昇格や労働条件の変更により給与に大幅な変動があると、合わせて社会保険料の改定も必要になる場合があります。この手続きを「随時改定」といいます。社会保険料の改定には「定時決定」と「随時改定」の2つがあり、それぞれに多くの決まり事があります。複雑に捉えがちな2つの改定のうち、今回は「随時改定」についてわかりやすく解説していきます。
社会保険労務士法人とうかい
執行役員 社会保険労務士 小栗多喜子
同社、人事戦略グループマネージャーを務め、採用・教育を担当する。商工会議所、銀行、Adeco,マネーフォワードなどセミナーや研修講師も精力的に行っている。労働法のアドバイスだけではなく、どのように法律と向き合い企業を成長させるのかという経営視点でのアドバイスを得意としている。
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固定賃金・非固定賃金とはどのようなものでしょうか。
詳しく解説していきます。
昇格や給与形態の変更により、給与額に大きな変動があった場合、標準報酬月額も変動する可能性があります。この場合、具体的にはどのような手続きが必要になるのでしょうか。くわしく見ていきます。
社員の給与には大きく分けると、固定的賃金・非固定的賃金の2種類があります。固定的賃金とは、従業員の労働時間や実績には関係がなく、支給額が一定の手当を指します。また、労働時間や実績によって支給されるものを非固定的賃金といいます。
給与の変動が非固定的賃金のみの場合、随時改定の対象にはなりません。しかし、固定的賃金が大幅に変動する際は、随時改定が必要になる可能性が生じます。
固定的賃金 | 非固定的賃金 |
毎月一定額が支払われる支給項目 | 勤務実績に応じて変動する支給項目 |
・基本給(基本単価の変更) ・給与体系の変更(日給から月給へ) ・住宅手当や役付手当等固定的な手当の追加、支給額の変更 ・通勤手当(現物支給額を含む) 等
| ・残業手当 ・休日出勤手当 ・夜間勤務手当 ・宿直手当 ・皆勤手当・精勤手当 ・食事手当 等 |
随時改定の対象となる昇給・降給とは?
毎月給与から差し引かれる社会保険料は、標準報酬月額を基に保険料が決定されます。この標準報酬月額は毎月の給与額によって変動するものではなく、「定時決定」と「随時改定」の2つの手続きによって決定されます。
原則として毎年4月〜6月までの報酬により、その年の9月から翌年8月までの標準報酬月額の決定をおこないます。
被保険者の給与額について大幅に変更があったとき、定時改定を待たずに届け出ることで標準報酬月額を改定します。随時改定は以下の3つの条件を全て満たしている場合に実施されます。
随時改定に該当する3つの条件 ・昇給・降給により固定的賃金が変動した場合 ・標準報酬月額に2等級以上の差が生じた場合 ・3カ月とも支払基礎日数(給与計算の対象となる日数)が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である場合
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随時改定に該当する条件について、もっと詳しく見ていきます。
固定的賃金の大きな変化として上げられるのは、昇格や昇進、降格などに伴う給与体系の変化です。昇給とは違い、金額が大きく変動することが多く、随時改定の対象になることが予想されます。また、基礎単価や歩合率の変更についても大きく変化する場合があるので注意が必要です。
見落としがちな随時改定ですが、まず現状の給与体系のうち、固定的賃金と非固定的賃金の種類を明確にしておくと判断しやすくなります。また、大きな変化があった社員の給与について確認する項目が限定されていれば、見落としを減らすことも可能です。
標準報酬月額とは 報酬月額(企業から受け取る給与の総支給額)を保険料額表の1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に分け、その等級に該当する金額のことを「標準報酬月額」といいます。 被保険者の「標準報酬月額」は、事業主から提出された届書に基づき、日本年金機構が決定します。 |
引用元 : 日本年金機構「年金Q&A (標準報酬月額)」
給与改定にともない2等級以上、標準報酬月額に差が生じた場合は、随時改定の対象となる可能性があります。標準報酬月額は都道府県ごとに保険料率が異なり、「全国健康保険協会」「都道府県毎の保険料額表」から確認することができます。
出典元 : 全国健康保険協会「令和5年度保険料額表(令和5年3月から)愛知県」
支払基礎日数とは、給与を支払う基礎になっている日数を指します。この日数が3カ月間とも17日以上であれば、随時改定の対象になります。支払基礎日数は、締め日や歴日数、給与体系によってさまざまに変化するため、各個人ごとに算出が必要です。
例えば、土日祝日が休日の企業(令和5年)の場合は下記の通りです。
給与体系 | 締め日 | 期間(就業規則に準ずる) | 支払基礎日数 |
月給 | 20日締め | 4月(3/21~4/20) 5月(4/21~5/20) 6月(5/21~6/20) | 31日 30日 31日 |
日給 | 20日締め | 4月(3/21~4/20) 5月(4/21~5/20) 6月(5/21~6/20) | 22日 18日 22日 |
※有給休暇は給与支払対象のため、支払基礎日数に含め、欠勤は含めない。
また、社会保険の適用拡大が実施されたことで適用拡大の対象となった企業では、短時間労働者も社会保険に加入することが義務付けられました。
短時間労働者は、次の要件を満たす社会保険の被保険者を指します。
● 週の所定労働時間が20時間以上であること
● 雇用期間が1年以上見込まれること
● 賃金の月額が88,000円以上であること
● 学生でないこと
この短時間労働者の随時改定(定時決定も同様)については、支払基礎日数が17日以上ではなく11日以上が対象となるため、注意が必要です。
昇給または降給があった場合でも、すぐには届け出を提出しません。まず、変動があった3カ月分の給与を平均し、従来の標準報酬月額に対して2等級以上の差があるか確認後、すみやかに手続きをおこないます。これを随時改定といいます。一方で、毎年4月〜6月の給与総額から1カ月の平均額を出して届け出る方法、定時決定(算定基礎)があります。
名称 | 改定の 時期 | 改定の内容 | 届出書 |
定時決定 | 毎年 4月~6月 | 3カ月分の給与総額から1カ月分の平均値を算出して、提出する | 算定基礎届 |
随時改定 | 随時 | 次の3つの要件すべてに該当する場合のみ提出する ・固定賃金に変動が生じた ・支払基礎日数(給与計算の対象となる労働日数)が17日以上 ・変動前、変動後の標準報酬月額に2等級以上の差がある | 月額変更届 |
例えば4月が給与改定月の場合は、定時決定の給与額算定時期と重なるため、算定基礎届を提出することで手続きは完了です。ただし、給与の変動額が大きく、今までの標準報酬月額より2等級以上変動する場合は、算定基礎届と同時に月額変更届を提出する必要があります。
随時改定の届出には「報酬月額変更届」を使用します。これは日本年金機構のホームページ「主な届書用式の一覧」からダウンロードできます。また、2020年4月から資本金が1億円を超える等の特定の法人を対象に、電子申請が義務付けられました。該当期間になったら提出方法を確認のうえ、事業所の所在地を管轄する年金事務所(または事務センター)へ速やかに提出します。
提出時期 | 提出先 | 提出方法 |
すみやかに | 事業所の所在地を管轄する年金事務所 または 事務センターへ郵送 | 電子申請 CDやDVD 郵送 窓口持参 |
※特定の法人の提出方法は電子申請のみ
随時改定に該当するか否かを判断する際、間違えやすい注意すべきポイントについて解説します。
定時決定(算定基礎)では非固定的賃金も算定に含まれ、総支給額で算定しますが、随時改定を算定する際には、非固定的賃金は除外して考えます。
随時改定は標準報酬月額に2等級以上の差がある場合のみ対象となります。しかし、給与計算ソフト等を使用して月額の変更を判定する場合は注意が必要です。
現在の標準報酬月額が上限に該当している場合、2等級以上という判定が難しくなります。上限に該当する人は、例えその金額が2等級以上を超えていたとしても、随時改定には該当せず上限額と判定されます。一方給与計算ソフトによって2等級以上の差があるとなれば、随時改定対象と設定されてしまうため、齟齬が生じます。これが間違いの原因になるのです。また、逆の下限に該当する人にも同じ様なことが言えます。標準報酬月額が上限または下限に該当する者がいる場合は、目視での確認をおすすめします。
随時改定は個別の状況によって必要になることがある手続きのため、時期が決まっている定時決定とは違い、把握しにくく、失念もしやすいです。また担当者が「いつ、どんなときに手続きが必要になるのか?」をきちんと理解しておくこともとても大切になります。
昇給・降給と随時改定にまつわるご相談はとうかいにお任せください。
随時改定は、昇給や降給に伴う標準報酬月額を変更する際におこなう手続きの1つです。3つの条件に当てはまる場合にのみ手続きを進めます。しかし、条件に当てはまるか否かの判断には、細かな決まりがあり判断が出来ない場面も多々あります。また故意ではなく、該当すると気付かず届出を忘れたとしても、場合によっては、健康保険法の報酬月額に関する事項を保険者等に届け出る義務に違反したとみなされるため、注意が必要です。
社会保険労務士法人とうかいでは、単に企業の社会保険手続きを代行するのではなく、お客様の手間を徹底的に減らし、安心してお任せいただけるアウトソーシング体制を構築しております。それによりお客様の本業に集中できる時間が創出されることで、成長をお支えすることができると考えているからです。そのために、弊社のこだわりとして手続き漏れを無くすための社内管理体制の構築や、お客様の作業負担を減らす業務フローのご提案までサポートしております。ぜひ、60分の無料相談もありますので、お気軽にお問い合わせください。