人事労務担当者にとっては、毎年6月頃は各種手続き・届出の処理に追われ、忙しいのではないでしょうか。せっかく4月の新入社シーズンを乗り切って、少しほっとできるのも束の間、さまざまな処理が待っているとあって、憂うつな気分になる担当者の方も多いかもしれません。「社会保険の手続きはこの時期に処理するのは理解できるけれど、なぜ高年齢者・障害者雇用状況報告書までこの時期に届出しなくてはならないのか、、」という声もよく聞かれます。
とはいえ、毎年決まった時期に提出するこの「高年齢者・障害者雇用状況報告書」についても、必須の届出であり、放っておくわけにはいきません。適当に記入して提出するということもNG。しっかりと記入ポイントも理解しておきたいところです。
今回は、「高年齢者・障害者雇用状況報告書」について、社労士がしっかり解説していきます。
社会保険労務士法人とうかい
執行役員 社会保険労務士 小栗多喜子
同社、人事戦略グループマネージャーを務め、採用・教育を担当する。商工会議所、銀行、Adeco,マネーフォワードなどセミナーや研修講師も精力的に行っている。労働法のアドバイスだけではなく、どのように法律と向き合い企業を成長させるのかという経営視点でのアドバイスを得意としている。
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「高年齢者・障害者雇用状況報告書」とは、“高年齢者等の雇用の安定等に関する法律”、“障害者の雇用の促進等に関する法律”に基づいて、就業が困難な高齢者や障害者の雇用状況を確認し、雇用対策づくりを行う目的のもと、企業に報告書の提出を求めるものです。高年齢者雇用状況報告書であれば、企業で働く高年齢者をどのような雇用確保措置を行なっているのか、定年の引き上げ状況はどのようになっているのかなどの報告を行います。他方、障害者雇用状況報告書は、企業で雇用する障害者数や、障害者雇用率の達成状況などを報告します。
◯障害者雇用率(法定雇用率)とは?
一定規模以上の企業には、障害者を雇用する義務があります。この雇用義務を雇用率として定めたのが障害者法定雇用率です
毎年6月1日時点での状況を報告するので「ロクイチ報告」とも呼ばれています。会社の所在地を管轄するハローワークに提出します。
毎年6月1日の状況に基づいて提出する「高年齢者・障害者雇用状況報告書」ですが、提出が義務付けられている企業は、全企業というわけではありません。要件が決まっていますので、自社が対象となっているのか、また最近従業員が増加して、要件に該当しそう、といった場合には、要チェックです。
高年齢者雇用状況報告書は、“高年齢者等の雇用の安定等に関する法律”によって、提出が義務付けられた報告です。
対象企業:常時労働者が20人以上の企業
常時労働者とは、1年以上継続して雇用されることが予定されていて、1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者のことをいいます。
障害者雇用状況報告書は、“障害者の雇用の促進等に関する法律”によって、提出が義務付けられた報告です。
対象企業:常用労働者が43.5人以上の企業(2024年4月〜40人、2026年7月〜37.5人以上)
常用労働者数のカウント方法は、1年を超えて雇用されているか、1年を超えて雇用される見込みがある場合に対象となります。ただし、週の所定労働時間によって、カウントの方法が変わります。
・週の所定労働時間が30時間以上→1人としてカウント
・週の所定労働時間が20時間以上30時間未満→0.5人としてカウント
対象企業になる企業においては、障害者を雇用するための指標として法定雇用率が定められています。民間企業においては、段階的な引き上げが予定されており、2024年4月からは2.5%、2026年7月からは2.7%となります。これに応じて、障害者雇用状況報告の義務についても、常用労働者数が徐々に広がり、2024年4月には40人以上、2026年7月には37.5人以上の企業に報告書の提出が義務付けられるようになります。
これらの提出義務の要件を満たす企業には、時期が近づくとハローワークより報告書用紙が郵送されてきます。報告書が郵送されてきた企業には、報告義務があることになりますので、放置せず期限までに必ず報告書の提出を行いましょう。
「高年齢者・障害者雇用状況報告書」は、毎年6月1日の雇用状況に基づいて、報告書に記入し期限までに提出することになります。通常、毎年7月15日が期限となっているため、“なんとなく余裕がありそうなので、後で報告書を提出しよう”と、締切まで放置していたケースもよく聞く話です。実際、締切ギリギリに報告書を作成しようと思ったら、案外、確認すべき事項なども多かったりして、バタバタ大変だったという声もあります。しかも、この時期、労働保険の申告や社会保険の算定基礎届の提出など、人事労務担当者にとっては、とても忙しい時期。締切ギリギリで慌てないためにも、あらかじめ準備や確認しておくことをおすすめします。
① 就業規則を確認
定年に関する事項、定年後の継続雇用や再雇用など、高年齢者の雇用確保措置について、自社がどのような対応を行うのか確認しておきます。
② 6月1日時点での従業員人数を確認
「高年齢者・障害者雇用状況報告書」においては、常時雇用されている従業員数、男女の内訳、定年到達者の人数、就業している障害者の人数など、従業員の人数数値などを報告しなければなりません。予め集計しておくことで、いざ報告書の作成段階で慌てて集計しなくて済むでしょう。
○雇用する障害者のカウント方法
障害者雇用状況報告にあたっては、雇用する障害者である従業員のカウント方法が、その障害の程度によってわかれているため、報告書を作成する前に集計・準備しておきます。2024年以降は、カウント方法が改正となります。
週の所定労働時間 | 30時間以上 | 20時間以上 | 30時間未満 10時間以上20時間未満 |
身体障害者 | 1 | 0.5 | - |
(重度) | 2 | 1 | 0.5 |
知的障害者 | 1 | 0.5 | - |
(重度) | 2 | 1 | 0.5 |
精神障害者 | 1 | 0.5※ | 0.5 |
身体障害者:身体障害者手帳1〜6級の人
知的障害者:児童相談所等で知的障害者と判断された人
精神障害者:精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人
※以下の要件をいずれも満たすと「1人」としてカウント
・新規雇い入れから3年以内または精神障害者保健福祉手帳取得から3年以内の人
・2023年3月31日までに雇い入れられ精神障害者保健福祉手帳を取得した人
また、精神障害者保健福祉手帳については、有効期間が設けられていますので、人事労務担当者は対象となる従業員の実態を把握することも重要となります。センシティブな内容にもなりますので、慎重な対応が必要ともなりますし、人事労務担当者にとってもプレッシャーを感じる場面でもあるでしょう。
③ ハローワークから送付された記入要領をチェックしておく
毎年報告を行なっている企業では、前年の「高年齢者・障害者雇用状況報告書」の控えも確認しておくとよいでしょう。ただ、報告書の様式や内容が、毎年微妙に変わっている部分もあり、記入要領をチェックしておくことは欠かせません。報告書の内容が昨年と著しく異なる場合や、報告書に誤りがあった場合などは、ハローワーク担当者から問い合わせがあることも。確認できるよう、前年度の報告書も見直しておくとよいでしょう。
(参考)厚労省:R5年高年齢者および障害者の雇用状況報告
④ 報告書を作成する
報告書を作成するまでに準備が整ったら、あとは入力していくだけです。報告書自体は難しいものではありませんので、もれなく・誤りがないようチェックしておきます。
⑤ 報告書を7月15日までに提出する
オンラインによる電子申請、所轄のハローワークへの持参や郵送により、提出することが可能です。
「高年齢者・障害者雇用状況報告書」は、毎年7月15日までに提出することが決まっています。所轄のハローワークへ持参・郵送が一般的でしたが、昨今はオンラインによる電子申請が主流となってきました。e-Gov電子申請システムを使用する電子申請が可能です。ただし、申請にあたっては、電子署名もしくはGビスIDが必要となりますので、電子申請を検討されている場合は、早めの準備をおすすめします
e-gov電子申請
https://shinsei.e-gov.go.jp/
毎年行う「高年齢者・障害者雇用状況報告」は、人事労務担当者にとって、気の重い届出手続きかもしれません。人数を報告すればよいという簡単な報告をイメージしますが、実は就業規則の理解や、障害者雇用についての法律理解をしていないと、正しい数値を導き出し、報告することができません。人事労務担当者にとって忙しい時期に、これらの報告書を作成する負担は、けっこう重たいものではないでしょうか。
当社においては、人事労務担当者の負担の大きな社会保険手続きのサポートはもちろん、就業規則に基づいた高年齢者・障害者雇用状況報告書の作成など、担当者の方の疑問や質問に的確にお答えできるよう、各種支援をしています。また、人事労務のDX化などにおいても、ITに詳しいメンバーが多数おりますので、お気軽にお問い合わせください。