10名以上の従業員を雇用する場合、『就業規則』の作成を義務付けられています。小規模企業では、事業所の従業員数が10名を超えるタイミングで、慌てて就業規則の作成に着手するといったケースもあるかもしれません。『就業規則』は、会社と従業員が守るべきルールです。労働基準法をはじめとした関係法令に準拠しなくてはなりません。
はじめて『就業規則』を作成する場合には、関係する法律や方法を調べながら作成し、法的に問題、リスクはないかなど、検証も必要です。
社会保険労務士や弁護士など専門家への依頼した方がいいケースも多々あります。
そこで、この記事では『就業規則』の作成にあたり、どういった方法が自社に適しているのか、また作成する場合の費用相場など、気をつけるべきポイントについて解説します。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
・NHK「あさイチ」
・中日新聞
・船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
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『就業規則』は、会社に必要不可欠なルールブックです。企業の業績向上のため、従業員が能力を存分に発揮し、会社運営を効率的に行ううえでの指針となるものです。なぜなら、さまざまな考え方や意見を持つ人が従業員として、企業に集まるわけですから、意見の違い、認識の違いからトラブルが生じることがあるからです。就業規則はこれらを未然に防ぐ意味でも重要なのです。つまり『就業規則』は単に作成すればいいわけではなく、従業員にその内容を周知し、適切に運用することが大切なのです。
就業規則は作成すれば、それだけで会社がよくなるというものではありません。
会社をよくするためには就業規則を作成し、適切に運用しなければなりません。
しかし就業規則がない場合は、それだけでデメリットが生じてしまう場合があるのです。
就業規則は法的書類でもあるためです。
就業規則に定めることにより、トラブルが発生した際も、対応できるようになることがあります。
具体的にはどのようなケースがあるのか詳しく確認してみましょう。
一般的に、従業員が有給休暇を取得したいときは、会社に申し出て、有給休暇を取得する流れが多いと思いますが、シフト制のある職場や繁閑のある職場などは、従業員の都合だけで自由に有給休暇を取得すると業務が滞ってしまう場合があります。そのような場合には、有給休暇のうち5日を除いた分を計画的に会社が付与できます。しかしながら、『就業規則』で明示していなければ、会社都合の有給休暇の付与ができない場合があります。
従業員が遅刻や欠勤をした場合、ノーワークノーペイの原則から、賃金から控除できる権利がありますが、『就業規則』がなく、賃金の計算の根拠が明確でない場合、賃金の控除が行えないことがあります。
従業員の業務の怠慢や法令違反など、会社に何らかの不利益を生じさせた場合、訓告や減給、出勤停止、解雇など、懲戒の処分を課すことがあります。しかし、『就業規則』がない場合は、会社の都合で懲戒を課すことができません。最悪の場合、“就業規則なし”で懲戒解雇を行った場合、不当解雇として訴えられる可能性もあります。
雇用関係助成金などは、要件として、『就業規則』の作成や就業規則などに制度を定めることが挙げられている場合があります。
就業規則の作成は、労働基準法第89条において「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない」とされています。これに違反すると、30万円以下の罰金が科せられます。労働基準法上の「労働者」は、職業や雇用形態の種類を問わず、会社に使用される、賃金を支払われる者すべてです。一方で、10名未満の会社では、作成届出の義務はありません。しかしながら、作成義務のない会社であっても、会社のルールを明確することや無用なトラブルに巻き込まれないために、作成しておいた方がいいでしょう。
『就業規則』は、ひな形などを利用すれば費用をかけずに作成自体はできます。しかし、昨今では働き方改革を背景に、労働基準法をはじめとした様々な法令が施行されています。また、業界や業種によっても、関係する法律はさまざまです。
就業規則は「何のために」作成するかが重要です。
就業規則を作成し、会社を成長させたいのであれば、ひな形をそのまま用いるのは難しいでしょう。法律が改正されるのと合わせて、『就業規則』をアップデートすることも必要です。法律の知識やノウハウなどに精通していなければひな形から簡単に作成することはできません。会社が自社で就業規則を作成するとなると、社内に法律の専門家を有しているか、社長自身が労働法に精通していない限り、会社を成長させる就業規則を作成することは難しいでしょう。
これから『就業規則』を作成する、また大きく変更を予定している場合は、外部の専門家の協力を得ることも含めて、検討してはいかがでしょうか。
“自社で作成し、コストはおさえたい”、逆に“コストはかけても外部に手厚いサポートをしてもらいたい”など、企業によって考え方は様々だと思います。新たに作成するのか、一部改正するのかによっても、費用は変わってきます。自社の就業規則を作成するうえで、最も大切なことは「誰に」頼むか?です。社会保険労務士だから、弁護士だから…と専門家に依頼するのは安易と言えるでしょう。どのような社会保険労務士なのか?どのような弁護士なのか?まで考える必要があります。専門家でたとえ同じ資格を持っていたとしても、その能力は一人ひとり違うからです。とはいえ、資格や肩書によって、ざっくりは理解できることもあります。ここでは資格などによる大まかな傾向を確認していきましょう。
『就業規則』は、コストをかけずに自社で簡単に作成してしまいたい、という企業も多いでしょう。もちろん、自社内のことはその企業が一番よくわかっているということを考えれば、自社で作成するメリットはあります。とはいえ、自社独自のルールだけでは、『就業規則』は成り立ちません。就業規則と労働法、雇用契約書の関係性など高度な専門知識が必要となるからです。自社で就業規則の作成を行う場合、その『就業規則』作成にかかわる人員の人件費がコストとなることも忘れずにおきたいものです。総務の要の人員や取締役などが就業規則の作成に多くの時間を取られるとすると、目には見えないコストではありますが、高額となっていることも忘れてはいけません。また、法律事項に対して専門的な見地からのリーガルチェックがされないということは、トラブルが発生してしまうリスクも含むことが多いです。
一般的に一番多いのが社会保険労務士(社労士)へ依頼するケースではないでしょうか?
『就業規則』の根幹ともいえる労働基準法の専門知識を保有している社労士は、就業規則作成が独占業務にもなっています。社労士は企業の労務管理の実務に関与しているプロフェッショナル。当然ながら、『就業規則』の作成やチェックもその業務の範囲内なので、外部に依頼するといった場合には、かなりのアドバンテージとなるでしょう。
費用相場としては数万円~50万円程度と開きがあります。標準的には、25〜30万円くらい。新規作成するのか、一部変更か、また従業員への説明会もサポートしてもらうかなどによっても違ってきます。
多くの就業規則をチェックしてきた経験からすると、社会保険労務士が作成した就業規則でもさまざまな規則があります。社会保険労務士の労働法に対するスタンスや経営に対するスタンスが違うからです。同じ社会保険労務士が作成するのだから安ければいいだろう…と安易に決めるのではなく、社労士のスタンスを確認しながら依頼をするといいでしょう。就業規則は会社と従業員のルールです。一度定めてしまうと、従業員からみたときの不利益変更はなかなかしにくいのが実情です。
社会保険労務士に就業規則を依頼するにしても誰に依頼するかは検討すべきでしょう。
弁護士に依頼するケースもあります。弁護士は法律全般の専門家です。また社労士は裁判・訴訟の代理人にはなれませんので、訴訟になった場合には弁護士に強みがあります。弁護士は法律全般の専門家とはいえ、特別に力を入れている分野が異なりますので、依頼する場合は、労働問題に力を入れている弁護士にお願いしましょう。また、弁護士のスタンスの確認も必要です。普段から企業法務に携わり、企業側で弁護を行っている弁護士と、労働者側で弁護を行っている弁護士に分けることができます。企業から依頼するのであれば、企業側の弁護士を探しましょう。費用の面からみると、社労士より、弁護士の方が高く設定されているケースが多いと言えます。
社労士や弁護士以外の専門家に依頼する場合、大きく分けると2つの方法が考えられます。ひとつは資格を持っていないコンサルタントに依頼する場合です。就業規則の作成業務は基本的には社会保険労務士の独占業務です。他士業や無資格のコンサルタントが作成をすると、罰せられる可能性もあります。
ただ稀に、顧問契約している税理士や司法書士、行政書士に依頼したという話も聞きます。法的な位置づけはともかくとして、労働関連法規は非常に複雑な法律ですので、やはりそれぞれの分野の専門家ではなく、労働関連法規の専門家に依頼することが望ましいでしょう。
就業規則は会社と従業員とのルールです。
ただあればいいというものではありません。安く作れるからと言って、専門家以外に依頼するのはやめておいた方がいいでしょう。
自社で作成する場合であっても、社労士や弁護士など専門家に依頼する場合であっても、『就業規則』を作成するにあたってのプロセスは以下のとおりです。
就業規則は「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」「任意記載事項」の3種類の事項で作成します。職場の実態・状況に合わせた規定を検討し、法令に反している内容がないかなどリーガルチェックを行っていきます。従業員にわかりやすく明確な内容であるか、誰が読んでも理解できるかなどの視点も必要です。
作成した原案を、従業員代表者に確認してもらい、意見書とサインをもらいます。
就業規則届と意見書添付し、所轄の労働基準監督署へ届出します。
就業規則は従業員への周知が必須です。常時閲覧可能な状態で文書を掲載しておく必要があります。
就業規則のひな形は、労働基準監督署などでも入手可能です。ネット上でダウンロードも可能ですが、そのまま体裁だけを整え、使用するには注意が必要です。それぞれの会社、業種や職場の状況は反映されていませんので、会社に必要のない条文まで記載していたというケースもあります。こうした必要のない条文が記載されている就業規則では、その事項が、かえってトラブルを引き起こしてしまったということになりかねません。
また、労働関係の法律は頻繁に改正されますので、そのひな形が作成された時期によっては古い内容のことも。法律に沿った内容でなければ、せっかくの就業規則も意味がありません。自社でひな形から就業規則を作成する場合でも、社労士などの専門家に最低限のチェックを受けておくことをおすすめします。
『就業規則』の作成にあたって一番のツールであるWord。当然ながら、文書作成に特化されたソフトウェアですので、スタイル設定も詳細で、レイアウトのきれいに仕上がります。ただし、詳細に設定できる分、一度設定を崩してしまうと、修正に時間がかかったり、また、一度作成した就業規則がWord形式のまま提供されてしまったがために、変更がかかってしまうといったトラブルも。作成が終わったら、PDFなど修正ができないような処理をしておく必要もあります。
最近では、就業規則の作成支援ツールとして、厚生労働省が運営するサイトで「就業規則作成支援ツール」が公開されました。
<就業規則作成支援ツールについて>
https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/support_regulation.html
『就業規則』は、作成する際には、業種によっても注意するポイントが異なります。業種によって適用される法律も様々です。
飲食店をはじめとした店舗型の業種は、労務管理に着目した『就業規則』が必要です。社員、アルバイトやパートと雇用形態も多く、人の入れ替わりが多いのも、この業種の特徴です。ルールがあいまいで決まっていないことも多く、店舗内でのトラブルはもちろん、お客様とのトラブルなど、人に関するトラブルも多く発生しがちな業種です。複数店舗を運営している場合には、店舗ごとにルールが異なり、従業員の不公平感を生み出してしまっているケースもあります。また、名ばかり管理職といった店長への残業代の不払いなどの問題を抱えている店舗もあります。こうした業種こそ、『就業規則』を作成し、運用していくことで、無用なトラブルを減らし、従業員の定着やモチベーションアップにつながるでしょう。
以下の事項を検討しておく必要もあるでしょう。
店舗型の運営を行っている場合、多くの事業所で1か月単位の変形労働時間制が導入されています。
1か月単位の変形労働時間制は「1箇月以内の一定の期間を平均して、1週間の労働時間が週40時間以下になっていれば、 忙しい時期の所定労働時間が1日8時間、週40時間を超えていても、時間外労働とはならないという制度」です。(特例措置対象事業場 においては週44時間以下)
1日の労働時間が日によって変わり、繁忙期のある店舗型には「合った」制度だと言えるからです。
また、1か月単位の変形労働時間制の適用を受けるためには、労使協定や就業規則などに定めておく必要があります。
就業規則や労使協定には➀対象労働者の範囲、②対象期間および起算日、➂労働日および労働日ごとの労働時間、➃労使協定の有効範囲などを定めておく必要がありますので不備のないように対応しておきたいものです。
こららに不備がある場合は変形労働時間制として認められませんので注意が必要です。
休日は原則として毎週1回以上与えなければなりませんが、変形休日制を採用することで4週間に4日以上の休日とすることができます。繁忙期が集中する店舗では、この変形休日制も導入しておく方がいいでしょう。変形労休日制は就業規則に規定しておくことで運用できます。
製造業は、慢性的な人材不足に悩む企業も多く、そのため労働条件を明確に整備しないまま人材を採用する、といったケースもあるようです。そうした背景から、労務トラブルに発展することも考えられます。
その他、製造業については、以下の事項を定めておく必要もあるでしょう。
外国人登録証をはじめとした確認に関する規定など、明確にしておきます。また、日本語が不得意な場合もありますので、翻訳した就業規則などを用意し、理解してもらえるような対応も必要です。
製造ラインで機械等を扱う業務など、労災事故が発生しやすい業種なので、未然に労災事故を防ぎ、リスク回避をするための安全衛生教育について規定しておきましょう。
特殊な技術、発明、特許等に関する権利関係も明確にしておきます。
運送業においては、ドライバーなくして成立しません。そのドライバーが安全で仕事に従事しなければ企業が成り立ちません。しかしながら、ドライバー業務は、労働時間が長くなりがちであり、そのことが原因で法的問題が発生することが多くあります。
厚生労働省の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」に基づき、トラック運転者に対する労働時間の基準を規定します。拘束時間、休憩時間、運転時間の限度も規定に盛り込みます。
国土交通省やトラック協会などの監査をクリアできる規定が必要になります。運行管理や車両管理など、他の業界と異なる事項も多岐にわたります。
交通違反や事故に対する服務規律や罰則の規定は必ず規定すべき事項です。
建設業は、特殊な事項が盛りだくさんです。一般的なモデルの就業規則を使用するのはおすすめしません。安全面や労災事故防止のための管理、建設事業特有の労働時間、天候に左右される場合や繁忙期と忙しくない時期の賃金体系、現場への移動時間、各種免許の取得についての工夫も必要です。
労災事故が発生しやすいため、安全管理や健康管理にてついての規定は必須です。たとえ従業員の不注意で発生した労災事故であっても、会社の安全配慮義務違反で損害賠償請求されるケースもありますので、きちんと服務規程を整備し、指導する必要があります。
長時間労働は、労災事故の要因や効率の低下にもつながります。詳細な労働時間制度の規定が必要になります。また、 天候に左右される現場でもあります。悪天候で現場作業ができない時間などの取り扱いをどうするか、しっかり示しておきましょう。
直接雇用の従業員と有期雇用の従業員の雇用契約など、建設業特有の契約形態が多いのも特徴です。さまざまな形態の人が働く現場など、しっかり形態ごとに適用される制度が異なる場合など、明確にしめしておきます。
資格や免許の取得が必要な職種も多いので、そのための義務や研修教育などの規定を作成しておくこともお勧めします
就業規則は会社と従業員のルールです。人はルールの中で生きています。そう考えれば就業規則は会社を成長させるうえで、非常に重要なツールと言えます。
就業規則を作成する際に、業種別のポイントをまとめましたが、本当に重要なのは個別の企業ごとに決めるべきことを考えることです。
実態に合わせ、様々なことを検討する必要があります。例えば、午前3時間、午後5時間勤務の事業所での半日単位の有給休暇は何時から何時までなのか?業務が終わった後の研修をどのように扱うのか?等、個別の企業で考えることは山のようにあります。
就業規則を専門家に依頼する際のポイントは専門家のスタンスです。会社を大きくしたいのか、トラブルを防ぎたいのか、経営者の味方なのか、従業員の味方なのかなど社会保険労務士、弁護士などの専門家でもスタンスはそれぞれです。
だからこそ経営者自らが自身と同じような考え方やスタンスを持つ専門家を探す必要があります。本来外部ブレーンはそうして選ぶ必要があるのです。
社会保険労務士法人とうかいでは、就業規則に関する無料相談を実施しています。この機会に一度私たちのスタンスを確認してみてはいかがでしょうか?
岐阜県 鳶工事業 従業員数23名
労務相談の顧問や就業規則の整備をお願いしています。そもそも私自身の考えになりますが、社員の成長と私自身の成長が、会社自体の伸びにつながると考えています。そして、そのためには働くための当たり前の体制が整備された「まともな会社」であることが前提となるでしょう。そこの組織づくり・成長する基盤づくりを進めるにあたっての不安点をよく相談しています。