働き方改革やコロナ禍を背景に、人事労務に関する業務は、対応すべきことがさまざまありました。人事労務担当者にとっては、今後もますますその役割が重要視されるでしょう。
法改正などに関する対応をはじめ、日々の実務対応を滞りなく行っていくためには、年間スケジュールをおさえておく非常に重要です。その年間計画をブレイクダウンして月次業務、日時業務などを明確にしておくことをおすすめします。
人事労務業務は、法律上絶対やらなくてはならない業務、義務でなくても対応すべき業務、今後を予測して対応しておくべき業務など多くあります。計画的に進めていかないと、うっかり忘れやミス、また手続き作業のみに追われて、今後の施策への対応がまったくできなかった、ということにもなりかねません。
そこで、今回は人事労務担当者がおさえておくべき、年間業務について解説いたします。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
・NHK「あさイチ」
・中日新聞
・船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri
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年度が4月始まりの企業を例に、労務管理を軸に、スケジュールを確認していきます。
※①4月に実施している場合
※②保険料を当月控除している会社の場合
※③4/1を起算日としている場合
※④該当がある場合
4月に新入社員を迎える企業も多いのではないでしょうか。年度初めということもあり、バタバタしていて、うっかり、とならないよう気をつけたいところです。
・社会保険(健康保険・厚生年金保険)、雇用保険の加入手続き
社会保険は資格取得から5日以内、雇用保険は翌月10日までに、管轄の事務センターまたは年金事務所、管轄のハローワークに提出の必要があります。とくに健康保険は、提出が遅くなると保険証発行も遅れてしまいますので、早めに準備し提出するようにしましょう。
・通勤手当の処理
会社の運用方法によっても対応は異なりますが、定期代を事前に半年分振込をしている、毎月給与と一緒に振り込んでいる、さまざまな対応が考えられます。
・給与支給手続き
当たり前すぎて忘れがちですが、給与締日・支払日の確認はきちんと行っておきます。入社日によっては、日割り計算が必要なケースもあります。また給与支給口座の確認も忘れずに。
新入社員はもちろん、中途採用者などがある場合には、雇用契約書もしくは労働条件通知書の書面での提示が必要です。もれなく入社の前に提示できるよう準備するようにしましょう。有期雇用契約者など更新の必要がある従業員も同様です。
年次有給休暇を一斉付与しているケース、従業員の勤続年数ごとに付与しているケースなど、会社によって運用は異なります。就業規則を再確認しておきましょう。消滅日数、付与日数などを確認・更新する必要があります。
定期健康診断は、安全衛生法で定められた会社の義務です。必ず年度に1回受診することが必要です。健康診断実施後は、健診結果を産業医に確認・意見聴取しなければなりません。従業員が常時50人以上の会社については、健診結果について所轄労働基準監督署に届出を行います。
4月年度始まりの会社の場合は、このタイミングで組織体制が変更になったり、人事異動が発生するケースも多いでしょう。社員台帳などの更新作業も必要になってきます。
【法律で作成や保存が義務付けられている帳簿類】
① 労働者名簿(保存期間:退職・解雇・死亡の日から3年)
氏名や生年月日、住所、入社日、業務の種類などの名簿を用意しなくてはなりません。
② 賃金台帳(保存期間:最後の賃金について記入した日から3年)
賃金の計算期間や労働時間数、時間外労働時間数、基本給や手当の額など、賃金に関する台帳です。
③ 出勤簿(保存期間:最後の出勤日から3年)
出勤簿や勤怠記録、残業届などが必要です。
昇降格・昇降給など給与改定が発生する場合には、人事システムや給与システムの更新作業も必要になってきます。ここでミスが発生すると給与計算に大きく影響しますので、作業は慎重に。
保険料率の変更がある場合には、給与システムなどの設定変更作業が必要です。
毎年、必ず締結し・届出を行わなければなりません。36協定は、概ね1年間を有効期間としているケースが多いので、起算日と有効期間を必ず確認しておきましょう。
労働基準法では、法定労働時間を1日8時間、1週間40時間、週1日の休日を定めています。その時間を超えての労働は、労使協定を締結し、所轄労働基準署へ届出なくてはなりません。この届出を確実に行っておかないと、従業員に残業をさせることはできませんし、もし怠った場合には大きなトラブルに発展することもあります。協定の起算日をしっかり確認し、届出もれ、届出遅れがないよう注意しましょう。
1月〜3月の間に労働災害などにより4日未満の休業をした従業員がいれば、所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。3か月ごとに対象者があれば、提出します。
※①6月に賞与を支給する場合
毎年6月1日現在、企業全体で常用労働者が31人以上いる場合には、高齢者の雇用状況を、常用労働者が45.5人以上いる場合には、障がい者の雇用状況を管轄のハローワークに報告する必要があります。
6月1日から7月10日までの間に手続き・届出が必要です。
前年度の労働保険料を精算し、確定保険料として申告納付します。併せて、新年度の概算保険料を申告納付することになります。保険年度(毎年4月1日から翌年3月31
日)を基準として計算し、所轄の都道府県労働局、労働基準監督署に届出・納付を行います。手続きが遅れると追徴金が課されることもありますので、遅れないよう早めの準備をしておきましょう。納付については、延納(年3回)の手続きや口座振替も可能です。
賞与を支給した場合には、社会保険の手続きが必要になります。賞与支給日から5日以内に、賞与支払届を管轄の事務センターまたは年金事務所に提出します。
住民税は前年度の収入をもとに決定され、毎年6月1日〜翌年5月31日を1年度として納付します。このため、毎年6月から住民税額が変更となります。給与システムなどの税額設定等を更新する作業も必要になります。
年1回の社会保険の標準報酬月額の見直し(定時決定)を行うための算定基礎届を作成し、管轄の事務センターまたは年金事務所に提出します。また、4月昇給者がいる場合には、4月・5月・6月に支払った給与をもとに、随時変更届を作成し、同じく管轄の事務センターまたは年金事務所に提出します。
7月に随時変更届(月変)を提出した4月昇級者の社会保険料を改定します。
7月に算定基礎届を提出した者の社会保険料を改定します。社員それぞれに新しい標準報酬月額を通知するとともに、給与システム等の改定対応作業が必要です。
厚生年金保険料率に変更があれば、改定します。
社員の健康保険の扶養者状況を確認し、リストを提出します。扶養から外れる者がいる場合には、被扶養者異動届を提出します。例年10月〜11月くらいに提出することになりますが、年度によってずれることもあります。
※①12月に賞与を支給する場合
12月中に行わなければならないのが年末調整。その年に支払われる最終の給与において、年末調整されるのが一般的です。年末調整書類の準備をはじめ、従業員によっては、住宅ローン控除や生命保険等の控除などが対象となる場合には、提出書類にもれがないか、記入等を確認しながら、給与システム等に入力していき、給与総額から給与所得控除後の給与を計算し、所得税の確定計算を行います。期日が決まっていますので、早めに準備に取り掛かることをおすすめします。
年末調整をおこなった結果が反映された源泉徴収票を作成し、従業員へ発行します。
1月末までに法定調書を管轄の税務署に提出します。
1月末までに給与支払報告書を従業員が居住する市区町村に提出します。
1年の中で必ず行わなくてはならない業務とともに、毎月行わなければならない定例業務もあります。
社会保険の手続きをはじめ、退職する場合には退職金計算などあります。
36協定が遵守されているかの視点も必要です。
5日以上の有給休暇の取得義務がある場合はその管理も実施します。
労働関連法に改正予定などがあれば、情報収集をはじめ、会社としての対応策を検討、計画実施を行います。
定期健康診断の実施以外にも、従業員の日頃のヘルスケアのサポートやメンタルヘルスケアも必要です。年に1度程度のストレスチェックなども必要でしょう。
法制化され、会社の措置対応が厳しくなりました。ハラスメント防止対策なども人事労務担当者の重要な業務の一つです。
毎年決まった年間スケジュールに加えて、何らかの法改正対応というのも発生するのが人事労務の仕事。2022年も重要な改正が予定されていますので、準備に怠りがないか確認しておきましょう。
2022年4月、改正労働施策総合推進法により、中小企業においてパワハラ基準に基づく防止措置への取り組みが義務づけられることになりました。すでに大企業では義務化されていたこの措置義務が、中小企業まで広がることになります。ハラスメント防止に対する社内体制、教育、発生時の対応等、会社としてどのように対処するか明確にしなければなりません。
改正が進むのが育児介護休業法です。改正のタイミングもいくつかにわかれていることもあり、複雑でわかりにくいかもしれません。就業規則等の改定にも関わりますので、早めに準備を開始しましょう。
① 2022年4月〜
・有期雇用労働者の育児介護休業の取得要件が緩和
・妊娠や出産について申し出をした労働者(本人または配偶者)に対して、個別の周知・意向を確認する
・会社は、育児介護休業環境の整備や周知・意向確認することを義務化
② 2022年10月〜
・出生直後の育休の創設(産後パパ育休)
・育児休業の分割取得
すでに501名以上の大企業で適用されている短時間労働者(パート・アルバイト)の社会保険の適用が、2022年10月から拡大されます。パート・アルバイトを雇用している会社は、対応が必須になります。就業規則等の改定も含め、準備を進めましょう。
従業員数が51名〜100名の企業についても、2024年10月から適用拡大されますので、今のうちから準備しておくことをおすすめします。
人事労務担当者の年間スケジュールは、法律上期日が定まっているものが多く、段取り良く準備を進めていく必要があります。あわせて、法改正の予定があれば、その対応について検討し、実行策を固めていくことになります。大きな改正ともなれば、事前の準備に時間がかかるものですし、関係者や従業員の説明や協議のプロセスも発生します。
本記事では、労務管理に関する年間スケジュールについて説明しましたが、これらはあくまで一部です。会社によってその業務の範囲は異なりますし、抱えている問題・課題もあるはずです。とはいえ、2022年は法改正事項も多くあり、準備立てて計画していかないと、対応しきれません。人事労務担当者は、これを機会に年間の業務スケジュール再確認していただき、計画的に対応していくよう、参考にしてください。
当社では、人事労務に関することならさまざまなアドバイス、サポートが可能です。まずは、お気軽にご相談ください。