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就業規則と固定残業代。トラブルにならない導入の仕方について社会保険労務士が解説します。

就業規則と固定残業代。トラブルにならない
導入の仕方について解説します。

「固定残業代」を導入している企業、また導入を検討している企業は多いと思いますが、固定残業の知識や運用を正しく理解せずに導入すると、トラブルのもと。固定残業代を導入する際には、従業員に丁寧な説明をし、誤解が生じないようにすることが大切です。

今回は、固定残業代に関するトラブルを招かないよう、詳しくご説明していきます。

この記事の監修

社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子

これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。

現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。

主な出演メディア
NHK「あさイチ」

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たとえその月の時間外労働が固定残業の枠より少なくても、固定残業代は支払う必要があります。

 

固定残業代とは?

固定残業代とは、残業代があらかじめ固定給に含まれていることを言います。企業が一定時間の残業を想定し、あらかじめ基本給に残業代を固定給として、残業時間を計算せずとも固定分の残業代を支払うという制度です。“みなし残業”“定額残業代”とも言われています。

本来であれば、残業手当は1時間残業を行なったら1時間分の残業手当を計算し、給与の都度支払うので、残業時間に連動して毎月残業手当が変わります。

一方で、一定時間の時間外労働、休日労働、深夜労働を見込み、「10時間分の時間外労働手当」「5時間分の深夜労働手当」といったように、毎月同額で支払うのがが「固定残業代」、「固定深夜手当」です。

とはいえ、ここで注意しておきたいのが、この“残業代が固定”という理解です。どんなに残業をしても、残業代が固定なのだから、支給額は定額であるという認識です。これは正確ではありません。厚生労働省の通達によると、固定残業代は、「一定時間分までの時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金として定額で支払われる賃金」とされています。
この“一定時間分”に着目しなければいけません。つまり、「10時間分の時間外労働手当」を固定残業代とした場合には、30時間の時間外労働をすれば、差分の20時間分の時間外労働の手当を支給する必要があるということなのです。

 

固定残業時間制のメリットは?

① 人件費の安定
企業側からすると毎月変動する残業手当と異なり、人件費が固定費として支出が見えやすくなるので、人件費の計算も容易となるうえに、資金繰りの安定化がはかれます。

② 生活費の安定
従業員にとっては収入の変動が少ないため、生活費の安定が見込めます。

③ 時間外労働の減少
従業員側からすると、固定されている残業時間分より早く仕事を終わらせようというインセンティブが働きます。会社側としては労働時間の短縮につながります。

固定残業時間制のデメリットは?

① 固定残業時間を超過した分の未払いになるおそれがある
前述のように、固定残業代を支払っているため、一定時間分を超えた時間外労働をしても残業代は出ない、と誤解している企業が少なくありません。そのため、超過した分の残業手当を支払っていないケースも。

② 固定残業時間分を消化するための残業
固定残業代は、あくまで一定の時間分の残業代を固定支給する制度。例えば10時間分の固定残業手当支給されている場合であっても、必ず10時間残業をしなくてはならない、といったものではありません。

コンサルタント中村の経営視点のアドバイス

固定残業代は残業代を支払わなくてもいい制度ではありません。
残業代の削減を目的にするのではなく、自社の従業員に合った働き方をしてもらうために導入すべきでしょう。また導入したはいいが、運用が形骸化しているケースもあり、トラブルが多いのも事実です。必ず専門家に相談して導入するようにしましょう。

固定残業手当にはどこまで含まれる?休日出勤手当や深夜労働割増を固定残業手当に含めてもよい? 

固定残業代を支払う時は、時間外労働分の割増賃金相当と、深夜時間分の割増賃金相当を明確に区別する必要があります。

固定残業代制度を導入している企業に疑問として多いのが、深夜割増分や休日割増分も含めて支払っていいのか?という点。時間外労働に加えて、深夜労働分などを支払うこと自体は問題ありませんが、時間外労働分の割増賃金相当と、深夜時間分の割増賃金相当が明確に区分されていなければいけません。固定残業代の基礎となる一定の時間をどのように定めるか決定する際には、割増賃金相当の計算根拠を明確にしておきましょう。

また、労働基準法では毎週少なくとも1回の休日を与えるものとしています。この法定休日に休日出勤をした場合には、割増賃金を支払う必要があります。週休2日の企業で、法定休日、所定休日で割増率が異なる定めをしている場合には、それに応じて支給する必要があります。

いずれの場合においても、休日出勤分の手当を考慮せず、固定残業代を計算している場合には、休日出勤分の手当は固定残業代とは別に支給する必要があります。

 

固定残業代が認められるための条件とは?

メリットもデメリットもある固定残業代の制度ですが、デメリットによる影響が大きいため、固定残業代が認められるには、一定の条件があります。

① 固定残業代と残業時間を明確に記載しなければならない

金額と時間を明確に記載する必要があります。例えば「月給30万円(固定残業代を含む)」では、何時間分の固定残業代なのかが不明です。「月給30万円(固定残業45時間分の5万円を含む)といった表記が必要になってきます。固定残業時間の算定根拠も必要です。

②従業員へ周知しなければならない

就業規則(賃金規程)にその手当てが固定残業代として支払われる旨の記載、給与明細、雇用契約書に何時間分の固定残業代が支払われているかの記載が必要になります。また決められた時間を超えた場合は残業代の支払いが必要です。

 

40時間?45時間?60時間?何時間まで認められる?
固定残業代の上限時間

固定残業代が労働基準法に則って計算されていれば、残業時間の上限は特段定められていません。といっても、時間外労働には36協定を締結しなければならず、36協定では、原則、月45時間が時間外労働の限度とされていることを考えれば、45時間を超える固定残業代制度を導入するのは、難しいでしょう。もちろん、特別条項付の36協定により、臨時的に時間外労働の上限を延長することはできますが、これはあくまでも臨時的な特別な措置であるものから、45時間を超える固定残業を設定することは避けるべきです。

固定残業手当の就業規則に定め方

固定残業代制度を導入する場合は、就業規則に必ず規定しなくてはなりません。

① 固定残業代の金額(計算方法)

② 固定残業の労働時間数

③ 固定残業時間を超えた残業の取り扱い(超過部分の残業代を支給する旨の規定)

④ 固定残業代が深夜割増残業代や休日割増残業代も含むのであれば、その取り扱い

そして、労働組合もしくは従業員の過半数を代表する者に意見を聞き、意見書を作成し、就業規則変更届を所轄労働基準監督署長に提出します。

 

固定残業代制度のトラブル事例

就業規則への規定や労働時間管理など実際の運用が重要となるのが固定残業代制度です。就業規則等を設けていたのにもかかわらず、労使トラブルに発展したケースもあります。裁判に発展し、会社が残業代の支払いを命じられるケースなどもありますので、一例をみていきましょう。

■超過分の清算実態のない固定残業代の合意が無効とされた事例(平成27年2月27日東京地方裁判所判決)

45時間以上の残業が常態化していたにもかかわらず。残業手当が支払われていなかったことから、退職した従業員から訴えられたケースです。45時間の固定残業代の合意を無効と判断し、会社に残業代等約770万円の支払いを命じられました。

■基本給に組み込まれた固定残業代の規定が無効とされた事例(平成30年9月20日東京地方裁判所判決)

トラック運転手の拘束時間が1日12時間となる前提で、1日の法定労働時間8時間を超える4時間分を、一律に1.5倍の割増しを行い、基本給である日給に含む取り扱いをしていたが、無効とされたケースです。法定時間内の通常の労働の対価となる賃金部分と残業代が明確に区分されていないため、時間外労働等に対する割増賃金が正しく支払われているのかを検証することも困難であるうえ、時間外労働等の状況ともかい離していると判断されました。したがって、基本給に組み込まれた固定残業代が、時間外労働等に対する対価として合意されていたものとは認められない、とされたのです。

■成果に連動した固定残業代を無効とした事例(京都地裁平成24年10月16日判決)

ホテルのフロント業務を行なっていた従業員が訴えを起こしたものです。基本給14万円であるのに対し、成果給を固定残業代として13万円、その他宿直手当などが支払われていました。就業規則及び給与規程においては、成果給(固定残業代)は、割増賃金を計算する基礎賃金には含まれないことが明記されています。しかし、成果給は前年度の成果に応じて人事考課によって決められるものであり、時間外手当は労働時間に比例して支払う手当であるということから、両者の性質は異なるものです。いくら就業規則や給与規程に定めてあるからといっても、成果給が時間外手当であるということはできないとされました。よって、成果給は割増賃金計算の基礎賃金に含まれるとしました。

固定残業代設定時の計算方法

固定残業代制度を導入する際の計算方法を確認しておきましょう。

① 固定残業代も残業代です。労働基準法に従って通常の残業代の計算方法で算出します。何時間分の時間外労働に対する手当なのかを定めます。

例:「手当60,000円(30時間分)
『固定残業代の算出方法』

基本給 ÷ 月の平均所定労働時間 ×  1.25 × 残業時間

・基本給:原則、各種手当を除く。ただし、全従業員に支給する手当や営業手当などがある場合で残業時間の算定基礎に含まれる場合もあるので、各企業で個別に規定しているケースも多いため、就業規則の再確認をしましょう。

・月の平均所定労働時間:1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12か月で算出します。

・1.25:労基法上の割増基準率です。(休日出勤や深夜残業を考慮しない場合)
 

② 書面に明示をします。基本給その他の手当と固定残業代を区別して明示します。
 

【ここも注意!】
社会保険料の算定時には固定残業代も含まれます。4月〜6月までの平均報酬額を基準にして算定されますので、その期間に固定残業代を支給している場合には、その年の社会保険料の算定に含まれることになります。

 

固定残業時間を超えた場合の計算方法

固定残業代の設定時に定めた残業時間を超えて残業が行われた場合には、追加で残業代を支払わなくてはなりません。

『固定残業時間を超過した場合の算出方法』

基本給 ÷ 月の平均所定労働時間 ×  1.25 × 残業超過時間

 

例えば、30時間分の固定残業代が定められている従業員が、45時間残業した場合には、45–30=10時間分の残業代を、固定残業代と別に支払う必要があるのです。

【参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン】

ガイドラインでは、「使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと」としています。固定残業で設定した残業時間を超過した場合など、残業未払いの原因とならないよう、客観的記録による残業時間の適正な管理の整備が重要です。

 

固定残業時間制とフレックスタイム制

フレックスタイム制度を導入している企業も固定残業代を導入することは可能です。フレックスタイム制度は、1か月以内の清算期間の総労働時間を定め、従業員それぞれが労働時間を決めて勤務していく制度ですが、この総労働時間を超える部分を固定残業代として設定することができます。

固定残業時間に関わるQ&A

フレックスタイム制度を導入している企業も固定残業代を導入することは可能です。フレックスタイム制度は、1か月以内の清算期間の総労働時間を定め、従業員それぞれが労働時間を決めて勤務していく制度ですが、この総労働時間を超える部分を固定残業代として設定することができます。

固定残業代は、適切に運用しないと、労使間トラブルの元になりかねません。よくある疑問をチェックし、自社の運用方法に生かしましょう

 

固定残業がある会社で欠勤しました。この場合の欠勤控除はどうなりますか?

欠勤があった場合でも、固定残業代自体は満額支払う必要があります。欠勤した場合はその分勤務時間が少なく、残業をしていないのだから、払わなくてよいと考えがちですが、固定残業代は想定した残業時間に対する残業代として定額で支給する手当です。欠勤しても固定残業代を減額することはできません。欠勤に関する部分は、基本給から減額するということになります。

管理職には役職手当の中に残業代を含んでいると伝え、書面にも残しています。問題あるでしょうか?

固定残業代と役職手当を一緒にすることは望ましくありません。これらは、目的の異なるものであるため、役職手当の支給に残業代を含めて支給をすると、労務トラブルにつながる場合もあるので、分けておいたほうが賢明です。

固定残業制を導入していますが、定時前に早退している社員がいます。固定残業代を減らしてもいいでしょうか?

固定残業代は一定時間の残業を想定し、あらかじめ残業代を固定で支給するので、残業が想定時間よりも下回っても、支給は必要です。上記の欠勤同様に、早退部分について、基本給から減額するということになります。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
固定残業制度は労使の間での誤解の多い制度です。
固定残業が固定残業として伝わっていない場合や固定残業を超えた分の残業代が未払いになっているケースです。

固定残業代は一定の残業代を支払えばいくら残業しても残業代を支払わなくてもいい制度ではありません。

従業員の働き方に合わせて導入を検討すべき制度です。
例えば営業職などは比較的に合っている業種です。
労働時間と成果が結びつきにくい業種だからです。逆に製造業の現場など、労働時間と成果が強い相関を示す業種では導入しない方がいいでしょう。

いずれにせよ、固定残業代は非常にトラブルの多い制度です。導入を検討している企業は必ず専門家に相談ください。やるべきことが多いため手間もかかります。

しかし、会社の発展のため、従業員が働きやすい環境を作ることは重要です。制度によって従業員が働きやすくなるのであれば、導入を検討すべきでしょう。私たちも初回無料相談を行っていますので、よろしければご活用ください。

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代表取締役 清野光郷 様

KRS株式会社 代表取締役 清野光郷様

岐阜県 鳶工事業 従業員数23名

労務相談の顧問や就業規則の整備をお願いしています。そもそも私自身の考えになりますが、社員の成長と私自身の成長が、会社自体の伸びにつながると考えています。そして、そのためには働くための当たり前の体制が整備された「まともな会社」であることが前提となるでしょう。そこの組織づくり・成長する基盤づくりを進めるにあたっての不安点をよく相談しています。

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