就業規則を作成(変更)するにあたって、どんな方法を思い浮かべるでしょうか?
“社労士や弁護士などの専門家に依頼する”方法や“簡単なものでいいから、ネットからひな形をダウンロードして作成する”方法などさまざまですが、
なかでも、一番手っ取り早くできそう…ということで、ひな形を使って自社の就業規則を作成する企業も多いのではないでしょうか?
インターネット上で検索すれば多くのひな形がありますし、少し変更すれば、簡単に自社の就業規則を作成することもできます。就業規則の作成(変更)などを担う専門部署や専任担当者がいるような大企業と違い、業務範囲が多岐にわたり兼務しながら業務を行なっている中小規模の企業の場合には、一から就業規則を作成するより、時間短縮というメリットがあります。
しかしながら一方で、ひな形を使うことでのデメリットもあるのです。
インターネットなどに出回っている就業規則は、会社の規模や業種に関係なく作成されたものもあれば、小規模企業向けや特定の業種向けに作成されたものもあります。それらは個々の企業の実態に合ったものとは限りません。ひな形をそのまま使用した結果、かえって、労務トラブルを引き起こしたというケースも存在します。ひな形を利用して、就業規則を作成(変更)する場合はどのような点に注意すべきでしょうか。
今回は就業規則のひな形やテンプレートの活用方法について解説いたします。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
・NHK「あさイチ」
・中日新聞
・船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri
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あくまでも「ひな形」ですので、企業の実態に合わせて作成されてはいません。ダウンロードしたひな形を社名変更してそのまま利用するといったことは、ほとんどできません。
逆に、ダウンロードしたひな形やテンプレートを自社の実態に合わせて変更できるのであれば、ひな形やテンプレートを活用することをおススメします。それは労働基準法をはじめとした関連法規に長けた方であれば、問題なく可能です。。しかしながら、実態としてはなかなか難しいと言わざるを得ません。
企業の実態に合わせるには、会社の実情にそぐわない部分と、その規定をどのように変更すればいいのか、規定一つひとつを理解したうえで変更しないと、労使間のトラブルの原因となる可能性があるからです。それには、就業規則の作成担当者に一定レベルのスキルが必須となってきます。
まずは労働基準法を理解できていないと、ひな形の書かれている条文の意味、その条文が労基法上の義務として必要なものか、それとも任意なのかといった判断もできません。最近では働き方改革の関連法が改正、施行を予定しています。最新の労働法関連法規の情報の知識も必要です。
法律自体が難しいので条文の表現も難しいものです。しかしながら、従業員に理解されなければ意味がありません。従業員に伝わるよう文章化するスキルも必要です。
文章にするスキルがないと、ひな形を利用することで、かえって時間と労力がかかってしまうことがあります。
就業規則の作成は会社を成長させるために行うべきだと私は思っています。法的な書類なので、必要だから「とりあえず」作成することは望ましくないと考えています。
就業規則を作成することで、労使ともに働きやすく、売上アップ目指す。そのために就業規則があると思うのです。
テンプレートやひな形を作成し、企業を成長に導けるというのであれば、テンプレートやひな形を活用してもいいと思うのです。また、ちょっとした規程であれば、ひな形を活用してもいいでしょう。しかし就業規則という会社の働くルールがひな形そのままというのはおススメしません。
ひな形やテンプレートを活用していいかどうかよりも、就業規則を作成する目的がひな形やテンプレートを活用することで実現に近づくのであれば、ドンドン使うべきでしょう。
最も一般的なのは、厚生労働省の”モデル就業規則”があげられます。
【厚生労働省 モデル就業規則】https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html
必要最低限の内容は網羅されているでしょう。2019(平成31)年4月1日から、働き方改革関連法による改正規定が施行されましたが、年次有給休暇の時季指定制度など必要な事項についても、このモデル就業規則に条項が追加されています。
また、「就業規則作成支援ツール」も、公開されています。モデル就業規則をベースになっており、章・条の変更や削除、自由記述なども可能です。
【厚生労働省 スタートアップ労働条件(就業規則作成支援ツール)】https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/index.html
企業がその事業所の従業員に周知・徹底しなければならない事項については、「絶対的必要記載事項」として、必ず記載しなければならないことになっています。モデル就業規則でも確認できます。
加えて、企業と従業員との間で定めておいたほうが良い事項も多々あります。その場合、記載しなければいけないのが「相対的必要記載事項」。
さらに、ひな形には記載されていませんが、企業と従業員との共通の認識として就業規則に載せておいたほうが良いルールがあれば記載しましょう。
ひな形は、労働基準法をクリアできる必要最小限の規定です。精神疾患社員などの休職の取り扱い、セクハラやパワハラ、問題社員への対応など、労働トラブルにも対応できるよう記載しておくことをおすすめします。
ひな形を自社でカスタマイズするとき、どのような点に注意すればよいのでしょうか。条文ごとに自社に適用できるか一つひとつに目を通していく必要があります。さらに2019年(平成31年)4月1日以降、働き方改革の影響で、「無期転換の契約社員の扱い」や「副業の扱い」など、新たに検討しておくべき事項も出てくるでしょう。
ひな形をカスタマイズして利用するにしても、作成後には専門家のチェックを受けることをおすすめします。
医療業界の特性や個々の病院・クリニックに合わせた内容に見直しましょう。
①選考時・採用時の規定
免許や資格が必要な職種もあるため、選考や採用時に経歴詐称がないかなど、確認するプロセスが必要です。医師免許・看護師免許等は原本を確認しましょう。
②勤務時間制度の規定
特例対象事業場(従業員数が常時10名未満)の場合は、1週44時間労働といった場合もあるので、勤務時間制度をきちんと規定しておきます。
また、診療開始前の準備時間、診療終了後の片付けなどの時間も、労働の実態に合わせる必要があります。訪問診療時の取り扱いも規定しておきましょう。
③変形労働時間制の規定
診療時間や季節による患者の増減がある場合には、変形労働時間制(1ヶ月単位の変形労働時間制・1年単位の変形労働時間制)を規定しておくとよいでしょう。
④服務規律に関する規定
患者対応等の接遇、ユニフォームなどの定めを規定しておきます。また個人情報を取り扱うことから、機密情報に関する取扱いについても定めておきましょう。
⑤賃金に関する定め
当直がある場合には、労働基準法第41条第3号に照らした規定を見直す必要があります。
※労働基準法41条第3号 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
⑥学会・研修参加に関する規定
学会発表や研修・セミナーの参加や出張費に関する取扱いを明示しておきます。
飲食店の場合は、曜日や日によって繁閑の差が激しかったり、営業時間の長さの影響を受ける業種。一般的なひな形だと、労働時間について1日8時間、1週間40時間以内という枠で定めていることが多いので要注意。
①変形労働時間制の規定
繁閑の多い職場ですから、変形労働時間制の利用も含めて検討し、規定しておきます。無駄な拘束時間を減らし、残業代を削減することも可能なので、検討する余地はあるでしょう。
②休日の規定
労働基準法では休日は1週間に少なくとも1日、または4週間の間で4日以上与えることが決まっています。定休日がない店の場合は、シフトで休むなど規定しておきます。
就業規則で関連する規定を設けることで、受給できる助成金があります。
例えば、キャリアアップ助成金(正社員化コース)を受給する場合、雇用計画を立て、正規雇用等への転換し直接雇用した後、支給申請書と就業規則をあわせて提出しなくてはなりません。助成金を利用する予定がある場合は、早めに就業規則の作成着手をおすすめします。
◆キャリアアップ助成金正社員化コースの規定例(厚生労働省 キャリアアップ助成金のご案内より)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000201488.pdf
第○条(正規雇用への転換)
勤続○年以上の者又は有期実習型訓練修了者で、本人が希望する場合は、正規雇用に転換させることがある。
2 転換時期は、原則毎月1日とする。ただし、所属長が許可した場合はこの限りではない。
3 人事評価結果としてc以上の評価を得ている者又は所属長の推薦がある者に対し、面接及び筆記試験を実施し、合格した場合について転換することとする。
※ 転換の手続き、要件、転換または採用時期(面接試験や筆記試験等の適切な手続き、要件(勤続年数、人事評価結果、所属長の推薦等の客観的に確認可能な要件・基準等をいう。)および転換又は採用時期が明示されているもの。)を必ず規定する必要があります。
※ また、就業規則・労働協約等の他に、転換規則や人事課通知などの社内規定に転換の手続き等を規定しても対象になり得ます。ただしその場合、転換規則や人事課通知といった社内規定が労働者に周知されていることが必要です。※ 転換制度に規定したものと異なる手続き、要件、実施時期等で転換した場合は支給対象外となります。転換制度の作成にあたっては、事業主支援アドバイザーのサポート等が受けられますので、お気軽にご相談ください。
小さな企業などの場合は、忙しさや人手不足も手伝って、ひな形そのままといったケースもあります。後々大きなトラブルに発展する可能性があります。
①従業員の区分の定義がない
正社員以外にも、契約社員やパート、アルバイトがいるにも関わらず、区分の定義を設けていないケース。正社員のみを念頭に就業規則を作成したものの、区分の定義をしていないばかりに、アルバイトやパート、契約社員にまで適用される恐れがあります。
②残業代の計算方法のミス
残業単価を算出する場合、諸手当を含むか、含まないかによって、残業代が変わってきます。就業規則には諸手当を含まない記載になっているにもかかわらず、実際の支給では含んでいて、従業員に多く支払っていた…などのミスも。お金に関わることなので、明確にしておきましょう。
③休職の定義
休職の定義をひな形のままにした結果、大企業並みの休職の待遇となってしまった。
建設業はこれまで36協定の特別条項を締結していれば、時間外労働に上限がありませんでしたが、働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制が設けられました(2024年3月31日までの猶予期間)、また他業種同様、年次有給休暇取得の義務化や「勤務間インターバル制度」といった、対応すべき項目も多くあります。業界自体が特殊なので、一般のひな形やモデル就業規則をそのまま使用するのはリスクが高いと言えます。
①安全管理・健康管理の規定不備で損害賠償請求
労災事故が発生しやすいため、安全管理や健康管理にてついて規定する必要があります。規定に不備があると、一般に従業員の不注意が原因だと思われる労災事故の責任も、会社の安全配慮義務違反を問われ、場合によっては損害賠償請求される可能性があります。
②悪天候で現場作業ができない場合や繁忙期・閑散期の賃金を規定していない
建設業は天候で左右される業種です。悪天候で現場作業ができない時間など、給料が必要な時間か給与が不要な時間かを示していないと、すべての時間に対して給与を支払わなければならなくなります。
③各種免許の取得の確認の不備
機械利用の資格や免許などが必要にもかかわらず、規定をせずに、問題が発生した場合は、会社の責任を問われてしまうことがあります。
④雇用形態の区分があいまい
直接雇用の従業員や期間雇用の従業員、また一人親方の職人との契約など、さまざまな契約があるのが建設業です。区分を明確にしていないと、無用な退職金や賞与の支払いなどが発生したケースもあります。
建設業の従業員は、事業場外で勤務することが多いので、就業規則を作成しても読まないことも多く、周知・理解が困難と言われていますが、こういった業種だからこそ、きちんと作成することによって、無用なトラブルがないよう、職場でのルールを定め、労使双方がそれを守ることで従業員が安心して働くことができます。
いかがでしたでしょうか?
最近は、質問に回答していくと就業規則や規程が作成できるサービスが人気のようです。
https://kitera-cloud.jp/
もちろん活用できる会社は活用すればいいと思いますし、今までひな形を流用していた会社よりもずっといい自社に合ったものが作成できると思います。
しかし就業規則はなぜ作成するのか?という視点に立てば、私は専門家を一緒に作成することが大切なのではないかと思っています。
聞かれたことに回答をすれば、本当に従業員一人ひとりに合った働き方が労働法の範囲内でできるようになるのでしょうか?
昨今働き方は多様化しています。在宅や時短勤務だけではありません。いつでもどこでもつながれる時代です。それこそ一人一人が別々の働き方をしている会社もあるくらいです。
私は用意された質問に回答をするだけでは、まだ多様化した働き方に対応できる就業規則の作成ができるとは思えません。
就業規則の作成の目的は、会社と従業員が労働法のルールの中でお互いにルールを作ることで、従業員がイキイキと働き、会社の業績に貢献してくれることのはずです。会社それぞれの働き方や従業員それぞれに合わせた働き方を実現したいのであれば、やはり専門家に相談すべきだと思います。
私たちは無料相談を実施しています。
ぜひ、実現したい働き方を教えてください!お問合せお待ちしております。
岐阜県 鳶工事業 従業員数23名
労務相談の顧問や就業規則の整備をお願いしています。そもそも私自身の考えになりますが、社員の成長と私自身の成長が、会社自体の伸びにつながると考えています。そして、そのためには働くための当たり前の体制が整備された「まともな会社」であることが前提となるでしょう。そこの組織づくり・成長する基盤づくりを進めるにあたっての不安点をよく相談しています。