会社で働く従業員は、社会保険に加入することになります。パートやアルバイトなど一定の範囲で加入しない場合もありますが、最近は適用範囲も広がり、多くの有期雇用の従業員であっても社会保険加入に該当することになりました。一方、会社に雇用されていない役員はどのような加入の要件となっているのか。意外とよくわからないといったケースもあるのではないでしょうか。
今回は、会社役員の社会保険にフォーカスし、解説していきます。
社会保険労務士法人とうかい
執行役員 社会保険労務士 小栗多喜子
同社、人事戦略グループマネージャーを務め、採用・教育を担当する。商工会議所、銀行、Adeco,マネーフォワードなどセミナーや研修講師も精力的に行っている。労働法のアドバイスだけではなく、どのように法律と向き合い企業を成長させるのかという経営視点でのアドバイスを得意としている。
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社会保険は、生活や暮らし、仕事など、さまざまなリスクに備えるための保険制度です。病気やけが、介護、失業、高齢になったときの生活保障、業務中の病気やけが、失業といった事態が発生した際に給付を行う仕組みです。具体的には、5種類の保険があり、会社で働く人であれば、健康保険、介護保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険になります。
健康保険は、私傷病の医療給付や手当を支給するものです。病気や怪我をしたときの病院での治療費、病気や怪我のため仕事を休職したときのための傷病手当金などがあります。その他にも出産や死亡時にも給付が行われます。会社と従業員(加入者)で保険料を折半します。
介護保険は、被保険者に介護が必要と認定されたとき、認定レベルに応じて介護サービスを受けることができます。40歳以上は介護保険の加入が義務となっています。こちらも会社と従業員(加入者)で保険料を折半します。
厚生年金保険は、公的年金の中の1つです。20歳以上の日本国民は、全員国民年金保険に加入することになっており、会社で働く従業員などは厚生年金保険の適用を受けることになります。将来受給年齢に達した時に年金を受給できることになります。また、従業員(加入者)が病気や怪我をし一定の障害が残ってしまった場合には障害年金が支給され、死亡した場合には、遺族に遺族年金が支給されます。保険料は、会社と従業員で折半することになります。
労災保険は、業務に起因する病気や怪我 をしたとき、医療給付や手当を支給するものです。通勤時の災害についても対象となります。健康保険とは異なり、仕事に関わる病気や怪我を対象としていますので、保険料は会社のみが負担することになります。
雇用保険は、失業したときに失業給付などを受給するための保険です。保険料は、会社と従業員が一定の負担率で負担することになります。年度によって、負担率が改正されることもありますので、最新の負担率に応じて、保険料を会社と従業員で負担することになります。
社会保険は広義の意味でこの5つの保険制度で成り立っています。ただ、より狭義の意味では、「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」を社会保険、「労災保険」「雇用保険」を労働保険と呼びます。
会社役員の社会保険の加入を考えるうえでは、まずは社会保険の加入に関する条件を理解する必要があります。加入の条件には、会社(事業所)として加入条件を満たすのか、またその加入条件を満たす会社(事業所)で、働く従業員が加入の要件を満たすのかといった具合です。
まず会社(法人)は、基本的には社会保険に加入する必要があります。会社を設立したときには、「適用事業所」となり、社会保険の適用となる手続きを行うことになります。ただし、以下の場合には、必ずしも適用事業所とはなりません。従業員の半数以上が同意することで適用事業所となります。
・従業員が5人未満の個人事業所、理美容業、飲食業など
・農林漁業の個人事業所
続いて、その会社(事業所)で働く人が、社会保険の加入条件を満たしているのかということです。社会保険の適用事業所で常時雇用されていれば、ほとんどの人が対象となります。
※場合によっては例外あり
会社の代表者
会社の役員(一定の要件あり)
正社員(試用期間も含む)
※パートアルバイトの従業員は、さらに下記の条件があります。
・1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3以上の人
・上記4分の3未満であっても、
のすべての条件を満たす場合は対象となります。
これらをみると、会社役員も社会保険の加入対象に該当します。ただ、役員報酬が保険料を納付する額にも満たない場合、役員報酬がないなどについては、加入義務はありません。非常勤の会社役員の場合も加入義務がありません。
会社役員であり常勤でかつ一定の役員報酬が支払われていれば、社会保険に加入するとして理解してよいでしょう。従業員のみならず、会社役員であっても社会保険に加入していることで、安心して業務執行が行えるメリットがあるというわけです。
個々のケースによっても判断が難しい場合もあるかもしれません。判断に迷う場合は、顧問の社労士や所轄の年金事務所に相談してみることをおすすめします。
会社役員の場合、基本的には従業員ではないので労災保険・雇用保険といった労働保険の加入については対象外となります。ただし、兼務役員などで、一部労働者性のある業務を行なっている場合などは、労災や雇用保険の適用がされる場合があります。また、労災保険においては、特別加入といった制度もあります。
出典元 : 全国健康保険協会「令和5年度保険料額表(令和5年3月から)愛知県」
会社役員においても、原則、社会保険の加入の対象となります。役員は労働者とは異なりますので、労働時間や賃金といった取り扱いがないので、従業員のような明確な加入要件はありませんが、役員報酬が支払われていれば社会保険の加入対象と考えて良いでしょう。会社役員に関する社会保険等の手続きは、社内から役員に就任した場合と、外部から就任した場合とでは異なってきます。
社内の従業員から、役員に昇格した場合には、すでに健康保険(介護保険)、厚生年金保険には加入済みのはずですので、とくに手続きは必要ありません。ただし、役員に就任すれば報酬も相応に上がるはずですので、随時改定による保険料の改定手続きは必要となるでしょう。さらに、従業員ではなくなることから、雇用保険における資格喪失手続きが必要となります。
・「雇用保険被保険者資格喪失届」を所轄のハローワークに提出
・「標準報酬月額変更届」を所轄の年金事務所に提出
※役員就任により報酬が増えた場合、標準報酬月額に2等級以上の差が生じれば手続きが必要です。
外部から役員を招聘した場合には、社会保険の加入手続きが必要となります。
・「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を所轄の年金事務所に提出
※扶養者がいる場合には、「被扶養者(異動)届」も提出します。
基本的に役員は、雇用保険の資格を喪失することになりますが、取締役兼本部長など、労働者としての役割を兼務する役員の場合もあります。労働者性の実態がある場合には、雇用保険の資格は失わず、被保険者となります。ただし、兼務役員である証明書を提出する必要があります。
「兼務役員雇用実態証明書」を速やかに所轄のハローワークに提出
※記載内容に変更が生じた場合は、速やかに再提出が必要です。
※ハローワークによって証明書書式、添付資料が異なるケースがあるため、事前に提出先のハローワークに問い合わせることをおすすめします。
会社役員の社会保険加入の手続きについては、オンラインでの電子申請も可能です。行政窓口に出向く必要なく手続きが完了できるのでおすすめです。
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