社会保険や労働保険の手続きは、従業員の保険給付はもちろんのこと、保険料や将来の年金額に影響することもあり、正確な申請・届出が必須です。とはいえ、手続きには専門知識が必要な場面も多くあったり、間違いやミスが多く発生するリスクも抱えています。人事労務担当者であれば、手続きのミスやもれにヒヤッとしたことが、一度や二度、あるのではないでしょうか。とくに実務経験の浅い担当者にとっては、どうしたらミスや防げるのか、こんなときどうしたらいいのか、といった疑問もたくさんあるはずです。
今回は、正確な社会保険手続きを行うためのチェックリストの活用方法を社会保険労務士が解説します。
社会保険労務士法人とうかい
執行役員 社会保険労務士 小栗多喜子
同社、人事戦略グループマネージャーを務め、採用・教育を担当する。商工会議所、銀行、Adeco,マネーフォワードなどセミナーや研修講師も精力的に行っている。労働法のアドバイスだけではなく、どのように法律と向き合い企業を成長させるのかという経営視点でのアドバイスを得意としている。
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株式会社をはじめ法人はすべて社会保険の強制適用事業所となります。従業員を1人でも雇えば、労働保険の強制適用事業所でもあります。これらの事業所において、従業員を雇用した場合には、社会保険・労働保険に加入しなければなりません。この社会保険・労働保険においては、さまざまな届出・手続きが必要になります。従業員のライフスタイルに変化があったとき、病気や事故にあったとき、保険料の徴収や変更といった色々な場面での手続き・届出を、すべて会社が行なわなければなりません。
人事労務担当者にとっては、重要な業務ではあるものの、負担の大きな業務であるわけです。新任の担当者だったり、前任者がおらず急に担当することになったなどの場合には、さぞご苦労されることと想像します。ミスや漏れが発生することもあるでしょう。マニュアルを整備しておけば良いとは思うものの、初心者でもわかるマニュアルを整備している会社自体、少ないのが実情ではないでしょうか。
とはいえ、ミスや漏れは発生させたくない、どんなことに注意すればよいのか、「なにを」「どこに」「いつまでに」行えばいいのか、初心者にもわかりやすいチェックリストの活用をおすすめします。
そして手続きを行なったり書類に記載する際に気をつけるべきチェックポイントをケース別に網羅して、初めての人にもわかりやすく解説。これで安心して手続きができるようになります。
社会保険・労働保険の手続きには、ミスや漏れがよく発生します。
そこで、申請や届出などの手続きを行う際に、気をつけたいポイントを解説していきます。社会保険・労働保険手続きが必要になるのはどんなケースで、「なにを」「どこに」「いつまでに」行なうのか、書類に記載する際に気をつけるべきポイントを確認しましょう。
社会保険・労働保険の手続きを始める前に、自社に以下のものがしっかりと整備され、すぐに確認が取れる状態であるか確認しておきましょう。
「タイムカード・勤怠情報が確認できるもの」
最近では紙のタイムカードを打刻するケースは少なくなってきましたが、従業員の勤務時刻がわかるタイムカードやwebの勤怠打刻記録をすぐに確認できるようにしておきます。
「賃金台帳等」
社会保険手続きと給与は大きな関わりのある業務です。従業員ごとの賃金台帳等で賃金の内訳が明確にわかるものを整備しておきます。
「源泉所得税の納付記録」
従業員からの社会保険料の徴収ミスは、源泉所得税の徴収額にも影響します。毎月の源泉所得税の納付記録はしっかりと保管しておきます。
「算定基礎届などの決定通知書」
社会保険料の徴収は、この決定通知書に基づいて行われます。給与システムに保険料を反映したらOKというわけではありません。必ず確認できるようにしておきましょう。
「雇用契約書や労働条件通知書など」
従業員が入社して資格取得届を提出するには、この雇用契約書や労働条件通知書に基づいて記載・記入します。
「就業規則等の規定・規則」
人事労務に関わる規定や規則は、社会保険手続きに限らず人事労務業務には重要なものです。
最近では、ネットを検索すれば社会保険手続きに関するチェックリストも豊富に見つかります。人事労務担当者がミスを防止したいという表れなのかもしれません。社会保険労務士事務所や人事労務システムを設計しているベンダーなどからも、簡易版のチェックリストを用意しているのも見かけます。自社に合わせたチェックリストにカスタマイズして、頻度の高い手続きやミスの発生しやすいポイントなどをチェック項目としてリスト化するのは、よいことでしょう。ただし、ネットで拾ってきたチェックリストを利用する場合には、最新の法改正に則したものになっているかは注意が必要です。
また、一からチェックリストを作成する場合には、以下の項目などの切り口で考えてみることをおすすめします。
・従業員を採用したとき
従業員を採用した時の手続きは非常に重要です。雇用契約書と手続き上の報酬金額が合っているか、通勤手当などは報酬月額に盛り込まれているか、慎重にチェックしましょう。もちろん、氏名とヨミガナの誤記がないように注意が必要です。雇用契約書などには氏名のヨミガナの記載がないことが多いので、履歴書などできちんとヨミガナまで確認しておきます。
また、扶養親族がいる場合には、扶養者の届出も必要です。こちらも氏名の誤記や生年月日など誤りのないよう、しっかり確認します。
・従業員が退職したとき
退職日と資格喪失日の違いをしっかりと理解しておく必要があります。日付が1日違うだけで保険の適用に大きく影響します。また、退職後に健康保険の任意継続を行う場合などもありますので、退職後の保険の取り扱いをどうするかも、従業員に確認しておくとよいでしょう。
・会社が定例的に行なう届出・手続き
社会保険の手続きは、従業員のライフスタイルの変化の都度のほか、定例的に会社が行わなければならない届出や手続きがあります。例えば、社会保険の算定基礎届は、毎年4月〜6月の給与額をもとに、その年の社会保険料を決定する手続きとなり、7月に届出を提出する必要があります。加えて、労働保険においても、毎年7月に、前年の労働保険料の確定と当年の概算額を申告する必要があります。毎年、7月はすべての会社において、社会保険・労働保険手続きを行う時期となります。とくに雇用形態がさまざまな従業員がいる場合には、加入状況もしっかりと確認しておきます。
・従業員に異動があったとき
従業員が引っ越した、結婚した、扶養が増えた・減ったなど、従業員のライフスタイルに変化があるたび、社会保険の手続きも必要となってきます。届出にも期日がありますので、先延ばしにして失念しないよう、迅速に行うことが必要です。扶養の手続きは収入見込みの確認なども重要です。
・従業員が病気・ケガ・出産・死亡したとき
従業員が長期で休職する場合には、傷病手当金の手続きなどが必要ですし、出産においては従業員本人が出産する場合のほか、配偶者が出産する場合もあります。出産後に子を扶養する場合には、扶養の手続きも必要です。
・育児休業・介護休業したとき
育児休業や介護休業は、雇用保険において休業給付の手続きが必要のほか、要件に当てはまれば社会保険料の免除手続きも必要になってきます。申請期日も決まっていますので、従業員からの申出があった際には、予め休業期間に応じた手続きを整理しておくとよいでしょう。
・定年後に再雇用・雇用継続したとき
定年後に引き続き雇用される従業員がいる場合にも手続きが必要です。60歳時点での給与額の確認やその後の雇用継続の給与条件など、雇用契約書や条件通知書などを確認しながら、準備していきます。
・業務上の事故・災害、通勤等中の事故などが発生したとき
労災保険の手続きとなります。他の手続き・届出に比べ、頻度の高い手続きではないため、いざというときに困ってしまうというケースも多いでしょう。事故・災害が発生した場合には、業務中であるのか、通勤途上であるかなど、しっかりと従業員に確認も必要となってきます。誤って、健康保険で処理してしまった、というケースもありますので、注意が必要です。自社の過去の事例なども、予め確認しておくとよいでしょう。
社会保険・労働保険の手続きや届出は、対応範囲も広く、煩雑で、人事労務担当者にとっては、負担の大きい業務の一つです。実務経験の浅い担当者であれば、そもそも手続きをするべきものかどうかも判断がつかない、といったケースも多いでしょう。手続きすること自体を知らずに、後々大ごとになってしまったということを避けるためには、やはり、「なにを」「どこに」「いつまでに」行なうのか、ミスを防止するための注意事項は何かといった「チェックリスト」が有効になってきます。
とはいえ、社会保険・労働保険の手続きや届出は、専門知識が必要であり、正しく理解していないと、保険料の徴収もれや、手続き誤りを引き起こしかねません。手続きのミスは従業員の不信感にもつながります。そこで、社会保険労務士の活用も視野に入れてみてはいかがでしょうか。社労士は人事労務全般、社会保険手続きのプロフェッショナルです。わからない手続き・届出で悩むより、社会保険労務士にお任せいただくほうが、コストパフォーマンスがよかったという場合も多いはずです。当社ではITに詳しい社労士が揃っており、オンラインを活用した社会保険手続きを得意としています。自社の社会保険手続き業務にミスやもれが多くお悩みがある場合など、ぜひ一度ご相談ください。