算するには、課税所得に対して、一定の税率を乗じることにより決定します。
所得税が計算される流れを確認していきましょう。
まず給与所得とは、年間に得た①総収入から、②非課税の手当や給与所得控除を差し引いた後の金額となります。非課税の手当の代表的なものとしては、通勤手当や出張日当などが該当します。さらに、給与所得控除とは、給与に対するみなしの経費として設けられているものです。
所得税の計算は、ステップに沿って控除していくことがコツです。
所得税計算を行うための第1ステップは、まず給与収入から「給与所得控除」を差し引きます。給与所得控除は、総収入から非課税の手当などを差し引いたのち、一定額を給与所得控除として控除することができます。
所得税額
=課税所得(給与総収入-給与所得控除-所得控除)×税率-控除額
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
---|---|
1,625,000円まで | 550,000円まで |
1,625,001円から 1,800,000円まで | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円から 3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円から 6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円から 8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
給与総収入から給与所得控除を差し引いたのち、さらに所得控除を差し引くことになります。これを「所得控除」と言い、さまざまな種類があります。
所得税額
=課税所得(給与総収入-給与所得控除-所得控除)×税率-控除額
控除の種類 | どんなときに控除が受けられるか | 控除額 |
---|---|---|
雑損控除 | 災害または盗難若しくは横領によって、資産について損害を受けた場合。 | いずれか多い方。 ・(損害金額+災害等関連支出の金額-保険金等の額)-(総所得金額等)×10% ・(災害関連支出の金額-保険金等の額)-5万円 |
医療費控除 | 医療費が一定額以上支払った場合。生計を一にする配偶者その他の親族も含む。 | (支払った医療費-医療保険金などで補填される金額)ー10万円 総所得金額が200万円未満の人は総所得金額の5% |
社会保険料控除 | 社会保険料を支払った場合。生計を一にする配偶者その他の親族も含む。 | 支払った保険料の合計 |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済の掛金を支払った場合 | 支払った掛金の合計 |
生命保険料控除 | 生命保険料、介護医療保険料及び個人年金保険料を支払った場合 | 新契約・旧契約、それぞれ最高50,000円を限度 |
地震保険料控除 | 地震保険料を支払った場合 | 最高50,000円を限度 |
寄附金控除 | 国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対して寄付をした場合。 | ・寄附金支出合計額 ・その年の総所得金額等の 40%相当額 いずれか少ない方-2,000円 |
障害者控除 | 納税者や同一生計配偶者、扶養親族が障害者である場合。 | ・障害者27万円 ・特別障害者40万円 ・同居特別障害者75万円 |
寡婦控除 | 寡婦である場合。 | 27万円 |
ひとり親控除 | ひとり親である場合。 | 35万円 |
勤労学生控除 | 勤労学生であり、前年の所得が75万円以下の場合。 | 27万円 |
配偶者控除 | 配偶者の合計所得が48万円以下の場合。 | 納税者本人の所得額によって一定額 ・一般控除対象:38万円(最大) ・老人控除対象:48万円(最大) |
配偶者特別控除 | 納税者の合計所得が1,000万円以下で、配偶者の合計所得が48万円以上133万円未満である場合。 | 納税者本人の所得額によって最大38万円 |
扶養控除 | 16歳以上の親族などを扶養している場合。 | 扶養親族の年齢、同居の有無等により、最大63万円 |
基礎控除 | すべての納税者本人に適用する。 | 納税者の所得金額により、合計所得が2,400万円以下の場合、48万円 |
給与計算をミスなく行うために、しっかり確認しておきましょう。
所得税を計算するためには、まず総収入から給与所得控除、所得控除を差し引いた金額を求めます。それが「課税所得」と言われるものです。“給与所得控除”“所得控除”と非常に紛らわしいので、注意が必要です。
所得税額
=課税所得(給与総収入-給与所得控除-所得控除)×税率-控除額
所得税の税率は、課税所得額によって税率が変動します(超累進課税)。課税所得に対し7段階に区分されています。
課税所得 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
課税所得に所得税率を乗じた結果、該当する税額控除があれば、差し引きます。
所得税額=課税所得(給与総収入-給与所得控除-所得控除)×税率-控除額
この控除は、所得税率を乗じた結果に対して控除するものなので、誤って給与所得控除や所得控除同様に控除してしまうと、大きな計算違いが発生してしまいます。
配当控除 総合課税の配当所得がある場合 外国税額控除 外国で生じた所得などがある場合 政党等寄付金特別控除 政党・政治資金団体に対して寄付金を支払った場合 公益社団法人等寄付金控除 公益社団法人等に対して寄付金を支払った場合 (特定増改築等)
住宅借入金等特別控除
住宅の新築、取得または改築等をした場合 住宅特定改修特別税額控除 バリアフリー工事や省エネのためのリフォームを行なった場合
毎月の給与計算では、従業員の給与から所得税を源泉徴収することになります。本来、所得税は従業員自身が支払う税金ですが、特例として会社が給与から所得税を差し引き(源泉徴収)、従業員に代わって翌月10日までに納付する仕組みとなっています。
所得税は、1年間の課税所得に税率を乗じることで求めるものですが、毎月の給与計算では1年間の課税所得はわかりませんので、毎月の給与額をもとに概算で計算された所得税を源泉徴収することなります。
最終的には、毎年12月に年末調整で年間の所得税を計算し、税額が確定することになります。
給与から所得税を源泉徴収行う場合の所得税額は、国税庁から公表されている「給与所得の源泉徴収税額表」を用いて算出します。
賞与についても、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を用いて、所得税を算出しますが、以下の流れに沿って判定していきます。
① 前月給与から社会保険料を差し引く
② 上記金額と扶養親族等の数を「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめて賞与の金額に乗ずべき金額を算出する
③ 賞与から社会保険料等を差し引いた金額×②の税率
毎月の源泉徴収と年に1度の年末調整をしっかり理解しておきます。
毎月の給与や賞与から所得税を源泉徴収するには、「給与所得の源泉徴収税額表」を用いて求めます。しかし、給与計算システムなどを利用し計算処理している場合には、月額表の甲欄を適用する給与等に限り、「電算機計算の特例」から選択することができます。なお、税額計算の特例により求めた税額と、税額表により求めた税額に差額が生じることがあります。ただし、年末調整で精算されます。
社員から源泉徴収した所得税は、源泉徴収を行なった翌月10日までに納付することになります。所得税徴収高計算書(納付書)に、必要事項を記入して所轄税務署や金融機関で納付を行います。もちろん紙書類で取り扱いもできますが、e-taxなどを利用し、簡単に申告・納付が可能です。所得税徴収高計算書の内容をe-taxに入力し申告するだけ。あらかじめe-taxに金融機関を登録しておけば、申告内容に基づいてダイレクト納付(電子納税)も可能です。所得税の納付は、毎月発生するものですので、e-tax利用で効率的に納税がおすすめです。
小規模企業などで給与等の支払いを受ける従業員が常時10人未満の場合には、「納期の特例」といった制度の利用ができます。毎月納付する所得税の納付を7月10日、1月20日の年2回にまとめて納付することが可能です。
給与計算は理解すべきポイントはさまざま。お気軽にお問い合わせください。
給与計算をするうえで、非常に重要な所得税の知識。間違いが許されないのに、複雑でわかりにくいという方も多いでしょう。年末調整の時期がやってくると気が重いといった給与担当者の方の声もよく聞きます。それだけ、大きな負担のある仕事といえるかもしれません。
給与計算では、こういった税の知識に加え、社会保険の知識も必要です。給与計算をアウトソーシングしていても、間違いがあるという話をよく聞きます。給与計算はソフトがほとんどやってくれると思っている経営者も多いですが、実はそれほど簡単な話ではありません。
アウトソーシング先をきちんと選ばなければ、余計な手間がかかってしまいます。
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