人事労務担当者の業務は、従業員の基本情報の管理をはじめ、勤怠管理や給与計算、社会保険に関する手続きなど、幅広い領域にわたります。それぞれ関連する法律、会社独自のルールなどのもと、手続きや届出、管理を行っていかなければなりません。従業員数が増えるに従って、その業務の負担は大きくなるばかりです。上手にシステムなどを活用しながら業務を効率化していかなければ、対応しきれないでしょう。昨今では、人事労務に関するシステムも数多くあり、何かしらのシステムを利用しているケースが多いのではないでしょうか。ただ、一体自社にはどんなシステムが本当に合っているのか、不安を覚えつつ、既存のシステムを利用しているケースも多いかもしれません。
そこで今回は、人事労務担当者が知りたいと言われることの多い人事労務のSaaSである『SmartHR』をピックアップし、サービス内容などをご紹介することで、人事労務SaaS選びのヒントを盛り込みました。実際に『SmartHR』を利用している経験をもとに、解説していきます。
社会保険労務士法人とうかい
執行役員 社会保険労務士 小栗多喜子
同社、人事戦略グループマネージャーを務め、採用・教育を担当する。商工会議所、銀行、Adeco,マネーフォワードなどセミナーや研修講師も精力的に行っている。労働法のアドバイスだけではなく、どのように法律と向き合い企業を成長させるのかという経営視点でのアドバイスを得意としている。
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最近は、クラウドやSaaSという言葉をよく耳にしませんか? なんとなくぼんやりとイメージはできるし、周りの人もわざわざ説明してくれるわけでもないので、“わかっているふり”“なんとなく知っている”という状態のことも多いでしょう。まずはこの機会に“クラウド”“SaaS”について、しっかり理解しておきましょう。
クラウドは、クラウドコンピューティングのことです。従来アプリケーションやソフトなどは、コンピュータやサーバーをはじめとしたハードウェアにインストールして利用したり、運用するのがメジャーでした。“オンプレミス”といった言い方をされることもあります。長年人事労務の業務をされてきた方であれば、給与ソフトをローカルのPCにインストールして、給与計算を行っていたなどという経験もおありかもしれません。ですが、最近ではインターネット上のアプリケーションを操作したり、データを保管することが当たり前になっています。ハードウェアをわざわざ購入して用意する必要はありませんし、ネット環境さえ整えば、いつでもどこでも必要な時に必要なサービスをうけることができるというわけです。諸説ありますが、これを“雲”のようだと“クラウド”と呼ばれるようになったと言われています。
ネット環境があればいつでもどこでも利用できるサービスを、クラウドサービスと呼んでいるのです。
“SaaS”は、“サース”と呼ばれ、「Software as a Service」の頭文字から取られています。従来、パッケージソフトとして提供されていたような機能が、クラウドサービスとして提供されているもののことを言います。
サブスクリプション型のクラウドサービスをイメージするとよいでしょう。
要は広義のクラウドサービス、利用形態に注目したのが“SaaS”ということなります。クラウドサービスには、その他にも“PaaSパース”“IaaSアイアース”といったものもあります。”PaaS”は、アプリケーションやソフトウェアを実行するために必要なプラットフォームを提供するクラウドサービスのことを言います。“IaaS”は、OSやサーバー、ストレージ・ネットワークなど情報システムの稼働に必要なインフラを、クラウドで提供するサービスのことを言います。
『SmartHR』においては、人事労務のアプリケーションをクラウドサービスとして提供されるということで、人事労務管理SaaSというわけです。
SmartHRは、多くの企業で利用されている人事労務管理SaaSです。興味をお持ちの人事労務担当者も多いのではないでしょうか。SmartHRは、人事労務管理に課題を抱える個人事業主やスタートアップ企業をはじめ、中小企業を中心に利用が大きく広がりました。従業員の基本情報データの管理、給与・年末調整、社会保険、福利厚生の管理など、様々な業務をサポートがされています。また従業員とのコミュニケーションツールとして提供されていることも、人事労務業務の効率化・簡素化に大きく影響しています。
人事労務業務は、従来、各種法律に沿った手続き書類を用意したり、押印や行政官庁への届出などが煩雑で、人事労務担当者にとっては、大きな負担となっていました。この負担が、人事労務担当者の足枷となって、コア業務への集中が妨げられることも多くありました。そこで、業務の手作業や紙ベースの処理を削減したり、従業員とのやりとりの手間を削減するべく、多くの人事労務SaaSが登場してきました。なかでも、大きくシェアを広げたのがSmartHRと言えるでしょう。
1 人事情報管理が便利
従業員の基本情報、労働条件や雇用契約、昇進・降格、給与改定などの履歴も含め、情報を一元管理できます。
2 文書の申請・承認が簡単
人事労務の業務には、従業員とのやりとりが多く発生するものです。年末調整の業務であれば、申告書類を配布し、従業員に記載してもらって、回収するといった作業が発生します。記入に誤りがあれば、内容を確認して差し戻したり、再度回収することもあるでしょう。そうした面倒なやりとりが、SmartHR上で可能であり、作業の手間、そしてそれにかかる時間の短縮につながります。
従業員自身が利用できるポータルが提供されていることで、休暇申請や給与明細の確認など、従業員自身で行えることが魅力です。
3 ユーザーインタフェースの評判がよい
SmartHRは、ユーザーインターフェースが高く評価されています。初めて利用する人であっても、感覚的に理解し作業を進めることが可能です。人事労務担当者と従業員のインタラクティブなツールとしても利用するので、ユーザーインターフェイスが優れていることは、余計なトラブルや利用しにくさからくるヘルプデスク対応に追われずにすみます。
4 無料プランも活用できる
スタートアップや小規模の企業にとっては、人事労務管理SaaSを導入してみたいけれど、「コストをかけてみたものの失敗だったら、、」「大袈裟なシステムは導入の必要はないし、、」など、お悩みや不安のあることでしょう。SmartHRの場合は、従業員数30名以下の無料プランも用意されているので、大いに活用できます。
SmartHRは人事労務管理SaaSの中でも、多くの企業で導入されている人気のサービスです。当社においても、お客様企業への導入のお手伝いをさせていただいたり、社労士自身も実際に利用しています。
人事データベース機能や従業員のポータル機能などは利用しやすく、ユーザーインターフェイスも優れているので、おすすめです。社会保険などについては電子申請に対応していない帳票などがあるものの、クラウドサービスの長所を発揮し、ユーザーの声を取り入れながら、徐々にサービスもアップデートされてきているので、今後期待できるところでもあります。提供サービスは、人事労務管理業務を全部網羅されているわけではありませんが、様々なシステムとのAPI連携が実現されているので、あまり使いにくいといった印象はないはずです。
SmartHRの良さといえば、会社の規模に関わらず利用できる点です。とくにスタートアップや小規模の会社にとって、人事労務管理システムなどの導入は、コストの負担や導入までの手間がかかり、二の足を踏んでしまうことも多くあります。しかしながらSmartHRの場合、従業員30名未満といった小さな会社であっても、無料プランで利用できるサービスもあり、まずは導入して使いながら、自社に合った活用方法を模索していくといった方法も可能です。例えば、30名未満の小さな会社であっても、従業員のデータ管理は必要不可欠です。Excelなどで管理されている会社も多いでしょうが、少ない人数とはいえ煩雑ですし、一元管理がしにくいのではないでしょうか。そこで、SmartHRを利用して従業員情報を登録し、住所や緊急連絡先、口座情報、社会保険、マイナンバーなど、従業員に関わる重要な情報を一元管理を行います。様々に散らばった情報をデータベース上で管理できるのは、非常に事務負担からみても効率的です。
SmartHRのメリットとして、API連携とCSVデータの連携という2つの便利な機能があります。この連携サービスの多さは非常に魅力です。様々な外部連携のサービスをAPI連携機能を使って取り入れたり、既存のシステムのデータをSmartHRに読み込むといったことが可能です。連携や読み込んだデータは、SmartHRで一元管理することができ、さらなる人事データの活用が叶います。他のシステムやツールとのシームレスなデータのやり取りや統合を実現するための重要な機能です。
API連携とは、Application Programming Interfaceの略です。機能を公開しているソフトウェアとその機能を使いたいソフトウェアをつなぐこと、このアプリケーション同士を連携することをAPI連携と言います。多くのクラウドサービスを提供する企業が、このOpenAPIを公開しています。SmartHRの場合もこのAPI連携の仕組みを使い、別のシステムやアプリケーションからSmartHRへのデータの送受信や操作が可能となります。例えば、すでに利用している給与計算システムとデータを同期したり、勤怠管理のシステムからデータを自動取り込みを行うケースなどが考えられます。API連携により、二重入力や二重管理の手間や時間、またデータの誤りなどを防止し、正確性や効率性を向上させることができます。
○外部連携可能なシステムの一例
<給与>
マネーフォワードクラウド給与 freee人事労務
<勤怠管理>
ジョブカン KING OF TIME
SmartHRでは、API連携のほか、CSV連携も可能です。CSVはCommma Separated Valuesの略で、カンマで区切られたデータ形式という意味です。CSVファイルは一般的なデータ形式であり、Excelやスプレッドシートで作成や編集が可能です。SmartHRに限らず、多くのシステムで連携を行う際に、CSVファイルを利用することはよくあるケースです。SmartHRでは、CSVファイルを使用して従業員の基本情報などを一括登録したり、給与データの取り込みなどを行うことが可能です。大量のデータを一度に登録したり更新する場合には、非常に便利な機能です。
API連携とCSV連携を活用することで、さらにSmartHRの柔軟性と拡張性を高めることでしょう。