少子高齢化や労働力人口の不足が言われる今、採用の間口も広げ、外国人労働者の受け入れを検討している企業も多いのではないでしょうか。しかし、受け入れに際して、各種手続きをどうしたらよいのか、わからないことも多いと聞きます。在留資格が必要なことはわかっていても、社会保険の手続きなどはどのようにすべきかなどお困りのこともあるでしょう。
今回は、外国人労働者の採用を検討している人事担当者のために、社会保険手続きの注意すべきポイントを外国人採用に詳しい社労士が解説していきます。
社会保険労務士法人とうかい
執行役員 社会保険労務士 小栗多喜子
同社、人事戦略グループマネージャーを務め、採用・教育を担当する。商工会議所、銀行、Adeco,マネーフォワードなどセミナーや研修講師も精力的に行っている。労働法のアドバイスだけではなく、どのように法律と向き合い企業を成長させるのかという経営視点でのアドバイスを得意としている。
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外国人労働者の採用ニーズは、ここ数年のコロナ禍で停滞はしたものの、毎年少しずつ上がっています。高度外国人材を獲得するために待遇面での体制を整えておきたい、人材不足によって外国人人材を積極活用したい、といった会社もあるでしょう。いずれにしても雇用した外国人労働者に活躍してもらうには、安心して働いてもらうための基盤づくりが重要です。そのために外国人労働者と社会保険についての知識は欠かせません。そもそも外国人労働者であっても、日本国内で働く場合には、日本人同様に社会保険に加入することが原則です。ただし、注意しなくてはならないのが、在留資格(就労ビザ)についてです。
まず、外国人労働者を雇用するうえでの大前提が「在留資格(就労ビザ)」です。外国人には、出入国管理及び難民認定法(入管法)で定められている在留資格の範囲が決まっています。現在、27種類の在留資格があります。
1 就労が認められる在留資格18種 外交、公用、教授、芸術、宗教、報道、投資・経営、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術、人文知識・国際業務、企業内転勤、興行、技能、技能実習、特定活動(ワーキングホリデー、EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士、ポイント制等) 外国人採用で多い在留資格は、技術、人文知識・国際業務、企業内転勤とのほか、技能実習や特定技能などがあります。 2 原則、就労が認められない在留資格 5種 文化活動、短期滞在、留学、研修、家族滞在 留学や家族滞在の在留資格の外国人の方がアルバイト等の就労を行う場合には、地方入国管理局で資格外活動の許可が必要です。許可を得た場合、1週28時間まで就労可能です。さらに、留学の在留資格の外国人が資格外活動の許可を得た場合、夏休み等の長期休暇中は、1日8時間の就労が可能です。 3 就労活動に制限がない在留資格 4種 永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者 |
在留資格は取得するまでに、約1か月〜3か月程度の期間を要します。申請をしたからといって、必ずしも在留資格が得られるものとも限りません。職種や業種によって、就労するための在留資格が得られない場合もあることは注意しておきましょう。
外国人労働者が日本で働くためには、就労のための在留資格(就労ビザ)が必要です。その点がクリアできれば、雇用が可能となります。外国人労働者を雇用することとなれば、原則として、社会保険と労働保険にも加入することが法令で義務づけられています。もちろん、日本人と同様に所得税や住民税なども課税され、労働基準法や最低賃金法なども適用されることになります。経営者の意向や、外国人労働者自身の意向で、加入可否が決まるということではありません。社会保険等の加入は、会社と従業員の義務になりますので、たとえ外国人労働者が加入したくないと言っても、社会保険加入要件に該当すれば、加入すべきものということになります。技能実習の場合であっても、社会保険加入の要件に該当すれば、加入することになります。
フルタイムで外国人労働者を採用した場合、入社のための手続きは日本人従業員と同様です。社会保険等手続きについても同様ですが、留意すべきポイントもありますので、確認していきましょう。
外国人従業員も、日本人従業員も同様に「資格取得届」により、加入の手続きを行います。扶養親族がいれば、「健康保険被扶養者(異動)届」を提出します。
保険に加入すれば新たに保険証が発行されることになります。在留資格の変更や在留期間の更新許可を行う際には、出入国在留管理局で健康保険証の提示が求められます。外国人労働者の在留資格の審査に、勤務する会社の社会保険加入も影響するということでしょう。
【海外に居住する、外国人労働者の家族は扶養対象になる?】
外国人従業員に扶養親族がいる場合も、日本人同様に扶養対象となります。外国人従業員の家族であって、年収の要件などを満たした場合には適用になります。ただし、扶養親族が海外在住である場合には該当しません。以前は、海外在住の家族であっても扶養の対象とされてきましたが、2020年4月以降の扶養認定にあたっては、生計維持の要件に加え、“日本国内に住所を有する”ことが要件として加わりました。ただし、家族が留学などで海外在住であるものの、本来日本国内に生活の基礎があると認められるものについては、「海外特例要件」として、被扶養者として認定が可能です。
○扶養対象になる要件
外国人従業員も、日本人従業員も同様に「資格取得届」により、加入の手続きを行います。「健康保険・介護保険」と「厚生年金保険」は、セットで加入することになります。どちらか一方の加入は基本的に認められていません。外国人従業員の中には、年金に加入したくないと拒否するケースも少なくありません。外国人従業員の場合、生涯、日本で働き暮らすことを前提としていないことのほうが多いため、当たり前の反応とも言えます。ただ、日本において働いている限りは厚生年金保険にも加入することになります。ただし、外国人従業員の出身国によっても取り扱いが異なります。出身国と日本が社会保障協定を結んでいるケースの場合には、健康保険は日本で加入、厚生年金保険は自国の保険に入り続けるため、加入しない、といった取り扱いが可能です。日本の社会保険に入るか、自国の保険に加入し続けるかは、日本においての滞在期間によっても決定します。
【社会保障協定締結国】
ドイツ・イギリス・韓国・アメリカ・ベルギー・フランス・カナダ・オーストラリア・オランダ・チェコ・スペイン・アイルランド・ブラジル・スイス・ハンガリー・インド・ルクセンブルク・フィリピン・スロバキア・中国 |
また、技能実習などで日本で働く外国人の場合、3年間といった限られた期間で働いています。例え、社会保険に加入していても、メリットがありません。こうした場合には、本国に帰ってから保険料が返金されることになります。ただ、返金にあたっては、“外国人従業員自身は本国に帰国”“返金のための書類等は難しい”“そもそも返金されることを知らない”といった問題もあります。会社の人事担当者は、しっかりと帰国後の手続きの案内までをすべきでしょう。
○脱退一時金の制度(日本年金機構)
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150406.html
雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上あること、31日以上雇用される見込みがある場合に、加入の手続きが必要です。しかし、アルバイトなどで外国人従業員で、昼間に学校に通っている学生、ワーキングホリデーなどの場合には加入の必要はありません。ただし、アルバイトの場合は「雇入れ・離職に係る外国人雇用状況通知書」をハローワークに届出する必要があります。
従業員を雇用している会社であれば、日本人であるか、外国人であるかどうかに関わらず、労災保険が適用されます。外国人留学生をアルバイト従業員として雇用している場合であっても、勤務時間に関わらず労災保険が適用されます。通勤途上での災害、業務上での疾病・災害には、労災保険の給付がされるということになります。労災保険は、労働者すべて守るための保険ですので、例え雇用している外国人従業員は、不法就労だった場合にも、業務上・通勤上の災害が起きれば、労災保険が適用されます。
製造業や建築業では、外国人労働者を雇用しているケースが多く、労災も増加しています。日本人同様、労災が発生すれば、適切な給付が受けられるよう手続きをすることはもちろんですが、何より、労災を発生させないような労働環境整備が重要になってきます。外国人労働者は、日本語の言語理解のレベルはさまざまです。安全防止や注意事項の貼り紙が日本語表記だけであったり、正しく伝わっていないことから労災が発生しているケースもあるのです。未然に労災を防ぐためにも、複数言語の表記をしたり、正しく内容が伝わっているかの確認をするなど、配慮が必要です。
外国人労働者が、退職や解雇に至った場合でも、日本人従業員同様の手続きを行います。
基本的には、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出します。あわせて、外国人雇用状況届出書を提出します。
解雇の場合には、解雇に至るまでの記録や内容もしっかりと残しておくことが必要です。外国人従業員の場合、言葉の問題で理解の齟齬があったり、誤解が生じたまま、解雇に至ってしまうということもあるでしょう。社会保険手続きをはじめ、会社生活のほとんどが日本人従業員と同じく働いてもらうことにはなるものの、やはり言葉の問題への配慮は必要でしょう。解雇に至れば、外国人従業員は日本での滞在、在留資格にも影響する事態となりますので、解雇を回避するための手段尽くしたのかが大切です。
基本的には、会社で雇用する従業員が日本人であろうと外国人であろうと、同様に労務管理を行うべきものです。外国人本人が行う手続きも、日本人従業員と同じです。
ただし、人事担当者においては、人事労務の知識のほか、入管法など在留資格に関する知識も併せもたねばなりません。知識がないまま安易に外国人を採用することで、不法就労となった場合には、会社への影響は甚大です。外国人を常時10人以上雇用する場合は、「外国人労働者雇用管理責任者」の選任も必要になります。