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労働保険は労災保険と雇用保険の総称!年度更新の手続きと注意点を解説

労働保険の年度更新は年に1度の手続きであるため、細かい点を忘れがちになってしまうことも珍しくありません。
特に令和4年度においては、同年10月からの雇用保険料率引き上げに伴い、雇用保険分の概算保険料の計算方法がこれまでと変わりました。
これは次年度の確定保険料計算の際にも関連する事項ですので、注意が必要となります。
本記事では労働保険について解説するとともに、年度更新の手続きの流れや注意点をまとめて紹介していきます。

目次
この記事の監修

社労士 小栗多喜子

社会保険労務士法人とうかい
執行役員 社会保険労務士 小栗多喜子

同社、人事戦略グループマネージャーを務め、採用・教育を担当する。商工会議所、銀行、Adeco,マネーフォワードなどセミナーや研修講師も精力的に行っている。労働法のアドバイスだけではなく、どのように法律と向き合い企業を成長させるのかという経営視点でのアドバイスを得意としている。

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労働保険とは

労働保険とは、労働者災害補償保険(以下「労災保険」)と雇用保険という2つの保険制度の総称を指します。実務では「労働保険」と「労災保険」を混同しているケースがよく見られますが、労災保険はあくまでも労働保険の中に含まれる保険制度の一つである点を抑えておきましょう。

労働者を1人でも雇用している事業所であれば、少なくとも労災保険への加入義務があります。労働保険の保険者は政府で、保険料の納付手続きについては労災保険と雇用保険の両制度を一括して対応します。

しかし、労災保険と雇用保険とでは保険の目的や補償内容が異なるため、保険給付はそれぞれの制度に基づいて行われています。

実務においては、両者の内容をしっかりと理解したうえで対応することが重要です。

労災保険

労災保険は、業務上の事由や通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して必要な保険給付を行う制度です。

例えば、労働災害によってケガを負ったり病気になったりした場合に、医療機関への受診費用や休業した場合の収入補償などの給付が行われます。

任意保険ではなく、労働者を1人でも雇っている事業所は法律で加入が義務付けられている強制保険です。

保険料は事業主が全額を負担します。  

雇用保険

雇用保険は、労働者が失業した場合や雇用の継続が困難となった場合などに必要な保険給付が行われる制度です。

よく知られているものとして、失業した際にそれまでの被保険者期間や賃金に応じて保険給付がされる失業等給付があり、「失業保険」という名称を聞いたことがあるかもしれません。

雇用保険は労働者の生活や雇用の安定を図る保険制度のため、保険料は事業主と労働者それぞれが負担しています。 

保険料率

労災保険と雇用保険の保険料率について説明します。

労災保険制度の保険料率は、事業の業種ごとに一覧となっており、2.5/1000~88/1000までの間で定められています。

業種は労災保険に加入する際の「労働保険保険関係成立届」にて届出された事業内容に基づき、業種番号とともに決定されます。例えば小売業や飲食店は3/1000、林業は60/1000となっています。

その他に、労災保険が適用されるすべての事業主を対象に一般拠出金の負担があり、こちらの料率は業種に関わらず一律で2/1000です。

労災保険料率は通常、3年ごとに見直しがかけられることになっています。例えば労災事故件数が多く保険給付の対象事案が増えた業種は料率が上がるなど、実態を反映する仕組みを取っていますが、直近で令和3年4月に改定予定としていたものの、改定を見送る結果となりました。

雇用保険の料率も業種によって異なりますが、労災保険ほど細分化されておらず、「一般の事業、農林水産・清酒製造の事業、建設の事業」という3つの区分で分類されています。

令和4年度は法改正により、令和4年4月1日~9月30日までと同年10月1日~令和5年3月31日までの期間とで保険料率が変更になっています。

実務面では、給与計算や令和5年に年度更新の手続きを行う際に注意が必要です。

令和4年度の雇用保険料率

◯令和4年4月1日〜令和4年9月30日

  ①労働者負担
(失業等給付・
育児休業給付の
保険料率のみ)
②事業主負担 ②事業主負担
失業等給付・
育児休業給付の
保険料率
②事業主負担
雇用保険二事業の
保険料率
①+②
雇用保険料率
一般の事業
(3年度)
3/1,000
(3/1,000)
6.5/1,000
(6/1,000)
3/1,000
(3/1,000)
3.5/1,000
(3/1,000)
9.5/1,000
(9/1,000)
農林水産・
清酒製造の事業
(3年度)
4/1,000
(4/1,000)
7.5/1,000
(7/1,000)
4/1,000
(4/1,000)
3.5/1,000
(3/1,000)
11.5/1,000
(11/1,000)
建設の事業
(3年度)
4/1,000
(4/1,000)
8.5/1,000
(8/1,000)
4/1,000
(4/1,000)
4.5/1,000
(4/1,000)
12.5/1,000
(12/1,000)

(枠内の下段は令和3年度の雇用保険料率)

 

◯令和4年10月1日 ~ 令和5年3月31日

  ①労働者負担
(失業等給付・
育児休業給付の
保険料率のみ)
②事業主負担 ②事業主負担
失業等給付・
育児休業給付の
保険料率
②事業主負担
雇用保険二事業の
保険料率
①+②
雇用保険料率
一般の事業 5/1,000 8.5/1,000 5/1,000 3.5/1,000 13.5/1,000
農林水産・
清酒製造の事業
6/1,000 9.5/1,000 6/1,000 3.5/1,000 15.5/1,000
建設の事業 6/1,000 10.5/1,000 6/1,000 4.5/1,000 16.5/1,000

加入手続き

労働保険は事業の種類によって、一元適用事業(農林漁業・建設業等以外)と二元適用事業(農林漁業・建設業等)に分かれており、手続きの方法が若干異なります。

ここでは、一般的な一元適用事業を例に説明します。

まず、労働者を雇用することになったら、「労働保険保険関係成立届」を労働基準監督署に、保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内に提出しなければなりません。

また、同関係成立日の翌日起算から50日以内で構いませんが、黒色と赤色で印刷されている「労働保険概算保険料申告書(納付書)」も提出する必要があります。

雇用している労働者が、雇用保険への加入対象となっている場合、「雇用保険適用事業所設置届」を適用事業所に該当した日の翌日から起算して10日以内にハローワーク(安定所)へ届け出ます。

この「雇用保険適用事業所設置届」を提出するということは、雇用保険の被保険者となる従業員がいるということですので、併せて「雇用保険被保険者資格取得届(または雇用保険被保険者転勤届)」も提出します。(資格取得届の提出期限は資格取得の事実があった日の翌月10日までとなっています。)

対象者

労災保険の対象者

労災保険は、日雇い、アルバイトや正社員など雇用形態や労働日数を問わず、すべての労働者が対象です。

労働者を1人でも雇ったら加入手続きを行いましょう。

雇用保険の対象者

雇用保険は

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上である
  2. 31日以上雇用の見込みがある

 

上記に当てはまる場合は原則として雇用保険の被保険者となります。

ただし、上記の2点に該当していても、一部例外を除く昼間学生は適用の対象外です。

労働保険の年度更新とは

年度更新とは労働保険に加入している事業主が、年に1度保険料の申告・納付を行う手続きのことです。

手続きの流れや期間などを見ていきましょう。

必要な手続き

年度更新に必要な手続きは主に2段階となっています。

 

「前年度分の確定保険料の申告・納付」と「当該年度の概算保険料の申告・納付」の2つです。

年度更新における労働保険料の申告・納付は、4月から翌年の3月までを一期間として考えます。

前年度分の確定保険料の申告とは、年度更新を行う前年の4月1日から翌3月31日までの算定基礎賃金を集計し、業種に応じた料率を乗算することで保険料を確定させる手順を指します。

例えば令和4年の年度更新を行う場合、確定保険料の算定対象期間は令和3年4月1日から令和4年3月31日までにおける算定基礎賃金となります。

 

ここでは、一般的な事例である一元適用事業で継続事業の事業主の場合で考えていきます。

 

最もシンプルなのは、労災保険の対象者と雇用保険の対象者が同人数の場合です。

この場合は、人数分の算定基礎賃金を集計し、労災保険料率と雇用保険料率を合算した料率を乗算することで、確定保険料が求められます。

 

前述した一般拠出金も、この算定基礎賃金を元に計算することで求められます。

算出された確定保険料と一般拠出金の合計額が、「前年度分の確定保険料の申告・納付」で納めるべき金額となります。(前年度に納付している保険料があれば相殺し、不足分と後述する概算保険料の合算にて納付)

 

次に想定されるケースとして、労災保険と雇用保険の対象人数が異なる場合が考えられます。

 

例えば、労災保険対象者が50人でそのうち雇用保険対象者が35人だった場合、労災保険と一般拠出金に関しては、50人分の算定基礎賃金を元に確定保険料を計算し、雇用保険対象者の35人分の算定基礎賃金を元に、雇用保険料分の確定保険料を計算する流れとなります。

 

確定保険料は、既に支払い済みの賃金を元に計算しますので、該当する期間中、どのような労働者にどのくらいの賃金を支払ったのかの情報が必要となるのです。

 

前年度分の確定保険料については以上です。

 

ここからは「当該年度の概算保険料の申告・納付」について説明します。

 

概算保険料とは年度更新を行っている時点の年度において、いくら保険料がかかるかのおおよそを計算し、前払いとして納付する保険料のことです。

 

具体的には、令和4年の年度更新における概算保険料では令和4年4月1日から翌令和5年3月31日までにかかる労働保険料について計算します。

 

概算保険料については、前年度(上記例では令和3年度)の賃金総額と比較して賃金総額の見込額が1/2以上2倍以下の場合は、確定保険料計算時に用いた賃金総額を元に計算してよいとされています。

 

上記ケースに該当する場合、これまでであればその賃金総額に当該年度の労災保険料率と雇用保険料率を乗算して計算すれば対応可能だったのですが、令和4年に関しては、前述の通り雇用保険料率が上期(令和4年4月~9月)と下期(令和4年10月~令和5年3月)で異なるため、賃金総額も上期と下期で1/2に按分し、それぞれの料率で計算する処理が必要です。

 

なお、この雇用保険の料率変更に伴って上期下期と別々に計算する考え方は、令和5年の年度更新の際にも、確定保険料の算出において用いられますので覚えておきましょう。

年度更新の期間

年度更新は、毎年6月1日~7月10日(10日が土日祝日に該当する場合はよく営業日)までの期間に申告・納付することとされています。

 

毎年4月1日から翌年3月31日までを一算定期間として確定保険料と概算保険料を計算します。

手続きが遅れることによるリスク

毎年決まった期間に申告・納付が定められている年度更新ですが、手続きが遅れると一定のペナルティとも言える措置が取られます。

 

まず、申告書自体は提出したものの納付期限までに納付がない事業主には、延滞金を徴収されることがあります。

 

また、そもそも申告手続きが遅延したり、手続きを行わなかったりする場合は、政府が納付額を決定し追徴金を課す場合もあります。

この場合の追徴金は政府で決定した納付額(労働保険料・一般拠出金)の10%となっていますので、注意が必要です。

 

口座振替を選択している事業所において、申告書の提出が期日より遅れた場合、口座振替の手続きに間に合わず、納付書による対応をとらなければならないケースもあります。

まとめ

労働保険の年度更新は、1年に1度決まった時期の対応となります。人事部門の担当変更などによっては、不慣れな中で対応しなければならない状況も考えられます。

 

令和2年4月から、特定の法人について、一部行政手続きにおける電子申請が義務化されており、年度更新も本義務化の対象となっています。

 

手続きにおける社内フローの整備を行い、手続き漏れや不備を防ぐために専門家への委託を視野に入れるのも一案です。

 

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