最近よく耳にすることの多くなったSDGs<Sustainable Development Goals>。
ニュースをはじめ、大手企業の多くでSDGsに着目した経営や事業活動を打ち出しています。その波は広がり続け、取り組みを始める中小企業も増えてきました。社会課題への対応や新しい事業機会の獲得とともに企業イメージの向上にもつながるSDGsへの取り組みは、多くの企業でさらに注目されていくことでしょう。
今回は、人事労務の領域から考えるSDGsについて、社会保険労務士が解説していきます。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
・NHK「あさイチ」
・中日新聞
・船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
社会保険労務士 小栗多喜子のプロフィール紹介はこちら
https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri
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SDGsとは、Sustainable Development Goals の略です。
日本語では「持続可能な開発目標」を意味するものです。2015年の国際サミットの中で、サミット加盟国の首脳たちにより採択され、2030年までに持続可能なよりよい世界を目指すため、国際社会共通の目標が掲げられました。
国際社会共通の目標として、社会課題を17個のゴールわけて構成し、いずれもその目標を達成する具体的な行動を169のターゲットとして示されています。
国際社会全体が取り組むSDGsは、多くの企業に対しても、そのゴール達成への活動が求められています。
あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
End poverty in all its forms everywhere
飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
End hunger, achieve food security and improved nutrition and promote sustainable agriculture
あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
Ensure healthy lives and promote well-being for all at all ages
全ての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する
Ensure inclusive and equitable quality education and promote lifelong learning opportunities for all
ジェンダー平等を達成し、全ての女性及び女児の能力強化を行う
Achieve gender equality and empower all women and girls
全ての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
Ensure availability and sustainable management of water and sanitation for all
全ての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
Ensure access to affordable, reliable, sustainable and modern energy for all
包摂的かつ持続可能な経済成長及び全ての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
Promote sustained, inclusive and sustainable economic growth, full and productive employment and decent work for all
強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
Build resilient infrastructure, promote inclusive and sustainable industrialization and foster innovation
各国内及び各国間の不平等を是正する
Reduce inequality within and among countries
包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
Make cities and human settlements inclusive, safe, resilient and sustainable
持続可能な生産消費形態を確保する
Ensure sustainable consumption and production patterns
気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
Take urgent action to combat climate change and its impacts
持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
Conserve and sustainably use the oceans, seas and marine resources for sustainable development
陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、並びに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
Protect, restore and promote sustainable use of terrestrial ecosystems, sustainably manage forests, combat desertification, and halt and reverse land degradation and halt biodiversity loss
持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、全ての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
Promote peaceful and inclusive societies for sustainable development, provide access to justice for all and build effective, accountable and inclusive institutions at all levels
持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
Strengthen the means of implementation and revitalize the global partnership for sustainable development
参考:総務省
https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/kokusai/02toukatsu01_04000212.html
環境問題などへの取り組みは、企業にとっては利益を生む活動ではなく、反対にコストのかかる活動として、大手企業が社会貢献の一環として行っているイメージを持つ人も少なくありません。
しかしながら、最近では大手企業をはじめ、中小企業でも取り組む企業が増えてきているSDGs。年々、認知度も向上しています。
では、なぜ今SDGsに取り組む企業が増えているのか、それは社会貢献を前提に、そこにビジネスチャンスもあるという、狙いからでしょう。前段でご紹介したSDGsの17からなる目標は、世界が直面している共通した解決すべき問題・課題です。この問題・課題への解決に参入できれば新規事業のチャンスに他なりません。また、取引先、金融機関、パートナー企業、株主などステークホルダーへの企業ブランディングにおいても、非常に重要な意義を持つことになります。人材の採用にも大きな影響を及ぼすでしょう。
そうしたさまざまな企業ごとの狙いのもと、SDGsへの取り組みが増加しています。
中小企業にとってSDGsに取り組もうとするとき、どこから手をつければよいのかわからないことも多いはずです。国や地域での取り組み、さまざまな企業の取組事例なども参考にしながら、自社にとってのSDGs経営を模索していきましょう。
参考:独立行政法人中小企業基盤整備機構
参考:経産省(SDGs経営ガイド)
https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190531003/20190531003.html
17の目標を掲げるSDGs。取り組む企業が増えつつある中、人事労務の視点から、どのような取り組みが可能なのか見ていきましょう。
Goal3は、自社の従業員の健康への施策につながるでしょう。従業員の過重労働の防止や健康増進施策などをはじめとした健康経営は、このGoal3への取り組み施策につながります。大きな目標を掲げているというより、日頃から人事労務として行うべき従業員への健康配慮や労働基準法を始めとしたコンプライアンスの遵守そのものが、施策につながるのです。
一昔前に比べ、性による差別をなくし、個人の多様性を認めようという社会機運が高まりつつあるものの、まだまだ日本企業においては、依然として男性優位の社会が多いのも事実です。ジェンダー実現やダイバーシティ推進の考え方が浸透しているとはいえない企業も多いはずです。さまざまなバックグラウンドを持つ人々、ジェンダー平等に配慮した組織づくりや、経営ビジョンの策定、就業規則等の整備が、このGoal5への取り組みへの施策となるでしょう。
「働きがいのある職場づくり」は、人事労務の視点からは欠かせません。このGoal8の詳細なターゲットには、「2030年までに若者や障がい者を含むすべてが、働きがいのある仕事に就き、同一労働同一賃金を達成すること」として、掲げられています。
昨今の働き方改革の中でも、非正規従業員と正規従業員との不合理な格差などを解消すべき、法改正なども行われています。改めて、企業の人事労務として、働く人が安心して仕事に取り組める環境の構築や、やりがいを持って仕事に臨めるような施策を提供する必要があるでしょう。
SDGsに取り組む際には、適切な目標設定や課題設定が重要となります。大風呂敷を広げても持続可能な施策にはなり得ません。企業の実情に合う目標や取り組みが必要なのです。まずは、長時間労働を防止する施策といったことからでも構わないのです。絵に描いた餅にならないよう、SDGsの正しい理解、それぞれの企業の実情中でできることがさまざまあるはずです。