新型コロナウィルス感染症の影響もあり、一時的に在宅勤務に切り替えていた会社の、今後の長期的な感染拡大に備え、本格的に在宅勤務の導入を検討する会社が増えています。
在宅勤務導入にあたっては、就業規則をはじめとした会社のルールやICT環境の整備、セキュリティ対策など検討すべき事項は多くあります。
今回は、在宅勤務を導入を検討する会社にとって、導入に必要な労務管理上のおさえるべきポイントを解説します。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
・NHK「あさイチ」
・中日新聞
・船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
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新型コロナウイルス感染症の拡大前から、進みつつある働き方改革のもと、柔軟性の高い労働環境を広く普及させるために、「在宅勤務」および「テレワーク」の導入が推奨されてきました。
従来、仕事はオフィスに従業員が出社し、業務を遂行することが主体でしたが、最近ではICTの発達により、出社しなくても業務完遂が可能な場合も少なくありません。
この「在宅勤務」と「テレワーク」は、同義で理解していることも多いと思いますが、正確には少し異なります。
在宅勤務とは、文字通り「自宅で仕事をすること」です。会社のオフィスに出勤するのではなく、自宅をオフィスとして働くことをいいます。
最近はネット環境も広く整備され、IT機器やコミュニケーションツールを利用して情報共有や作業が可能なため、在宅勤務を実施するケースが増えています。
今回の新型コロナウイルス 感染拡大に伴っての在宅勤務導入は、事業継続(BCP)の意味合いが大きいですが、通勤時間を無くすことで、プライベートに割く時間が増えるなど、従業員のワークライフバランスや、生産性向上を目的としているケースも多いようです。
また育児や介護等により、自宅を離れることが難しい人も、人材活用することが期待されています。会社によって、毎日在宅勤務を推奨しているところもあれば、週に1〜2日ほどを実施するといったところもあり、会社の状態にあわせて在宅勤務を導入企業している企業が多いようです。
今までは、システムエンジニアやプログラマーをはじめとしたIT企業などで導入が進んできましたが、新型コロナウイルス感染拡大での外出自粛に伴って、さまざまな業種・職種で実施が進んできています。
一方、テレワークとは、「Tele(離れた)」と「Work(仕事)」を掛け合わせた造語です。
情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。つまり、テレワークが在宅勤務よりも広い概念であり、在宅勤務はテレワークのひとつということになるのです。
テレワークを大きく分類すると、「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス」などに分けられます。
モバイル端末の進化に伴い、テレワークのなかでも多くが利用しているのがモバイルワークでしょう。特定のオフィスで業務に従事するということでなく、移動中や外出先での業務が可能で、どこでも仕事ができるというものです。取引先のオフィスで一定期間仕事をすることもあれば、カフェや移動時間を利用して事務作業をこなすことも含まれます。生産性への貢献が高い働き方として、ベンチャー企業などで利用するケースは多いでしょう。
サテライトオフィスとは、企業の本社や本拠地以外に、遠方など離れた場所にオフィスを設置することです。通勤や本社オフィス等との往来に時間がかかる従業員にとって、働きやすい環境を整えることや、サテライトオフィスを拠点として販路拡大を目指すなど事業戦略に一貫として導入するケースも増えています。本社の「サテライト(衛星)」の意味合いです。支店と支社との区別が難しいところですが、より小規模なオフィス形態が多いようです。
在宅勤務の導入を検討する会社にとって、自社にとってどのような影響があるのか、しっかり確認しておきたいところです。そこで、在宅勤務を導入するメリット・デメリットをおさえておきましょう。
企業にとって大きな損失は、経験豊富な優秀な人材が退職してしまうことです。たとえば、育児や介護などが必要な家族がいる従業員が、在宅勤務制度を利用することで、退職や転職をすることなく働き続けることができます。通勤時間などが短縮され、プライベートの時間にあてられるのは、従業員にとっても大きなメリットでしょう。
さらに柔軟な働き方を取り入れる企業は、ワークライフバランスを重視する企業として、評価が高く、採用活動などにおいても少しでも魅力的な企業として認知してもらえるメリットがあります。
在宅勤務を導入することで、従業員のオフィスへの通勤に、交通費など必要がないので、通勤や移動にかかるコストを削減できます。
また、出社する従業員が減れば、広いオフィスの必要はありません。オフィスを縮小したりとコスト削減にもつながります。
オフィス勤務の場合には、来客対応や電話対応、予定外の打ち合わせや会議などで業務が中断されてしまうことはないでしょうか。在宅勤務ではこうした中断を減らすことで業務効率や生産性の向上を目指します。また通勤や移動による肉体的・精神的な負荷の軽減も、生産性向上のポイントの一つです。
世界的に新型コロナウイルスの感染者の拡大が問題となり、感染拡大を抑えるため、在宅勤務が推奨されています。また、昨今では、台風や大雨などの災害も頻発しており、通勤が難しいケースがでてくるでしょう。在宅勤務の環境を整えておくことで、こうした緊急事態でも、事業を継続が可能です。
在宅勤務の多くは、オフィスで業務を行なっていたときと違い、上司などが従業員の業務の進捗状況を確認することが難しいこともあります。業務の成果をどのように判断するか、評価するかなど、見直しが必要な場合もあります。
在宅勤務では、直接顔を合わせて仕事をすることがないため、業務上でのコミュニケーションが滞ったり、コミュニケーション不足が生じる可能性があります。どのようにコミュニケーション不足を補完していくかによって、業務の成果にも関連してくるでしょう。
在宅勤務で難しいのが、従業員の労働時間の問題です。在宅勤務は自宅で仕事をするという性質上、仕事とプライベートの明確な線引きが難しく、いつ働いているのかがわかりにくいケースも発生します。その分、勤怠管理が難しかったり、夜遅くまで仕事をするなどの長時間労働に発生してしまうこともあります。
在宅勤務をする従業員の労働時間管理については、慎重に検討しましょう。前述の在宅勤務におけるデメリットでもご紹介したように、仕事とプライベートの明確な線引きが難しく、いつ働いているのかわかりにくいケースも発生するのが、在宅勤務です。
とはいえ、在宅勤務であろうと、労働基準法に規定されている労働時間(労働基準法上の労働時間)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間です。後でトラブルにならないよう、労働時間とプライベートの時間を明確にわけて管理するのか、もしくはみなし時間制度などを利用するのかも含め、在宅勤務を導入する目的を明確にして、どのような労働時間管理をするべきか検討する必要があります。
事業主には、労働時間の把握義務がありますし、残業代や深夜労働の割増賃金を支払う必要があります。では、どのように労働時間を管理していけばよいでしょう。
在宅勤務であっても、始業・終業時刻を管理が必要です。最近では、パソコンのログイン記録やクラウドの勤怠サービス などを利用して、始業・終業を報告するケースが多いようです。
始業・終業時刻、休憩時間など勤務時間を明確に管理します。就業規則に準じて、時間外労働として割増賃金を支払う必要があります。従業員が自宅内で、仕事専用の個室などが確保できるのなら、仕事とプライベート時間を切り離しやすいでしょう。ただ、そうした環境の整備が難しい場合には、勤怠のクラウドサービスなどを利用しながら、スムーズな運用方法を検討しておきます。
労働基準法に規定されている労働時間制度は、在宅勤務の適用がNGなものはありません。つまり、一般的な労働時間制度はもちろん 「フレックスタイム制度」や「事業場外労働によるみなし労働時間制」なども在宅勤務に適用可能です。
とくに在宅勤務の場合は、「事業場外労働によるみなし労働時間制」の適用を検討されるケースが多いでしょう。
「事業場外みなし労働時間制」は、事業場外で業務を行い、事業主が労働時間を把握することが難しい場合に、所定労働時間働いたものとみなす制度です。在宅勤務に事業場外みなし労働時間制を利用する場合には、以下のポイントに注意しましょう。
在宅勤務は、上手に活用できれば、柔軟な働き方の実現や、感染症拡大や災害時の事業継続などに大きな効果があります。しかし、急いで導入したいからといって、無闇に導入してしまうと、さまざまなトラブルを引き起こす可能性もあるので注意しましょう。
在宅勤務を導入すると生産性が向上するというメリットがある一方、人によっては思わず通常より働き過ぎてしまう可能性があります。問題は、それを会社が把握しきれていないとき。オフィスで仕事をしていれば、他の従業員の様子がわかるので、上司も同僚も長時間労働を気にかけることができますが、在宅勤務では状況の確認がしづらく、長時間労働で過労に至といったケースも多いようです。
働きすぎの反対に「やることがない」ケース。在宅勤務が増えるなか、忙しい人と暇な人が、より可視化されてきたように感じます。出勤しないと仕事が成立しないケースは除いて、やることがないというのは、大きな問題です。在宅勤務は仕事の進め方、仕事量、成果について、よりシビアに判断されるように変わってくるでしょう。会社や上司からの指示・命令が減り、与えられた仕事のみをこなして、あとはサボるといった従業員も出てくる可能性も。そのうちに「同じ給与なのに不公平」といった他の従業員からの不満が出るなどのトラブルにも発展しかねません。こうした不満感は、在宅勤務という孤立したなかで働く従業員にとっては、ストレスを増大しかねないものです。
在宅勤務は、通勤時間が減ったり、自宅で仕事できる分、プライベートの時間を融通しやすい点で、メリットが大きいものです。しかしながら、小さな子供のいる家庭では、子どもがいることで気が散って仕事に集中できない、食事の支度が必要になったり、配偶者も在宅勤務であり気を使ったりと、仕事と子育ての両立が難しいとの意見があるのも事実です。在宅で仕事をする場合は家族の理解が不可欠です。とくに、小さな子供をもつ従業員の在宅勤務にあたっては、会社や上司が慎重にサポートし、すすめていく必要があるかもしれません。
在宅勤務が増えるなか、問題となっているのがリモートハラスメントです。オンライン会議などの際のハラスメントについて、ネットなどでも議論を呼んでいます。
・カメラをオンにして、室内の様子を映すことを強要される
・体型、見た目(化粧や服装など)について指摘される
・化粧の有無や服装について指摘される
・業務に関する指導以外の説教をされる
・在宅での行動や時間の使い方について、必要以上に質問する
・必要以上にオンライン会議を実施される
・オンライン飲み会に強制参加させられる
当たり前ですが、オフラインであってもオンラインであっても、ハラスメント行為は禁止です。人によってハラスメントの意識には差があるものですが、空気感やその場の言葉のくみ取りが難しいオンライン上では、ハラスメント行為にはより注意深い配慮が必要です。軽い冗談や軽口のつもりが、受け止めたほうは、ハラスメントとして認識している場合もあります。上司や同僚はもちろん、取引先などとのオンライン会議の機会も増えつつあるなか、トラブルに発展しないよう、会社でのハラスメント教育も振り返ってみるとよいでしょう。
在宅勤務手当とは、その名のとおり在宅勤務をする従業員のための手当です。手当を支給するか、しないかは、会社によって異なりますが、最近では手当支給を検討するケースが多いのではないでしょうか。
というのも、在宅勤務を導入するためには、従業員の自宅を仕事用の環境に整えることが必須です。デスクやチェアをはじめ、必要なデータ量・速度に見合った通信回線を導入しなければ、返って業務効率も下がります。さらに、この環境を維持するためのコスト(光熱費や通信費)も必要です。仕事のために必要な経費だといえます。そこで、在宅勤務における経費の会社負担として、在宅勤務手当を導入する会社も増えています。
本格的に在宅勤務の導入が進むなか、ストレスを抱えている従業員がいるかもしれません。オフィスで働くのと同様に、仕事のパフォーマンスを発揮しようと試行錯誤しているなか、働き方の変化によって新たな悩みやストレスを生むことも。さらに、最近の新型コロナウイルス感染症拡大も影響して、欝々としたメンタル状態に悩む人もいるようです。なかでも在宅勤務を導入している企業で問題になっているのが、従業員の孤立化によるストレス。リアルに同僚や部下と話ができた環境から、自宅で黙々と仕事をすることで、知らぬ間にメンタルに不調を抱えてしまう人もいるのです。また、とくにストレスの理由がわからないまま、モヤモヤとした不安を抱え、不調に陥ってしまう人も多いそうです。しかも、在宅勤務中の非対面のコミュニケーションは、周りの人にとっては、本人の不調に気づきにくい傾向もあるのです。
部下のメンタル不調を早めにキャッチするために、プライベートには最大限配慮しつつ、心身の健康状態について声がけをしたり、問題解決へのサポートなどを行いながら、ストレスを緩和していくことが重要です
在宅勤務を快適に効率よく行うためには、環境整備は欠かせません。慣れない在宅勤務で、心身ともにストレスをためないようにおすすめグッズを紹介します。
パソコン作業をするために、デスクやチェアを用意する人は多いと思います。しかしながら、一人暮らしの若者の中には、デスクやチェアをなどがないという人もいたりします。そうした人におすすめなのが、ソファやベッド、床など、ノートPCを置くことでどこでも使えるパソコンテーブル。コンパクトに折りたためるタイプなどもおすすめです。
仕事を快適にすすめるための明るさの重要。間接照明しかない部屋などでは、とくにデスクライトなどが必要になってきます。
気温や湿度を快適にするだけで、パフォーマンスが変わるというもの。できれば用意したいところです。
あると便利なスタンド。通常、ノートPCで業務を行いつつ、平行してスマホやタブレットを使いたい人には、便利です。
オンライン会議で活躍します。最近のPCは、本体にカメラやマイクが付いていますので、必須ではありませんが、家族にオンライン会議の音などが漏れたくない、相手の声をクリアに聞きたいなどあれば、ノイズキャンセリング機能のあるイヤホンやヘッドフォンがあれば、作業がしやすいでしょう。
PCの本体カメラの場合、顔が暗く映ってしまうケースも多いので、映りが気になる方はぜひ。
グッズではありませんが、快適な環境整備として、ビジネスチャットツールは欠かせません。メールベースの連絡よりスピード感を持って行えるSlackやChatwork、MicrosoftTeamsなどがよく利用されています。
また、クラウドのストレージサービスも欠かせません。チームでのデータ共有などにも便利なDropboxやGoogleDrive、OneDriveなどがおすすめです。
世界的な影響のある新型コロナウイルス 感染拡大。その影響下で 在宅勤務の導入を実施しているのは、世界も同様です。米Googleでは、新型コロナウイルスの感染が再拡大への対応として、全世界の従業員を対象に在宅勤務を認める期間を延長することを明らかにしました。また、ツイッターでは、いつまでも在宅勤務を続けられるようにすると発表、フェイスブックも今後5〜10年で従業員の半数が、在宅勤務なるとの見通しを示しています。日本においても、外出自粛が解除されたのちに在宅勤務から通常勤務に戻した企業が、感染際拡大に伴って、在宅勤務に再度切り替えるケースも発生しています。
今後は、在宅勤務に期限を決定するより、在宅勤務を上手に会社運営に取り込みながら、運用していくケースが一般的になっていくのかもしれません。
2020年7月、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、経済界に「テレワーク70%・時差通勤」の要請がされました。多くの企業で、在宅勤務を実施、導入の検討が進んでいくでしょう。在宅勤務をスムーズに活用するには、ICT環境、労務管理の制度や運用ルール、コミュニケーションやストレスの対処法などが必要だと思われます。自社で在宅勤務を導入、推進していくためには、まずこれらのポイントを前提に、自社の現状・課題を確認しながら、導入を進めていくことがとても大切です。いくら急いで導入を進めたいとはいえ、無理やり導入しても成果が上がりにくいものです。
とくに、従業員のマネジメントの方法をないがしろにしては、必ずトラブルが発生します。従来はオフィスで部下の仕事をリアルに見聞きし、コミュニケーションを取るのが当たり前でしたが、今後はこのマネジメントのあり方自体の発想の転換も必要となるでしょう。規則や運用ルールだけでなく、会社としての多様な働き方・価値観を容認していくことで、新しい会社を形作っていくことにもつながるでしょう。