新型コロナウイルスの影響により、飲食店等を中心に休業を余儀なくされる企業が相次ぎました。
このように会社都合の休業が生じた際は、従業員に「休業手当」が支払われる事例が多くあります。
「休業手当」の算出において欠かせないのが「平均賃金」の算出です。
平均賃金は、休業手当や解雇予告手当、年次有給休暇取得時の賃金等、「労働者の生活を守るための手当や補償」を支払う際に基準となる金額です。
そのため、単に「賃金の平均をとった」ものではなく、実際の生活資金を反映させるような算出方法が労働基準法で定められています。
手当や補償を算出するための大切な金額になるので、労務管理をする人事の方はもちろん、労働者自身もその仕組みを正しく理解しておく必要があります。
この記事では、平均賃金の算出方法や平均賃金を利用した手当や補償の計算方法など、平均賃金に関連する情報について解説します。
社会保険労務士法人とうかい
執行役員 社会保険労務士 小栗多喜子
同社、人事戦略グループマネージャーを務め、採用・教育を担当する。商工会議所、銀行、Adeco,マネーフォワードなどセミナーや研修講師も精力的に行っている。労働法のアドバイスだけではなく、どのように法律と向き合い企業を成長させるのかという経営視点でのアドバイスを得意としている。
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平均賃金の算出は原則以下の式で求められます。
平均賃金=労働者に支払われた賃金の総額 ÷ その期間の総日数(暦日数)
この場合、「賃金」と「暦日数」は以下のものが該当します。
月給制の場合の平均賃金は以下の式で求められます。
平均賃金=事由が発生した日以前3ヶ月の賃金の総額÷3ヶ月間の暦日数
この場合「事由が発生した日以前3ヶ月」とは以下のように算出します。
算定期間 | 月分 | 暦日数 | 賃金総額 |
---|---|---|---|
3月26日~4月25日 | 4月分 | 31日 | 270,000円 |
4月26日~5月25日 | 5月分 | 30日 | 285,000円 |
5月26日~6月25日 | 6月分 | 31日 | 282,000円 |
合計 | 92日 | 837,000円 |
平均賃金
837,000円÷92日=9,097円82銭(1銭未満は切り捨て)
賃金が日給、時間給の場合の平均賃金も、原則的に月給と同じように求めます。
しかし、労働日数が少ない場合、月給制と同様に算出すると平均賃金が低額になる可能性があります。
そのため、平均賃金には「最低保証額」が定められています。
最低保証額とは、労働日あたりの賃金の6割が該当します。
日給や時給の場合は、以下の①、②の式を比較して高い方の額を平均賃金として適用します。
算定期間 | 月分 | 暦日数 | 労働日数 | 基本給 | 通勤手当 | 賃金総額 |
---|---|---|---|---|---|---|
3月26日~4月25日 | 4月分 | 31日 | 15日 | 132,000円 | 5,000円 | 137,000円 |
4月26日~5月25日 | 5月分 | 30日 | 7日 | 61,600円 | 5,000円 | 66,600円 |
5月26日~6月25日 | 6月分 | 31日 | 13日 | 114,400円 | 5,000円 | 119,400円 |
合計 | 92日 | 35日 | 308,000円 | 15,000円 | 323,000円 |
①と②を比較すると②の最低保証額が上回っているので、平均賃金は②5,443円04銭を適用。
労働基準法で定められた手当や補償等を支払うとき、平均賃金を用いて必要な金額が算出されます。
それぞれの算出方法について解説します。
会社が従業員を解雇する場合は、原則解雇日の30日以上前に予告する必要があります。
「解雇予告手当」とは解雇を言い渡してから解雇日までの日数が30日に満たない場合に支払う手当のことです。
労働基準法で支払いが定められていて、正社員のみならずパートや派遣社員にも支払いが必要です。
平均賃金を求める際は、「労働者に解雇の通告をした日」以前3ヶ月を算定期間とします。
(例)4月30日付で従業員を解雇することを、4月25日に予告された。
解雇予告期間が5日しかないため、平均賃金25日分以上の手当を支払う必要がある。
平均賃金 9,097円82銭の場合
9,097円82銭×25日=227,446円(1円未満は四捨五入)
解雇予告手当の支払額は227,446円以上。
(例)4月30日付で即日解雇された場合
解雇予告期間がないため、平均賃金30日分以上の手当を支払う必要がある。
平均賃金 9,097円82銭の場合
9,097円82銭×30日=272,935円(1円未満は四捨五入)
解雇予告手当の支払額は272,935円以上。
なお、以下に該当する労働者は解雇予告手当の対象になりません。
企業側の都合によって従業員を休業させる場合「休業手当」の支払いが必要です。
雇用形態にかかわらず、すべての労働者が対象となります。
休業手当の支給は、企業側の過失や使用者の責めによる事由等、会社の都合で生じるすべての休業が該当します。
ただし、以下の場合のような不可抗力の休業は休業手当の対象となりません。
休業手当の支給額は「1日につき平均賃金の60%以上」です。
平均賃金を求める際は、「休業日・2日以上の場合は最初の日」以前3ヶ月を算定期間とします。
(例)会社の都合により労働日数のうち5日間の休業があった。
平均賃金9,097円82銭の場合
5日分の休業手当=9,097円82銭×0.6×5日=27,293円(1円未満は四捨五入)
休業手当の支払額は27,293円以上
有給休暇とは、一定の条件を満たす従業員に対して与えられ、賃金が支払われる休暇のことをいいます。
有給休暇取得時の賃金は、以下の3つの中から選択が可能であると労働基準法に定められています。
なお、有給休暇の際にいずれの賃金が支払われるかは、就業規則に必ず記載されています。
企業が②を選択した場合、有給休暇取得日数分の平均賃金の支払いが必要です。
平均賃金を求める際は、「有給休暇取得日・2日以上の場合は最初の日」以前3ヶ月を算定期間とします。
(例)有給休暇取得時の賃金を平均賃金で支払う企業で、2日休暇を取得
平均賃金9,097円82銭の場合
9,097円82銭×2日=18,196円(1円未満は四捨五入)
有給休暇取得時の支払額は18,196円
「労働災害(労災)とは業務中や通勤中に生じた病気やケガのことです。
業務に従事していたことが原因で起こる「業務災害」と通勤中に起こる「通勤災害」があります。
従業員が労災によって業務ができず仕事を休んだ場合、以下のような休業補償を支給します。
平均賃金を求める際は、「事故が発生した日または医師の診断によって疾病が確定した日」以前3ヶ月を算定期間とします。
(例)業務災害による労災が生じた日から5日間休業した
平均賃金9,097円82銭の場合
「就業規則に違反した懲戒処分」等で減給の制裁を行う場合は、以下のような限度額が労働基準法で定められています。
(例)勤務日に遅刻をしたため、就業規則に基づき1日分の減給制裁を行った
平均賃金9,097円82銭の場合
9,097円82銭×1日×0.5=4,549円(1円未満は四捨五入)
減額できる上限額は4,549円
ご覧のように平均賃金はあらゆる場面で使われ、その計算方法も複雑です。正確性にご不安を感じる方は専門家に相談してみることもおすすめします。とうかいでは、給与計算の労務リスクチェックも行っております。お気軽にご相談ください。
平均賃金は算定期間に支払われた賃金の総額をもとに算出します。
「賃金の総額」とは、基本給や歩合給のほか、家族手当や通勤手当等の手当、割増賃金等労働者に対して支払うすべてのものが該当します。
ただし、以下に該当するものは賃金の総額からは除外されます。
平均賃金は、原則「事由が発生した日以前3ヶ月の賃金の総額÷3ヶ月の暦日数」で算出されます。
ただし、以下の場合は例外的な方法で平均賃金算出することが必要です。
企業は、入社後に社員の能力や特性を見極める期間として、「試用期間」を設けている場合があります。
試用期間の賃金は本採用後の賃金より低く設定されていることも多く、算定期間に試用期間を含めると平均賃金が低くなってしまいます。
そのため、平均賃金を算定する際は、試用期間の賃金と期間を除いて算出する必要があります。
しかし、試用期間中に平均賃金を算定すべき事由が発生した場合は、それ以前の試用期間の賃金の総額と暦日数から、平均賃金を算出しなくてはなりません。
(例)4月1日に入社。試用期間2週間と定められていたが、4月11日に算定事由が発生。
4月11日時点での平均賃金の算出方法(賃金総額は日給のみ)
事由発生以前の賃金総額
…出勤日数6日 8,800円×6日=52,800円
事由発生以前の暦日数 10日
平均賃金=52,800円÷10日=5,280円
平均賃金を算出する際は、算定事由発生日を含まず、その前日から遡って3ヶ月間を算出期間とします。
平均賃金の算出期間に以下のような法令による休業期間が含まれている場合、その期間の賃金と暦日数を除外する必要があります。
(例)6月1日から育休から復帰。6月10日に算定事由が発生
日額8,800円の場合(賃金総額は日給のみ)
事由発生以前の賃金総額
…出勤日数5日 8,800円×5日=44,000円
事由発生以前の暦日数 育休期間は算定期間から除外するため、6/1~6/9までの9日間
平均賃金=44,000円÷9日=4,888円88銭(1銭未満は切り捨て)
平均賃金の算定期間は原則3ヶ月間ですが、雇い入れ後3ヶ月に満たない従業員に算定すべき事由が発生する場合も考えられます。
その場合は、雇用から算定事由が発生した日までの賃金と暦日数に基づいて平均賃金が算出されます。
ただし、賃金締切日がある場合は、算定事由が発生した日直前の賃金締切日から雇い入れ日を算出期間とします。
算定期間 | 月分 | 暦日数 | 賃金総額(月給制) |
---|---|---|---|
4月1日~4月25日 | 4月分 | 25日 | 230,000円 |
4月26日~5月25日 | 5月分 | 30日 | 285,000円 |
合計 | 55日 | 515,000円 |
平均賃金
515,000円÷55日=9,363円63銭(1銭未満は切り捨て)