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平均賃金とは?計算方法や適用場面について解説します

新型コロナウイルスの影響により、飲食店等を中心に休業を余儀なくされる企業が相次ぎました。
このように会社都合の休業が生じた際は、従業員に「休業手当」が支払われる事例が多くあります。
「休業手当」の算出において欠かせないのが「平均賃金」の算出です。
平均賃金は、休業手当や解雇予告手当、年次有給休暇取得時の賃金等、「労働者の生活を守るための手当や補償」を支払う際に基準となる金額です。
そのため、単に「賃金の平均をとった」ものではなく、実際の生活資金を反映させるような算出方法が労働基準法で定められています。
手当や補償を算出するための大切な金額になるので、労務管理をする人事の方はもちろん、労働者自身もその仕組みを正しく理解しておく必要があります。

この記事では、平均賃金の算出方法や平均賃金を利用した手当や補償の計算方法など、平均賃金に関連する情報について解説します。

目次
この記事の監修

社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子

これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。

現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。

主な出演メディア
NHK「あさイチ」

中日新聞
船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」


社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri

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平均賃金とは

平均賃金は、労働基準法で定められている手当や補償等を支払うときに基準となる金額です。
休業手当や解雇予告手当、労災の休業補償等の支払いが生じた場合に、平均賃金をもとに手当や補償額が算出されます。

平均賃金のポイント

平均賃金とは、単に「賃金の平均をとった額」ではありません。
「労働者の生活を守るために支払う賃金」として、その計算方法にも細かなルールが定められています。
平均賃金の算出が間違っていると、「支払いが足りない、過剰に支払う」等のトラブルの原因になります。
そのため事業主・労働者共に、平均賃金のルールを正しく知っておくことが大切です。

平均賃金の金額の求め方

平均賃金の算出は原則以下の式で求められます。

平均賃金=労働者に支払われた賃金の総額 ÷ その期間の総日数(暦日数

この場合、「賃金」と「暦日数」は以下のものが該当します。

  • 賃金
    基本給や通勤手当、時間外手当等、支払われている賃金のすべてが該当します。
    税金や社会保険料の控除前の金額です。
  • 暦日数
    締め日までの間の勤務日以外の休日や休暇も含めた、カレンダー上の日数のことを言います。
    ただし、会社が休業した期間、業務上の労災で休業した期間、産前・産後休業期間、育児・介護休業期間、試用期間は除外されます。
    原則平均賃金の算出は、「就労日数」ではなく「暦日数」を使用するので注意が必要です。

月給制の場合

月給制の場合の平均賃金は以下の式で求められます。

平均賃金=事由が発生した日以前3ヶ月の賃金の総額÷3ヶ月間の暦日数

この場合「事由が発生した日以前3ヶ月」とは以下のように算出します。

  • 事由が発生した日
    労働者に解雇通告した日(解雇予告手当)、休業日(休業手当)、事故の起きた日(災害補償)等算定が発生した日を基準に考えます。
  • 以前3ヶ月(算定期間)
    算定事由発生日を含まず、その前日から遡って3ヶ月間が算定期間に該当します。
    賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日から3ヶ月遡った期間が算定期間です。
    賃金締切日当日に事由が発生した場合は、その前の締切日前3ヶ月間が算定期間となります。

(例)賃金締切日25日 7月10日に算定時由が発生した場合

算定期間 月分 暦日数 賃金総額
3月26日~4月25日 4月分 31日 270,000円
4月26日~5月25日 5月分 30日 285,000円
5月26日~6月25日 6月分 31日 282,000円
合計   92日 837,000円

平均賃金
837,000円÷92日=9,097円82銭(1銭未満は切り捨て)

賃金が日給もしくは時給の場合

賃金が日給、時間給の場合の平均賃金も、原則的に月給と同じように求めます。
しかし、労働日数が少ない場合、月給制と同様に算出すると平均賃金が低額になる可能性があります。
そのため、平均賃金には「最低保証額」が定められています。
最低保証額とは、労働日あたりの賃金の6割が該当します。
日給や時給の場合は、以下の①、②の式を比較して高い方の額を平均賃金として適用します。

  1. 原則の平均賃金=事由が発生した日以前3ヶ月の賃金の総額÷3ヶ月の暦日数
  2. 最低保証額=事由が発生した日以前3ヶ月の賃金の総額÷3ヶ月の実労働日数×0.6
    なお、最低保証額は労働日あたりの賃金を算出するため、月額で通勤手当等を支給している場合は日割りに換算して合算します。

(例)賃金締切日25日 7月10日に算定事由が発生した場合
   日給 8.800円 通勤手当 月額5,000円の場合

算定期間 月分 暦日数 労働日数 基本給 通勤手当 賃金総額
3月26日~4月25日 4月分 31日 15日 132,000円 5,000円 137,000円
4月26日~5月25日 5月分 30日 7日 61,600円 5,000円 66,600円
5月26日~6月25日 6月分 31日 13日 114,400円 5,000円 119,400円
合計   92日 35日 308,000円 15,000円 323,000円
  1. 原則
    323,000円÷92日=3,510円86銭
  2. 最低保証額
    日給制の部分(基本給)308,000円÷35日(労働日数)×0.6=5,280円
    月給制の部分(通勤手当)15,000円÷92日(暦日数)=163円04銭
    最低保証額=5,280円+163円04銭=5,443円04銭

 

①と②を比較すると②の最低保証額が上回っているので、平均賃金は②5,443円04銭を適用。

平均賃金を使うケース

労働基準法で定められた手当や補償等を支払うとき、平均賃金を用いて必要な金額が算出されます。
それぞれの算出方法について解説します。

解雇予告手当

会社が従業員を解雇する場合は、原則解雇日の30日以上前に予告する必要があります。

「解雇予告手当」とは解雇を言い渡してから解雇日までの日数が30日に満たない場合に支払う手当のことです。

労働基準法で支払いが定められていて、正社員のみならずパートや派遣社員にも支払いが必要です。

 

平均賃金を求める際は、「労働者に解雇の通告をした日」以前3ヶ月を算定期間とします。

 

(例)4月30日付で従業員を解雇することを、4月25日に予告された。

解雇予告期間が5日しかないため、平均賃金25日分以上の手当を支払う必要がある。

 

平均賃金 9,097円82銭の場合

9,097円82銭×25日=227,446円(1円未満は四捨五入)

解雇予告手当の支払額は227,446円以上。

 

(例)4月30日付で即日解雇された場合

解雇予告期間がないため、平均賃金30日分以上の手当を支払う必要がある。

 

平均賃金 9,097円82銭の場合

9,097円82銭×30日=272,935円(1円未満は四捨五入)

解雇予告手当の支払額は272,935円以上。

 

なお、以下に該当する労働者は解雇予告手当の対象になりません。

  • 雇用期間1ヶ月未満の日雇い労働者
  • 雇用形態にかかわらず、契約期間が2ヶ月以内の労働者
  • 夏季の海水浴場、冬の除雪作業等4ヶ月以内の季節的業務に就く労働者
  • 試用期間14日以内の試用期間中の労働者
  • 労働基準監督署から「解雇予告除外認定」を受けている労働者
    (天災等のやむを得ない理由で事業継続ができない場合、従業員の故意等により解雇を免れない場合等の状況)

休業手当

企業側の都合によって従業員を休業させる場合「休業手当」の支払いが必要です。

雇用形態にかかわらず、すべての労働者が対象となります。

 

休業手当の支給は、企業側の過失や使用者の責めによる事由等、会社の都合で生じるすべての休業が該当します。

ただし、以下の場合のような不可抗力の休業は休業手当の対象となりません。

  • 労働者のストライキ
  • 業務上の負傷等による休業
  • 地震や台風等の天災による休業

 

休業手当の支給額は「1日につき平均賃金の60%以上」です。

平均賃金を求める際は、「休業日・2日以上の場合は最初の日」以前3ヶ月を算定期間とします。

 

(例)会社の都合により労働日数のうち5日間の休業があった。

平均賃金9,097円82銭の場合

5日分の休業手当=9,097円82銭×0.6×5日=27,293円(1円未満は四捨五入)

休業手当の支払額は27,293円以上

 

有給休暇中の賃金

有給休暇とは、一定の条件を満たす従業員に対して与えられ、賃金が支払われる休暇のことをいいます。

有給休暇取得時の賃金は、以下の3つの中から選択が可能であると労働基準法に定められています。

 

  1. 通常の賃金と同額を支払う
  2. 平均賃金を支払う
  3. 健康保険法の標準報酬日額に相当する額を支払う

 

なお、有給休暇の際にいずれの賃金が支払われるかは、就業規則に必ず記載されています。

 

企業が②を選択した場合、有給休暇取得日数分の平均賃金の支払いが必要です。

平均賃金を求める際は、「有給休暇取得日・2日以上の場合は最初の日」以前3ヶ月を算定期間とします。

 

(例)有給休暇取得時の賃金を平均賃金で支払う企業で、2日休暇を取得

平均賃金9,097円82銭の場合

9,097円82銭×2日=18,196円(1円未満は四捨五入)

有給休暇取得時の支払額は18,196円

労働災害の補償額

「労働災害(労災)とは業務中や通勤中に生じた病気やケガのことです。

業務に従事していたことが原因で起こる「業務災害」と通勤中に起こる「通勤災害」があります。

 

従業員が労災によって業務ができず仕事を休んだ場合、以下のような休業補償を支給します。
 

  1. 休業日した日から3日目まで(業務災害のみ)
    事業主が労働基準法上の休業補償を支払う。
    休業補償=平均賃金の60%以上×休業日数
  2. 休業した日から4日目以降
    労災保険から休業補償が支払われる
    ・休業補償給付=給付基礎日額(平均賃金に相当)の60%×休業日数
    ・休業特別支給金=給付基礎日額(平均賃金に相当)の20%×休業日数

 

平均賃金を求める際は、「事故が発生した日または医師の診断によって疾病が確定した日」以前3ヶ月を算定期間とします。

 

(例)業務災害による労災が生じた日から5日間休業した

平均賃金9,097円82銭の場合

  1. 休業してから3日目まで
    休業補償給付=9,097円82銭×0.6×3日=16,376円(1円未満は四捨五入)
    事業主が労働者に16,376円以上支払う
  2. 休業してから4日目以降
    給付基礎日額=9,098円(平均賃金の1円未満は切り上げ)
    休業補償給付=9,098円×0.6×2日=10,917円(1円未満は切り捨て)
    休業特別支援金=9,098円×0.2×2日=3,639円(1円未満は切り捨て)
    支給総額=10.917円+3,639円=14,553円
    労災保険から14,553円支払われる。

減給の制裁の制限額

「就業規則に違反した懲戒処分」等で減給の制裁を行う場合は、以下のような限度額が労働基準法で定められています。

 

  1. 1回のあたりの減給の限度額=平均賃金×0.5
  2. 1ヶ月の減給総額の限度額=1ヶ月の賃金総額×0.1
    平均賃金を求める際は、「制裁の意思表示が減給相手に伝わった日」以前3ヶ月を算定期間とします。

 

(例)勤務日に遅刻をしたため、就業規則に基づき1日分の減給制裁を行った

平均賃金9,097円82銭の場合

9,097円82銭×1日×0.5=4,549円(1円未満は四捨五入)

減額できる上限額は4,549円

高谷の経営視点のアドバイス

ご覧のように平均賃金はあらゆる場面で使われ、その計算方法も複雑です。正確性にご不安を感じる方は専門家に相談してみることもおすすめします。とうかいでは、給与計算の労務リスクチェックも行っております。お気軽にご相談ください。

含まれない賃金もある

平均賃金は算定期間に支払われた賃金の総額をもとに算出します。
「賃金の総額」とは、基本給や歩合給のほか、家族手当や通勤手当等の手当、割増賃金等労働者に対して支払うすべてのものが該当します。

ただし、以下に該当するものは賃金の総額からは除外されます。

  1. 臨時に支払われた賃金
    …結婚手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金 等
  2. 3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
    …半期ごとに支払われる賞与等。
     四半期ごと等3ヶ月ごとに支払われる賞与は賃金総額に算入されます。
  3. 労働協約で定められていない現物給与
    …通勤定期券等労働協約の定めに基づいて支払われる現物給与の場合は、賃金総額に算入されます。

例外的な算出方法

平均賃金は、原則「事由が発生した日以前3ヶ月の賃金の総額÷3ヶ月の暦日数」で算出されます。
ただし、以下の場合は例外的な方法で平均賃金算出することが必要です。

試用期間中の場合

企業は、入社後に社員の能力や特性を見極める期間として、「試用期間」を設けている場合があります。

試用期間の賃金は本採用後の賃金より低く設定されていることも多く、算定期間に試用期間を含めると平均賃金が低くなってしまいます。

そのため、平均賃金を算定する際は、試用期間の賃金と期間を除いて算出する必要があります。

 

しかし、試用期間中に平均賃金を算定すべき事由が発生した場合は、それ以前の試用期間の賃金の総額と暦日数から、平均賃金を算出しなくてはなりません。

 

(例)4月1日に入社。試用期間2週間と定められていたが、4月11日に算定事由が発生。

4月11日時点での平均賃金の算出方法(賃金総額は日給のみ)

事由発生以前の賃金総額 

…出勤日数6日 8,800円×6日=52,800円

事由発生以前の暦日数  10日

平均賃金=52,800円÷10日=5,280円

3ヶ月間に法令による休業がある場合

平均賃金を算出する際は、算定事由発生日を含まず、その前日から遡って3ヶ月間を算出期間とします。

平均賃金の算出期間に以下のような法令による休業期間が含まれている場合、その期間の賃金と暦日数を除外する必要があります。

  • 会社が休業した期間
  • 業務上の労災で休業した期間
  • 産前産後、育児、介護による休業期間
  • 試用期間

 

(例)6月1日から育休から復帰。6月10日に算定事由が発生

日額8,800円の場合(賃金総額は日給のみ)

事由発生以前の賃金総額 

…出勤日数5日 8,800円×5日=44,000円

事由発生以前の暦日数 育休期間は算定期間から除外するため、6/1~6/9までの9日間

平均賃金=44,000円÷9日=4,888円88銭(1銭未満は切り捨て)

雇い入れから3ヶ月未満の場合

平均賃金の算定期間は原則3ヶ月間ですが、雇い入れ後3ヶ月に満たない従業員に算定すべき事由が発生する場合も考えられます。

その場合は、雇用から算定事由が発生した日までの賃金と暦日数に基づいて平均賃金が算出されます。

ただし、賃金締切日がある場合は、算定事由が発生した日直前の賃金締切日から雇い入れ日を算出期間とします。

(例)4月1日入社 6月10日に算定事由が発生した場合
   賃金締切日は25日

算定期間 月分 暦日数 賃金総額(月給制)
4月1日~4月25日 4月分 25日 230,000円
4月26日~5月25日 5月分 30日 285,000円
合計   55日 515,000円

平均賃金

515,000円÷55日=9,363円63銭(1銭未満は切り捨て)

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