2018年に経済産業省の発表したDXレポートにより話題にのぼった「2025年の壁」。日本企業がこのままデジタルトランズフォーメーション(DX)の推進がされなければ、業務効率や競争力の低下は避けられず、2025年には約12兆円の経済損失が発生すると予測されています。
こうした問題を背景に、国もデジタル庁の発足、電子帳簿保存法の改正など、積極的にDX推進に舵を切りました。企業においても同様に、業界・業種を問わず、DX推進について、語られることも増えてきました。
企業の人事労務部門においても、DX化への重要性や必要性は感じているものの、何から始めたらよいのかお悩みの方も、多いのではないでしょうか。
今回は、人事労務部門におけるDX化について、ヒントをご紹介していきます。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
・NHK「あさイチ」
・中日新聞
・船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri
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最近耳にすることの多い、『DX』というワード。気になっている方も多いのではないでしょうか。そもそも『DX』とは「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略で、ITテクノロジーによって、人々の生活をより豊かで、良いものへと変革させるという概念のことです。2004年にスウェーデンの大学教授によって提唱されました。
既存の価値観や仕組みに革新を起こすものとして、ビジネスシーンにおいても、注目が集まっています。とはいえ、日本の現状は、まだまだその推進が進んでおらず、このままだと日本企業の業務効率や競争力の低下は避けらない、2025年には約12兆円の経済損失が発生すると予測されています。この「2025年の壁」とも言われるDX危機をなんとか乗り越えるべく、徐々にDX推進を進める企業が増えつつあります。ITテクノロジーの進化に伴って、あらゆるビジネスにおいて、かつてない製品やサービス、ビジネスモデルが展開されるようになってきました。
デジタルトランスフォーメンションを推進するためのガイドライン(経済産業省)https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf
経済産業省は企業に向けた「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」を公表しています。DX推進のための経営のあり方、仕組み、経営トップのコミットメントや体制整備まで、現状の見える化の指標と診断スキーム構築するうえでのモノサシが定義されています。
大きく時代が変化しIT化も進む今、企業もより一層スピード感を増した変化が必要とされています。この変化に取り残された企業は、衰退していく恐れもあるでしょう。変化の時代にあわせて企業が成長していくには、DXが必要不可欠なものです。あらゆるビジネスシーンでDX化に拍車がかかる中、人事労務領域も例外ではありません。
既存のしくみやシステムを見直し、業務効率や改善、また属人化を防ぎ人材を適切に配置するといった対策が必要となってきます。昨今の新型コロナ感染拡大の影響や働き方改革によってテレワーク普及が進むなかで、より加速し、待ったなしの状況です。
人事労務領域には、従業員という「ヒト」を軸にさまざまな業務があり、採用、教育、労務、人事といった広範囲に渡ります。社員の人事情報、スキルやキャリアの把握、それに伴う人材配置やキャリアプランの支援など、ヒトに関するあらゆる情報のDX化が求められています。人事労務DXは、人事労務がより質の高い業務に注力・シフトチェンジしていくことが可能です。
昨今の潮流としては、給与や勤怠管理など、これまで紙の手続きや分散管理していた人事労務情報の処理など、DX化への取り組みによって、情報の集約化、分析で属人化した業務からの変革が期待されています。今、多くの企業が人事労務DXの取り組みに動き出しています。人事労務DXの成功が企業の発展に大きく影響するといえるでしょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)はデジタルを前提に今までの仕事のやり方に固執することなく、新しい価値提供をデジタルで実現することです。似た言葉で、「デジタルシフト」というものがあります。これは、今現在ある仕事・やり方をデジタルに移行することを指します。
自社で行われているのが、DXだとおもっていたら実はデジタルシフトだったということもあります。変化の波についていくためにはDXが求められます。
現在の人事労務DXは、主に勤怠管理や給与、労務手続きなどのビジネスプロセスの見直し、自動化が主流となっています。どのようななメリットがあるのか確認していきましょう。
人事労務DXを推進すると、一番目に見えて効果を感じるのが、時間と手間の削減でしょう。例えば、給与情報は給与計算ソフト、勤怠情報はタイムカードや勤怠システム、人事評価の情報はExcel管理、各種労務手続きや届出情報は書類をファイリングして管理している、といった状態の会社はありませんか? 明らかに人事労務業務の効率が低下しているケースです。あちらこちらに分散されたデータや書類を確認したりと、想像するだけで非効率なのは明らかです。紙で慣れてしまった担当者には申し訳ないですが、それは日孤立なのです。もちろん、人事労務担当者にとっては、“正確な業務処理レベルを担保しつつ、納期を厳守する”だけでも、非常に労力と時間がかかり、人事労務DX推進の重要さは理解しているものの、とても手が回らないという声もあるかもしれません。
とはいえ、極端に言えば、労務管理に関することなら、ほぼすべてDXの推進が可能な領域です。人事労務DXの推進の一つとして、人事情報を一元管理、承認プロセスをクラウド化が可能となれば、これまでに追われていた分散していたデータの管理や、アクセス時間、書類を郵送したり、ファイリングしたりとする時間も短縮できるはずです。データ容量や紙書類の保管スペースの圧縮も可能となれば、コストメリットも大きいものでしょう。何より、短縮した時間を、人材活用のための業務にシフトしていくことが可能です。
採用活動を行なっている担当者は、“採用情報が大量で管理が大変”“応募者の採用進捗管理が負担”“募集しても、希望する人材が集まらない”など、悩みを抱えていることも多いでしょう。とくに中小企業の人事労務担当者は、業務範囲が幅広く、採用業務のみを専任で行なっているケースは少ないかもしれません。
そのような中、多くの人材を採用する場合には、履歴書、職歴書をチェックするだけでも、非常に多くの時間が必要です。また、自社の求める人材像など採用目的の共有が、関係者間で不十分なことによって、本来必要な人材を採り損ねたり、求職者との面談設定などのスピードが遅く、機を逸してしまうというケースもあり得ます。
人事労務DXの取り組みを進めることで、関係者誰もが同じ情報を共有し、採用の進捗状況もリアルタイムで可視化できれば、速やかな応募者へのレスポンス、求める人材へのアプローチ、面接のスケジュールや合否の決定も、スピード感をもって対応できるようになるでしょう。採用業務の管理的負担を大幅に軽減するのはもちろんのこと、求める人材へ最短でアプローチすることにつながります。人材不足が叫ばれる今、優秀な人材は、多くの企業から引き合いがあるはずです。複数の企業に併願している状況が当たり前です。一歩先んじて、アクションを起こすためにも、人事労務DX推進はメリットとして大きいものになるでしょう。
近年の働き方改革を皮切りに、このコロナ禍で進んだテレワーク。オンラインでの商談や社内会議なども、多くの企業で浸透したのではないでしょうか。人材教育においても、オンライン教育の要領がつかめてきたところかもしれません。一方で、リアルでのコミュニケーションの重要さも意識し始めているところです。インプットとアウトプット、リアルとオンラインのバランスを考慮した教育カリキュラムの策定や、その効果測定などは、やはりDX推進によって、より可視化・把握しやすいものとなるでしょう。
人事評価については、リモートワークが進み、上司が部下の業務を把握しづらく、評価が難しいといった声もあります。しかしながら、リアルなコミュニケーションが重要となる部分以外は、人事労務DXで大幅な工数が削減できるでしょう。個人やチーム単位での評価、定量的な評価と定性的な評価、今までの評価履歴など分散された評価データを集約することで、従業員一人ひとりの状況が可視化されます。
管理工数が削減できるだけでなく、今後の指導や目標設定のためのデータとして、根拠あるエビデンスとしての活用が可能でしょう。公正な人事評価は従業員のエンゲージメントを高める効果も期待できます。
人事労務DXの推進は、従業員の人事データが蓄積していくこにつながります。業務フローを可視化し、オペレーション業務の削減ができれば、人事のコア業務により集中できることになります。蓄積された人事データは、企業にとっての財産になりますし、コア業務への集中は戦略的な人事業務に注力できることに繋がります。
蓄積された人事データを分析していくことで、ハイパフォーマーの傾向や、退職者の傾向、採用後の活躍状況等、可視化できることによる適材適所の人材配置も可能です。従来、経営者や人事の経験や勘による人事の取り組みが、スピード感をもって戦略に実行できるのです。
人事労務DXを推進することで、質の高い業務にシフトチェンジしていくことが可能となります。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の提案を行うとやるかやらないかのメリットとデメリットの比較やコストパフォーマンスを気にされる方にお会いします。ただそれは私たちプロからすればナンセンスです。
DXはすでに行わなければならない社会課題です。一次的に非効率であろうとDXを行わない企業は長期的には市場から排除されてしまうでしょう。やるかやらないかではなく、どうやってやるべきかを考えるべきでしょう。
人事労務DXは、時間と手間の大幅な削減と、戦略的な人事への注力を可能とするものですが、単にITシステムを導入すればよいというわけではありません。ITテクノロジーを通じて企業経営、人事労務業務全体を変革する取り組みを意味します。
人事労務DXを成功に導くためには、まず人事労務DXの目的、どのような人事労務部門を目指すのか、共有していくことが重要です。人事労務DXのルーツ選びももちろん重要ですが、ツールの良し悪しを検討する前に、必要なステップとなります。
人事労務DX推進には、目的や目標、人事労務部門全体像をしっかりと定めておかなければなりません。何のために、人事労務DXを推進した結果、どのような人事労務部門でありたいのかを明確にしておく必要があるでしょう。さらに、その目的や目標は、人事労務部門にとどまらず、経営、関係部門と共有しておかなければ、スムーズには進みません。
人事労務DX推進をする目的・目標と合わせて、まずは足元の状態を確認しなければなりません。目的・目標を達成するには、何が障害になるのか、問題・課題は何か現状を把握する必要があるでしょう。ツール選びの視点でいえば、現在の業務で利用しているシステム、管理方法、取り扱っているデータの種類など、明らかにしていきます。こうした洗い出しを行なっていくことで、新たに導入したいツールやシステムの要件定義が可能となります。このステップをおろそかにすると、いくら素晴らしいシステムやツールを導入しても、失敗します。
人事労務DXは、目的にあわせて段階的に進めていく必要が生じます。ツールやシステムを利用するのが本当に適しているかも含め、段階的に取り入れていく方法も検討しましょう。重要度や優先度を考えながら、マイルストーンを設定して進めることをお勧めします。
事労務DXは、多くの企業が注目しています。最近は、ツールやシステムも豊富で、機能もさまざまなものがあります。機能、価格、データの汎用性などさまざまな角度から検証してみることをお勧めします。
(労務管理のツールとして人気サービス例)
○シームレスな労務手続きに
○利用企業の多い労務手続きツール
○人事労務の業務効率化に
○利用が簡単
○バラバラな情報を一括管理で業務改善
○低コストで労務管理
人事労務DXを推進するにあたって、まずは自社で進めるのか、コンサルタントを含めて進めていくのか、悩みどころです。それぞれの注意ポイントを確認しておきます。
人事労務の問題・課題をクリアにし、プロジェクトなどを立ち上げて、計画的に進めることができれば、自社で人事労務DXを進めていくことは、十分可能です。大風呂敷を広げずとも、スモールスタートするなど、柔軟性をもって進められるのも魅力です。
ただ、問題は誰がプロジェクトマネージャーとして先導していくか、ではないでしょうか。中小企業の人事労務担当者は、多くの仕事を抱えており、人事労務DXを推進していくためにはマンパワーが足りない、ということもあるでしょう。
とくに人事労務DXを進めるには、現状の業務の洗い出しから、紙やExcelなどのデータに分散された情報を集約したりと、非常に大きな負荷となり得ます。また、経営層や事業部門に理解してもらうには、DX推進した後の効果やコスト削減など、費用対効果を明らかにしなければなりません。まず、何から手をつけてよいか検討するだけでも、負荷がかかることでしょう。
自社で進める場合には、旗振り役をどうするか、関係者の協力と理解、業務の洗い出しなど、それなりの労力が必要であることを理解しておきましょう。
自社のマンパワーだけでは難しいといった場合は、人事労務DX推進をサポートしてくれるコンサルタントに依頼するのも、一つの手段。せっかく、人事労務DXを進めるなら、道半ばで挫折することのないよう、伴走してくれるコンサルを選びましょう。ITベンダーやシステム販売代理店等、さまざまな企業がコンサルを行なっています。ただし、注意しておきたいのが、単にツールやシステムを導入するコンサルでは意味がないということです。
人事労務全般を知り、複数のツールの特性を知っているコンサルタントでなければ成功に導くことは難しいでしょう。
また人事労務担当者が、本来業務に専念できる環境づくりが重要となりますので、人事労務の専門知識はベースとして必要です。人事労務DXの未来像を共有できるコンサルタントを選択しましょう。