2020年「民法」が改正され、未払い残業代など未払賃金の消滅時効が2年から5年に引き伸ばされることになりそうです。2020年4月より残業代の時効は3年となります。将来的には5年となります。会社の立場から見ると、請求期間が3年や5年になるということは、未払いがあった場合には、多くの未払い残業代などを請求される可能性があります。今回は未払い残業代の請求権の時効が延長される理由や時期などについて解説していきます。
時間外労働をはじめとした労働時間管理に関して正しい理解と運用を行っていれば問題はないのですが、厚生労働省の発表によれば、労働基準法第24条や第37条の違反は、非常に多く、深刻な社会問題となっています。なかでも、電通が申告している勤務時間と実労働との差異を指摘され、総額23億円もの支払いを行ったというニュースが話題となりました。このような巨額のケースでなくとも、中小企業の中には倒産したケースもあります。
未払い残業代の多くは経営者が知らないうちに(認識せずに)発生しています。
自社は大丈夫と安心せずに、確認しておきましょう。
●厚生労働省 監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成30年度)
未払い残業代は、当然ながら労働者は請求する権利があり、企業は支払わなければなりません。平成29年の同調査に比べ、減少しているとはいえ、残業代未払い問題についてはまだまだ改善の余地がありそうです。
未払いの残業代(未払い賃金)は、当然、労働者が請求できるものですが、現在、その請求期限は労働基準法115条で2年の時効があり、消滅してしまいます。つまり、2年以上前の残業分は請求できません。
【いつから起算するのか?】
未払い残業代の時効期間を計算するには「いつから2年」となるかを特定する時効の起算をしなくてはなりません。その残業代が支給されるべき給料支払い日が到来し、適切に支払わなければ請求可能となります。その時点から2年です。ただし「初日不算入の原則」が適用されるので、給料日は含めず給料日の翌日から2年を計算します。(2020年4月1日以降は3年)
労務支援チームの島です。
未払残業代の請求権消滅時効が延長になります。
今回の改正により未払い残業代(未払い賃金)の請求権が2年から5年に延長される予定です。将来的には5年ですが、今回は一時的に3年に変更になります。その背景には2020年4月改正の民法があります。現行民法での債権の時効は、原則的には10年となっているものの、債権の種類によって異なります。労働にかかわる債権は短期消滅時効として、1年や2年などに短縮されているのです。未払い残業代を含む労働債権は、労働基準法が特則として賃金請求権の時効を2年に延長しています。
今回の民法改正で債権の時効について原則5年に統一されることにより、短期消滅時効制度も撤廃され5年に延びることになりました。この改正を受け、特則である労働基準法に不合理が生じてしまわないように、労働基準法も改正が進められており、2年から3年に延長されました。
移行期間として、労働関連帳票の保存期間である3年となっています。将来的には5年となることは明白でしょう。
とはいえ、いきなり2年から5年に延長するには、多くの企業への負担が大きくなりすぎるといったこともあり、まずは3年となりました。これによりいきなり今までの賃金債権が3年分請求できるようになるわけではありませんが、今後発生する賃金債権の時効が3年となります。つまり2023年4月以降が完全に3年となるのです。
労働者は、労働した時間分だけ賃金が支給されなくてはなりません。会社側が労働者の賃金を支払わないのは支払い債務を履行していない「債務不履行」となります。債権者が債務不履行によって損害を受けたときには、民法上の規定により損害賠償請求ができることになっています。未払い残業代も当然それに該当することになり、場合によっては、遅延損害金、遅延利息、付加金などが生じる可能性があります。ここで、未払い残業代の計算について、振り返っておきましょう。
残業代の計算方法は、割増賃金の単価に、残業時間をかけて計算します。割増賃金の単価の計算方法は以下のとおりです。
割増賃金の単価=(基本給及び諸手当)/(基本給及び諸手当/1ヶ月の所定労働時間)×割増率
金銭債務の不履行によって生じた損害に対して支払われる賠償金は「遅延損害金」と呼ばれます。遅延損害金は、賃金の支払期日から未払い賃金・残業代の請求日もしくは退職日までに請求できるものとなります。そのため、労働者側は会社側に未払いの賃金や残業代とともに遅延損害金も請求できるわけなのです。
遅延損害金の利息は企業(営利法人)の場合は、6%、非営利法人(営利を目的としない組織)の場合は、5%になります。
遅延損害金と遅延利息はどちらも残業代賃金や賃金の未払いがある場合に、会社に対して労働者が退職後に請求できるものです。退職日の翌日から実際に支払われる日(請求日)までの日数に応じます。退職後に支払期日がやってくるものに関しては、その期日が到来した翌日から年利は14.6%が適用されることになります。ただし、天災事変や厚生労働省が定める“やむを得ない事由”で未払いとなっている場合は、その期間については、利率は適用されません。
未払い残業について裁判に発展した場合、裁判所で未払い残業代が悪質と判断された場合、本来の残業代の額と同額までの範囲で「付加金」支払いを命じられるケースもあります。
コンサルタント中村の経営視点のアドバイス
事例ベースの話では、未払い残業代の支払い請求は、「正確に」請求されることは稀なケースだです。請求しているだけなので、多い場合もありますし少ない場合もあります。
未払い残業代の請求を求める内容証明郵便などが届いた時、まずは内容を確認することをおススメします。払うべき賃金を支払っていない場合は支払うべきですが、支払わなくてもよい請求は対応する必要はありません。慌てずに専門家に相談して対応を進めましょう。
給与支援チームの大矢です。
未払賃金は気づかないうちに発生している可能性もあります。
労働基準法では原則労働時間を1日8時間、1週40時間までとされています。しかしながら、働き方が多様化している中、残業の未払いが知らず知らずのうちに、発生していることがあります。以下はその一例です。
■「年俸制」を採用しているケース
年俸制の営業スタッフに残業代の代わりに「営業手当」を支払っているとしていたものの、深夜時間の割増手当が未払いだった。
■始業前30分に執務室の清掃を行うことが常態化していたケース
会社側に悪意があって従業員にサービス残業をさせたり、残業代を支払わなかったというのは論外です。しかしながら、労働形態の多様化によって様々な労働時間の管理が複雑化したために、気づかないうちに、また時間外労働の計算について正しい理解ができていないがために未払いの残業代が発生しているというケースが少なくありません。従業員や退職者からの申告によって発見されるケースや、労働基準監督署の臨検により発覚するケースもあります。
ただ、この未払い残業は、発見されたら支払えばいいというものではありません。企業の信用問題はもちろんのこと、未払い残業代の支払いのインパクトは大きな影響を与えます。
日ごろから適切な労働時間管理への理解と運用が重要になるのです。
会社から、本来支払われるべき賃金が払われない、残業代が支払われないといった未払いについては、労働者は、正社員・アルバイト・パートの区別なく正当な権利として、会社に対し、支払いを請求できます。企業としては、雇用形態の区別なく、適切な労働時間管理をしない限り、未払いの残業代を請求されるリスクを負っていることを認識しましょう。
特にパート・アルバイトなどに多いケースが、最低賃金に触れてしまうケース。未払い残業代(未払い賃金)を計算した結果、最低賃金以下の賃金支払いしかしていなかったことを判明するケース見られます。企業においては、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と特定の仕事に従事する労働者を対象とする「特定(産業別)最低賃金」を把握しておかなければ、影響はさらに広がるでしょう。
また、民法改正を機に、“有給の取得権”も5年に延長すべきとの声もあります。会社からの直接的な金銭への影響というわけではありませんが、間接的には影響が出る事案ですので、そういった意味でも従業員の労働時間管理や有給をはじめとした休暇管理をしっかりと行っていく必要があるでしょう。
コンサルタント中村の経営視点のアドバイス
最近は労働審判や訴訟まで至るケースは非常に稀で、和解するケースが非常に多いです。
企業側からすると、労働審判や訴訟に至ると時間や風評の被害が発生する恐れもあります。請求した側からしても解決に時間がかかることはよしとしていない場合が多くあるからです。
「当社は未払い残業代(未払い賃金)などない!」と思っていても、今一度、雇用契約書と就業規則の見直しを行うことをお勧めします。特に定額の手当として残業代(固定残業代)を支払っているケースなどは、知らないうちに未払い残業(未払い賃金)が発生していることもありますので、法的に問題ないか確認をお勧めします。また、労働時間を適切に把握していなかった場合には、会社側の主張は通りません。サービス残業や不当な長時間労働を生まない労務管理体制を整え、日ごろから適切な労働時間管理が重要です。
万が一、未払い残業代を請求されたときに適切な初動をとるためには、日頃から気軽に相談できる社労士や弁護士など専門家にチェックしてもらうことも良いでしょう。
名古屋の社会保険労務士の小栗です。
未払残業代はほとんどの企業に存在します。
いかがでしたでしょうか?
未払い残業代はほとんどの会社に存在しています。しかし慣れることによってそれが未払いであることも気が付いていない企業が多いです。
今後、未払い残業代の消滅時効が3年となることによって変化するのはマーケットです。すでに一部の弁護士事務所が未払い残業代の請求を代行するサービスを始めていますが、2年から3年となれば単純計算でも債権は1.5倍。弁護士事務所では、成果報酬の形式をとっている場合が多いので請求金額が1.5倍になれば報酬も1.5倍です。となれば、多くの事務所が参入してくることが想定されます。
多くの未払い残業代の請求が発生し、結果として、未払い残業代が減っていくのではないかと思います。もちろん労務管理にはそれだけのコストがかかるでしょう。
ことが起きてから対応してもダメではありませんが、経営とは先を読むことだと思います。何かあってからよりも先に手をうつことが求められます。
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