給与の項目の中で最も基本的かつ重要な項目が「基本給」です。
しかし、「基本給」については法律上の明確な定めがないため、労働者が基本給と月給を勘違いしていたり、企業側も正確に説明できていなかったりする場合、入社後にトラブルになるケースも考えられます。
基本給が低くても、手当や歩合給によってトータルで希望の金額が貰えていれば気にしないという労働者もいるかもしれません。
しかし会社側の事情で手当をカットされた場合、基本給が低いと生活に影響するなどのデメリットがあります。
また、残業代などは法律で割増率が決まっていますが、残業代の計算根拠となる基礎賃金は、基本給に該当する手当を加えた金額となっています。
企業側にとって賃金制度を考える際の根底になるのが「基本給」といえるでしょう。
この記事では、「基本給」と月給、固定給、俸給など関連する用語の違いや、法律上の扱いなどのポイントをわかりやすく解説します。
さらに企業は将来的に、基本給を含めた給与についてどう対応することを求められているかについてもお伝えします。
社会保険労務士法人とうかい
執行役員 社会保険労務士 小栗多喜子
同社、人事戦略グループマネージャーを務め、採用・教育を担当する。商工会議所、銀行、Adeco,マネーフォワードなどセミナーや研修講師も精力的に行っている。労働法のアドバイスだけではなく、どのように法律と向き合い企業を成長させるのかという経営視点でのアドバイスを得意としている。
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「基本給」について、法律上の定めは存在しません。
ただし、厚生労働省平成29年就労条件調査においての用語説明には、基本給について以下のように記載されています。
「毎月の賃金の中で最も根本的な部分を占め、年齢、学歴、勤続年数、経験、能力、資格、地位、職務、業績など労働者本人の属性又は労働者の従事する職務に伴う要素によって算定され支給される賃金で、原則として同じ賃金体系が適用される労働者に全員支給されるものをいう。
なお、住宅手当、通勤手当、その他労働者本人の属性又は職務に伴う要素によって算定されるとはいえない手当や、一部の労働者が一時的に従事する特殊な作業に対して支給される手当は基本給に含まない。」
つまり基本給とは、資格手当や役職手当、残業代や通勤手当などの手当を入れない賃金であるということが、一般的な概念とされています。
ハローワークに依頼する求人票の情報として、「基本給」欄にこの金額を記載することになっており、月給・日給・時給などの種類に関係なく統一の概念です。
また、多くの企業は基本給を元に、残業代や賞与(ボーナス)、退職金を算出する方法を採用しています。
企業側にとっては、基本給が賃金体系の最も重要な項目ですが、基本給と月給は同じ意味ではありません。
求人サイトでは「月給〇万円以上」という記載があるため、誤解されやすいですが、月給とは基本給と諸手当を含めた1ヶ月分の賃金を意味します。
それぞれの言葉について、一覧にまとめました。
基本給 | すべての手当を含まない、基本の賃金項目 |
---|---|
月給 | 基本給+諸手当 |
「月給(げっきゅう)」とは、一般的に「月単位で支給される固定の賃金」のことを指します。
「基本給」とは違い、「月給」は給与明細の項目に記載がありません。
そのため労働者によっては、意味を混同していたり知識不足だったりする場合もあります。
入社後のトラブルを避けるためにも、担当者はしっかりと知識を身につけておくことが重要です。
基本給と諸手当については、「基準内給与」と「基準外給与」という考え方がありますので、その中で詳しくみていきましょう。
「基準内給与」とは、基本給、役職手当、職務手当などの割増賃金を計算する際の根拠となる賃金項目のことをいいます。
「基準外給与」とは、割増賃金の計算には含まれない手当・賃金項目をいいます。
残業手当や休日出勤手当、通勤手当が代表的な基準外賃金です。
基準内給与に入らない項目は、基準外給与とされています。
通勤手当や家族手当は、基準内と基準外のどちらに該当するのでしょうか。
労働基準法37条5項では、
「割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。」
労働基準法施行規則第二十一条では、
「法第三十七条第五項の規定によって、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。」
と定められており、一見「基準外給与」と認識されますが、それはあくまで通勤手当や家族手当が月によって変動する場合のみです。
例えば、何キロ以上であれば全員に〇千円を毎月支給するという決まりの通勤手当や家族の人数に関わらず一律に毎月支給される家族手当などは「基準内給与」になるので残業代などの算出基準となります。
なお「基準内給与」「基準外給与」の切り分けは、使用者側が就業規則で自由に定めることが可能です。
「固定給」とは、固定給制ともいわれ、一定の労働時間働けば、同じ賃金を毎回支給する意味合いで使われます。
その反対が、「歩合給」もしくは、歩合制です。
固定給の場合、時給制では〇時間で〇千円などの賃金条件となり、月給制では休日に関係なく毎月同じ額が支給されます。
逆に、営業成績に左右される手当の部分を「歩合給」といいます。
営業部門では、固定給+歩合給で賃金体系が定められていることが多いですが、いわゆる内職などの業務委託契約では、完全出来高制という歩合制のみで支払われる場合もあります。
就職する際は月々の給与だけでなく、どのような賃金体系なのか労働条件をしっかり確認する必要があります。
「俸給(ぼうきゅう)」という言葉を聞く機会は少ないかもしれませんが、基本給に関する用語として紹介します。
健康保険法第3条5項には、「この法律において報酬とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び3月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。」とあります。
俸給という言葉は、この条文のように働いた対価としてもらうものの一つの呼び名として使われる場合があります。また、国家公務員の毎月の基本給を俸給といい、俸給表というもので一般の基本給に当たる金額が決められています。
「給料」と「給与」は、どちらも同じ意味合いで使われることもありますが、「給料」が毎月支払われる賃金という意味合いで曖昧に使われるのに対し、「給与」は所得税法で規定があります。
「給与明細書」「給与所得」など、会社から支払われる賃金や賞与などすべてを法律上では「給与」というと考えてよいでしょう。
ここで、給与明細書の記載を確認しておきます。
給与明細書は、「支給」「控除」「勤怠」の項目と、「総支給額」「控除合計額」「差引支給額」の記載があるのが一般的です。
手取り額は、一般的に総支給額の80%ほどになりますが、控除項目の一つの所得税が、「扶養親族等の人数」と「その月の社会保険料控除後の給与等の金額」で計算されるので、手取り額が80%未満の場合もあります。
基本給を定める時に、一般的には何を基準にするのでしょうか。
基本給の決め方は企業によってまちまちで、明確なルールはありません。
といっても多くの企業では、正社員の基本給は以下のどれかを採用して決定しています。
ただし、これも法律上で区別されているわけではありません。
属人給式とは、基本給を勤続年数や年齢に応じて支払う方式です。
業務内容や成果などではなく、本人の性質によって基本給を決めるもので、年功序列型がこれに当たります。
これまでの日本の大企業で多く採用されてきた方式で、戦後から高度経済成長期にかけて社員を安定的に確保する目的がありました。
終身雇用制度と並行して日本を象徴する人事制度でしたが、現在はこの仕組みだけを採用する企業は少なくなってきています。
成果給式とは、基本給を労働者の業務内容や職務遂行能力に応じて支払う方式です。
年齢や勤続年数などではなく、会社への貢献度に応じて基本給が決まるので、中途採用者が多い場合に徐々に採用する企業が増えています。
また、営業成績など可視化しやすい基準がある場合、企業側と労働者側で共通の認識を持ちやすい方式ともいえます。
属人給式と成果給式を組み合わせたのが、総合給式です。
多くの企業が「属人給」と「成果給」を合わせた支払い方を採用していましたが、最近では成果に重きを置く方法も増えてきています。
国の働き方改革の一つとして、2020年から適用された(中小企業は2021年)「同一労働同一賃金制度」。
策定されたガイドラインの中で、国は「基本給が労働差の能力又は経験に応じて支払うもの、業務又は成果に応じて支払うもの、勤続年数に応じて支払うものなど、その趣旨が様々である現実を認めた上で」と基本給の決め方に基準がないことを認めています。(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)
一方で、「それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行なわなければならない」ともしており、基本給が実態に即した支給でなければならないとしています。
つまり、基本給の決め方は、
以上が、今後の基本給の考え方になっています。
今回の改正では、パートや有期労働者を対象とした説明責任についても定められています。
企業側としては、基本給について、会社への貢献度を重視しつつも、その基準を明確化することが求められているのが現状です。
賃金制度を含む就業規則の変更・作成についてのお悩みは、「社会保険労務士法人とうかい」までご連絡ください。
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問題の解決に向け、給与計算の専門家としてお手伝いさせていただきます。
「実態に即した」かどうかの判断は具体的ケースによる場合が多いです。ご不安のある方は専門家と一緒に進めることをおすすめします。