社会保険手続きや給与業務を社内で行う方法から、アウトソーシングの活用に切り替える企業も増えてきました。業務の効率化や担当者の負荷軽減、外部スキル活用など、各社切り替える背景は異なりますが、今後も増えていくことが予想されます。最近は社会保険手続きの電子申請化も進み、スピード感あるアウトソーシングサービスの活用が可能となってきているのも要因の一つです。ただ、アウトソーシングを利用するといっても、どのような委託先を選んだら良いのか、社会保険続きと給与計算を一括して委託すべきか、それぞれ違った委託先に依頼すべきかなど、選択するポイントに悩んでいるとの声もあります。
今回は、社会保険手続きや給与計算業務アウトソーシングを検討されている企業の経営者・担当者のみなさまに、ITを使ったアウトソーシングについて、ITに詳しい社労士が解説していきます。
社会保険労務士法人とうかい
執行役員 社会保険労務士 小栗多喜子
同社、人事戦略グループマネージャーを務め、採用・教育を担当する。商工会議所、銀行、Adeco,マネーフォワードなどセミナーや研修講師も精力的に行っている。労働法のアドバイスだけではなく、どのように法律と向き合い企業を成長させるのかという経営視点でのアドバイスを得意としている。
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企業の人事労務業務の担当者が行う業務は、頻繁に行われる法改正をはじめ、年々複雑化する一方、スピードも求められます。とくに社会保険手続きや給与計算業務は、企業の利益活動に直結する業務ではないものの、どんな会社であっても必ず必要であるものです。専門的な知識が必要な場面も多く、担当者への業務負荷は大きいものです。企業によっては、専任の担当者はおらず、経営者が行なっているケース、小規模の会社であれば、担当者がバックオフィス全般業務を兼任している場合もあるでしょう。そこで、業務の効率化や担当者の負荷軽減、外部スキル活用など目的に、業務のアウトソーシングを検討している会社もあるはずです。
とはいえ、社会保険手続きや給与計算のアウトソーシングは、正確にスピーディーにミスのない仕事をしてくれる委託先であること、加えて社員の重要な個人情報を扱うためセキュリティがしっかりしている先でなければと考えると、興味はあるものの二の足を踏んでいるということもあるかもしれません。
どのような委託先を選んだらよいのか、「社会保険手続きだけをアウトソーシングしようか?」「給与計算とセットで委託しようか?」「別々の会社に委託すべきなのか?」お悩みはさまざまです。従業員数の規模感によってもどのようなアウトソーシングがよいのか異なります。
【数名〜10名未満】
小規模企業の場合は、社長自身が社会保険手続き・給与計算を行なっている場合や、担当者が複数の業務を掛け持ちしている場合も多いのではないでしょうか。数人規模で、勤務形態などのバリエーションがない場合には、給与計算といっても比較的負担は少ないかもしれません。場合によっては、顧問税理士事務所などが給与計算を行なってくれる場合もありますので、検討してみるのもよいでしょう。ただし、社会保険手続きについては、税理士の業務範囲外ですので、社会保険手続きをアウトソーシングしたい場合には、別途、社会保険労務士や委託会社を選択する必要があります。また、ベンチャーやスタートアップの場合には、業績向上や企業の成長にフォーカスしているため、社会保険や給与計算といった労務に関係する部分には手薄になりがちです。仲間内レベルの時点では大きな問題はないかもしれませんが、徐々に従業員を雇ったりしていくことを念頭に置くと、労務に関する業務はないがしろにはできません。会社の成長スピードに応じて、労働関連法規への対応と社会保険手続き業務、給与計算業務をどのように行なっていくか検討していくほうがよいでしょう。
【10名以上〜50名未満】
従業員が10名を超えると就業規則を整備し、労基署に届け出るなど、労務の業務がぐっと幅広くなります。労働関連法規や基本的な税法の知識などがないと、社会保険手続きや給与計算を行う際に困ることが増えてくるかもしれません。ただ、このくらいの従業員規模だと専任の人事労務担当者を置いているケースは少ないかもしれません。経理や総務と兼務しているというようなケースも多いでしょう。アウトソーシングを検討する際には、どの業務に一番負荷がかかっているのかという課題の洗い出しが必要です。社会保険手続きも給与計算業務もすべてワンストップで請け負うサービスも多いので、つい“丸ごと委託してしまいたい”という担当者の気持ちもわかります。しかし、その分サービス料などの負担が大きくなることも否定できません。自社のアウトソーシングが必要な業務のスコープをしっかりと把握することで、無駄な費用の支出は抑えられますので、マストでアウトソーシングしたい部分を明確にすることをおすすめします。必ずしも、社会保険手続きも給与計算もすべての業務をアウトソーシングすることが効率化につながるとも限りません。コストとどう見合うかもしっかりと検討しましょう。
【50名以上〜】
従業員が50名を超えてくると、職種によって勤務シフトが違ったり、パート・アルバイト、契約社員などさまざまな雇用形態の従業員がいます。給与計算であれば、雇用形態ごとに計算方法が異なりますし、勤怠情報の集計や休暇の管理などまで、担当者の負担が大きくなってきます。社会保険に関する手続きも、従業員が増加するにつれ、煩雑になってきますし、専門知識も必要になってきます。このまま社会保険手続きや給与計算を内製で行なっていくのか、アウトソーシングを活用するのかを本格的に検討する段階でもあります。内製であっても、アウトソーシングであっても、どちらにもメリット・デメリットはあります。
○内製するメリット・デメリット
従業員数が50名程度なのか100名を超えているかによって、また勤務シフトのバリエーションによっても、どの程度担当者に負荷がかかるのかは、企業ごとに異なります。ただ、業務負担はあっても、内製する場合には担当者の知識がノウハウとして社内に蓄積されるというのはメリットとしては大きいでしょう。社内に労務ノウハウを蓄積していきたい、多少の負荷はかかっても内製で行なっていくという判断もありえます。一方で、担当者に他の業務にチャレンジしてほしい、コア業務に人員を投入していきたいといった場合には、内製していることで時間が割けず、活用しきれないといったデメリットもあるかもしれません。
○アウトソーシングのメリット・デメリット
内製で社会保険手続きと給与計算業務を行う場合には、給与計算のソフトウェアをはじめとしたシステム関連費用のほか、担当者の人件費、教育コストなどが発生します。一方、アウトソーシングは、自社にシステム等を保有したり、更新料などの必要もないので、コストを抑制できるメリットがあります。また、頻繁にある法改正などにもスピーディーに対応してもらえる点では、アウトソーシングには大きなメリットがあると言えるでしょう。ただし、従業員の重要な情報を取り扱いますので、委託するアウトソーシング選びを誤ると、安全に取り扱いがされなかったなどリスクも保有している点は注意が必要です。さらに、アウトソーシングするからといって、すべての業務負担から解放されるわけではありません。アウトソーシング会社とのやりとりや、一部の業務は残ることもありますので、委託する業務スコープやプロセスを確認することが重要になってきます。
社会保険手続きや給与計算は、時間や手間のかかる複雑な業務が多く存在します。そして、この2つの業務は、深く関連している業務でもあります。アウトソーシングを検討するときには、同じ会社に一括して委託するべきか、悩むところでしょう。社会保険手続きと給与計算を同じ会社にアウトソーシングするときに押さえておきたいポイントを確認します。
多くのアウトソーシング会社では、
「基本月額料金 + (従業員数 × 1人あたりの料金) 」といった費用の考え方が一般的です。その他、初期費用なども別途必要なことが多いでしょう。アウトソーシングする内容によっても、オプション料金などそれぞれです。ここで注意したいのは、アウトソーシングを検討するうえで、費用は重要な検討ポイントではありますが、安い・高いだけで選択すると失敗します。まずは自社の状況をしっかり整理したうえで、予算内で最適なサービス会社を選ぶことです。同じ会社に一括して委託する場合には、料金を抑えられる場合もありますので、見積もりを取って確認してみることをおすすめします。
(社会保険手続き)
従業員数 | 基本月額相場 | 1名あたりの料金相場 |
50名未満 | 30,000円〜50,000円 | 400円〜800円 |
50名以上 | 50,000円〜100,000円 | 500円〜1,000円 |
(給与計算)
従業員数 | 基本月額相場 | 1名あたりの料金相場 |
50名未満 | 20,000〜50,000円 | 400円〜800円 |
50名以上 | 20,000〜80,000円 | 500円〜1,000円 |
社会保険手続き、給与計算のアウトソーシング以外にも、対応できる業務が広かったり、労務に関する相談に乗ってくれるサービスがあったりと、委託するアウトソーシングの会社によってサービス内容はさまざまです。複数の委託先を比較検討してみると、より自社に合ったサービスを選択できるでしょう。
○社会保険労務士がおすすめする一括してアウトソーシングするかどうかの判断基準
アウトソーシングを活用してみたいものの、何から検討すればよいかもわからない場合もあるかもしれません。毎月・毎年発生する作業に追われて、アウトソーシングを検討しようにも手が回らなくなっている場合もあるでしょう。このような場合にこそ、アウトソーシングを検討してほしいのです。
・労務知識が不足しており、外部の専門知識や知見が必要である
・専任の担当者がおらず、人手不足である
・担当者の入れ替えのたびに、教育する手間や時間がない
・システムなどにかかるコストを削減したい
・担当者をコア業務に集中させたい
・必ずしも内製でなくともよい
・雇用形態が複数あり、管理が煩雑
・従業員数の増加が見込まれている
ただし、どんなアウトソーシング先に委託するかは、非常に重要です。まずは、自社の社会保険手続き・給与計算業務の問題・課題を、アウトソーシング会社が正確に理解してくれるかはポイントです。アウトソーシング会社が専門的なスキルやノウハウを保有してるかは、もちろん必要です。ただ、それよりも会社の課題解決のために伴走してくれる委託先を選ぶことが、長期的に考えると重要ではないでしょうか。
アウトソーシングをするときには、その会社の業種や置かれている背景、規模や成長度合い、担当者の状況などによって、どの部分を委託するのかも変わってきます。自身の会社にとって、最適なアウトソーシングは何か、今後のあるべき姿をイメージすることも重要です。それには、自社の問題・課題に寄り添ってくれる委託先に出会いたいものです。さまざまな知見やノウハウを持った委託先と相談しながら、アウトソースする内容を決定していくのが理想的です。
とうかいでは、アウトソーシングによりお客様の時間を創り出すことを大切にしております。その時間を経営や従業員満足度向上などに使っていただき、成長をご支援したい思っているからです。そのために、システム連携のほか、徹底的に手間やミスのリスクを排除した業務フローを構築させていただいております。
60分の無料相談もございますのでぜひお気軽にご活用ください。労務の専門家の視点から、自社で気づかなかった改善策や効率化のヒントを提供していきます。