海外赴任規定は、海外で勤務する従業員の待遇や条件を明確化するための規定です。グローバルに展開している企業は、従業員が安心して業務に集中できる環境を整備するためにも、海外赴任規定を作成しましょう。
海外赴任規定を定める際には、公平性を保つだけでなく、現地の法律や文化を考慮する必要があります。
現地で赴任者が安心して生活し、業務に集中するためにも、生活環境や職務内容に適した各種手当や保険の充実が欠かせません。規定を作成したあとは、社会情勢や業務内容の変化にあわせて、規定の内容を定期的に見直しましょう。
今回は、海外赴任規定を作成するポイントや、含めるべき項目などを解説します。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
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概要と必要性を解説します。
海外赴任規定は、企業が従業員を海外へ派遣する際に、労働条件・福利厚生・給与体系・現地でのサポート内容などを明確に定めたルールです。グローバルに展開しており、従業員が海外へ赴任する機会がある企業にとって、海外赴任規定は欠かせません。
従業員が安心して現地で生活し、業務に従事するにも規定の作成は有意義です。
海外赴任規定とは、企業が従業員を海外に派遣する際の規定です。赴任中における留意点や、赴任旅費(航空便・船便・赴任・帰任に伴い発生する旅費など)や現地での住居手当はどのように計算するのかを明文化します。
海外赴任規定を制定する主な目的は、赴任者が安心して業務に集中できる環境を整えることです。また、海外赴任中における企業側の責任範囲を明確にし、トラブルを未然に防ぐ目的もあります。
海外赴任規定には、赴任中における処遇を定めます。特に家族と一緒に海外赴任する場合、自分だけでなく家族が教育環境や生活になじめるかどうかなど、さまざまな不安が出てきます。
規定内に賃金や手当などの経済的な要素だけでなく、トラブルや問題に見舞われたときの保障制度・サポート体制などを定めておけば、赴任者に安心感を与えられるでしょう。
また企業にとっても、あらかじめ規定を定めておくことで、海外赴任の際における事務的負担を軽減できます。規定に基づいて事務を進めればよいため、スムーズに赴任の事務処理を進められるでしょう。
海外赴任規定の作成におけるポイントについてご説明いたします。
海外赴任手当を作成する際には、従業員の安全に配慮するだけでなく、赴任先の法律や慣習に従う旨を定める必要があります。
海外赴任規定を作成する際は、規定を作成する目的を明確にしましょう。一般的に、規定の第一条で制定目的や趣旨を記載します。
第二条以下で、赴任者が安心して働ける環境を整え、業務に専念できるようにするための詳細な規定を定めます。
企業にとって、規定はリスクマネジメントの観点からも重要な役割を果たしています。そのため、現地の法律や慣習に従う必要がある点を記載しましょう。
規定を作成する際に役立つのが、一般的なテンプレートや他社の事例です。大枠を真似して作成することで、スムーズに規定の作成を進められるでしょう。
しかし、企業ごとに状況や赴任先などは異なるため、最終的には自社に合っている内容かどうかを慎重に判断しなければなりません。特にメーカーのように多様な業務形態を持つ企業においては、自社の文化や価値観、事業内容に特化した規定を整備する必要があります。
さらに、異なる文化や環境で業務を行う際、一般的な規定では対応が難しい特有の問題が発生する場合があります。このような場面において、現地の状況に即した柔軟な対応が求められるため、自社独自の規定で対応しなければなりません。
赴任者の経済的・精神的な負担を軽減するだけでなく、各企業に起こりうるリスクに対して柔軟に対応するためにも、自社オリジナルの独自規定を作成しましょう。
含めるべき主要項目を見ていきましょう。
職場のルールブックと就業規則は、企業における運営のために作成される文書ですが、それぞれ異なる目的や役割を持っています。具体的な違いをまとめると、以下の表のとおりです。
海外赴任手当を定める際には、トラブルを未然に防ぐためにも詳細な内容を含めるとよいでしょう。
以下で、特に含める必要性が大きい項目を紹介します。
海外赴任する従業員にとって、赴任中の待遇や報酬は気になるポイントです。報酬や支給される各種手当(海外赴任手当や住居手当など)の内容は、特に重要な項目の一つといえるでしょう。
また、赴任中は現地通貨で生活します。給与を現地通貨で受け取る際には為替レートも影響するため、どの通貨で支払うのか・為替レートはどのように計算するのかを規定する必要があります。
具体的な支給金額だけでなく、計算方法・支給時期などを明確に定めれば、経済的な不安を軽減できるでしょう。あわせて、赴任・帰任に際しての旅費や支度金に関する内容も、忘れずに定めましょう。
勤務条件や派遣期間についても、重要な要素の一つです。具体的には、労働時間・休暇・残業に関する詳細な規定を定めます。また、「赴任期間は最長で1年間とする」のように赴任期間を明確にすれば、赴任者も安心できるでしょう。
派遣期間については、原則としての年数だけでなく延長や短縮の可能性に関する規定も設けておけば、柔軟に運用できます。詳細な規定を定めることで、従業員が将来の計画を立てやすくなり、海外勤務における透明性と納得感を高められるでしょう。
赴任者が帯同家族を持つシチュエーションに備えるために、家族への待遇に関する規定を整えましょう。例えば、子どもの教育に関する手当や子どもが通う学校に関する情報、費用負担に関する規定が挙げられます。
従業員が安心して生活し、業務のパフォーマンスを高めるためには、赴任者本人だけでなく家族全員に安心感を与える必要があります。慣れない環境に行くことには何らかの不安が伴うため、どのような支援内容があるのかを具体的に定め、帯同家族の負担を軽減しましょう。
また、帯同家族の医療および保険に関する規定を定めることも有意義です。海外では日本の公的保険は適用されないため、医療機関を受診すると自己負担額が大きくなります。
海外では、一時的に赴任者(家族含む)が全額を自己負担で支払ったうえで、費用を勤務先に請求するケースが一般的です。また赴任先の医療状況次第では、会社側で海外旅行保険を準備することもあります。
会社負担で保険に加入するケースが一般的ですが、具体的にどのような保険が適用され、どのような保障を受けられるのかを定めておきましょう。
課題と対処法をご紹介します。
従業員を海外へ派遣する際には、労使ともにさまざまな準備を進めなければなりません。
海外赴任中は文化的な相違や言語の壁などが円滑な業務遂行の妨げになったり、生活にストレスを与えたりする可能性がある点に留意する必要があります。規定を定める際には、赴任する可能性がある国の情報を収集し、現地の法律や慣習を加味した内容にしましょう。
海外赴任中の給与を考える際には、現地の物価や生活水準を考慮した適切な報酬を設定することが大切です。日本よりも物価が高い国や地域へ赴任する場合、日本で受け取っていた給与を据え置くと、実質的な可処分所得は少なくなってしまいます。
また、為替レートの変動や税制度の違いなども慎重に検討する必要があります。給与体系が不適切だと、結果的に赴任者の満足度を低下させたり、企業のコストを増やしたりする可能性があるため注意が必要です。
必要に応じて手当をはじめとした報酬構造を見直し、調整を行うとよいでしょう。
海外赴任者は、日本国内の給与との二重課税問題が発生する恐れがあります。両国間の租税条約やそれに関連する規定を確認し、適切な手続きを進めることが不可欠です。
海外赴任に関しては、短期滞在者免税の仕組みがあります。日本から外国へ出張した場合の滞在期間が183日を超えていなければ、赴任先では課税されません。
厚生年金に関しては、給与の全額もしくは一部を日本の本社から支給する場合は、そのまま継続して加入します。
赴任前に必要な手続きをしっかりと行い、帰国後の年金受給条件などに影響が及ぶ事態を防ぎましょう。
海外赴任中には、治安の悪化や自然災害、健康問題など予期せぬ事態に備える必要があります。従業員の安全を守ることは、事業主の大切な責務です。
緊急連絡体制を規定内で明確に定めたり、可能であれば地元の医療機関と連携したりするとよいでしょう。あわせて、赴任者に対して最新の現地情報を提供し、防災用品や医薬品などの必要な備品を提供することも安心につながります。
コンサルタント中村の経営視点のアドバイス
海外赴任規定を作成するためには、適切かつ多角的な情報収集が不可欠です。派遣先の労働法律・生活環境・物価水準・風習・教育水準・税制などを総合的に踏まえて、各企業に合った規定を作成しましょう。
海外赴任規定の作成は、企業のグローバル展開において重要なステップです。今後グローバル展開を予定している企業は、従業員に安心感を与えるためにも、海外赴任手当を作成しましょう。
また、既存の海外赴任規定が時代に合っていない場合、必要に応じて見直しましょう。赴任者に具体的な条件や待遇を明示し、安心して業務に集中できる体制を整えることが大切です。
自社だけで最適な規定を作成できるか不安がある場合は、専門のコンサルタントの支援を受けることをおすすめします。規定の作成に精通している社会保険労務士と相談すれば、赴任者の満足度を高めつつ、企業の競争力向上にもつながる規定を作成できます。
社会保険労務士法人とうかいでは、就業規則の作成をはじめとした各種規定の作成を承っております。人事労務の専門家が、貴社の事情に合わせてオーダーメイドで規定を整備いたします。
高谷の経営視点のアドバイス
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