働き方改革関連法案が成立し、2020年4月から「同一労働同一賃金」を定めた法律が施行されます。大企業は2020年から、中小企業では2021年から適用されます。
「同一労動同一賃金」は、同じ職場で同じ業務内容を行う正社員と、非正規社員との間に待遇や賃金などに不合理な格差を設けてはならないというものです。従来にも一定のルールはありましたが、2020年からはそのルールが明確に徹底することが求められるようになったのです。これに伴い、多くの企業で同一労働同一賃金ルールに則った就業規則や賃金規定の改定が必要です。あわせて、社内の理解を得たり、人事評価などの制度の見直しも必要になってくるでしょう。
そこで、今回は、企業の経営者や人事労務担当者が押さえておくべき、同一労働同一賃金のポイントについて解説します。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
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「同一労働同一賃金」とは、パート社員や有期雇用契約の社員、派遣社員などの非正規の社員について、同じ職場で同じ業務内容をしている正社員と比較して、賃金や待遇などの不合理な格差を設けることを禁止する考え方のことをいいます。
そもそもこの同一労動同一賃金の考え方は、現行の労働契約法やパートタイム労働法においても「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差」について禁止されていました。ただ、これまでは対象者は、パート社員である短時間労働者に限られていました。また法的な拘束力や罰則もなく、曖昧でもありました。
そこで、働き方改革で、労働契約法、パートタイム労働法、労動派遣法を改正し、対象者をパート社員など短時間労働者に加えて、有期雇用労働者、派遣労働者に広げるといった今回の改正施行することとなりました。
今回の法改正に伴い、契約社員などの有期雇用労働者や派遣労働者も法律の対象となるため、パートタイム労働法は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)」に名称が変更されています。パート社員や契約社員、派遣社員を雇用している企業は、この法律に沿った対応や労務管理が必要なのです。
これまで日本の企業では、従業員の能力や経験が同じにもかかわらず、正社員とパート社員・契約社員・派遣社員に、大きな待遇の差があることによって、さまざまな問題が発生した経緯がありました。大きなトラブルなどに発展し、裁判となるケースも珍しくありません。
そうしたトラブルを防ぎ、どのような雇用形態であっても、最大限にその人の持つスキルを生かし、相応の報酬を得るには、正社員とその他の雇用形態の社員の待遇差の改善は、直ちに手をつけなければならない課題でした。
雇用形態に関わらず、待遇に納得して働き続けられるように、今回の法改正が行われるのです。
今回の法改正にあたっては、同一企業内で、正社員と非正社員との間で、基本給や賞与をはじめとしたあらゆる待遇について、“不合理な待遇差“を禁止しています。とはいえ、”不合理な待遇差“といっても、企業によっても捉え方がまちまちになってしまうこともあります。そこで、判断基準となる、「均衡待遇規定」、「均等待遇規定」を法律で整備し、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(ガイドライン)」によって、どのような待遇差が不合理に当たるかを明確に示しています。
同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
多くの企業では、さまざまな雇用形態の従業員を雇用していることでしょう。今回の方改正にまったく関係ない、といった企業は少ないはずです。改正された新たな法律は、大企業では2020年4月から、中小企業は2021年4月から施行され、同一労働同一賃金の適用遵守が義務づけられることになります。今後は、正社員と非正規社員の待遇差是正への動きが大きくなることになります。新型コロナウイルス 感染拡大の影響で、こうした法改正への対応まで手が回らないといった人事労務担当者の声も聞きますが、次章では、同一労働同一賃金に企業としてどのように対応し、取り組んでいくべきかをガイドラインを押さえながらみていきます。
では、同一労動同一賃金でうたわれる「不合理な待遇差」の禁止とは、どのようなものでしょうか?企業の主観や抽象的なものではなく、客観的に具体的な事実に則ったものでなければなりません。そのためにまずは本改正において、「待遇」はどのように考えられているか、確認しておきましょう。
今回の改正では「均等待遇規定」と「均衡待遇規定」という2つの待遇に関する考え方が規定されています。
差別的な取り扱いを禁止しています。例えば、同じ職務内容、同じ働き方、職務の責任の程度も同じといった場合は、賃金をはじめとして労働条件における処遇を同じにしなくてはなりません。転勤や人事異動が見込まれるかも判断されます。
正社員と非正社員の働き方に相違がある場合には、その相違内容に応じてバランスを配慮した待遇が必要です。このバランスは「職務内容(内容や責任の程度も含む)」、「職務内容・配置の変更の範囲(人材活用のしくみ)」、「その他の事情」の3点が考慮されます。
派遣労働者の待遇についても、派遣元企業の義務として、派遣先の労働者との均等・均衡待遇もしくは一定の要件を満たす労使協定による待遇を求められています。また、派遣先の企業においても、派遣労働者の待遇について、派遣元企業へ情報提供を必要としています。
正社員とパート社員や有期雇用労働者の待遇差を解消するためには、具体的にどのような項目に着目すればよいのか確認していきます。企業ごとに具体的に決定していくべき項目なので、労使で慎重に協議していく必要があるでしょう。
・基本給
能力や経験、成果などが実態に違いがない場合は、正社員と同一の賃金を支給しなければなりません。
・賞与
業績などへの貢献度が同じであれば、正社員と同一に支給が必要です。
・各種手当
(職務手当)役職の内容が同じであれば正社員と同一に支給が必要です。
(通勤手当・出張旅費など) 正社員と同一に支給が必要です。
(時間外労働手当の割増率)業務内容が同一であれば正社員と同一の割増率となります。
(精皆勤手当)業務内容が同一であれば正社員と同一に支給が必要です。
・福利厚生など
(食堂/休憩室/更衣室などの利用)要件が同一であれば、正社員と同一の利用や付与が必要です。
(慶弔休暇/健康診断に伴う勤務免除・有給保障)要件が同一であれば正社員と同一の利用・付与が必要です。
・休暇
勤続期間に応じて認められる法定外の休暇などは、勤続期間が同じ正社員と同様に付与します。
・教育訓練
現在の職務に必要な技能・知識を習得するための教育訓練は、正社員と同一の職務内容であれば同一の教育訓練を実施します。
企業は、非正規雇用労働者から、正社員との待遇差の内容や理由について説明を求められた場合には、しっかりと説明する義務があります。これまで、正社員との待遇差についての説明義務については規定がありませんでしたが、今回の法改正により、説明を求められた場合には、企業が答えなければいけないという義務が明確化します。さらに、説明を求めた日正規労働者に対し、減給や契約更新の拒否など不利益な対応をすることも禁止しています。
企業と労働者との間の争いごとに関して、裁判を行うことなく、非公開かつ無料で紛争を解決します。行政(都道府県労働局)は労働者の待遇に差がある企業に対して報告徴収・助言・指導等を行う裁判外紛争解決手続きの規定を整備することになりました。この手続を行政ADRといいます。
先述のガイドラインは、あくまでも基本的な考え方です。罰則を設けているわけではありません。ただし、関係する労働法において個別に罰則が設けられている場合もありますので注意が必要です。また、労働者から企業への説明が求められた場合に、明確な説明をできなければ、トラブルの内容によっては、損害賠償を請求される事案に発展してしまう可能性もあります。
このような違反によるリスクを避けるためには、現状の待遇について、今一度見直し、実態に合わせて就業規則や賃金規定の改定や、労使の協議など対策が必要です。
きちんと合理的な理由を説明できるように整備し、社内への理解も浸透させなければいけません。
同一労働同一賃金について行っていくべきことは、不合理な待遇差をなくすことと、労働者への説明となりますが、具体的にどのような対応が必要なのでしょうか。企業によっては、根底のしくみから変えなければいけない一大プロジェクトになりかねません。ステップを踏んで進めていきましょう。
まずは、非正規社員を1人でも雇用している企業は、待遇の状況を確認しましょう。賃金、手当や福利厚生、教育訓練に至るまで、正社員と非正規社員との違いを整理していきます。待遇に異なる点がある場合は、なぜ待遇の違いを設けているのか、理由を明確にします。例えば、「従来からそのようにしてたから」「正社員は無料で社員食堂を使えるが、非正規社員は有料である」「(同じ職務内容にかかわらず)正社員は出張手当が支給されるが、非正規社員には支給されない」など、その待遇の内容や理由が不合理ではないか検証していきます。待遇の違いに不合理なものがあれば、改善案を検討していきます。
待遇の違いを検討していくと、賃金や手当、福利厚生などを変更する必要がある場合、就業規則や賃金規程の見直し・変更も必要です。場合によっては、人事評価基準などの見直しが発生する場合もあるかもしれません。
とはいえ、賃金や手当など待遇に関する見直しや変更は、労使の協議や社内への理解も必要とし、非常に時間も労力もかかるものです。専門家などの力を借りるなど、適用開始時期にあわせて早めに対応することをおすすめします。
会社の業績への貢献に応じて支給するものについては、正社員と同一の貢献があるのであれば同一の、違いがあれば違いに応じた賞与を支給する必要があります。過去には、正社員はボーナスがあり、非正規社員はボーナスがない、といったざっくりとした待遇格差がまかり通った時代もありましたが、もはやそのような対応は法律違反です。業績への貢献をどのように評価するかについて、きちんと整理し、貢献した人には、雇用形態に関わらず賞与を支給する必要があります。また、パート社員に賞与を支払いたくないからと、業務委託に変更するなどとした場合には、別のトラブルとなりますので、くれぐれも注意が必要です。
同一労働同一賃金に対しての罰則規定はありません。しかしながら、正社員と非正規社員の間に不合理な待遇差がなければ問題ありませんが、不合理な格差がある場合には、大きな問題に発展する可能性を抱えています。非正規社員から裁判を起こされた場合には、違法とされたり、損害賠償を請求することも考えられます。
企業の財産である「ヒト」に大きく関わる今回の法改正ですが、内容の検証はもちろん、労使の協議や合意など、行うべき事項は多いです。
ただ、同一労働同一賃金の目的は、どのような雇用形態であっても、待遇に納得して従業員が働き続けられる、そしてスキルを発揮して業績を上げられるようにすることです。
会社の貴重な財産である人材を大いに活用するためにも、この機会に見直すことが必要でしょう。
就業規則や賃金規程が同一労働同一賃金に即したものでなければ、従業員のモチベーションが下がってしまうだけでなく、企業に対する信頼が損なわれる可能性もあるでしょう。
法律だからやらなければならないのではなく、同じように働いた人が同じように報われる仕組みとすることで、従業員がやる気をもって継続的に働ける職場環境にしていく必要があります。
同一労働同一賃金は非常に難しい考え方です。ぜひ専門家にご相談ください。
当社でもオンラインで承っております。
岐阜県 鳶工事業 従業員数23名
労務相談の顧問や就業規則の整備をお願いしています。そもそも私自身の考えになりますが、社員の成長と私自身の成長が、会社自体の伸びにつながると考えています。そして、そのためには働くための当たり前の体制が整備された「まともな会社」であることが前提となるでしょう。そこの組織づくり・成長する基盤づくりを進めるにあたっての不安点をよく相談しています。