昨年2019年4月に外国人労働者受入れ拡大を目指して、出入国管理法の改正がされました。
この改正入管法では、在留資格「特定技能1号・2号」が創設され、中小企業などの深刻化する人手不足を補うものとして、また海外との取引や進出を見越して外国人雇用を視野に入れている企業などに注目されています。
“優秀な外国人を雇用したいが、在留資格の取得や手続き、その他労務管理までどのようなものが必要なのかわからない”といった疑問を抱える企業も多いでしょう。
外国人を雇用し、トラブルなく安心して働いてもらうには、基本的な知識を備えておかなければなりません。
今回は、外国人の雇用について具体的にどのようなことを行い、どんな点に注意すれば良いか、会社がおさえておくべきポイントを解説します。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
・NHK「あさイチ」
・中日新聞
・船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri
取材・寄稿のご相談はこちらから
そもそもこのように外国人雇用が着目される理由は何か、また多くの企業で雇用に二の足を踏む理由は何か。外国人雇用の動向を理解しておくには、入管法が改正された背景と実情を理解しておかなくてはなりません。
① 人材の確保を課題とする中小企業の増加
人材確保は超少子高齢化社会の日本にとって、非常に大きな問題です。終身雇用が普通ではなくなった今、安定的に人材確保できる企業は多くありません。とくに中小企業に至っては、多くが経営課題の一つに“人材の確保”をあげているのではないでしょうか。一方で外国人を受け入れる体制が整った会社が少なく、外国人雇用を活用できていない現状もあります。
② グローバル化への対応
多く業種、業界でグローバル化が進みつつあります。日本の市場のみでの生き残りが難しくなる中、海外販路などのグローバル化は、企業にとって重要な課題です。英語はもちろんのこと、他言語への対応をしていくために、海外出身の人材を雇用するといったケースもよくあるケースです。
③ インバウンドへの対策
近年では観光ビジネス事業を中心に、インバウンド客への対応人材として外国人雇用が進んできました。しかしながら、最近の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、旅行者が一気に激減し、非正規の外国人労働者などは、一気に雇用が不安定な様相となっています。インバウンド需要の蒸発は日本経済に大きな打撃を与えており、今後の外国人雇用にも大きな影響が及ぶことになると思われます。
厚生労働省が公表している令和元年10月末現在の「外国人雇用状況」によると、外国人労働者数は1,658,804人で、平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高を更新するなど、増加を続けています。
ただし、日本で働く外国人労働者数は増加しているものの、業種や都市部など地域が限られているのが実情です。外国人労働者が多い地域や、あまり多くない地域、また、外国人の多い業種・職種もあれば、まったく外国人雇用が行われていな企業もあります。
企業における外国人雇用で起こりうる問題など実情について、詳しくみていきます。
① 文化や言語の壁。日本語や英語力の不足で起こるコミュニケーションの問題
はじめて外国人人材を受け入れる企業で、とくに問題になるのが、言語の問題。日本の企業が求める日本語レベルと外国人の日本語能力のギャップにより、コミュニケーションがスムーズに行えないといったケースをよく聞きます。また日本語力が低くとも英語力はビジネスレベルであるにもかかわらず、受け入れ側の日本企業の従業員の英語力が足りず、コミュニケーションギャップが生まれるといったケースも。
日本の働く環境のなかに、外国人を当てはめようとした結果、ミスマッチが生じてしまっているのが原因です。さらに異なる文化的背景を持つ外国人とは、商習慣や職場慣習が異なることでのトラブルもあるようです。
雇用する外国人の日本語力をN1以上とするなど、日本語でのコミュニケーションをMUSTとする企業もありますが、果たして今後のビジネス環境において、外国人の日本語力をどの程度必要とするかは、再考が必要なタイミングなのではないでしょうか。例えば、飲食店などのホールスタッフも注文をタブレットにすることで日本語能力がなくても務めることができるようになります。
② 入管法をはじめとした手続に関する知識不足
外国人を雇用するためには、入管法に基づいた申請など手続きに関する知識は必須です。外国人を雇用するには、適切な雇用が行える企業なのかどうか、外国人の人権を守るため、信用度が慎重に審査されます。日頃から適切に労務管理を行なっているかや社会保険などの加入状況、資産状況など、受け入れる環境が整っていないと審査に時間がかかる、もしくは審査が通りません。
信頼度の高い企業として認識されるために、日頃からコンプライアンスを守り、健全な経営を行っている企業であるほど、手続きもスピード感をもって、進められることになります。
③ 安い労働力としての認識
企業の意識も変わりつつあるとは思いますが、未だ一部では、外国人を安い労働力として雇用する認識のある企業があるのも事実です。しかしながら、著しく低い給与、社会保険に加入させない、コンプライアンスが守られていない企業は、審査が通らないのはもちろんのこと、今後は人材すら集まらない状況になっていくでしょう。待遇の悪い企業に、人材が集まらないのは、外国人採用も日本人採用も変わりません。
今後の外国人雇用のあり方を考えていくにあたって、欠かせないのが「ダイバーシティとインクルージョン」という考え方です。働き方改革が進む今、人材活用において重要な考え方として注目されています。「ダイバーシティ」とは、性別や年齢、国籍、文化、価値観など、さまざまなバックグラウンドを持つ人材の強みを生かした経営という意味合いで使われてきました。
そして最近ではもう一つ「インクルージョン」という考え方が受け入れられるようになってきています。「インクルージョン」は“受容”という意味合い。従業員がお互いを尊重し一体化を目指す組織のあり方を意味します。
従業員一人ひとりの多様性を受け入れることに加え、組織の一体感を醸成することで、成長やイノベーションを実現していくのが「ダイバーシティとインクルージョン」です。今後の外国人雇用には、欠かせない考え方のベースになっていくでしょう。
2019年4月より、新しい在留資格「特定技能」が創設されるなど、外国人雇用をめぐる状況は変化しています。いざ外国人を雇用するといった際に慌てないよう、ポイントを確認しておきましょう。
外国人を雇用するにあたって、在留資格についてきちんと理解しておかなくてはなりません。在留資格は、外国人が日本に入国した後の滞在と活動内容における許可・資格のことです。勘違いすることが多いのが、ビザ(査証)との勘違いです。在留資格とビザは異なります。ビザは、外国人が日本に入国する際の許可・資格です。外務省管轄で、大使館や領事館で発給されますが、在留資格は、入国後の許可であり、法務省の管轄となり入国管理局で発給されるものです。
また“就労ビザ”という言葉をよく聞きますが、日本で就労が認められているいくつかの在留資格を通称“就労ビザ”と呼ばれているだけで、厳密には“就労ビザ”というものはありませんので、注意をしましょう。
日本に滞在している外国人は、必ず許可を受けなければならない「在留資格」。「在留資格」には、いくつもの種類があり、「身分や地位に基づく在留資格」「就労が認められる在留資格」「就労が認められない在留資格」「就労の可否は指定される活動による在留資格」に分類されます。
在留資格がない状態で日本に在留した場合、もしくは在留期限が切れてしまった場合は、不法滞在となります。また在留する外国人が、偽りや不正により入国の許可を受けた場合や、在留資格に基づく活動を一定期間行わないで在留していた場合などは、在留資格が取り消されることになります。
・永住者(永住権を得た者)
・日本人の配偶者等(日本人の配偶者、実子、特別養子など)
・永住者の配偶者等(永住者・特別永住者の配偶者など)
・定住者(第三国定住難民、日系3世、中国残留邦人など)
・外交(外国政府の大使、公使、総領事など)
・公用(外国政府大使館・領事館の職員など)
・教授(大学教授など)
・芸術(作曲家、画家など)
・宗教(宣教師など)
・報道(記者、カメラマンなど)
・経営、管理(企業の代表取締役、取締役など)
・法律、会計(弁護士、公認会計士など)
・医療(医師、歯科医師など)
・研究(政府関係機関や企業などの研究者)
・教育(中学・高校などの語学教師)
・技術、人文知識、国際業務(エンジニア、通訳、翻訳者など)
・企業内転勤(外国の事業所からの転勤)
・介護(介護福祉士など)
・高度専門職1号/2号(イ:教授など ロ:技術者など ハ:企業の代表取締役など)
・興行(俳優、歌手、ダンサー、プロスポーツ選手など)
・技能(調理師、パイロットなど)
・技能実習1号/2号(技能の習得をする者)
・特定技能1号/2号(特定産業分野での就労者)
・文化活動(日本文化研究者など)
・短期滞在(観光客、会議参加者など)
・留学(留学生)
・研修(技術、技能の習得をする者)
・家族滞在(就労する外国人や留学生の配偶者や子)
・特定活動(ワーキングホリデー、外国人看護師など)
本来、在留資格で認められた活動以外の活動は認められていません。しかし、外国人留学生がコンビニでアルバイトをしていたり、居酒屋のスタッフとして働いているのを目にすることも多いと思います。本来ならば就労が認められない「留学」の在留資格なのに、なぜアルバイトができるのか。それは「資格外活動許可」として、アルバイトをすることが認められているからです。入管法では、在留資格の活動の遂行を阻害しない範囲内でという条件付きで、在留資格以外の活動を許可するとされています。
留学生の場合は、学業に差し障りがない範囲でアルバイトはOKということになるわけです。
【資格外活動で働ける時間】
資格外活動の許可がある場合でも、無制限に働けるわけではありません。入管法第19条では、活動の遂行を阻害しない範囲を定めています。留学生を例にみてみましょう。
・1週間での就労は28時間以内
・学則で定められた長期休暇期間(夏休みや冬休み)は、1日8時間以内
【週28時間をオーバーするとどうなるか】
この制限をオーバーすると、外国人本人は、「1年以下の懲役もしくは禁錮若しくは200万円以下の罰金」、雇った企業は「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又は併科」の罰則があるので、アルバイトで外国人を雇用する場合は、労働時間管理を十分に行う必要があります。
日本では外国人の単純労働は、原則として禁止されています。しかしながら、生産性向上や人材確保の施策を行なってもなお、深刻な人材不足にある業界等に対応するため、
改正入管法で新たに在留資格が創設されました。その新しい在留資格が「特定技能1号・2号」です。
特定産業分野に属する相当程度の知識または経験を必要とする業務に従事する在留資格です。
① 技能レベル
業務に従事する際に、一定水準以上の業務を行える技能レベルが必要です。
② 日本語能力レベル
生活や業務に必要な日本語を日常会話レベルで話せることが必要です。
③ 在留期間
1年、 6か月、または4か月更新(通算5年まで)
④ 家族の帯同
不可
⑤ 対象となる職種
介護/ビルクリーニング業/漁業/飲食料品製造業/外食業/素形材産業/産業機械製造業/電気・電子機器関連産業/建設業/造船・船用工業/自動車整備業/宿泊業/農業/航空業
さらに熟練した技能を有する者に、試験等の合格を条件に与えられる在留資格です。
① 技能レベル
試験等の合格が必要です。
② 日本語能力レベル
試験などでの確認は不要です。
③ 在留期間
3年、 1年、または6か月更新
④ 家族の帯同
要件を満たせば可能
⑤ 対象となる職種
建設業/造船・船用工業
外国人就労の在留資格の一つに「技能実習」があります。最近では外国人を低賃金の就労や長時間労働、実習生の失踪など法令違反やトラブルのニュースのイメージも強いかもしれません。ただ、この外国人実習制度、本来は外国人実習生に日本の技術・技能を伝授し、母国に持ち帰って活用してもらうという国際貢献を趣旨としています。この趣旨のもと、外国人実習生の受け入れ先企業などに対する監視体制、実習生からの相談や通報体制の設置など、法令遵守の強化が進められつつあります。外国人技能実習制度をトラブルなく、運用していくために、必要な知識を押さえておきましょう。
「技能実習」には、「企業単独型技能実習」と「団体監理型技能実習」の2つがあります。
①企業単独型技能実習
日本企業の海外支店や現地法人などから現地職員を実習生として受け入れます。
②団体監理型技能実習
非営利の管理団体(商工会議所、協同組合等)が受け入れ、傘下の企業などで実習生として受け入れます。
多くの企業では、「団体監理型技能実習生」として受け入れるケースが多いでしょう。実習期間は入国後3年(最長5年)とされています。
技能実習制度については、これまで入管法で規定されていましたが、相次ぐ方例違反やトラブルを背景に、平成29年に「技能実習法」が新たに施行されました。これにより、実習生の受け入れる管理団体は許可制、実習先は届け出制となっています。技能実習計画も認定制となるなど、管理団体への監督強化が進められています。法令違反などの改善命令などに従わなければ、管理団体などは許可が取り消される可能性もあります。
新型コロナウイルスの感染拡大による企業の経営悪化の影響で、就労する外国人技能実習生について、特例として「特定活動」への在留資格の変更を認められることになりました。これにより技能実習生は、別の業種・職種の企業に転職できることになります。
常時10人以上の従業員を使用している事業場では、それが外国人であっても就業規則は当然に必要です。日本の商習慣や職場環境がわからない外国人に、安心して働いてもらうにはとくに配慮が必要でしょう。
すでに就業規則がある企業であれば、外国人従業員が理解できる言語に翻訳して周知するのが理想的です。とはいえ、すべての規則類を翻訳するのは大変という場合には、まずは労働条件や必須のルール、違反した場合についてなどを翻訳しておくことをおすすめします。
外国人を雇用する場合、在留資格にあるように、外国人個人の専門知識や技術に応じて、労働契約を締結することになります。従来の日本人従業員のみの就業規則の場合、そうしたケースに適応できないことも発生してくるでしょう。はじめて外国人従業員を受け入れる際には、個別の契約にも対応しうる就業規則への変更も検討が必要になってきます。
いずれにしても、会社と外国人従業員と良好な信頼関係を築くためには、ベースとなる就業規則の理解を深めてもらうのは、大変重要です。
Q1 外国人留学生を卒業後、採用できますか?
A1 活動に応じた在留資格変更許可申請を行い、許可を受ければ可能です。4月に入社が内定している場合、卒業見込みの段階で、変更許可申請を行うことができます。
Q2 雇用したが、途中でいなくなってしまったらどうしたらいい?
A2まずは警察に連絡をしましょう。母国の家族に連絡をして、心配をしている旨を伝えましょう。また、入国管理局への報告を忘れずに!
Q3 外国人の雇用にあたり支援してくれるところはありますか?
A3 ハローワークで「外国人雇用管理アドバイザー」が無料で相談にのってくれます。また、東京・名古屋・大阪・福岡の「外国人雇用サービスセンター」では、専門的・技術的分野の外国人、留学生の就職支援が行っています。新卒の外国人留学生を採用したい場合は無料で相談ができます。
Q4 最低賃金は支払っているので、日本人に付いているような手当は不支給でもいいですか?
A4 賃金支払いの5原則(通貨払い・直接払い・全額払い・毎月最低1回の支払い・一定期日払い)は守らなくてはいけません。そして、同一の仕事で責任の程度も同様であれば、国籍に関係なく均等待遇が必要です。管理費がかかるからという理由で賃金を低くしてはいけません。
Q5 外国人を初めて雇用するのですが、どんな生活サポートをしてあげるべきですか?
A5 医・食・住のサポートが必要になってきます。日本で暮らす上でのマナーも必要でしょう。
Q6 外国人と雇用契約をする場合、日本語の雇用契約書で良いのでしょうか?
A6 厚生労働省が外国語の雇用契約書のひな形を提供していますのでそちらを使うことをお勧めします。
詳細は厚生労働省のホームページをご確認ください
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/040325-4.html
昨今の外国人雇用への関心は高まりの一方、関連法令などを深く理解している企業はまだ少ないように感じます。
外国人雇用に関する法律は非常に多岐にわたります。社会保険労務士とはいえ、精通している人は少ないのではないでしょうか?
また、単に労働力の確保のための雇用ではなく、国籍を問わず、大事な従業員として迎え入れ土壌づくりが必要です。現在外国人を雇用している企業はもちろんのこと、今後雇用を検討している企業も、今一度、関連法令などを振り返り、不明点は関連機関に相談するなどして、対策を講じていきましょう。
弊社は、少子高齢化が進む日本にておいては今後ますます外国人の雇用が推進されると考え、まず私たちが積極的に法律関係を学んでいます。
すでに多くの顧問先が外国人雇用を始めています。そんな中、わからないでは話になりません。外国人雇用に関する就業規則の整備も対応しています。
ぜひ一度ご相談ください。
岐阜県 鳶工事業 従業員数23名
労務相談の顧問や就業規則の整備をお願いしています。そもそも私自身の考えになりますが、社員の成長と私自身の成長が、会社自体の伸びにつながると考えています。そして、そのためには働くための当たり前の体制が整備された「まともな会社」であることが前提となるでしょう。そこの組織づくり・成長する基盤づくりを進めるにあたっての不安点をよく相談しています。