今、世界経済状況が大きく変化し、第4次産業革命の時代に突入しているとも言われます。IoT(Internet of Things)、AI(Artificial Intelligence)などの新たな技術を取り入れ、デジタルをツールとした新たな産業が続々と生まれています。これらのデジタル技術やビジネスモデルへの対応であるDX化が、企業の成長や生き残りには必要不可欠なものとなってきています。
そこで今回は、日本の屋台骨とも言える製造業においてのDX化に着目し、製造業界のDX化と、推進していくためのポイントを、ITに詳しい社会保険労務士が解説していきます。
社会保険労務士法人とうかい
社会保険労務士 小栗多喜子
これまで給与計算の部門でマネージャー職を担当。チームメンバーとともに常時顧問先350社以上の業務支援を行ってきた。加えて、chatworkやzoomを介し、労務のお悩み解決を迅速・きめ細やかにフォローアップ。
現在はその経験をいかして、社会保険労務士法人とうかいグループの採用・人材教育など、組織の成長に向けた人づくりを専任で担当。そのほかメディア、外部・内部のセミナー等で、スポットワーカーや社会保険の適用拡大など変わる人事労務の情報について広く発信している。
主な出演メディア
・NHK「あさイチ」
・中日新聞
・船井総研のYouTubeチャンネル「Funai online」
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https://www.tokai-sr.jp/staff/oguri
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かつて日本は“ものづくり大国”“技術大国”と呼ばれ、なかでも製造業は日本経済を支える原動力とされてきました。戦後の日本経済を立て直し、牽引してきたのは、ものづくりである製造業とも言えるでしょう。いわば日本の基幹産業でした。自動車、電子部品、食品、医薬品など、製造業といってもその種類はさまざまです。製品の設計から生産、組み立てなどを行うものから、製品の素材を生産するものといったものまであり、特性が異なります。主な製造業の種類をご紹介します。
多くの人がイメージしやすい製造業といえば、自動車メーカーではないでしょうか。ただ、単に自動車メーカーといっても、完成品メーカーに加え、サプライヤーと呼ばれる自動車を製造するための加工品を製造するメーカー、加工品の部品を製造するメーカーなど、多くの製造メーカーが関係しています。新たなテクノロジーを積極的に取り入れる業界でもあります。
自動車業界において、DX化は社会課題ともつながる経営戦略の一つであり、業界としての動きも注力すべきものです。自動車業界におけるDXは、以下の2つのキーワードがあります。
・CASE(Connected,Autonomous,Shared&Services,Electric)
Connected:接続された
Autonomous:自動化
Shared&Services:共有化
Electric:電動化
4つの頭文字を取ったCASEは、自動車の製造部分に限定されず、公共・生活インフラに密着した新たな価値を見出すDX施策として定義されています。
・MaaS(Mobility as a Service)
CASEを進化させた先にある“移動”が、1つのサービスとして捉えることができます。自動車のみならず、バスや鉄道といった各種の交通機関をも含みます。自動車を製造して売るといったものから、自動車に新たな付加価値を持たせたサービスを提供するものへと変化していきます。人材においても、新たなテクノロジーに対応するエンジニアなど、求める人材像も変わってきているところです。
総合電気機械メーカーや電子部品メーカーといった製造業があります。家電製品、スマホ、パソコンといった製品をはじめ、機械完成品ための半導体といった分野もあります。AI、IoTなど技術発展も著しく、競合も日本国内に限らず、全世界において非常に多い分野です。人材獲得競争もシビアであり、大幅なベアを行う企業があったりと、海外企業流出への対抗手段として、さまざまな施策の試みがされています。
完成品をつくるための素材や原料、繊維、食料品の原料といったさまざまなものが該当します。最近ではSDGs機運の高まりとともに、環境や水資源問題、再生エネルギー、廃棄物の資源活用といった持続可能な開発視点も求められる業界です。カーボンニュートラルを目指す取り組みも活発であり、そのための人材活用・設備投資などは大きな課題となっています。
3種類の製造業界を例に挙げましたが、このほかにも食品関連、医薬品関連、建築・住宅関連など、多くの業界があります。すべて自社生産・加工を行っている会社もありますし、一部を担っている会社まで多様です。それだけ、製造業の範囲は広く、日本経済にとってなくてはならない業界でもあります。
とはいえ、かつて“ものづくり大国”とも呼ばれた時代と比べ、昨今の経済環境の変化、人材不足、度重なる災害などの影響が、企業収益や投資にも波及し、将来の見通しが立てづらい状況となっているのは、同様です。そこで各業界・各企業が、経営戦略の一つとしてDX推進によって、変化する社会や顧客ニーズに合わせてビジネスに変革を起こそうとしているのです。
耳にすることの多いDXという言葉。何となくはイメージできるものの、本当に理解できているのか怪しいという人も多いのではないでしょうか? 今さら聞くに聞けないことあるでしょう。DXとは、デジタル・トランスフォーメーションのことです。デジタル化によって社会や生活の変化や変容を行うことです。経産省の定義によると、『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客やシャカのニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること』としています。ゆえにDXは、単にデジタルツールを利用するようになれば、DX化されたということではないのです。あくまでデジタル技術はツールに過ぎず、目的達成のためにデジタル技術であるツールを活用するということになります。AIやビッグデータなどあらゆるデジタル技術を利用し、企業の新たなビジネスモデルを創出したり、業務プロセスを改善するといった目的を達成するためのものです。
製造業に限らず、DX化は経営戦略として掲げている企業は多いでしょう。とはいえ、日本の屋台骨を支える製造業におけるDX化推進は、日本政府も言及しています。
【「2022年ものづくり白書」経済産業省・厚生労働省・文部科学省共同】
○製造業の動向や事業環境の変化 ・業況は2020年下半期から2021年にかけ、大企業を中心に回復基調にあったが、2022年に入り大・中小製造業ともに減少に転じた。 ・営業利益は2021年度は半数近くの企業で回復に転じた。 ・原材料価格の高騰や半導体などの部素材不足がコスト増加など大きな影響を与えている。 ・設備投資は回復傾向にあるものの、限定的。 ・製造業のIT投資は横ばい。IT投資での解決課題は「働き方改革」「社内コミュニケーション強化」から、「ビジネスモデルの変革」へ移行。 ・サプライチェーン全体のサイバーセキュリティ対策の重要性が増しているものの、既存対策が不足している。 ・IT人材の不足 ・サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン策定への取り組みがスタート ・カーボンニュートラルの実現に向けた議論の進展、CO2排出量・削減量を可視化する取り組みなどの推進
○製造業の人材確保・育成 ・製造業の就業者数は、約20年間で157万人の減少。若年層では121万人の減少。 ・指導人材の不足の課題も浮き彫りに。 ・デジタル技術活用が67.2%にのぼり、約半数が効果として“生産性の向上”を挙げている。 |
コロナ禍、戦争や災害の影響により、製造業は不確実な将来にどのように対応していくか、非常に大きな経営課題となっています。事前に発生や予測することの難しい経営環境の下、製造業におけるDX化推進は、より重要な位置付けとなっています。
不確実性の高い経営環境、人材不足の中、DX化を推進することで解決できる可能性を探っている企業も多いことでしょう。とはいえ、なかなかうまく進まないといった悩みを抱えているケースも多くあります。なぜうまくDX化が進まないのか、いくつかの要因があります。
単純にマンパワーに頼ってしまっている部分も多い業界です。また製造業の就業者数は、約20年間で157万人減少し、若年層に限ると121万人の減少が見られるように、人材の高齢化も伴っています。技術熟練者の長所であるものづくりが、逆に属人化することで技術伝承の停滞を生んでいる部分もあります。
優れた技術力が魅力である日本の製造業ですが、技術力のみでグローバルで戦い抜ける時代ではありません。日本の製造業のIT投資や最適化は、米国や欧州諸国として低いとされています。製造業には、多くのサプライチェーンなども存在しているにも関わらず、デジタル化やデータ活用が進んでいません。
また、効率性や生産性を重視するIT投資を重視する傾向(オーディナリー・ケイパビリティ)が強く、業務効率化やコスト削減、ビジネスモデルの変革、人材育成といった、不足の事態が生じても柔軟に対応できる(ダイナミック・ケイパビリティ)ことを重視しての、IT投資が不足していると考えられます。
製造業がDX化推進していくためのキーワードは、「ダイナミック・ケイパビリティ」です。不確実性の時代、ニューノーマルと言える時代には、ビジネスモデルの変革、人材のあり方、業務効率化を課題に掲げ、この課題をDX化推進で解決していくという取り組みが欠かせないものとなってきています。とはいえ、DX化推進にあたって、一気通貫に進められないケースが多いことも事実です。いくつかの領域やステップにわけ、取り組んでいくことが必要です。
何より、現場で抱えている課題をしっかりと網羅し洗い出すことからスタートです。製造側の問題・課題を置き去りにしたまま、DX化の方針や計画を策定すると、必ずや失敗します。DX化を円滑に進めるためには、プロジェクト全体を統括するDX人材は必要になるでしょう。ただし、現場理解を進めるための専門知識の理解や業務プロセスの実情を把握することも、絶対に必要です。
DX推進は、全社で取り組むべき施策となるでしょう。プロジェクトチームを編成して取り掛かる場合には、DX化によるあるべき姿・イメージの共有も非常に重要です。目的達成に必要なDX人材、現場技術者などの協力も必要です。
目的達成のために必要なデータの収集や集約、分析を行います。
DX化推進していくには、業務全体を小さなタスクに分解し取り組んでいくことも重要です。大風呂敷を広げて進めた結果、現場が大混乱ということにならないよう、タスクを小さく分解して効果検証を行いながら進めていきます。スモールスタートして、大きな成果を狙いましょう。