労働保険事務組合制度とは、中小企業の事業主団体がその構成員である事業主の委託を受けて、労働保険に関する各種手続きを行うための仕組みです。労働保険事務組合は、厚生労働大臣の認可を得た団体で、労働保険の適切な事務手続きと正確に保険料を徴収するために、中小事業主の負担を軽減する目的で設けられました。業務の効率化や専門性が求められる状況において、特に重要な役割を果たすことが期待されています。
社会保険労務士法人とうかい
執行役員 社会保険労務士 小栗多喜子
同社、人事戦略グループマネージャーを務め、採用・教育を担当する。商工会議所、銀行、Adeco,マネーフォワードなどセミナーや研修講師も精力的に行っている。労働法のアドバイスだけではなく、どのように法律と向き合い企業を成長させるのかという経営視点でのアドバイスを得意としている。
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労働保険事務組合について解説します。
労働保険事務組合とは、主に中小企業のために設立された団体で、事業主にかわって労働保険に関する事務を代行する機関です。事業主は労働保険事務組合に労働保険の手続事務を委託することで、煩雑な事務負担を軽減させることが可能になります。労働保険事務組合は、厚生労働大臣の認可を受けた事業協同組合や商工会議所、商工会など様々な形態の団体が存在します。労働保険事務組合は自らの規約に基づいて運営されており、その規約は組合の役割や業務範囲を明確に定めています。このため、事務組合について理解を深めることが、効果的な委託業務を行うために非常に重要な要素となります。信頼できる労働保険事務組合を選択することが、スムーズな手続きと事務処理につながります。
労働保険とは、事業主が従業員を雇用してれば加入する必要がある保険制度です。雇用保険と労災保険(労働者災害補償保険)の2つから構成されます。雇用保険は、企業に雇用されて働く労働者が失業した際の生活支援に備えるための保険です。労災保険は業務中に発生したケガや病気といった業務災害、通勤時に発生した通勤災害に対して保障を行う保険です。労災保険は、事業主が保険料を全額負担、雇用保険は事業主と従業員のそれぞれが負担し、従業員の安心・安全な職場環境を整える重要な基盤となっています。
労働保険事務組合に委託するには、複数のメリットがあります。まず一番のメリットは、事務手続業務負担の軽減です。労働保険の手続きは煩雑で、専門的な知識が必要とされるため、多くの中小企業では労働保険事務組合に委託することで、これらの事務処理を専門家に任せられ、集中すべき本業に十分なリソースを投入できるでしょう。次に、労働保険の手続には明確な期限が決められており、事務組合が申告や納付を代行してくれるため、各種手続きの期限管理を任せることができ、経営者が他の業務に時間を使いやすくなります。また、保険料を分割で納付することが可能なため、資金繰りの負担も軽減されるでしょう。
小栗の経営視点のアドバイス
中小企業の事業主にとって、専門的知識の必要な労働保険事務は、面倒で負担が大きいものの、必ず行わなくてはならない非常に重要なものです。そこでサポートしてくれるのが労働保険事務組合です。商工会会議所のような団体が運営しているものもあれば、社労士事務所が運営しているケースなどさまざまあります。
労働保険事務組合への委託手続き方法を見ていきましょう。
労働保険事務を事務組合に委託する際の手続きは、決められたステップに沿って行ってきます。まずは、委託を希望する事務組合に対して、事業主の基本情報や、委託する業務の詳細が記載された「労働保険事務委託書」を作成し提出する必要があります。委託手続きには、労働保険事務組合への入会金や委託手数料などの費用がかかりますので、事前に確認が必要でしょう。
労働保険事務組合に委託できる範囲は、労働保険事務組合ごとに明確にされていますので、必ず確認しましょう。具体的には、労働保険に関する各種手続きが対象であり、労働保険の概算保険料・確定保険料の申告や納付が含まれます。また、雇用保険の事業所設置届や、労働保険関係成立届を提出することも一般的です。さらに、特別加入の申請や、労災保険に関する届出なども委託の対象となります。事業主は煩雑な手続きを専門の事務組合に委ねることで、業務の効率化だけでなく、適切な手続きが行えることにもつながり、労働者はしっかりとした保障を受けることができ、事業主としての責任も果たされます。委託できる範囲をしっかり理解することで、より効果的に事務組合を活用できるでしょう。
鶴見の経営視点のアドバイス
労働保険事務組合は、労働保険に関わる届出や申請の手続は可能ですが、労災の給付の手続といった給付申請の業務、助成金の申請といった業務を行うことはできません。労災の給付申請や助成金の申請代行などは、社会保険労務士の専門分野です。
認可を受けるための基準についてお話しします。
労働保険事務組合が認可を受けるには、いくつかの重要な基準を満たす必要があります。まず、労働保険事務組合として適切な運営ができる体制を整えていることが求められます。団体等が法人であるか否かは問われませんが、法人でない場合には代表者の定めがあることのほか、事業内容、構成員の範囲、組織、運営方法等が定款や規約に定められていることなどが必要となります。さらに、労働保険事務の委託を予定している事業主が30以上であること、団体等の運営実績が2年以上あること、といったさまざまな要件に該当しなくてはなりません。認可基準が設けられているのは、労働保険事務組合が組織としての責任を果たし、信頼性を持った運営が行われるためです。これにより、事業主が安心して委託できる環境が整備されます。
認可を得るための手続きは明確に定められています。まず、事務組合は「労働保険事務組合認可申請書」を作成し、管轄の都道府県労働局に提出する必要があります。申請書には、運営のために必要な規約や設立の根拠となる資料が添付されなければなりません。
その後、提出された書類は審査を受け、基準に適合しているかどうかが判断されます。審査には時間がかかる場合もありますが、認可の要件に適合するとともに、必要書類が整っていれば、通常は認められるでしょう。申請書の提出、審査のプロセスを経て、正式に労働保険事務組合として認可され、事務処理の業務を開始することが可能となります。
労働保険料と事務組合の関係を見ていきましょう。
労働保険料は、労働保険制度を支える重要な要素です。事務組合は、事業主から委託を受けて、労働保険料の申告や納付を代行します。国が規定する保険料を正確に支払うことは、労働者の安全と安心を確保するためにも不可欠です。
事務組合に委託することで、事業主は保険料に関する手続きを専門的に行ってもらえるため、負担が軽減されます。さらに、未納を避け、適切な保険の適用を受けるための指導やサポートも行われます。このように、事務組合が保険料の管理を担うことで、事業主と労働者双方にとって有益な結果を導くことができます。
労働保険料の計算は、事業所の従業員数や業種に基づいて行われます。労働保険事務組合は、これらの情報を元に概算・確定保険料の金額を算出し、正確な申告書を作成します。申告書の作成にあたっては、年度に支払った従業員への給与等の総額、従業員数が詳細に記載し、該当する保険料率に応じた保険料の金額を記載することになります。この労働保険料の申告事務は、保険料算出のための仕組み、計算方法を正しく理解しておく必要があります。そこで、労働保険事務組合は、事業所の事務負担事業主の負担を軽減する役割も果たしています。
さらに、労働保険料は分割納付が可能なため、通常、資金管理の柔軟性が確保するためにも、分割納付をすることになります。しかしながら、納付の期日管理をしていないと、最悪、納付忘れなどが起こりかねません。そこで、労働保険事務組合が支払いのスケジュールを管理することで、期限内に適切に納付が行われるようフォローします。この仕組みにより、事業主は安心して業務に専念できる環境が整うのです。
コンサルタント中村の経営視点のアドバイス
労働保険事務組合の中には、高齢化や後継者不在のために、運営継続をどのようにしていくかお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。今後の状況を考え、労働保険事務組合の売却を決断されるケースも増えています。ご売却をご検討中の方は、ぜひご相談ください。
労働保険事務組合の承継先をお探しの方へ。
これから労働保険事務組合を設立したいとお考えの方がいる一方で、現在運営している労働保険事務組合を売却、承継したいというケースもあるでしょう。労働保険事務組合の承継先を探す際には、信頼できる候補を見極めることが非常に重要です。承継先には、既に一定の実績を持っている事務組合や新たに設立される事務組合と合併するケースも考えられます。どちらの場合でも、委託する事業所が労働保険事務に困らないよう、しっかりとした運営方針や職員の適格性が求められます。
労働保険事務組合を売却、承継する場合には、現在のスタッフの雇用をどうするのか、引受先においては新たなスタッフを迎えることになりますので、職員の質や専門性をしっかりと見極めるのも承継プロセスの一環です。承継後の事務組合の運営に大きく影響しますので、引受側も引渡側も、承継にあたっては求められるスキルや経験を明確に提示して、適切な人材を選ぶことも重要でしょう。
また、承継後もスムーズな業務継続ができるよう、教育プログラムやトレーニングを準備しておくことが大切です。職員が組織の方針や業務内容をしっかり理解し、迅速に業務に慣れることができれば、組合の運営が円滑に進むことでしょう。信頼性のある承継先を見つけるためには、徹底したリサーチと準備が不可欠です。
労働保険事務組合の売却、承継をご検討中の方は社会保険労務士法人とうかいまでお問い合わせください。