【テンプレート付き】「健康情報等の取扱規程」とは?
内容や周知、事業主が果たすべき義務について解説
健康情報等の取扱規程は、従業員の健康情報を適切に収集・管理・運用するための基盤です。健康確保措置を実施したり、事業者の安全配慮義務の履行するうえで重要な役割を果たしています。
ただし、健康状態は従業員にとってセンシティブな情報です。従業員のプライバシー保護と業務上の必要性を両立させるために、健康情報等の取扱規程で、明確に取扱いに関すルールを定めることが大切です。
今回は、健康情報等の取扱規程が果たす役割や作成手順などを解説します。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
・NHK「あさイチ」
・中日新聞
・船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri
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健康情報等の取扱規程とは、企業が従業員の健康情報を適切に管理し、利用するためのルールや手続きを定めた規程です。規程の目的は、健康情報の管理・保護と適正な利用です。
平成30年に改正された労働安全衛生法において、従業員の心身の状態に関する情報を収集・保管・使用するにあたり、事業主は収集した情報を目的の範囲内で適切に保管・使用しなければならないと規定されました。
あわせて、従業員の健康確保措置の実施や民事上の安全配慮義務の範囲内での使用が十分に行われるよう、事業者に対して取扱規定を定め、労使(労働者と使用者)で共有することが必要であることが示されました。
健康情報等の取扱規程には、従業員の健康を守るために必要な情報を厳格に取り扱うことだけでなく、従業員の健康意識を高める効果が期待されています。あわせて、健康状態に関する情報が、従業員の不利益につながらないような対策も欠かせません。
高谷の経営視点のアドバイス
従業員の健康を管理するために必要な情報をきちんと把握し、それを基に健康施策を実施することで、労働環境と生産性の向上、従業員の健康づくりに寄与します。
健康情報取扱規程と法的義務化の背景についてお話しします。
健康情報等の取扱規程は、法的に作成が義務付けられており、企業には策定と実施に関する責任があります。
健康情報等の取扱規程が法的に義務化された背景として、従業員の健康を守る重要性が高まった点が挙げられます。労働環境の多様化やメンタルヘルスをはじめとした従業員の健康問題が顕在化しつつある中で、厚生労働省をはじめとする関係機関の取り組みにより、適切な情報管理が求められるようになりました。
健康情報の漏洩や不適切な利用により、従業員が不利益を被るのは問題です。そこで、厚生労働省が主導して従業員の健康に関する情報の取り扱いを厳格に規定し、情報を取り扱える人の範囲や責任の所在を明確にすることにしました。
具体的には、健康情報の収集目的を明確に定めるとともに、その情報がどのように利用されるのかを透明性をもって従業員に説明する必要があります。また、情報を取り扱う際には従業員の同意を適切に取得することや、データの管理体制を徹底することが求められます。
大矢の経営視点のアドバイス
健康情報を適切に取り扱うためには、厳格な管理が欠かせません。そのため、事業者には健康情報等を取り扱う担当者に対して、権限の範囲・取り扱う目的・取扱方法など取扱規程に定めた内容について教育することが求められます。
健康情報は従業員のプライバシーに関わる重要なデータであるため、適切な取り扱いが求められます。
健康情報等の取扱規程を作成する際には、情報の収集方法・保管方法・使用方法・共有のルールなど、さまざまな要素を含めましょう。従業員が安心して健康情報を提供できる環境を整えるためにも、透明性の高い規程を作成することが大切です。
常時使用する従業員が50名以上の事業場では、設置が義務付けられている衛生委員会や安全衛生委員会において、原案を審議しなければなりません。
衛生委員会が設置されていない従業員や50名未満の事業場では、「関係従業員の意見を聴く機会」を設けたうえで、労使間で協議します。取り扱いについて労使双方で話し合い、規程を策定することが求められています。
健康情報等の取扱規程において定める事項は、以下のとおりです。
項目 | 内容 |
取扱いの目的および取扱方法 | 健康情報を取り扱う目的(従業員の健康確保措置の実施、安全配慮義務の履行など)と、具体的な取扱方法(情報の収集・保管・利用・消去の手順など) |
取扱う情報および取扱者の範囲 | 取り扱う健康情報の具体的な範囲(健康診断結果、ストレスチェック結果、医師の指導内容・意見書など)と、情報を取り扱う者(人事部門・産業医・直属の上司など)の範囲と権限 |
目的等の通知方法および本人同意の取得方法 | 健康情報を取得・利用する目的を従業員に通知する方法(書面・口頭・電子メールなど)と、本人から同意を取得する手続きの方法 |
情報の管理方法 | 健康情報の漏えいや不正アクセスを防止するための管理方法(アクセス権限の設定・データの暗号化・定期的なセキュリティ教育など) |
開示・訂正・使用停止等の方法 | 従業員からの情報開示請求や訂正、利用停止の求めに対する対応手続き(申請窓口の設置・対応期間の設定など) |
第三者提供の方法 | 健康情報を第三者に提供する場合の条件や手続き(本人の同意取得・提供先の明示・提供記録の保存など) |
事業承継・組織変更時の引継ぎ | 事業承継や組織変更に伴う健康情報の引継ぎ方法(新組織への適切な情報移行手続き・情報管理責任者の指定など) |
苦情処理の方法 | 健康情報の取扱いに関する苦情や相談を受け付ける窓口の設置と、その対応手続き(相談窓口の連絡先・公平な調査と対応など) |
規程の周知方法 | 程を従業員に周知徹底する方法(社内イントラネットへの掲載・定期的な研修の実施・掲示板への掲示など) |
いずれも、規程で詳細に定めれば従業員は安心できます。従業員の健康情報の適正な取扱いと保護が確保されれば、企業としての法令遵守と信頼性の向上につながるでしょう。
健康情報の取り扱いに関する基本ルールは、個人情報保護の観点から重要なポイントです。従業員の同意を得ることは当然ですが、特に重要な健康情報に関しては、その扱いに慎重である必要があります。
従業員からすると、健康状態に関する情報が不適切に扱われたり、漏洩したりすることは懸念点の一つです。また、健康状態の情報が知られることで「昇進や業務配分、将来的なキャリアパスなどで不利な扱いを受けるのではないか」と心配するかもしれません。
これらの懸念を払拭するためには、企業側が明確な情報管理体制を構築し、情報漏洩防止策を実施することが重要です。従業員側に、健康情報がどのように取り扱われているのか、どのように管理しているのかを十分に理解してもらいましょう。
健康情報等の取扱規程を効果的に運用するためには、従業員への周知活動が不可欠です。就業規則や社内規程に盛り込み、従業員がこの規程の重要性を理解できるように周知しましょう。
具体的には、社内イントラネットやパンフレット、定期的な研修を通じて従業員へ情報を発信することが効果的です。また、実際のケーススタディや具体例を交えると、従業員の理解を深められるでしょう。
健康情報等の取扱規程の周知方法としては、以下の方法が考えられます。
取扱規程を就業規則やその他の社内規程に組み込み、これらの文書を常に作業場の見やすい場所に掲示または備え付けることで、従業員はいつでも確認できます。また、社内イントラネットに規程を掲載し、オンラインでアクセスできるようにすることも検討しましょう。
書面だけで正しく理解してもらえない可能性がある場合は、定期的に研修や説明会を開催するとよいでしょう。実際の事例に落とし込み、口頭やスライドを交えて説明すれば、理解が深まるでしょう。
取扱規程の制定や改定時に、電子メールで全従業員に通知し、重要なポイントを伝えることも効果的です。
複数の取り組みを通じて、従業員が就業規則や企業方針を正しく理解し、それに基づいて行動することが可能になります。企業全体で健康情報を扱う意識を高めて、労使の信頼関係の構築を進めていきましょう。
健康情報等の取扱規程は、大切な情報を取り扱う際のルールを定めているため、企業と従業員の双方にとって大切な規程です。
従業員が自らの健康情報を安全に提供できる環境を整え、健康管理や職場環境の改善を実現するために、大切な役割を果たしています。厚生労働省が提唱するガイドラインや基準に基づいて規程を作成し、従業員の安心感を高めましょう。
また、適切な運用と周知がなされることで、労使間の信頼関係を強化できます。従業員が「安心して働ける」と感じられるように、丁寧な対応を進めていきましょう。
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小栗の経営視点のアドバイス
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