人事労務に関する業務では、社会保険手続きをはじめ電子申請が進んでいます。とくに大企業を中心に進んできた社会保険の電子申請化ですが、最近では中小企業においても普及するようになってきました。徐々に紙書類の手続きから電子申請に切り替える動きが見られます。書類の押印や保管、行政機関に出向く手間や時間の軽減、簡素化が魅力の電子申請。今後も電子申請できる手続きが増えていくことが見込まれています。
そこで今回は、社会保険の電子申請切り替えを検討中の人事労務担当者からご質問の多い「マイナポータル」と社会保険手続きについてピックアップします。マイナポータルの基本的な知識について、電子申請に詳しい社労士が解説していきます。
社会保険労務士法人とうかい
執行役員 社会保険労務士 小栗多喜子
同社、人事戦略グループマネージャーを務め、採用・教育を担当する。商工会議所、銀行、Adeco,マネーフォワードなどセミナーや研修講師も精力的に行っている。労働法のアドバイスだけではなく、どのように法律と向き合い企業を成長させるのかという経営視点でのアドバイスを得意としている。
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その他、記事の監修や寄稿多数。
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社会保険の電子申請切り替えを検討中の人事労務担当者から、「マイナポータルを利用できるそうだが、使い勝手がよくわからない」「マイナポータルの評判があまり良くないから不安」という声もよく聞きます。ここでは、「マイナポータル」とはどんなもので、どんなことができるのか、早速確認してみましょう。
○サービスの検索や電子申請
パソコンやスマホで行政機関の手続を検索したり、オンライン申請が可能です。マイナポータルとねんきんネットを連携することで、年金記録や見込み額を確認することも可能です。
○自己情報の表示
行政機関などが保有している自分の個人情報が確認できます。診療・薬剤・医療費・健診情報などが確認できます。その他、所得や住民税などの情報も確認できます。
○お知らせ
行政機関などから配信されるお知らせを受信できます。
○情報提供等記録表示(やりとり履歴)
自分の個人情報の閲覧履歴ややり取りの記録を確認することができます。
○もっとつながる(外部サイト連携)
外部サイトを登録することで、マイナポータルから外部サイトへのログインが可能です。
・市区町村
・e-Tax(国税庁)
・ねんきんネット(日本年金機構)
・e-私書箱(野村総合研究所)
・MyPost(日本郵便)
・ふるさと納税e-Tax連携サービス
・電子申請・届出システムLite(総務省)
・ハローワークインターネットサービス(厚労省) など
○決済サービス
ペイジーやクレジットカードでの公金決済が可能です。
「マイナポータル」は、正直まだまだ利用者数が少ないのが現状です。国の施策としても、マイナンバーカードの推進のために、マイナポイントの活用などを行っていますが、そのスピードは速いものではありません。現時点では、確定申告の電子申告といった個人利用の傾向が高いと言えますし、今後、労務管理にどのように普及していくかに注目です。
会社(事業主)が、「マイナポータル」で社会保険手続きを行うためには、いくつかの準備が必要です。「マイナポータル」で電子申請ができると聞くと、「マイナポータル」に登録・ログインすれば、手続きの電子申請が可能なのでは?と誤解する人も多いようです。しかし、「マイナポータル」の画面上では申請はできないので注意してください。「マイナポータル」での電子申請は、各行政機関のシステムに連携してデータを送信する(API連携)といったしくみとなっています。そのためには、会社側で利用する人事労務や給与システムが、API連携に対応していなければならないのです。まずは、「マイナポータル」の『社会保険・税手続き申請API サービス一覧』から、自社の人事労務・給与システムがAPI連携可能かどうか確認しましょう。
① 自社の利用システムを確認する
【マイナポータルの社会保険・税手続き申請API サービス一覧】
https://myna.go.jp/html/api/tetsuzukishinsei/servicelist.html
人事労務システムや給与システムなどを扱うサービスが多く掲載されています。自社のシステムやソフトウェアが該当するか確認しましょう。自社の独自開発システムを利用している場合には、API仕様を利用することで、独自のシステムでAPI連携することも可能です。
② gBizIDプライムアカウントを取得する
自社の人事労務・給与システムが、マイナポータルのAPI連携が可能なことが確認できたら、続いてはgBizIDプライムアカウントを取得します。
【gBizIDプライムアカウントの登録】
デジタル庁:https://gbiz-id.go.jp/top/
③ 人事労務・給与システムで電子申請の設定を行う
利用している人事労務・給与システムの利用方法に応じて、電子申請のための設定を行います。事業所情報や申請者情報、法人番号など必要情報が登録されていることを確認しましょう。
自社で利用している人事労務・給与システムによっても多少取り扱い・操作方法は異なりますが、基本的な設定が終了すれば、電子申請が可能となります。
「マイナポータル」で可能な社会保険手続きの電子申請は、以下のとおりです。まだまだ数多くの手続きや申請に対応しているわけではありません。ただ、一般的によく発生する手続きについては可能です。自社において、発生する頻度や量に応じて、「マイナポータル」利用を検討してもよいかもしれません。
【マイナポータルで可能な社会保険手続き】
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
雇用保険 被保険者資格取得届
健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届
雇用保険 被保険者資格喪失届
月額変更届
算定基礎届
賞与支払届
被扶養者(異動)届
新規適用届
任意適用申請書
任意適用取消申請書
一括適用承認申請書
産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届
産前産後休業終了時報酬月額変更届
育児休業等取得者申出書(新規・延長)/終了届
育児休業等終了時報酬月額変更届
介護保険適用除外等該当届
社会保険に関する手続きの電子申請を行う場合、「マイナポータル」を利用すべきか、「e-Gov」を利用すべきか悩むところです。両者は似ているようで、少しずつ異なる部分があります。
まず「マイナポータル」は、自社で利用している人事労務・給与システムがマイナポータルのAPI連携に対応していることが必須です。また、現時点では個人ユーザを意識した仕組みづくりがベースとなっており、企業向けの手続きサービスがまだ多くはありません。数十種類ほどの手続きに留まっています。
一方、「e-Gov」は、電子証明書の用意さえ整えば、電子申請が可能です。会社で利用している人事労務・給与システムが何であろうと関係ありません。手続きの種類も豊富で、100種類以上の手続きができます。とはいえ、実際のユーザビリティを考えると、「e-Gov」の入力や申請が、わかりにくい、少し手間がかかるという意見もあります。複数人数の申請などの場合には、日頃から使い慣れている人事労務・給与システムなどの仕組みを利用して電子申請ができる「マイナポータル」のほうが利用しやすい、作業しやすいという面も否定できません。
【「e-Gov」とは?】
「e-Gov」とは、政府が運営する行政のポータルサイトのことで、“電子政府の総合窓口”と言われています。憲法や法律、政令、規則などの法令を調べたり、行政機関に出向くことなく手続きや申請がオンライン上で可能になるというものです。「マイナポータル」とも似ていますが、手続きや申請の種類の豊富さでは、「e-Gov」のほうが優っています。
現在「マイナポータル」で行える社会保険手続きが少ないのが、「e-Gov」との違いです。「労働保険の年度更新」の手続きなどは、「マイナポータル」では行えません。「マイナポータル」で利用できる電子申請以外は、「e-Gov」で行っている会社(事業主)もあるようですし、すべての電子申請を「e-Gov」に集約しているといった会社もあるようです。いずれにしても、現時点では自社の運用体制や効率面を考えて、現状に適した電子申請の手法を取るしかないでしょう。ただし、今後は政府のマイナンバーカード普及施策と連動して、「マイナポータル」の拡充も予想されます。引き続き、情報をキャッチしていく必要があるでしょう。
社会保険手続きをはじめとした電子申請が広がり、多くの企業で手続きや届出、申請をオンライン上で行うことが当たり前の時代になってきました。とはいえ、まだ切り替えが進まない企業が多いのも実情です。さらに「マイナポータル」「e-Gov」など、同じ手続きや申請が重複していたり、各ポータルサイトによっての長所・短所があります。引き続き、ユーザー企業が利用しやすい仕組みづくりがされていくと予想されるものの、現状の電子申請をどのように準備、運営していくかが、直近の課題ではないでしょうか。
当社ではITに詳しい社労士が揃っており、社会保険に関する電子申請についても、多くのご相談が寄せられています。多くの人事労務システムについて連携実績ございますので、お客様の業務効率化をサポート可能です。手間・ミスの少ない業務フローの構築により、企業に成長する社労士事務所として、御社の本業にかける時間を創出いたします。少しでもご不明な点があれば、丁寧にご説明を差し上げます。ぜひお気軽にお問合せください。