上場を目指す企業において、人事労務にスコープを絞り、整備しておくべきポイントを解説していきます。
企業にとって、経営課題でもある資金調達。その課題解決、事業の可能性の広がりを目的に上場を望む経営者も少なくありません。しかし、その一方で上場のためにはさまざまな審査基準をクリアする必要があります。上場に値するかどうか企業の収益や継続性、健全経営はもちろんのこと、ガバナンスや社内の管理体制もその要件となります。
上場までの道のりには多くのクリアすべきタスクがありますが、なかでも多く企業で難航するのが、人事労務に関するコンプライアンス遵守の精査や社内の管理体制の整備です。
そこで今回は、上場を目指す企業において、人事労務にスコープを絞り、整備しておくべきポイントを解説していきます。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
・NHK「あさイチ」
・中日新聞
・船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri
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企業が目指す上場(IPO)を理解しましょう
上場(IPO)とは、自社の株式を証券取引所で自由に売買できるようにすることです。上場とIPO
は違いがあって、IPOの場合には上場するときに新規に株式発行を伴うことになります。2022年には株式市場の再編もあり、経営者であれば上場(IPO)について検討しているかもしれません。起業する人の中には、上場(IPO)を念頭に会社を立ち上げるケースもあるでしょう。いずれにしても、自社の株式を証券取引所で取り扱うことができるようになることで、資金調達が容易になることから、上場(IPO)を目指す企業があるのです。
上場をするには、企業の規模や経営状況など、基準をクリアしている企業において認められており、社会的信用の裏付けともいえます。2024年3月末時点では、3938社が上場しています。ただ、誰もが知るような有名大企業であっても、経営の自由度や上場するためのプロセスやコストを理由に上場を選択していないケースもあります。
上場企業 | 非上場企業非上場企業 | |
---|---|---|
株式 | 公開 | 非公開 |
株式売買で資金調達可能 | 株式売買での資金調達はない | |
株主 | 投資家など | 経営者など |
経営の主導権 | 主に投資家 | 経営者が株主のケースが多く、経営権もあわせて握っている |
社会的信用 | 高い | 低い |
情報開示 | あり | なしもしくは企業の意向で決定できる |
人材採用力 | 高い | 低い |
証券取引所に上場といっても、2022年に市場の再編が行われ4つの種類に分かれました。上場するといっても、その市場規模や審査基準も大きく異なります。創業したばかりの起業であれば、グロース市場が視野に入りますし、中小企業などがより会社の事業拡大を狙いにいく場合であればスタンダード市場、最終的にはプライム市場を目指していくということにもなるでしょう。
プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 | TOKYO PRO Market |
---|---|---|---|
企業規模はもちろん安定性・収益性など厳しい審査のある市場。かつての東証1部に相当する。 | プライムよりは条件が緩いとはいえ、安定性・収益性などは求められる市場。かつての東証2部やJASDAQスタンダードに相当する。 | 経営成績などは大きく問われないが、高い成長が期待されるスタートアップ企業などが求められる市場。かつてのマザーズやJASDAQグロースに相当する。 | プロ投資家のみが取引を行える市場。 |
上場の区分に種類があり、自社の目指す市場に向け上場準備を進めていくことになるわけですが、まずは上場のメリットを最大限に享受できるのか精査する必要があるでしょう。
上場することにより市場で株式を売却できるため資金調達が容易となりますし、多額の資金をスピーディーに調達することができます。
市場ごとの厳しい審査をクリアした企業であり、社会的信用度が上がります。集客力や知名度もアップするでしょう。金融機関からの信用力も高まります。
社会的信用度や知名度などが上がれば、人材採用力の強化にも繋がります。優秀な人材を確保しやすくなりますし、従業員にとっても上場企業に勤務しているといったモチベーションにもつながるでしょう。
上場するには厳しい審査基準をクリアすることが必須です。コンプライアンスの遵守は大前提であり、そのための社内管理体制の構築が必要となります。従業員にとっても、働きやすい環境が整備されることにつながります。
企業が上場した場合には、創業者や株主経営者などには大きな利益を得ることができるでしょう。非上場の企業の株式の多くは、創業者や株主経営者が持っていることが多くありますが、上場することで株式を売却することが可能であり、大きな利益を得ることができます。
上場には多くのメリットがあり、起業したからには上場したいという経営者がいる一方、上場はせず、非上場を選択する企業もあります。それは上場のデメリットが自社にとって大きいと判断されるからでしょう。
上場の厳しい審査に通過するためには、多くの準備に時間とコストがかかります。また、一旦上場すれば、その上場を維持するための時間・コストがかかります。
上場した以上、株主からの要求が大きくなるでしょう。株価を上昇させ続けなくてはならないといった株主に配慮した経営が必要で、自由度が妨げられる結果となる場合もあります。IRのための情報開示活動も大きな負担となっていくこともあります。
株式が市場に公開されるということは、常に買収されるリスクもあるということになります。
高谷の経営視点のアドバイス
上場はメリット享受が大きく、経営者であれば一度は自社を上場することに頭を巡らせることもあるのではないでしょうか。ただし、メリットの一方、莫大なコストや準備への大きな負担が発生することも事実です。メリット・デメリット双方をしっかりと理解し、準備を進めていきましょう。
上場(IPO)は人事労務の厳しい審査もあります
企業が上場するときには、上場する証券取引所によってそれぞれの基準を満たす必要があります。大きく「形式要件」と「実質要件」の2つに分けられます。形式要件は、上場を目指す企業の純資産額や時価総額といった数値化できる要件として具体的な数値の基準が決められています。一方で、実質要件は、数値に表すことのできない要件ともいえます。例えば事業の継続性や収益性といった視点から財務や税務、法務などが審査されます。最近では人事・労務面も厳しく審査されるようになりました。コーポレートガバナンスおよび内部管理体制が整備され、適切に機能しているのかといった経営の健全性にも重点が置かれるようになってきたのです。
企業が上場を目指すのであれば、人事制度の整備は必須といえるでしょう。企業が安定して事業を継続し収益を生み出していくには、優秀な人材に働いてもらわなくてはなりません。企業の根幹とも言える人材に対して、どのような人事戦略に取り組んでいるのか、そして活躍する人材が働きやすい環境の整備や待遇の仕組みがあるかどうかといった視点においてもチェックされるでしょう。もちろん、最近では労働関連法の改正なども頻繁にある中、コンプライアンスを遵守されているかについては厳しい目が向けられます。就業規則が未整備や更新されていなかったり、未払い残業がある、従業員との労務トラブルがあるといったような法的リスクは、上場を目指す企業にとっては大きなハードルとなりかねません。最新の各種法令に則した制度の整備、かつ運用がされているかが重要です。
企業が上場を目指すのであれば、人事制度の整備は必須の対応事項です。人材採用から、労務管理、人材育成まで、人材に関する施策や制度全般です。上場するということは、組織だった体制・制度が求められることにもなりますので、企業の経営者の意向で人事の評価が決まってしまうといった属人的な人事の運営は認められません。人事の評価の基準、対応した給与のテーブルを用意することをはじめ、人事が独断で遂行されないような評価の仕組み、運用方法の検討も必要となってくるでしょう。人材がよりよくパフォーマンスを発揮するための基盤となる人事制度を設計し、なおかつ適切に運用していくことが、上場を目指す企業には求められます。
上場を目指すためには人事制度の整備が重要なことに加え、それを維持・運用していくためには労務管理の体制も両輪で対応していかなくてはなりません。制度を整備したものの、適切に運用できないとあれば、絵に書いた餅になってしまいかねないでしょう。とくにスタートアップ企業などの場合には、事業拡大に注力していることも多く、人事労務についての整備が追いついていないことも多くあります。しかしながら、上場にあたっては労務管理体制も重要な審査のポイントとなってきますので注意が必要です。従業員の勤怠管理が適切に行われているか、長時間残業が常態化していないか、未払い残業が発生していないか、有給休暇は取得できているかなど、法令を遵守できているか見直しておく必要があるでしょう。
大矢の経営視点のアドバイス
上場というと、どうしても業績や財務状況などに目がいきがちですが、上場の成功のためには、そこで働く従業員のための環境の整備があってこそ。人事労務が適切に運用されているかも大事な審査ポイントです。
上場(IPO)準備にはバックオフィス体制の整備が不可欠です
企業が上場を目指すとき、人事制度や労務管理の整備は、重要な審査基準となります。とくに労務管理においては、さまざまな法律が関係している部分でもあります。最新の法令に沿ってしっかりと管理を行なっていくためには、それを支えるバックオフィス体制と機能が適切に働くかがポイントとなってきます。労務管理に関して、どのようなポイントに注意すべきか確認しておきましょう。
上場を目指すためには、人事労務に関して、適切な管理体制、運用がされていることが肝となります。もちろん、それには関連法令を守っていることがベースにあります。ただ、頻繁に法令改正もされるなか、属人的に業務を行なっていくには限界があり、上場基準をクリアするためのレベルに達するには難しい部分もあります。そこで、検討したいのが、人事労務領域の幅広い業務設計に対応できるシステムを導入すること、そしてそのシステムを利用し、効率的に運用することです。本稿でおすすめするのは、「奉行クラウドHR」です。
そもそも奉行クラウドは、企業の会計から人事労務、販売管理といったバックオフィス業務を支える基幹業務システムの総称です。今回、注目するのは、そのうちの人事労務領域に特化した「奉行クラウドHR DX Suite」です。
「奉行クラウドHR DX Suite」とは、人事労務に関する基幹業務システムです。総務人事、給与、給与明細の配信、労務管理、年末調整申告、マイナンバー管理など、企業の人事労務に関するバックオフィス業務を網羅しDX化することで支援します。
業務の効率化や生産性向上を目指すための機能も豊富に用意されています。例えば、活用できる人事データは50種類が標準装備されているため、さまざまな場面で必要な人事資料が担当者の手を煩わせることなく情報活用することが可能です。システムでありがちなCSVファイルの取り込みや手入力を極力排除したシステムづくりがされており、従業員からペーパーレスで入手した情報がシステム上に更新されていきます。従業員の入社から退社、人事異動、結婚、育休といったライフイベントに応じた手続きまで、労務管理をフォローアップしていきます。社会保険などの届出も電子申請が可能ですし、給与計算にいたっては最新の人事情報に基づいて素早く行えることも魅力です。常に最新の法律や制度改正に合わせたシステム環境の中、業務遂行が可能となるため、これから上場を目指す企業にとっては、利用効果の高いシステムと言えるでしょう。
奉行クラウドHR DX Suite
https://www.obc.co.jp/bugyo-cloud/dxsuite/hr
数多くの労務管理を目的としたクラウドシステムがありますが、機能や性能、安全面においても、おすすめできるシステムです。これまで労務管理にかかっていた担当者の作業負担、管理コストなど、奉行クラウドHR DX Suiteを利用することで、解決に向けて動き出せるのではないでしょうか上場(IPO)を準備するコンプライアンス意識が高い企業にとっても、相性の良い優れたシステムです。
コンサルタント中村の経営視点のアドバイス
上場の準備は、非常に複雑で期間やコストもかかるものです。とくに人事労務周りの整備には、従業員の意見なども踏まえつつ進めなければならない場面も多く、担当者にとっては非常に大きなプレッシャーと負担を感じるものでしょう。とうかいでは、人事労務のプロフェッショナルとして、上場を検討される企業のみなさまと一緒に、人事労務に関する課題を考えていきます。
上場(IPO)を目指す、準備するには、証券取引所の上場基準をクリアするためのバックオフィス体制が不可欠です。とくに人事労務に関する重要性は年々増しているといえます。労働関連法令への対応がきちんとされていなければ、当然ながら審査の通過は叶いません。上場を目指すからだけのために制度の整備をするわけではありません。働く従業員の環境を整備するためにも、今一度人事労務に関する体制、労務管理の方法、利用するシステムなどを見直す機会にしてみませんか?
ただ、上場(IPO)を目指す、準備には担当者への負担は非常に大きいことでしょう。人事労務を得意とする社労士などに相談することをおすすめします。当社では、上場(IPO)にも詳しい社労士が揃っておりますので、ぜひご相談ください。